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第2章 雄飛の青少年期編
閑話05 割れ鍋に綴じ蓋(美海ちゃん目線)
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野球大会から数日後の休み時間。
私は4人組が集まってる席に近づいて、彼女達に声をかけた。
「茜が疎まれてるって話、あれから何か変化があった?」
「あー、あれー? 多分ー、もう大丈夫だと思うよー」
諏訪北さんが間延びした声で答える。
だったら聞きに来る前に教えて欲しかったところだけど、一先ず安心する。
秀治郎君があれだけやって逆効果だったりしたら目も当てられなかった。
「頭のおかしいカップルという方向に振り切れてしまいましたけど」
「…………まあ、そこは秀治郎君の狙い通りだから別にいいわ」
全ては茜に悪感情が向かないようにするため。
とは言え、あそこまでしてしまう彼には呆れてしまうけど……。
同時に、それこそが秀治郎君だという気持ちもなくはない。
正直、本当に浮世離れしてるのは茜よりも彼の方だと感じることもあるし。
初めて会った頃は、何かちょっと違う気がする、ぐらいの印象だった。
けれど、それなりに色んな人を見てきた今になって改めて彼の行動を振り返ってみると、明らかに常識外れだったと分かる。
多分、彼には他の人には見えてないものが見えてるんだと思う。
それが何かは、具体的には分からないけれども。
妙に惹きつけられるものがある。
いつかとんでもないものを見せてくれる。そんな気がしてしまう。
だからこそ、私もこの中学校までついてきてしまったのだ。
中高一貫の公立校。
家族からすると賢い選択をしてくれたと思われてるだろうけど。
秀治郎君に会っていなければ、別の道を歩んでいたに違いない。
「それにしても鈴木さん、ヤバいねー。あんなの捕れるなんてー」
泉南さんが軽い口調で言う。
声を聴く限り、あの狂気の練習にドン引きしてるような雰囲気はない。
どちらかと言うと、いや、むしろかなり好意的に見える。
クラスメイトの中でも珍しい反応だ。
「信頼のなせる業というものでしょうか」
仁科さんも同様。
彼女はアレが成り立つ理屈の方に興味津々といった様子。
「いやあ、愛だよ愛。あれこそ愛の力」
佳藤さんは面白がってる表情ではあるけれど、嘲笑ってる感じじゃない。
好感が声色から滲み出ている。
「愛があってもー、普通の人には無理ー、だよー」
諏訪北さんは……今一分からない。
とは言え、少なくとも悪い感情はなさそうだ。
「ま、いわゆる『特別な訓練を受けてます。真似しないで下さい』って奴ね」
よく一緒に練習している私や昇二君でも、さすがにアレは無理だ。
1.5倍ぐらいの距離ならいけると思うけど。
物理的に捕れる範囲に打ってくれさえすれば。
あの距離、あのサイクルでのノックだと、それに特化したトレーニングを積んだとしても一生できるようになる気がしない。
と言うか、茜も秀治郎君がノッカーじゃないと無理な気がする。
双子のシンクロニシティとか、そういう類のオカルトの範疇に入りそうだ。
「野球の技術ってより、ほとんど曲芸みたいなものよ。アレは」
実際の試合で役に立つかと言うと……まあ、バント阻止のために突っ込んだ時にバッターがヒッティングに切り替えてきた場合の備えにはなるかもだけど。
それでも、あんな風に連続して打つ意味は皆無だ。
見世物、パフォーマンス以外の何ものでもない。
ナイフ投げとか、刃物を使ったジャグリングとかに近いと思う。
あの打球速度の硬球はほとんど凶器だし。
「アレ、結構動画映えしそうだよねー」
「お願いしたらー、将来私達のチャンネルでやってくれるかなー?」
それを、実際に見世物として使えないか考え始める彼女達。
