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第2章 雄飛の青少年期編
090 補助金受給要件正式決定
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筋トレ研究部から12名の部員を引き抜いてから2週間経った。
新生野球部にも大分慣れてきた様子だ。
とは言え、彼らがやっていることはまだまだ単純なもの。
引き続き9名はバッティングメインで、3名はピッチングメインだ。
後は筋トレと、反射神経や動体視力を鍛えるためのビジョントレーニング。
走塁練習や守備練習にまで手を出すのはしばらく先になる予定だ。
「ねえ、野村君。中学校側も同じように筋トレ研究部から人員補充しといた方がいいんじゃない? 人数が多いに越したことないでしょ?」
と、ウォーミングアップのストレッチ中、隣から美海ちゃんが尋ねてきた。
もっともな疑問ではある。
「まあ、それも少し考えはしたんだけどな。上村先輩にとめられたんだ」
「どうして?」
「中学の3年間で身に着けた筋肉のおかげで自分達はマシになったけど、中学の内は野球への苦手意識が強かったから誘われても拒否反応を示してただろうって」
「あー……」
微妙に納得したような声を出す美海ちゃん。
文武の文に傾いたこの学校に入学しておきながら、わざわざ筋トレ研究部に入ってトレーニングを始めようと言うのだ。
他の生徒に比べて野球に対する愛憎の渦巻き方が激しいのは間違いない。
それを飲み込むには中学の3年間を筋トレに捧げるぐらいのことは必要だろう。
あるいは、実績を作って別の道筋を示してやるのがいいか。
筋トレ研究部を経由してきた先輩達が高校野球で活躍する姿を見せることができたら、意識をガラリと変えることも可能かもしれない。
俺もそうなることを期待しているが……。
たとえ勧誘することがあるにしても、次の公式戦以後の話になるだろう。
「野村、少し来てくれるか?」
そこへ虻川先生がやってきて、視線で部室棟に来るように促される。
何だか深刻そうな雰囲気がある。
一体何ごとだろうかと思いながら、俺は「はい」と答えて彼の後に続いた。
そうしてミーティングルームで2人になったところで虻川先生は口を開く。
「補助金の要件が正式に決まった」
「あ、やっとですか。…………その表情だとウチに不利な条件でもつきましたか」
「よく分かったな」
まあ、正直なところ「だろうな」という感想だ。
速報で聞かされた分だけだと、さすがに緩過ぎて再炎上しそうな気がしていた。
なので、我が校が狙い撃ちで除外されるような条件が追加されるんじゃないかとは心の片隅で思っていた。
「元々あった条件に、野球技術向上に関わる活動実績の記録提出が追加された。ただし、これは過去1年間に公式戦で1勝していれば免除となる」
軽く頷く。
ここまでは前回聞いた通りだ。
「ただ、補助金受給の前提条件として『設立25年以上の野球部においては、過去25年間で公式戦1勝以上していること』という条件がついた」
「成程。ピンポイントで来ましたね」
恐らくだけど、条件を満たせないのはウチぐらいのものだろう。
いや、勿論、世の中には同じやり口で補助金をチューチューしていた学校がもしかしたら存在するのかもしれないけれども。
少なくとも真面目にやっている普通の学校が弾かれることはほぼないはずだ。
と言うのも、前世よりも野球が盛況なので公式戦の参加校も多いからだ。
それ故にシード権の数や段階もまた多岐にわたり、結果として1回戦は本当に1回戦レベルのチームばかりとなるのだ。
初戦で強豪校に当たって無事死亡という展開はまずない。
まあ、極稀に謎の1年生エースが現れて急に強くなるチームが出てきたりもするが、そんな漫画みたいなチームと毎年のように出くわす確率はゼロに近い。
25年もあれば、大体のチームがどこかしらで1勝しているはずだ。
ウチみたいに普通じゃないムーブでもかまさない限りは。
「ま、世間の反応が厳しかったんでしょう。批判の電話まだ来てるんですよね?」
「……まあな」
「だとしたら、逆にありがたいことかもしれませんね。狙い撃ちされてる感があれば、不満を持ってる人の溜飲も下がるかもしれないですし」
それは、批判から身を守ることにも繋がるかもしれない。
「しかし、補助金をどうにかして継続させたい学校側からすると困った状況だ。大きなハードルができてしまった」
深刻そうに嘆息する虻川先生。
対照的に、俺は楽観視している。
「いやいや、大丈夫ですよ。勝てばいいんですから」
「そんな簡単なことじゃないぞ、試合に勝つってことは」
「大丈夫です。勝てる要素は十分あります」
中学校側の俺達は言わずもがな。
高校野球部の方も、無理な話じゃない。
後3ヶ月。まだまだ間に合うはずだ。
「とは言え、勝負に絶対はないですからね。確率を上げるためにも、やはりプロ野球個人成績同好会とアマチュア野球愛好会にも手伝って貰いましょう」
「この前の話か」
「はい。そのためにも、彼らを少し追い込んで貰いたいのですが……」
