110 / 283
第2章 雄飛の青少年期編
101 贔屓と刺激
しおりを挟む
「と言う訳で、これからは磐城君を中心としたチーム作りをしてこうと思います」
磐城君の父親、大吾氏との面会を行った翌週の月曜日。その放課後。
部室に集まった皆の前で彼の事情を簡潔に説明した後、俺はそう宣言した。
「……言いたいことは理解したけどサ。それって贔屓じゃないか?」
「それはまあ、うん、その通り」
大松君の問いかけに肯定と共に頷く。
否定しようもないし、言い繕いようもない。
【生得スキル】【天才】と【模倣】を持つその才能を腐らせないための完全な依怙贔屓だ。それ以上でもそれ以下でもない。
勿論、ステータスを見ることができなければ分かり得ないことなので、説明のしようもないけれども。
「でも、あくまでもそういう方針ってだけだ。強豪校やユースのスカウトの目にとまる舞台まで辿り着いてアピールできれば、その過程は関係ない」
十分にステータスを上げ、日の当たる場所に出ることさえできれば。
磐城君は黙っていてもリストアップされるはずだ。
まあ、スカウト達の目が節穴だったら話は別だが。
「だから、大松君が実力で先頭に立って、この野球部を全国まで引っ張っていってくれるなら、それはそれで構わないさ」
「そういうことなら、まあ、いいかな。誰よりも成長して、誰よりも活躍してこの俺が主役になってやるゼ!」
入部から1年半。
多分に漏れず運動音痴な当初の大松君は影も形もない。
彼自身もまた自分の成長を明確に実感しているのは間違いない。
そのせいか、随分と調子づいているようだ。
俺からすれば、まだまだ発展途上に過ぎないのだが……。
向上心も見て取れるから、別に悪いことではないだろう。
「ああ、その意気だ」
【生得スキル】はないが、貴重な【成長タイプ:マニュアル】である大松君。
彼もまた、WBWでアメリカ代表に挑む仲間の候補として考えている存在だ。
磐城君が持つ【生得スキル】【天才】と【模倣】は、別にステータス上の限界を取り払うことができる訳ではない。
なので、うまく成長すれば大松君も最終的なスペックは磐城君と同等になる。
しかし、そのためには【経験ポイント】をたくさん稼がなければならない。
それだけに、こうしてやる気を示してくれるのはありがたい。
ちょっとした反発心を抱いて磐城君のライバルのような存在になってくれたらという考えもあったが、この調子なら互いにいい刺激となってくれるかもしれない。
それはそれとして。
「……磐城君、さっきから黙ってるけど大丈夫か?」
話の間、ずっと静かだった彼が心配になって問いかける。
一連の話は既に大吾氏から耳にしていたはずだが……。
「野村君。改めて感謝させて欲しい」
彼は姿勢を正して俺に深々と頭を下げた。
その姿に少し驚く。
同時に、それだけ野球への強い思いがあったのだろうと思う。
それは続く言葉にも表れていた。
「おかげで、もう1度野球に挑むことができるようになった。本当にありがとう」
顔を上げた彼の顔は、生き甲斐を取り戻したかのように意欲に溢れている。
再び虚無に落ちて彩りを失っていた瞳も活力の輝きを取り戻している。
「最後のチャンス。たとえ掴めなかったとしても、その時はキッパリ諦められる」
「いやいや、その時のことなんて考える必要はないよ」
磐城君は言ってしまえば持ってる側の人間だからな。
【マニュアル操作】を持つ俺と出会った時点で。
よくも悪くも野球から離れることなどできはしないのだ。
いや、勿論、彼の心に野球への情熱があるからこその話だけれども。
まあ、いずれにしても。
「ご両親は必ず認めてくれる。今日も明日も明後日も。最低でも向こう20年ぐらいは野球を続けていくことをね」
現役のその先まで考えれば、一生野球で食っていくことも不可能な話じゃない。
と言うか、むしろ野球界が離さないだろう。
俺の想定通りに行けば。
「そうなると、いいな」
「いいなじゃなくて、そうするんだ。他でもない磐城君自身の手で」
「うん。分かってる。この1年が全てだと思って、死に物狂いでやるよ」
