第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

文字の大きさ
上 下
93 / 313
第2章 雄飛の青少年期編

085 野球部改革①

しおりを挟む
「うぅ、野村君。本当に大丈夫……?」

 皆でミーティングルームを出て部室に戻ってすぐ。
 陸玖ちゃん先輩が何とも不安そうに尋ねてきた。

「何も問題ありません。けど、すみません。勝手に色々と言っちゃいました」
「そ、そんなの、私は別に……全然、いいんだけど……」
「陸玖ちゃん先輩だけじゃなく、皆も。俺の一存で決めちゃって、ごめん」

 プロ野球珍プレー愛好会の仲間全員を見回して頭を下げる。
 すると、隣にいたあーちゃんが自然な動きで手を両手で握ってきた。

「しゅー君は間違ってない。わたしはしゅー君についてく。ずっと一緒に頑張る」
「……うん。いつも助かってる」

 言いながら微笑みかけると、彼女の嬉しさが【以心伝心】で伝わってきた。
 俺の信頼も丸々あーちゃんに届いているはずだ。

「……何だかんだ言って、私達って結構野球の練習もしてるしね。その延長みたいなものでしょ? なら、私は別に問題ないわ。今更のことよ」

 美海ちゃんは俺達の様子に苦笑しつつ、分かり易い理由を添えて告げる。
 他の子達が受け入れ易いようにフォローしてくれているのだろう。

「そーそー、できるようになるとー、結構楽しいしねー」
「私達みたいな下手くそでも上達できるんだって思えたよ」
「はい。将来の糧になっている実感があります」
「うんうん。問題ないよー」

 結果、4人組もまた追随し、更に昇二と磐城君、それから大松君も頷く。
 本当にありがたいことだ。
 この1年。ステップアップしていく喜びを重視してやってきた甲斐があった。

 ……しかし、こうして見ると男子は余り喋らないな。
 他の女子の勢いが強いからだろうか。
 そんな余計なことを考えていると、部室の扉が開いて虻川先生が入ってきた。
 何だか随分と疲れたような顔をしている。

「あれ? どうしたんですか?」
「ああ……高校側の野球部の対応について、野村に相談しようと思ってな」
「えっと……中学生の俺に、ですか?」
「いいアイデアであれば別に年齢は関係ないだろう。それに、さっき見ていた感じだと、何か考えがありそうだったからな」

 慧眼、だな。

「…………まあ、あるにはありますけど」

 少し勿体振るように答えると、虻川先生は続きを促すように俺の目を見た。
 説明しよう。

「正直なところ、他の同好会の人達は当てにならなさそうなので、普通の練習に普通に耐えられそうな人に助けを求めるしかないと思います」
「練習に耐えられそうな人?」

 首を傾げる彼にゆったり「はい」と頷いて、一拍置いてから再び口を開く。
 それが2同好会の人なら面倒はなかったのだが……。
 こればかりは仕方のないことだ。

「普段から継続してトレーニングしている人です。つまり、筋トレ研究部の人達」
「……それは俺も考えたことがある。しかし、彼らも彼らで野球には苦手意識が恐ろしく強い。前にそれとなく誘った時には、首を縦に振ることはなかった」

 虻川先生の言葉に、おや、と思う。
 部活動にやる気がなさそうな雰囲気だった彼だが、そんなことをしていたのか。
 一応、今の不健全な状態を是正しようという考えはあったらしい。
 最初は積極的に改善させようと働きかけていたが、生徒に意欲が全くなかったからモチベーションを失ってしまったのかもしれない。
 まあ、それについては今は脇に置いておこう。

「確かに、野球にいい思い出がなければそうなっても不思議じゃないですね」

 野球に狂ったこの世界では、教育の中で当たり前に実践を強要してくるからな。
 成長の早い子に打ちのめされて、早々に絶望してしまうことも多々あるだろう。
 幼い時分に世界の広さを突きつけられる。
 その記憶、その経験は特にトラウマとして残ってしまうに違いない。
 人格形成にも強く影響するはずだ。

 そう考えると、2同好会の生徒達もこの世界の犠牲者と言えなくもないかもな。
 野球狂神の強制力によって野球を完全にシャットアウトできないことも尚酷い。
 野球をやるのは嫌だが、野球を嫌いになることはほとんど不可能。
 中々に鬼畜な仕様だと思う。

「今も彼らの状況は変わっていないはずだが、どうするつもりだ?」
「とりあえず、俺に交渉させて貰えませんか? うまくいけば儲けものでしょう」
「…………まあな。やるだけならタダ、か」

 半信半疑、というよりも9分9厘うまく行かないと思っている感じではある。
 それでも。藁にも縋るような雰囲気で俺の提案に了承の意を示す虻川先生。
 もしかすると、上の方からどうにかして補助金を維持することができるように動けと命令されているのかもしれないな。

「早速行きますか?」
「ああ……いや、そろそろ下校時刻だ。明日にしよう」
「そうですね。分かりました。では、明日に」

 こうして翌日。
 俺は虻川先生と共に筋トレ研究部の活動場所へと向かうことになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...