そうすれば、自分達のなすべきことを真剣に考えてくれるかもしれない。
どうにか自分で答えを導き出して欲しいところだが、さて。
新生野球部にも大分慣れてきた様子だ。
とは言え、彼らがやっていることはまだまだ単純なもの。
引き続き9名はバッティングメインで、3名はピッチングメインだ。
後は筋トレと、反射神経や動体視力を鍛えるためのビジョントレーニング。
走塁練習や守備練習にまで手を出すのはしばらく先になる予定だ。
「ねえ、野村君。中学校側も同じように筋トレ研究部から人員補充しといた方がいいんじゃない? 人数が多いに越したことないでしょ?」
と、ウォーミングアップのストレッチ中、隣から美海ちゃんが尋ねてきた。
もっともな疑問ではある。
「まあ、それも少し考えはしたんだけどな。上村先輩にとめられたんだ」
「どうして?」
「中学の3年間で身に着けた筋肉のおかげで自分達はマシになったけど、中学の内は野球への苦手意識が強かったから誘われても拒否反応を示してただろうって」
「あー……」
微妙に納得したような声を出す美海ちゃん。
文武の文に傾いたこの学校に入学しておきながら、わざわざ筋トレ研究部に入ってトレーニングを始めようと言うのだ。
他の生徒に比べて野球に対する愛憎の渦巻き方が激しいのは間違いない。
それを飲み込むには中学の3年間を筋トレに捧げるぐらいのことは必要だろう。
あるいは、実績を作って別の道筋を示してやるのがいいか。
筋トレ研究部を経由してきた先輩達が高校野球で活躍する姿を見せることができたら、意識をガラリと変えることも可能かもしれない。
俺もそうなることを期待しているが……。
たとえ勧誘することがあるにしても、次の公式戦以後の話になるだろう。
「野村、少し来てくれるか?」
そこへ虻川先生がやってきて、視線で部室棟に来るように促される。
何だか深刻そうな雰囲気がある。
一体何ごとだろうかと思いながら、俺は「はい」と答えて彼の後に続いた。
そうしてミーティングルームで2人になったところで虻川先生は口を開く。
「補助金の要件が正式に決まった」
「あ、やっとですか。…………その表情だとウチに不利な条件でもつきましたか」
「よく分かったな」
まあ、正直なところ「だろうな」という感想だ。
速報で聞かされた分だけだと、さすがに緩過ぎて再炎上しそうな気がしていた。
なので、我が校が狙い撃ちで除外されるような条件が追加されるんじゃないかとは心の片隅で思っていた。
「元々あった条件に、野球技術向上に関わる活動実績の記録提出が追加された。ただし、これは過去1年間に公式戦で1勝していれば免除となる」
軽く頷く。
ここまでは前回聞いた通りだ。
「ただ、補助金受給の前提条件として『設立25年以上の野球部においては、過去25年間で公式戦1勝以上していること』という条件がついた」
「成程。ピンポイントで来ましたね」
恐らくだけど、条件を満たせないのはウチぐらいのものだろう。
いや、勿論、世の中には同じやり口で補助金をチューチューしていた学校がもしかしたら存在するのかもしれないけれども。
少なくとも真面目にやっている普通の学校が弾かれることはほぼないはずだ。
と言うのも、前世よりも野球が盛況なので公式戦の参加校も多いからだ。
それ故にシード権の数や段階もまた多岐にわたり、結果として1回戦は本当に1回戦レベルのチームばかりとなるのだ。
初戦で強豪校に当たって無事死亡という展開はまずない。
まあ、極稀に謎の1年生エースが現れて急に強くなるチームが出てきたりもするが、そんな漫画みたいなチームと毎年のように出くわす確率はゼロに近い。
25年もあれば、大体のチームがどこかしらで1勝しているはずだ。
ウチみたいに普通じゃないムーブでもかまさない限りは。
「ま、世間の反応が厳しかったんでしょう。批判の電話まだ来てるんですよね?」
「……まあな」
「だとしたら、逆にありがたいことかもしれませんね。狙い撃ちされてる感があれば、不満を持ってる人の溜飲も下がるかもしれないですし」
それは、批判から身を守ることにも繋がるかもしれない。
「しかし、補助金をどうにかして継続させたい学校側からすると困った状況だ。大きなハードルができてしまった」
深刻そうに嘆息する虻川先生。
対照的に、俺は楽観視している。
「いやいや、大丈夫ですよ。勝てばいいんですから」
「そんな簡単なことじゃないぞ、試合に勝つってことは」
「大丈夫です。勝てる要素は十分あります」
中学校側の俺達は言わずもがな。
高校野球部の方も、無理な話じゃない。
後3ヶ月。まだまだ間に合うはずだ。
「とは言え、勝負に絶対はないですからね。確率を上げるためにも、やはりプロ野球個人成績同好会とアマチュア野球愛好会にも手伝って貰いましょう」
「この前の話か」
「はい。そのためにも、彼らを少し追い込んで貰いたいのですが……」
そうすれば、自分達のなすべきことを真剣に考えてくれるかもしれない。
どうにか自分で答えを導き出して欲しいところだが、さて。
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