表情を引き締めた磐城君に頷き、微笑む。
大松君共々、いいモチベーションで練習に臨んでくれそうだ。
本格的に野球部として活動を始めたとは言っても、トレーニングの強度としてはまだまだ控え目だからな。
強豪校やユースに比べてしまったら、天国のようなものだろう。
それでもステータスを抑えて時間経過に伴う低下を避けているから【経験ポイント】のロスが少なく、練習量の差程には実力差に開きがないのだが……。
全国大会でぶっちぎるとなると、これまでなるべく上げないようにしていたステータスも上げる必要がある。
そうなると経時による減少量も増え、【経験ポイント】の必要量も増える。
少なくとも2人に関しては練習の強度を上げざるを得ない。
それに耐えるには、明確な目的意識があった方が有用だ。
「けど、実際問題。そのためにどう練習していくの?」
と、美海ちゃんが横から問いかけてくる。
「うん。まあ、根本的に肉体のスペックアップを図る必要があるから、筋トレの負荷を上げていくのが基本かな」
もっとも、磐城君も大松君も【経験ポイント】さえ取得することができれば別に筋トレに拘る必要はない。
しかし、今後野球部に入る子が皆【成長タイプ:マニュアル】とは限らない。
今だって諏訪北さん達もいるしな。
未来の山形県立向上冠中学高等学校野球部にも適用できるようなトレーニングメニューを確立するのも、並行してやるべきことだろう。
とは言え。
俺達はそういった部分の知見は乏しい。
【生得スキル】【怪我しない】を持つ俺がやる訳ではない以上、安全を無視して適当な真似をすることもできない。
綿密に計画を立てる必要かある。
ならば、やはり餅は餅屋だ。
「とりあえず、筋トレ研究部にその辺の見直しをお願いしよう」
磐城君の父親、大吾氏との面会を行った翌週の月曜日。その放課後。
部室に集まった皆の前で彼の事情を簡潔に説明した後、俺はそう宣言した。
「……言いたいことは理解したけどサ。それって贔屓じゃないか?」
「それはまあ、うん、その通り」
大松君の問いかけに肯定と共に頷く。
否定しようもないし、言い繕いようもない。
【生得スキル】【天才】と【模倣】を持つその才能を腐らせないための完全な依怙贔屓だ。それ以上でもそれ以下でもない。
勿論、ステータスを見ることができなければ分かり得ないことなので、説明のしようもないけれども。
「でも、あくまでもそういう方針ってだけだ。強豪校やユースのスカウトの目にとまる舞台まで辿り着いてアピールできれば、その過程は関係ない」
十分にステータスを上げ、日の当たる場所に出ることさえできれば。
磐城君は黙っていてもリストアップされるはずだ。
まあ、スカウト達の目が節穴だったら話は別だが。
「だから、大松君が実力で先頭に立って、この野球部を全国まで引っ張っていってくれるなら、それはそれで構わないさ」
「そういうことなら、まあ、いいかな。誰よりも成長して、誰よりも活躍してこの俺が主役になってやるゼ!」
入部から1年半。
多分に漏れず運動音痴な当初の大松君は影も形もない。
彼自身もまた自分の成長を明確に実感しているのは間違いない。
そのせいか、随分と調子づいているようだ。
俺からすれば、まだまだ発展途上に過ぎないのだが……。
向上心も見て取れるから、別に悪いことではないだろう。
「ああ、その意気だ」
【生得スキル】はないが、貴重な【成長タイプ:マニュアル】である大松君。
彼もまた、WBWでアメリカ代表に挑む仲間の候補として考えている存在だ。
磐城君が持つ【生得スキル】【天才】と【模倣】は、別にステータス上の限界を取り払うことができる訳ではない。
なので、うまく成長すれば大松君も最終的なスペックは磐城君と同等になる。
しかし、そのためには【経験ポイント】をたくさん稼がなければならない。
それだけに、こうしてやる気を示してくれるのはありがたい。
ちょっとした反発心を抱いて磐城君のライバルのような存在になってくれたらという考えもあったが、この調子なら互いにいい刺激となってくれるかもしれない。
