88 / 318
第2章 雄飛の青少年期編
081 サングラスをかけよう
しおりを挟む
7月下旬。梅雨も明けてしばらく経ったある真夏日。
学校は既に夏休みに突入している。
だが、俺達は学校の部室棟のミーティングルームにいた。
プロ野球珍プレー愛好会の夏季休暇中の活動として集まったのだ。
夏休み中の野球部の活動実績作りのために、3同好会持ち回りで行っている。
活動は平日のみで、基本的な割り振りは次の通り。
月、火、水の3日間がアマチュア野球愛好会。
木曜日がプロ野球個人成績同好会。
金曜日がプロ野球珍プレー愛好会だ。
アマチュア野球同好会は最も活発に活動しており、日本各地のアマチュア野球の取材に行ったりするため、日数が多い。
遠征や合宿、練習試合のカムフラージュとしても利用されているようだ。
勿論、自主的に活動することは何の問題もない。
さすがに野球の道具を使うともなると、虻川先生がアマチュア野球同好会に同行していない時に限られるけれども。
アマチュア野球同好会は大体火曜日に遠征に出かけることが多いようだ。
場合によっては泊まりがけになって前後もいないことがある。
ちなみに本日は金曜日。虻川先生は俺達の様子を眺めている。
前に言っていた通り指導はしてくれないが、道具を使った練習は可能だ。
「それで今日は何をするのー?」
全員が揃ったところで泉南さんが手を挙げて尋ねる。
「陸玖ちゃん先輩」
「う、うん。えっと……まず、この動画を見て下さい」
この場にいる皆には大分慣れたのだろう。
陸玖ちゃん先輩は以前のようにオロオロせずに話し始める。
それと同時にプロジェクタースクリーンに映像が映し出される。
やや古いプロ野球の試合。
デイゲームの屋外球場。
バッターが高めの球を打ち、高々とフライが上がる。
順当に行けばショートの内野フライ。
プロなら普通に捕ることができるはず。
しかし――。
「あ、何か変な動きしてるー」
捕球体勢に入ろうとした選手が手をばたつかせてキョロキョロし始める。
その直後、ボールは彼の斜め後ろに落下してしまった。
慌ててレフトが捕球するが、その間にバッターランナーは2塁に到達している。
「何が起きたんですか?」
仁科さんが首を傾げて問う。
画像だけ見ると、突如としてショートが奇行に走ったようにしか見えない。
「これはフライを見上げた時に丁度太陽と重なってしまい、ボールを見失ったことによるものです。
最初、記録はエラーとなりましたが、太陽光の影響が認められたことと、ショートが全くボールに触れることなく落下したこともあり、ヒットに訂正されました」
一気に話し切り、一息つく陸玖ちゃん先輩。
顔見知りとなったからか、質問にも普通に対応できるようになった。
質疑応答自体にも慣れてきたかは、新入部員が来ないと分からない。
まあ、今はそれよりも動画についてだ。
「あー、私も体育で太陽の光が眩しくてボールが見えなくなった時があるよ」
「右に同じー」
あるあるという反応を示す佳藤さんと諏訪北さん。
しかし、それはあくまでも体育での試合の中でのこと。
あるいは、キャッチボールでフライっぽく投げた時の話だろう。
公式戦とは全く違う状況だ。
重要な場面で発生したら、当人の責任ではなくともトラウマになりかねない。
「1点を争う白熱した攻防の中では死活問題です。実際、この試合ではこれで塁に出たランナーが決勝点のホームインでしたから。
そういったことを防ぐためにも、ボールに太陽が重なる危険性があるかどうか確認する必要があります。
球場によっても全く違ってくるので、守備につく時は都度太陽の位置を見ておいた方がいいでしょう」
「……て言うかー、サングラスすればいいんじゃないのー?」
「はい。100%ではありませんが、確実にボールを見失う危険性は減ります」
「ただ、アマチュアだと事前の申請が必要だったり、特別な理由が必要だったりするからな。指導者が許さなかったり、なんてこともある」
少なくともこの世界ではそうで、前世の俺が生きていた時もそうだった。
「今回はその辺の啓蒙もかねた動画にしようと思ってる」
