第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第2章 雄飛の青少年期編

093 秋大準備完了

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 秋に行われる大会まで残すところ1ヶ月程となった夏の日。
 約2ヶ月かけて収集したデータとポジション表が印刷された紙を配り、全員に行き渡ったのを確認してから俺は口を開いた。

「データを見る限り、高校生チームの適性ポジションはこんな感じですね」
「……見事に分かれたな」
「はい。運がいいですね」

 どこか感心するように呟いた上村先輩にはそう返したが、当然ながら運だけでそうなった訳ではない。
 筋トレ研究部から引き抜く段階でステータスを確認し、守備適性がある程度バラけるように選んだからだ。
 もっとも、彼らは【成長タイプ:マニュアル】ではないので、適性に関しては想定と全く異なる成長を見せる可能性もなくはなかったけどな。
 今のところは順調に伸びてくれている。
 そこは確かに運がよかったと言えるかもしれない。

 改めてデータ見る。
 基本は守備機会に対するエラーをしなかった確率を示す守備率。
 それに加え、高速撮影を利用した一歩目の動き出しまでの時間。
 単位時間当たりの移動量。
 シートノックを通して集めた情報を分析して総合的に守備適性を判断した。
 しっかりとした傾向が出てくれてホッとした部分がある。

「とりあえずデータが揃ったので、秋大まではシートバッティングやシートノックの時の守備位置はポジション表に沿った形でやりたいと思います」
「そうだな。それがいい」

 これでようやく一段落だな。
 彼らが受け入れてくれてよかった。

 俺からすると、正直シートバッティングやシートノックで色んなポジションを練習させるのは遠回りでしかなかった。
 ステータスを開けば守備適性も一目瞭然なのだから。
 しかし、それはあくまでも俺の中での話。
 彼らを納得させるだけの根拠が必要になる。
 そのためにはこうするのが最善だと考えた。急がば回れ、だ。
 何より、俺がこの学校を卒業した後も野球部が最低限の強さを維持するには、【マニュアル操作】に依らない方法で適性を図る必要があるからな。
 前世にもステータスや適性値のようなものがあったのかは分からないが、少なくともこの世界には間違いなく実在する。
 ならば、それを前提とした練習の組み方を確立しておくべきだろう。

 ちなみに、これは通常のノックでは駄目だ。
 ちゃんと守備位置につかせないと適性の傾向は見えてこない。
 普通にステータス値通りの結果になるだけだ。
 そう考えると、この世界においてシートノックは最重要の練習と言えるかもしれない。
 ケース別の守備をシミュレーションすることも然り。
 少なくとも成長途上の選手が多いアマチュア野球においては、何よりも重点的に行うべき練習だと俺は思う。

「ええと、後はピッチャーの起用方法についてですけど……上村先輩は7~9回の登板になります」
「確か1~3回、4~6回、7~9回で分担するんだったか」
「はい。3人で1人3回ずつ担当する作戦です。時間がなくて、スタミナトレーニングは後回しにしましたからね」

 と言うより、先発が長く投げて順当に勝つという王道パターンは難しいという理由の方が大きい。
 そんな本格派の投手は、こんな学校には普通来ないだろう。
 実際、先発適性を持つ人は1人しかいないしな。
 上村先輩もザックリ言うと先発△、中継ぎ〇、抑え◎という感じだ。
 この辺りも紅白戦(中学生チーム対高校生チーム)で起用法を順々に変えて調査し、その時々の与四球率などの増減を根拠に適性を伝えている。

「これで、おおよその準備が整いました。後は残る1ヶ月間。この体制で全体的な底上げを図るだけです」
「ああ、そうだな」
「……大丈夫ですか?」

 しみじみと呟いた上村先輩に問いかける。

「まあ、正直に言えば、まだ不安もある」

 それはそうだろう。
 公式戦の経験はほぼなし。
 あったとしても、全国小学6年生硬式野球選手権大会にクラブ活動チームで参加して1回戦負けというぐらいが精々。
 自信満々な方がおかしい。

「けど、今の自分達がどれだけ通用するか楽しみな気持ちも大きい。皆もそうだ」

 それでもそんなことを言えるのは、それだけ自分達の成長を強く強く実感しているからだろう。
 まあ、地方大会の1回戦であれば、学校行事として野球部の応援に行って実態を知っているからというのもあるかもしれないけれども。
 ともあれ、適度に緊張しているいい具合の精神状態で本番を迎えられそうだな。
 俺も結果が楽しみだ。

「その意気です。新生野球部の力、見せてやりましょう!」
「ああ、任せろ!」

 そうして瞬く間に1ヶ月が経過する。
 さあ、本番だ。
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