それはそれとして。
「……磐城君、さっきから黙ってるけど大丈夫か?」
話の間、ずっと静かだった彼が心配になって問いかける。
一連の話は既に大吾氏から耳にしていたはずだが……。
「野村君。改めて感謝させて欲しい」
彼は姿勢を正して俺に深々と頭を下げた。
その姿に少し驚く。
同時に、それだけ野球への強い思いがあったのだろうと思う。
それは続く言葉にも表れていた。
「おかげで、もう1度野球に挑むことができるようになった。本当にありがとう」
顔を上げた彼の顔は、生き甲斐を取り戻したかのように意欲に溢れている。
再び虚無に落ちて彩りを失っていた瞳も活力の輝きを取り戻している。
「最後のチャンス。たとえ掴めなかったとしても、その時はキッパリ諦められる」
「いやいや、その時のことなんて考える必要はないよ」
磐城君は言ってしまえば持ってる側の人間だからな。
【マニュアル操作】を持つ俺と出会った時点で。
よくも悪くも野球から離れることなどできはしないのだ。
いや、勿論、彼の心に野球への情熱があるからこその話だけれども。
まあ、いずれにしても。
「ご両親は必ず認めてくれる。今日も明日も明後日も。最低でも向こう20年ぐらいは野球を続けていくことをね」
現役のその先まで考えれば、一生野球で食っていくことも不可能な話じゃない。
と言うか、むしろ野球界が離さないだろう。
俺の想定通りに行けば。
「そうなると、いいな」
「いいなじゃなくて、そうするんだ。他でもない磐城君自身の手で」
「うん。分かってる。この1年が全てだと思って、死に物狂いでやるよ」
表情を引き締めた磐城君に頷き、微笑む。
大松君共々、いいモチベーションで練習に臨んでくれそうだ。
本格的に野球部として活動を始めたとは言っても、トレーニングの強度としてはまだまだ控え目だからな。
強豪校やユースに比べてしまったら、天国のようなものだろう。
それでもステータスを抑えて時間経過に伴う低下を避けているから【経験ポイント】のロスが少なく、練習量の差程には実力差に開きがないのだが……。
全国大会でぶっちぎるとなると、これまでなるべく上げないようにしていたステータスも上げる必要がある。
そうなると経時による減少量も増え、【経験ポイント】の必要量も増える。
少なくとも2人に関しては練習の強度を上げざるを得ない。
それに耐えるには、明確な目的意識があった方が有用だ。
「けど、実際問題。そのためにどう練習していくの?」
と、美海ちゃんが横から問いかけてくる。
「うん。まあ、根本的に肉体のスペックアップを図る必要があるから、筋トレの負荷を上げていくのが基本かな」
もっとも、磐城君も大松君も【経験ポイント】さえ取得することができれば別に筋トレに拘る必要はない。
しかし、今後野球部に入る子が皆【成長タイプ:マニュアル】とは限らない。
今だって諏訪北さん達もいるしな。
未来の山形県立向上冠中学高等学校野球部にも適用できるようなトレーニングメニューを確立するのも、並行してやるべきことだろう。
とは言え。
俺達はそういった部分の知見は乏しい。
【生得スキル】【怪我しない】を持つ俺がやる訳ではない以上、安全を無視して適当な真似をすることもできない。
綿密に計画を立てる必要かある。
ならば、やはり餅は餅屋だ。
「とりあえず、筋トレ研究部にその辺の見直しをお願いしよう」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
令嬢キャスリーンの困惑 【完結】
あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」
そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。
14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。
すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる