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第2章 雄飛の青少年期編

103 現実になった陰謀論?

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 この世界は野球に狂っている。
 あの野球狂神の身勝手な趣味趣向の影響を受け、野球によって国家間のパワーバランスが決まるように弄られているからだ。
 実際、WBWの結果によって国連の重要なポストが決まってしまったり、各国際機関の長や幹部が決まってしまったりしている訳で……。
 身近なところでも、教育から何から野球が深く食い込んでしまっている。

 とは言え。
 正直なところ転生前に想像していた程ではないというのが、約15年間この世界で生きてきた俺のこれまでの印象だった。
 勿論、野球の才能がないことで底辺労働者状態になっている両親の姿とかを見てしまうと、世界の歪みを感じることはある。
 けど、俺なんかは野球に支配されていない前世で底辺労働者だったからな。
 形は違えど、個人レベルの話ならそれぐらい元の世界でも普通にあったことだ。

 まあ、この世界に完全に馴染んでしまい、当たり前のこととして認識するようになってしまっただけかもしれないけれども……。
 戦争がない分、こっちの世界の方がマシなんじゃないかという感覚すらあった。
 少なくとも今日までは。

『元国際知財調査機関の長、ダニエル・パテン・ジュニア氏の暴露動画と会見での開き直りとも取れる発言が波紋を広げています』

 ある日の晩のこと。
 学校の宿題を適当に終わらせ、陸玖ちゃん先輩と作成中の状況判断問題集に目を通しているとテレビからそんな音声が聞こえてきた。
 今日のプロ野球の試合は既に終わっており、今は全国ニュースの時間。
 両親も、2人揃って画面をぼんやりと眺めている。
 父さんの推しの宮城オーラムアステリオスは調子がいいはずの春先ながら今年も今一で、今日も淡泊な攻撃と投壊で惨敗を喫してファンを落胆させている。
 父さんのテンションが低いのはそのせいもあるだろうし――。
 50歳を過ぎて、仕事の疲れが中々抜けないせいもあるかもしれない。

 閑話休題。

『ああ。動画の内容は事実さ。実際に有用な特許なんかは本国に連絡し、適当な企業を見繕って遡って申請させたりもしたよ。他の機関も似たようなものだね』

 テレビの画面には、初老の白人が如何にもアメリカンなリアクションと共に記者の質問に答えている映像が映し出されていた。

『本国に有利になるように色々と便宜を図っている。それができる立場になったんだ。むしろ当然のことだろう?』

 翻訳を声優が読み上げているが、完全にハリウッド映画のノリだ。
 まるでドラマのワンシーンのような、虚構めいた印象を受ける。
 しかし――。

『まあ、さすがに最近は通信網も発達して、昔程には好き勝手できなくなってきたけどね。情報の改竄なんて日常茶飯事だったよ。機密情報なら尚のことさ』

 テレビに映し出されていたのはこの世界の現実。
 その軽い調子の口調と声色に反し、洒落にならない内容だった。

『WBWに勝利し続ける限り、世界を如何ようにもできる。勝者の特権って奴さ』
『ですが、WBW憲章は公明正大を謳い、勝者は国際秩序の維持のために努力することが義務づけられているはずでは?』
『そんなもの、単なる建前に決まっているじゃないか。それに、秩序は守られているさ。我が国を第一とした世界の秩序がね』

 いつの間にか両親も食い入るようにテレビを見詰めている。
 眉間にしわを寄せながら。
 どうやら義憤に駆られているようだ。
 気持ちは分からなくもない。
 だが、怒りを覚えたところで一般市民にできることなど何もない。
 国レベルでさえ、恐らくどうしようもないことだろう。
 それこそ野球狂神によって、WBWの権威とその勝者が手にする権限は理不尽なレベルで守られているはずだから。

『この騒動を受け、国際連盟では緊急の会合が開かれることとなりました。どのような結論が出るのか、各国は注視しています』

 神の加護に対し、一体どんな対応が取れると言うのだろうか。
 期待はできないが、まあ、楽しみにしておこう。

『次は本日のスポーツのコーナーです』

 そんなところでこのトピックは終わり、一瞬宮城オーラムアステリオスの試合が映ったところで父さんが不機嫌そうにチャンネルを変える。

「……しかし、あんな陰謀論染みた話が、現実に出てくるとはな」
「一応、以前からまことしやかに囁かれていた話ではありましたが」
「俺が子供の頃にも似たような噂はあったな」

 多分その頃は情報伝達が遅く、隠蔽がしやすかったのだろう。
 今回のように暴露した者がいたとしても揉み消されて闇に葬られるのがオチだ。

「WBWが始まって以来、アメリカは負けなし。長く続けば続くだけ、利権が生まれて組織は腐っていく。甘い汁を吸うために便宜を図る者が出てくる」
「組織というものは、どこも同じようなものです」
「そうだな。けど、WBWは、国際機関は違うとどこかで思い込んでたのかもな」

 あるいは、爽やかなイメージを持つスポーツが前面に出てるせいかもしれない。
 例えるならヤクザのフロント企業みたいな感じか。
 この世界だとそのすぐ裏側で諸に政治に繋がっているのだから、実際はドロドロしていないはずなどないのに。

「これから、どうするんだろうな。対処のしようがあるのか?」
「WBWの勝敗は絶対ですからね」

 母さんの言う感覚は未だにちょっと分からないが、今日のニュースを見てようやく少し理解できたような気がする。
 いずれにしても、その根本的な対処方法は1つしかないだろう。

「そんなの、WBWで勝てばいい話でしょ?」
「い、いや、秀治郎。それは、そうなんだけどな」
「それはそう、ってんならいいんじゃない? シンプルな話だよ」
「単純ではあっても、簡単な話じゃないだろ?」
「シンプルで、かつ不可能じゃないなら、後は挑むだけだよ」

 たとえ可能性が低かろうと。
 野球狂神に吠え面をかかせてやるために。
 それこそが今生最大の目標なのだから。

「そうですね。秀治郎の言う通りだと思います」

 俺の言葉に穏やかな微笑みを浮かべる母さん。
 ……改めて見ると老いが感じられるな。目尻のしわとか。
 ステータスの【年齢補正】もその傾向を示している。

 親孝行したい時には親はなし。
 よく言われることだ。
 それを思うと、早め早めに行動していくことも選択肢として頭の片隅に置いておいた方がいいのかもしれない。
 世界の歪みを解消するのも、なるべくなら早い方がいい。

 俺が出場できそうなWBWへの最短の道。
 改めて検討してみるとしよう。
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