第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第2章 雄飛の青少年期編

081 サングラスをかけよう

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 7月下旬。梅雨も明けてしばらく経ったある真夏日。
 学校は既に夏休みに突入している。
 だが、俺達は学校の部室棟のミーティングルームにいた。
 プロ野球珍プレー愛好会の夏季休暇中の活動として集まったのだ。
 夏休み中の野球部の活動実績作りのために、3同好会持ち回りで行っている。

 活動は平日のみで、基本的な割り振りは次の通り。
 月、火、水の3日間がアマチュア野球愛好会。
 木曜日がプロ野球個人成績同好会。
 金曜日がプロ野球珍プレー愛好会だ。
 アマチュア野球同好会は最も活発に活動しており、日本各地のアマチュア野球の取材に行ったりするため、日数が多い。
 遠征や合宿、練習試合のカムフラージュとしても利用されているようだ。

 勿論、自主的に活動することは何の問題もない。
 さすがに野球の道具を使うともなると、虻川先生がアマチュア野球同好会に同行していない時に限られるけれども。
 アマチュア野球同好会は大体火曜日に遠征に出かけることが多いようだ。
 場合によっては泊まりがけになって前後もいないことがある。
 ちなみに本日は金曜日。虻川先生は俺達の様子を眺めている。
 前に言っていた通り指導はしてくれないが、道具を使った練習は可能だ。

「それで今日は何をするのー?」

 全員が揃ったところで泉南さんが手を挙げて尋ねる。

「陸玖ちゃん先輩」
「う、うん。えっと……まず、この動画を見て下さい」

 この場にいる皆には大分慣れたのだろう。
 陸玖ちゃん先輩は以前のようにオロオロせずに話し始める。
 それと同時にプロジェクタースクリーンに映像が映し出される。
 やや古いプロ野球の試合。
 デイゲームの屋外球場。
 バッターが高めの球を打ち、高々とフライが上がる。
 順当に行けばショートの内野フライ。
 プロなら普通に捕ることができるはず。
 しかし――。

「あ、何か変な動きしてるー」

 捕球体勢に入ろうとした選手が手をばたつかせてキョロキョロし始める。
 その直後、ボールは彼の斜め後ろに落下してしまった。
 慌ててレフトが捕球するが、その間にバッターランナーは2塁に到達している。

「何が起きたんですか?」

 仁科さんが首を傾げて問う。
 画像だけ見ると、突如としてショートが奇行に走ったようにしか見えない。

「これはフライを見上げた時に丁度太陽と重なってしまい、ボールを見失ったことによるものです。
 最初、記録はエラーとなりましたが、太陽光の影響が認められたことと、ショートが全くボールに触れることなく落下したこともあり、ヒットに訂正されました」

 一気に話し切り、一息つく陸玖ちゃん先輩。
 顔見知りとなったからか、質問にも普通に対応できるようになった。
 質疑応答自体にも慣れてきたかは、新入部員が来ないと分からない。
 まあ、今はそれよりも動画についてだ。

「あー、私も体育で太陽の光が眩しくてボールが見えなくなった時があるよ」
「右に同じー」

 あるあるという反応を示す佳藤さんと諏訪北さん。
 しかし、それはあくまでも体育での試合の中でのこと。
 あるいは、キャッチボールでフライっぽく投げた時の話だろう。
 公式戦とは全く違う状況だ。
 重要な場面で発生したら、当人の責任ではなくともトラウマになりかねない。

「1点を争う白熱した攻防の中では死活問題です。実際、この試合ではこれで塁に出たランナーが決勝点のホームインでしたから。
 そういったことを防ぐためにも、ボールに太陽が重なる危険性があるかどうか確認する必要があります。
 球場によっても全く違ってくるので、守備につく時は都度太陽の位置を見ておいた方がいいでしょう」
「……て言うかー、サングラスすればいいんじゃないのー?」
「はい。100%ではありませんが、確実にボールを見失う危険性は減ります」
「ただ、アマチュアだと事前の申請が必要だったり、特別な理由が必要だったりするからな。指導者が許さなかったり、なんてこともある」

 少なくともこの世界ではそうで、前世の俺が生きていた時もそうだった。

「今回はその辺の啓蒙もかねた動画にしようと思ってる」

 紫外線は白内障などのリスクを高める。
 ボールを見失うリスクを下げるという理由以外でも、サングラスは有用だ。
 だから、もっと気軽にサングラスをつけられるようになるべきだと伝えたい。
 勿論、スポーツサングラスの話だけども。

 いずれにしても、たまにはそういう内容の動画もいいだろう。
 目先を変えるのも大事だ。

「と言う訳で、今日はフライと太陽が重なって落球してしまう状況を再現してみたいと思います」
「ついでに主要な球場で時間帯毎に影響が出やすい守備位置を分析したい、かな」

 本日のお題を告げた俺に続き、陸玖ちゃん先輩が自分のやりたいことを告げる。

「うん、いいんじゃなかなー」

 対して泉南さんが楽しそうに同意し、他の面々も頷く。
 同意が得られたので、早速俺達は野球道具一式を持ってグラウンドに向かった。
 既に梅雨の後遺症もなく、きちんと整備された状態になっている。
 ちなみに6月中にイレギュラーバウンドの動画も撮り、プロ野球珍プレー愛好会のチャンネルで公開している。
 尚、その動画から4人組がナレーションを担当するようになっている。
 さすがに顔は出さないようにしているけれども。

「じゃあ、まず昇二。カメラとサングラスつけて」
「分かった」
「今の太陽の高さだと……立ち位置は――」
「えっと、そこで打って、あそこで捕る感じだね」
「陸玖ちゃん先輩、ありがとうございます。だってさ、昇二」
「了解」

 陸玖ちゃん先輩に指示された位置に立ち、角度は浅めにフライを何度か打つ。
 昇二は普通にキャッチする。
 それだけだとサングラスのおかげかは分からない。

「どうだ?」
「うん。サングラスがなかったら捕れてないかも。ちょっと危なかった」
「そっか。じゃあ、いい映像が撮れてるか見てみよう」

 ノートパソコンに動画を落として確認してみる。
 打球を目で追って顔を上げた瞬間、太陽の光でボールが完全に隠れる。
 うん。悪くなさそうだ。

 そうして今日はいくつかの時間帯に分けて撮影しつつ、それ以外は普通に練習したり、部室で涼んでまったりしたり。
 夏休みの1日はそうして過ぎていった。
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