紫外線は白内障などのリスクを高める。
ボールを見失うリスクを下げるという理由以外でも、サングラスは有用だ。
だから、もっと気軽にサングラスをつけられるようになるべきだと伝えたい。
勿論、スポーツサングラスの話だけども。
いずれにしても、たまにはそういう内容の動画もいいだろう。
目先を変えるのも大事だ。
「と言う訳で、今日はフライと太陽が重なって落球してしまう状況を再現してみたいと思います」
「ついでに主要な球場で時間帯毎に影響が出やすい守備位置を分析したい、かな」
本日のお題を告げた俺に続き、陸玖ちゃん先輩が自分のやりたいことを告げる。
「うん、いいんじゃなかなー」
対して泉南さんが楽しそうに同意し、他の面々も頷く。
同意が得られたので、早速俺達は野球道具一式を持ってグラウンドに向かった。
既に梅雨の後遺症もなく、きちんと整備された状態になっている。
ちなみに6月中にイレギュラーバウンドの動画も撮り、プロ野球珍プレー愛好会のチャンネルで公開している。
尚、その動画から4人組がナレーションを担当するようになっている。
さすがに顔は出さないようにしているけれども。
「じゃあ、まず昇二。カメラとサングラスつけて」
「分かった」
「今の太陽の高さだと……立ち位置は――」
「えっと、そこで打って、あそこで捕る感じだね」
「陸玖ちゃん先輩、ありがとうございます。だってさ、昇二」
「了解」
陸玖ちゃん先輩に指示された位置に立ち、角度は浅めにフライを何度か打つ。
昇二は普通にキャッチする。
それだけだとサングラスのおかげかは分からない。
「どうだ?」
「うん。サングラスがなかったら捕れてないかも。ちょっと危なかった」
「そっか。じゃあ、いい映像が撮れてるか見てみよう」
ノートパソコンに動画を落として確認してみる。
打球を目で追って顔を上げた瞬間、太陽の光でボールが完全に隠れる。
うん。悪くなさそうだ。
そうして今日はいくつかの時間帯に分けて撮影しつつ、それ以外は普通に練習したり、部室で涼んでまったりしたり。
夏休みの1日はそうして過ぎていった。
学校は既に夏休みに突入している。
だが、俺達は学校の部室棟のミーティングルームにいた。
プロ野球珍プレー愛好会の夏季休暇中の活動として集まったのだ。
夏休み中の野球部の活動実績作りのために、3同好会持ち回りで行っている。
活動は平日のみで、基本的な割り振りは次の通り。
月、火、水の3日間がアマチュア野球愛好会。
木曜日がプロ野球個人成績同好会。
金曜日がプロ野球珍プレー愛好会だ。
アマチュア野球同好会は最も活発に活動しており、日本各地のアマチュア野球の取材に行ったりするため、日数が多い。
遠征や合宿、練習試合のカムフラージュとしても利用されているようだ。
勿論、自主的に活動することは何の問題もない。
さすがに野球の道具を使うともなると、虻川先生がアマチュア野球同好会に同行していない時に限られるけれども。
アマチュア野球同好会は大体火曜日に遠征に出かけることが多いようだ。
場合によっては泊まりがけになって前後もいないことがある。
ちなみに本日は金曜日。虻川先生は俺達の様子を眺めている。
前に言っていた通り指導はしてくれないが、道具を使った練習は可能だ。
「それで今日は何をするのー?」
全員が揃ったところで泉南さんが手を挙げて尋ねる。
「陸玖ちゃん先輩」
「う、うん。えっと……まず、この動画を見て下さい」
この場にいる皆には大分慣れたのだろう。
陸玖ちゃん先輩は以前のようにオロオロせずに話し始める。
それと同時にプロジェクタースクリーンに映像が映し出される。
やや古いプロ野球の試合。
デイゲームの屋外球場。
バッターが高めの球を打ち、高々とフライが上がる。
順当に行けばショートの内野フライ。
プロなら普通に捕ることができるはず。
しかし――。
「あ、何か変な動きしてるー」
捕球体勢に入ろうとした選手が手をばたつかせてキョロキョロし始める。
その直後、ボールは彼の斜め後ろに落下してしまった。
慌ててレフトが捕球するが、その間にバッターランナーは2塁に到達している。
「何が起きたんですか?」
