第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

文字の大きさ
上 下
110 / 313
第2章 雄飛の青少年期編

101 贔屓と刺激

しおりを挟む
「と言う訳で、これからは磐城君を中心としたチーム作りをしてこうと思います」

 磐城君の父親、大吾氏との面会を行った翌週の月曜日。その放課後。
 部室に集まった皆の前で彼の事情を簡潔に説明した後、俺はそう宣言した。

「……言いたいことは理解したけどサ。それって贔屓じゃないか?」
「それはまあ、うん、その通り」

 大松君の問いかけに肯定と共に頷く。
 否定しようもないし、言い繕いようもない。
【生得スキル】【天才】と【模倣】を持つその才能を腐らせないための完全な依怙贔屓だ。それ以上でもそれ以下でもない。
 勿論、ステータスを見ることができなければ分かり得ないことなので、説明のしようもないけれども。

「でも、あくまでもそういう方針ってだけだ。強豪校やユースのスカウトの目にとまる舞台まで辿り着いてアピールできれば、その過程は関係ない」

 十分にステータスを上げ、日の当たる場所に出ることさえできれば。
 磐城君は黙っていてもリストアップされるはずだ。
 まあ、スカウト達の目が節穴だったら話は別だが。

「だから、大松君が実力で先頭に立って、この野球部を全国まで引っ張っていってくれるなら、それはそれで構わないさ」
「そういうことなら、まあ、いいかな。誰よりも成長して、誰よりも活躍してこの俺が主役になってやるゼ!」

 入部から1年半。
 多分に漏れず運動音痴な当初の大松君は影も形もない。
 彼自身もまた自分の成長を明確に実感しているのは間違いない。
 そのせいか、随分と調子づいているようだ。
 俺からすれば、まだまだ発展途上に過ぎないのだが……。
 向上心も見て取れるから、別に悪いことではないだろう。

「ああ、その意気だ」

【生得スキル】はないが、貴重な【成長タイプ:マニュアル】である大松君。
 彼もまた、WBWでアメリカ代表に挑む仲間の候補として考えている存在だ。

 磐城君が持つ【生得スキル】【天才】と【模倣】は、別にステータス上の限界を取り払うことができる訳ではない。
 なので、うまく成長すれば大松君も最終的なスペックは磐城君と同等になる。
 しかし、そのためには【経験ポイント】をたくさん稼がなければならない。
 それだけに、こうしてやる気を示してくれるのはありがたい。
 ちょっとした反発心を抱いて磐城君のライバルのような存在になってくれたらという考えもあったが、この調子なら互いにいい刺激となってくれるかもしれない。

 それはそれとして。

「……磐城君、さっきから黙ってるけど大丈夫か?」

 話の間、ずっと静かだった彼が心配になって問いかける。
 一連の話は既に大吾氏から耳にしていたはずだが……。

「野村君。改めて感謝させて欲しい」

 彼は姿勢を正して俺に深々と頭を下げた。
 その姿に少し驚く。
 同時に、それだけ野球への強い思いがあったのだろうと思う。
 それは続く言葉にも表れていた。

「おかげで、もう1度野球に挑むことができるようになった。本当にありがとう」

 顔を上げた彼の顔は、生き甲斐を取り戻したかのように意欲に溢れている。
 再び虚無に落ちて彩りを失っていた瞳も活力の輝きを取り戻している。

「最後のチャンス。たとえ掴めなかったとしても、その時はキッパリ諦められる」
「いやいや、その時のことなんて考える必要はないよ」

 磐城君は言ってしまえば持ってる側の人間だからな。
【マニュアル操作】を持つ俺と出会った時点で。
 よくも悪くも野球から離れることなどできはしないのだ。
 いや、勿論、彼の心に野球への情熱があるからこその話だけれども。
 まあ、いずれにしても。

「ご両親は必ず認めてくれる。今日も明日も明後日も。最低でも向こう20年ぐらいは野球を続けていくことをね」

 現役のその先まで考えれば、一生野球で食っていくことも不可能な話じゃない。
 と言うか、むしろ野球界が離さないだろう。
 俺の想定通りに行けば。

「そうなると、いいな」
「いいなじゃなくて、そうするんだ。他でもない磐城君自身の手で」
「うん。分かってる。この1年が全てだと思って、死に物狂いでやるよ」

 表情を引き締めた磐城君に頷き、微笑む。
 大松君共々、いいモチベーションで練習に臨んでくれそうだ。

 本格的に野球部として活動を始めたとは言っても、トレーニングの強度としてはまだまだ控え目だからな。
 強豪校やユースに比べてしまったら、天国のようなものだろう。
 それでもステータスを抑えて時間経過に伴う低下を避けているから【経験ポイント】のロスが少なく、練習量の差程には実力差に開きがないのだが……。

 全国大会でぶっちぎるとなると、これまでなるべく上げないようにしていたステータスも上げる必要がある。
 そうなると経時による減少量も増え、【経験ポイント】の必要量も増える。
 少なくとも2人に関しては練習の強度を上げざるを得ない。
 それに耐えるには、明確な目的意識があった方が有用だ。

「けど、実際問題。そのためにどう練習していくの?」

 と、美海ちゃんが横から問いかけてくる。

「うん。まあ、根本的に肉体のスペックアップを図る必要があるから、筋トレの負荷を上げていくのが基本かな」

 もっとも、磐城君も大松君も【経験ポイント】さえ取得することができれば別に筋トレに拘る必要はない。
 しかし、今後野球部に入る子が皆【成長タイプ:マニュアル】とは限らない。
 今だって諏訪北さん達もいるしな。
 未来の山形県立向上冠中学高等学校野球部にも適用できるようなトレーニングメニューを確立するのも、並行してやるべきことだろう。

 とは言え。
 俺達はそういった部分の知見は乏しい。
【生得スキル】【怪我しない】を持つ俺がやる訳ではない以上、安全を無視して適当な真似をすることもできない。
 綿密に計画を立てる必要かある。
 ならば、やはり餅は餅屋だ。

「とりあえず、筋トレ研究部にその辺の見直しをお願いしよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...