嬉々としてそんなことを言い出す辺り、割とこの子達もぶっ飛んだ感性の持ち主なのかもしれない。
茜なら大丈夫と頭では分かってる私でも、見ていてハラハラするのに。
類は友を呼ぶ、という奴だろうか。
改めて、プロ野球珍プレー愛好会の面子を頭の中で思い描いてみる。
……うん。まともなのは私ぐらいだ。
「ノックを受ける側が鈴木さんだと、少し炎上の危険性もありますが」
「全部捕れるならー、単なるスゴ技動画だと思うけどー」
まあ、何年後の話になるかは知らないけど、茜は割と小柄で童顔なままだと思う。
そうなると、いたいけな女の子を滅多打ちにする図が世界に大公開だ。
たとえ捕球できていても今回同様ドン引きされて、批判が来るかもしれない。
「けど、私達が私達のチャンネルを作る頃には結婚してんじゃない? あの2人」
「その辺を強調すれば避けられるかなー?」
「そこんとこ、どうなの? 浜中さん」
「いや、どうって……」
「当然、結婚する。18歳になったらすぐにでも」
「あ、茜!?」
一瞬返答に困っていると、いつの間にか隣に来ていた茜が代わりに答えた。
と思ったら、すぐ秀治郎君のところに戻っていった。
何も考えていないような顔をして、こちらに聞き耳を立てていたようだ。
で、看過できない質問に反応したってところかしら。
「鈴木さんって、ホントに野村君のことが好きなんだねー」
「野村君も当たり前に受け入れてる感じですし」
秀治郎君のところに戻った茜は、同じ無表情でも少し違う顔で彼と話し始める。
違いは目だ。
秀治郎君を見る茜の目は、家族に向ける信頼感で満ちている。
対する秀治郎君も茜の様子に苦笑いしながらも、その表情はこの上なく優しい。
愛情が滲み出ている。
相当エキセントリックな性格の茜にとっては、秀治郎君は唯一無二の相手と言っていいのかもしれない。
「割れ鍋に綴じ蓋ー、って奴だねー」
「……ええ。ホント、お似合いだわ」
諏訪北さんの評価に私は頷いて同意し、小さく呟いたのだった。
私は4人組が集まってる席に近づいて、彼女達に声をかけた。
「茜が疎まれてるって話、あれから何か変化があった?」
「あー、あれー? 多分ー、もう大丈夫だと思うよー」
諏訪北さんが間延びした声で答える。
だったら聞きに来る前に教えて欲しかったところだけど、一先ず安心する。
秀治郎君があれだけやって逆効果だったりしたら目も当てられなかった。
「頭のおかしいカップルという方向に振り切れてしまいましたけど」
「…………まあ、そこは秀治郎君の狙い通りだから別にいいわ」
全ては茜に悪感情が向かないようにするため。
とは言え、あそこまでしてしまう彼には呆れてしまうけど……。
同時に、それこそが秀治郎君だという気持ちもなくはない。
正直、本当に浮世離れしてるのは茜よりも彼の方だと感じることもあるし。
初めて会った頃は、何かちょっと違う気がする、ぐらいの印象だった。
けれど、それなりに色んな人を見てきた今になって改めて彼の行動を振り返ってみると、明らかに常識外れだったと分かる。
多分、彼には他の人には見えてないものが見えてるんだと思う。
それが何かは、具体的には分からないけれども。
妙に惹きつけられるものがある。
いつかとんでもないものを見せてくれる。そんな気がしてしまう。
だからこそ、私もこの中学校までついてきてしまったのだ。
中高一貫の公立校。
家族からすると賢い選択をしてくれたと思われてるだろうけど。
秀治郎君に会っていなければ、別の道を歩んでいたに違いない。
「それにしても鈴木さん、ヤバいねー。あんなの捕れるなんてー」
泉南さんが軽い口調で言う。
声を聴く限り、あの狂気の練習にドン引きしてるような雰囲気はない。
どちらかと言うと、いや、むしろかなり好意的に見える。
クラスメイトの中でも珍しい反応だ。
「信頼のなせる業というものでしょうか」
仁科さんも同様。
彼女はアレが成り立つ理屈の方に興味津々といった様子。
「いやあ、愛だよ愛。あれこそ愛の力」
佳藤さんは面白がってる表情ではあるけれど、嘲笑ってる感じじゃない。
好感が声色から滲み出ている。
「愛があってもー、普通の人には無理ー、だよー」
諏訪北さんは……今一分からない。
とは言え、少なくとも悪い感情はなさそうだ。
「ま、いわゆる『特別な訓練を受けてます。真似しないで下さい』って奴ね」
よく一緒に練習している私や昇二君でも、さすがにアレは無理だ。
1.5倍ぐらいの距離ならいけると思うけど。
物理的に捕れる範囲に打ってくれさえすれば。
あの距離、あのサイクルでのノックだと、それに特化したトレーニングを積んだとしても一生できるようになる気がしない。
と言うか、茜も秀治郎君がノッカーじゃないと無理な気がする。
双子のシンクロニシティとか、そういう類のオカルトの範疇に入りそうだ。
「野球の技術ってより、ほとんど曲芸みたいなものよ。アレは」
実際の試合で役に立つかと言うと……まあ、バント阻止のために突っ込んだ時にバッターがヒッティングに切り替えてきた場合の備えにはなるかもだけど。
それでも、あんな風に連続して打つ意味は皆無だ。
見世物、パフォーマンス以外の何ものでもない。
ナイフ投げとか、刃物を使ったジャグリングとかに近いと思う。
あの打球速度の硬球はほとんど凶器だし。
「アレ、結構動画映えしそうだよねー」
「お願いしたらー、将来私達のチャンネルでやってくれるかなー?」
それを、実際に見世物として使えないか考え始める彼女達。
嬉々としてそんなことを言い出す辺り、割とこの子達もぶっ飛んだ感性の持ち主なのかもしれない。
茜なら大丈夫と頭では分かってる私でも、見ていてハラハラするのに。
類は友を呼ぶ、という奴だろうか。
改めて、プロ野球珍プレー愛好会の面子を頭の中で思い描いてみる。
……うん。まともなのは私ぐらいだ。
「ノックを受ける側が鈴木さんだと、少し炎上の危険性もありますが」
「全部捕れるならー、単なるスゴ技動画だと思うけどー」
まあ、何年後の話になるかは知らないけど、茜は割と小柄で童顔なままだと思う。
そうなると、いたいけな女の子を滅多打ちにする図が世界に大公開だ。
たとえ捕球できていても今回同様ドン引きされて、批判が来るかもしれない。
「けど、私達が私達のチャンネルを作る頃には結婚してんじゃない? あの2人」
「その辺を強調すれば避けられるかなー?」
「そこんとこ、どうなの? 浜中さん」
「いや、どうって……」
「当然、結婚する。18歳になったらすぐにでも」
「あ、茜!?」
一瞬返答に困っていると、いつの間にか隣に来ていた茜が代わりに答えた。
と思ったら、すぐ秀治郎君のところに戻っていった。
何も考えていないような顔をして、こちらに聞き耳を立てていたようだ。
で、看過できない質問に反応したってところかしら。
「鈴木さんって、ホントに野村君のことが好きなんだねー」
「野村君も当たり前に受け入れてる感じですし」
秀治郎君のところに戻った茜は、同じ無表情でも少し違う顔で彼と話し始める。
違いは目だ。
秀治郎君を見る茜の目は、家族に向ける信頼感で満ちている。
対する秀治郎君も茜の様子に苦笑いしながらも、その表情はこの上なく優しい。
愛情が滲み出ている。
相当エキセントリックな性格の茜にとっては、秀治郎君は唯一無二の相手と言っていいのかもしれない。
「割れ鍋に綴じ蓋ー、って奴だねー」
「……ええ。ホント、お似合いだわ」
諏訪北さんの評価に私は頷いて同意し、小さく呟いたのだった。
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