仁科さんが首を傾げて問う。
画像だけ見ると、突如としてショートが奇行に走ったようにしか見えない。
「これはフライを見上げた時に丁度太陽と重なってしまい、ボールを見失ったことによるものです。
最初、記録はエラーとなりましたが、太陽光の影響が認められたことと、ショートが全くボールに触れることなく落下したこともあり、ヒットに訂正されました」
一気に話し切り、一息つく陸玖ちゃん先輩。
顔見知りとなったからか、質問にも普通に対応できるようになった。
質疑応答自体にも慣れてきたかは、新入部員が来ないと分からない。
まあ、今はそれよりも動画についてだ。
「あー、私も体育で太陽の光が眩しくてボールが見えなくなった時があるよ」
「右に同じー」
あるあるという反応を示す佳藤さんと諏訪北さん。
しかし、それはあくまでも体育での試合の中でのこと。
あるいは、キャッチボールでフライっぽく投げた時の話だろう。
公式戦とは全く違う状況だ。
重要な場面で発生したら、当人の責任ではなくともトラウマになりかねない。
「1点を争う白熱した攻防の中では死活問題です。実際、この試合ではこれで塁に出たランナーが決勝点のホームインでしたから。
そういったことを防ぐためにも、ボールに太陽が重なる危険性があるかどうか確認する必要があります。
球場によっても全く違ってくるので、守備につく時は都度太陽の位置を見ておいた方がいいでしょう」
「……て言うかー、サングラスすればいいんじゃないのー?」
「はい。100%ではありませんが、確実にボールを見失う危険性は減ります」
「ただ、アマチュアだと事前の申請が必要だったり、特別な理由が必要だったりするからな。指導者が許さなかったり、なんてこともある」
少なくともこの世界ではそうで、前世の俺が生きていた時もそうだった。
「今回はその辺の啓蒙もかねた動画にしようと思ってる」
紫外線は白内障などのリスクを高める。
ボールを見失うリスクを下げるという理由以外でも、サングラスは有用だ。
だから、もっと気軽にサングラスをつけられるようになるべきだと伝えたい。
勿論、スポーツサングラスの話だけども。
いずれにしても、たまにはそういう内容の動画もいいだろう。
目先を変えるのも大事だ。
「と言う訳で、今日はフライと太陽が重なって落球してしまう状況を再現してみたいと思います」
「ついでに主要な球場で時間帯毎に影響が出やすい守備位置を分析したい、かな」
本日のお題を告げた俺に続き、陸玖ちゃん先輩が自分のやりたいことを告げる。
「うん、いいんじゃなかなー」
対して泉南さんが楽しそうに同意し、他の面々も頷く。
同意が得られたので、早速俺達は野球道具一式を持ってグラウンドに向かった。
既に梅雨の後遺症もなく、きちんと整備された状態になっている。
ちなみに6月中にイレギュラーバウンドの動画も撮り、プロ野球珍プレー愛好会のチャンネルで公開している。
尚、その動画から4人組がナレーションを担当するようになっている。
さすがに顔は出さないようにしているけれども。
「じゃあ、まず昇二。カメラとサングラスつけて」
「分かった」
「今の太陽の高さだと……立ち位置は――」
「えっと、そこで打って、あそこで捕る感じだね」
「陸玖ちゃん先輩、ありがとうございます。だってさ、昇二」
「了解」
陸玖ちゃん先輩に指示された位置に立ち、角度は浅めにフライを何度か打つ。
昇二は普通にキャッチする。
それだけだとサングラスのおかげかは分からない。
「どうだ?」
「うん。サングラスがなかったら捕れてないかも。ちょっと危なかった」
「そっか。じゃあ、いい映像が撮れてるか見てみよう」
ノートパソコンに動画を落として確認してみる。
打球を目で追って顔を上げた瞬間、太陽の光でボールが完全に隠れる。
うん。悪くなさそうだ。
そうして今日はいくつかの時間帯に分けて撮影しつつ、それ以外は普通に練習したり、部室で涼んでまったりしたり。
夏休みの1日はそうして過ぎていった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる