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第2章 雄飛の青少年期編
101 贔屓と刺激
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「と言う訳で、これからは磐城君を中心としたチーム作りをしてこうと思います」
磐城君の父親、大吾氏との面会を行った翌週の月曜日。その放課後。
部室に集まった皆の前で彼の事情を簡潔に説明した後、俺はそう宣言した。
「……言いたいことは理解したけどサ。それって贔屓じゃないか?」
「それはまあ、うん、その通り」
大松君の問いかけに肯定と共に頷く。
否定しようもないし、言い繕いようもない。
【生得スキル】【天才】と【模倣】を持つその才能を腐らせないための完全な依怙贔屓だ。それ以上でもそれ以下でもない。
勿論、ステータスを見ることができなければ分かり得ないことなので、説明のしようもないけれども。
「でも、あくまでもそういう方針ってだけだ。強豪校やユースのスカウトの目にとまる舞台まで辿り着いてアピールできれば、その過程は関係ない」
十分にステータスを上げ、日の当たる場所に出ることさえできれば。
磐城君は黙っていてもリストアップされるはずだ。
まあ、スカウト達の目が節穴だったら話は別だが。
「だから、大松君が実力で先頭に立って、この野球部を全国まで引っ張っていってくれるなら、それはそれで構わないさ」
「そういうことなら、まあ、いいかな。誰よりも成長して、誰よりも活躍してこの俺が主役になってやるゼ!」
入部から1年半。
多分に漏れず運動音痴な当初の大松君は影も形もない。
彼自身もまた自分の成長を明確に実感しているのは間違いない。
そのせいか、随分と調子づいているようだ。
俺からすれば、まだまだ発展途上に過ぎないのだが……。
向上心も見て取れるから、別に悪いことではないだろう。
「ああ、その意気だ」
【生得スキル】はないが、貴重な【成長タイプ:マニュアル】である大松君。
彼もまた、WBWでアメリカ代表に挑む仲間の候補として考えている存在だ。
磐城君が持つ【生得スキル】【天才】と【模倣】は、別にステータス上の限界を取り払うことができる訳ではない。
なので、うまく成長すれば大松君も最終的なスペックは磐城君と同等になる。
しかし、そのためには【経験ポイント】をたくさん稼がなければならない。
それだけに、こうしてやる気を示してくれるのはありがたい。
ちょっとした反発心を抱いて磐城君のライバルのような存在になってくれたらという考えもあったが、この調子なら互いにいい刺激となってくれるかもしれない。
それはそれとして。
「……磐城君、さっきから黙ってるけど大丈夫か?」
話の間、ずっと静かだった彼が心配になって問いかける。
一連の話は既に大吾氏から耳にしていたはずだが……。
「野村君。改めて感謝させて欲しい」
彼は姿勢を正して俺に深々と頭を下げた。
その姿に少し驚く。
同時に、それだけ野球への強い思いがあったのだろうと思う。
それは続く言葉にも表れていた。
「おかげで、もう1度野球に挑むことができるようになった。本当にありがとう」
顔を上げた彼の顔は、生き甲斐を取り戻したかのように意欲に溢れている。
再び虚無に落ちて彩りを失っていた瞳も活力の輝きを取り戻している。
「最後のチャンス。たとえ掴めなかったとしても、その時はキッパリ諦められる」
「いやいや、その時のことなんて考える必要はないよ」
磐城君は言ってしまえば持ってる側の人間だからな。
【マニュアル操作】を持つ俺と出会った時点で。
よくも悪くも野球から離れることなどできはしないのだ。
いや、勿論、彼の心に野球への情熱があるからこその話だけれども。
まあ、いずれにしても。
「ご両親は必ず認めてくれる。今日も明日も明後日も。最低でも向こう20年ぐらいは野球を続けていくことをね」
現役のその先まで考えれば、一生野球で食っていくことも不可能な話じゃない。
と言うか、むしろ野球界が離さないだろう。
俺の想定通りに行けば。
「そうなると、いいな」
「いいなじゃなくて、そうするんだ。他でもない磐城君自身の手で」
「うん。分かってる。この1年が全てだと思って、死に物狂いでやるよ」
表情を引き締めた磐城君に頷き、微笑む。
大松君共々、いいモチベーションで練習に臨んでくれそうだ。
本格的に野球部として活動を始めたとは言っても、トレーニングの強度としてはまだまだ控え目だからな。
強豪校やユースに比べてしまったら、天国のようなものだろう。
それでもステータスを抑えて時間経過に伴う低下を避けているから【経験ポイント】のロスが少なく、練習量の差程には実力差に開きがないのだが……。
全国大会でぶっちぎるとなると、これまでなるべく上げないようにしていたステータスも上げる必要がある。
そうなると経時による減少量も増え、【経験ポイント】の必要量も増える。
少なくとも2人に関しては練習の強度を上げざるを得ない。
それに耐えるには、明確な目的意識があった方が有用だ。
「けど、実際問題。そのためにどう練習していくの?」
と、美海ちゃんが横から問いかけてくる。
「うん。まあ、根本的に肉体のスペックアップを図る必要があるから、筋トレの負荷を上げていくのが基本かな」
もっとも、磐城君も大松君も【経験ポイント】さえ取得することができれば別に筋トレに拘る必要はない。
しかし、今後野球部に入る子が皆【成長タイプ:マニュアル】とは限らない。
今だって諏訪北さん達もいるしな。
未来の山形県立向上冠中学高等学校野球部にも適用できるようなトレーニングメニューを確立するのも、並行してやるべきことだろう。
とは言え。
俺達はそういった部分の知見は乏しい。
【生得スキル】【怪我しない】を持つ俺がやる訳ではない以上、安全を無視して適当な真似をすることもできない。
綿密に計画を立てる必要かある。
ならば、やはり餅は餅屋だ。
「とりあえず、筋トレ研究部にその辺の見直しをお願いしよう」
磐城君の父親、大吾氏との面会を行った翌週の月曜日。その放課後。
部室に集まった皆の前で彼の事情を簡潔に説明した後、俺はそう宣言した。
「……言いたいことは理解したけどサ。それって贔屓じゃないか?」
「それはまあ、うん、その通り」
大松君の問いかけに肯定と共に頷く。
否定しようもないし、言い繕いようもない。
【生得スキル】【天才】と【模倣】を持つその才能を腐らせないための完全な依怙贔屓だ。それ以上でもそれ以下でもない。
勿論、ステータスを見ることができなければ分かり得ないことなので、説明のしようもないけれども。
「でも、あくまでもそういう方針ってだけだ。強豪校やユースのスカウトの目にとまる舞台まで辿り着いてアピールできれば、その過程は関係ない」
十分にステータスを上げ、日の当たる場所に出ることさえできれば。
磐城君は黙っていてもリストアップされるはずだ。
まあ、スカウト達の目が節穴だったら話は別だが。
「だから、大松君が実力で先頭に立って、この野球部を全国まで引っ張っていってくれるなら、それはそれで構わないさ」
「そういうことなら、まあ、いいかな。誰よりも成長して、誰よりも活躍してこの俺が主役になってやるゼ!」
入部から1年半。
多分に漏れず運動音痴な当初の大松君は影も形もない。
彼自身もまた自分の成長を明確に実感しているのは間違いない。
そのせいか、随分と調子づいているようだ。
俺からすれば、まだまだ発展途上に過ぎないのだが……。
向上心も見て取れるから、別に悪いことではないだろう。
「ああ、その意気だ」
【生得スキル】はないが、貴重な【成長タイプ:マニュアル】である大松君。
彼もまた、WBWでアメリカ代表に挑む仲間の候補として考えている存在だ。
磐城君が持つ【生得スキル】【天才】と【模倣】は、別にステータス上の限界を取り払うことができる訳ではない。
なので、うまく成長すれば大松君も最終的なスペックは磐城君と同等になる。
しかし、そのためには【経験ポイント】をたくさん稼がなければならない。
それだけに、こうしてやる気を示してくれるのはありがたい。
ちょっとした反発心を抱いて磐城君のライバルのような存在になってくれたらという考えもあったが、この調子なら互いにいい刺激となってくれるかもしれない。
それはそれとして。
「……磐城君、さっきから黙ってるけど大丈夫か?」
話の間、ずっと静かだった彼が心配になって問いかける。
一連の話は既に大吾氏から耳にしていたはずだが……。
「野村君。改めて感謝させて欲しい」
彼は姿勢を正して俺に深々と頭を下げた。
その姿に少し驚く。
同時に、それだけ野球への強い思いがあったのだろうと思う。
それは続く言葉にも表れていた。
「おかげで、もう1度野球に挑むことができるようになった。本当にありがとう」
顔を上げた彼の顔は、生き甲斐を取り戻したかのように意欲に溢れている。
再び虚無に落ちて彩りを失っていた瞳も活力の輝きを取り戻している。
「最後のチャンス。たとえ掴めなかったとしても、その時はキッパリ諦められる」
「いやいや、その時のことなんて考える必要はないよ」
磐城君は言ってしまえば持ってる側の人間だからな。
【マニュアル操作】を持つ俺と出会った時点で。
よくも悪くも野球から離れることなどできはしないのだ。
いや、勿論、彼の心に野球への情熱があるからこその話だけれども。
まあ、いずれにしても。
「ご両親は必ず認めてくれる。今日も明日も明後日も。最低でも向こう20年ぐらいは野球を続けていくことをね」
現役のその先まで考えれば、一生野球で食っていくことも不可能な話じゃない。
と言うか、むしろ野球界が離さないだろう。
俺の想定通りに行けば。
「そうなると、いいな」
「いいなじゃなくて、そうするんだ。他でもない磐城君自身の手で」
「うん。分かってる。この1年が全てだと思って、死に物狂いでやるよ」
表情を引き締めた磐城君に頷き、微笑む。
大松君共々、いいモチベーションで練習に臨んでくれそうだ。
本格的に野球部として活動を始めたとは言っても、トレーニングの強度としてはまだまだ控え目だからな。
強豪校やユースに比べてしまったら、天国のようなものだろう。
それでもステータスを抑えて時間経過に伴う低下を避けているから【経験ポイント】のロスが少なく、練習量の差程には実力差に開きがないのだが……。
全国大会でぶっちぎるとなると、これまでなるべく上げないようにしていたステータスも上げる必要がある。
そうなると経時による減少量も増え、【経験ポイント】の必要量も増える。
少なくとも2人に関しては練習の強度を上げざるを得ない。
それに耐えるには、明確な目的意識があった方が有用だ。
「けど、実際問題。そのためにどう練習していくの?」
と、美海ちゃんが横から問いかけてくる。
「うん。まあ、根本的に肉体のスペックアップを図る必要があるから、筋トレの負荷を上げていくのが基本かな」
もっとも、磐城君も大松君も【経験ポイント】さえ取得することができれば別に筋トレに拘る必要はない。
しかし、今後野球部に入る子が皆【成長タイプ:マニュアル】とは限らない。
今だって諏訪北さん達もいるしな。
未来の山形県立向上冠中学高等学校野球部にも適用できるようなトレーニングメニューを確立するのも、並行してやるべきことだろう。
とは言え。
俺達はそういった部分の知見は乏しい。
【生得スキル】【怪我しない】を持つ俺がやる訳ではない以上、安全を無視して適当な真似をすることもできない。
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