75 / 283
第2章 雄飛の青少年期編
070 見学の打診
しおりを挟む
向上冠中学高等学校は進学校なので、下校時刻は割と早い。
文武両道ではなく、完全に勉学の方に重きを置いているからだ。
部活動の時間は平均すると大体1時間半前後。
幽霊部員以外の生徒でも5時頃には各々帰宅の途につく。
ちなみに、俺達の帰りの足は車だ。
「今日は学校、どうだった?」
「…………普通?」
迎えに来た加奈さんの質問に、どこか疑問気味に返すあーちゃん。
昨日も一昨日も同じ答えだったので、加奈さんは苦笑気味だ。
まあ、変化がないのは問題がない証拠とも言える。
あーちゃんが何か変わったことを言い出したら、俺も加奈さんも泡を食って彼女に一体どうしたのかと問い詰めることだろう。
「しゅー君、変なこと考えてる」
【以心伝心】で伝わってしまったのか、ジト目を向けてくるあーちゃん。
尚、普段の表情とほぼ変わらない模様。
「い、いやいや、そんなことないって。それより加奈さん、いつもありがとうございます。送り迎えして貰って」
若干誤魔化し気味に、運転席の加奈さんに日頃の感謝を告げる。
「誤魔化した」
それもあーちゃんにはバレバレな訳だが、感謝の気持ちは本当だ。
向上冠中学高等学校は家から大分遠い。
なので、加奈さんに毎日送迎して貰っている。
行きは一旦家から自転車で鈴木家に向かい、そこから乗っけていって貰う。
帰りは鈴木家の庭に置かせて貰っていた自転車に乗って帰宅する。
平日は日々そんな感じだ。
「いいのよ。将来の息子のためだもの」
気を遣わせないようにするためか、どこか悪戯っぽく言う加奈さん。
改めてそんなことを言われると、さすがに照れ臭い。
「それより、しゅー君分が足りない……」
「はいはい」
車の後部座席で隣からしなだれかかってくるあーちゃんを受けとめる。
バックミラー越しにそれを見て、加奈さんは軽く溜息をついた。
行きと帰りの車の中だけは黙認されている。
学校で過度なスキンシップを取らないように、ここで満足して貰う。
そんな名目だ。
……まあ、教室でも好奇の目で見られる程度には距離は近いけれども。
俺が加奈さんに告げ口しなければセーフ、とでも考えているのだろう。
「すりすり」
そのまま謎の成分を補充しようと頬擦りするあーちゃん。
リアルでそんな台詞を言われることがあるとは、前世では夢にも思わなかった。
しかし、よくフィクションに出てくるその謎の成分。
依存性のある何かだとすれば、むしろ補充すると症状が悪化しそうだけども。
まあ、あーちゃんは保育園からだから、もう死ぬまで治らないかもしれない。
ずっと一緒にいればいい話だけどな。
「ん。すりすり」
同意するように頬擦りしたまま頷くあーちゃん。
以心伝心だ。
「あ、そう言えば、おじさんは今日早いですか」
「え? ええ。多分、定時には上がって帰ってると思うわ」
「よかった。ちょっと話があったので」
「……話?」
加奈さんが少し首を傾げる。
前々から頼もうと思っていたことだ。
部活動はまだ目標の13人に届いてはいないものの、順調過ぎる程に順調だ。
入学してからまだ1ヶ月も経っていないからな。
今のところ、こちらは一先ず問題ないと判断していいだろう。
となると、もう少し先の計画のために色々仕込みをしておきたい。
「おじさんとこのクラブチームの練習を見に行きたくて」
「ああ。そういうことなら、多分問題ないと思うわ」
納得したように言って微笑む加奈さん。
「必要なら、私からもお願いしてあげる」
「ありがとうございます」
将来のため。
と同時に、明彦氏が悩み気味だったので、その解決もできればいい。
「むぅ。もう終わり」
車だと結構早く鈴木家に到着する。
駐車場に明彦氏の車があるので、加奈さんの言う通り帰ってきているようだ。
そう思いながら、車から降りて鈴木家の玄関をくぐる。
車の音で気づいていたのか、明彦氏と暁がエントランスにいた。
「ただいま帰りました」
「……ただいま」
その家の子よりも俺の方が大きな声で挨拶するのもいつもの風景だ。
「おかえり。2人共」
「おにーちゃん、おかえりなさい!」
「暁、わたしは?」
「おねーちゃんも、おかえりなさい!」
「ん」
一旦中に入り、小休憩。
晩御飯はさすがに家で食べるので、後少ししたらお暇する。
その前に、明彦氏にクラブチーム見学の相談をする。
「ああ。問題ないよ。次の日曜日でいいかな?」
「はい。大丈夫です」
「茜はどうする?」
「勿論、わたしも行く。しゅー君が行くのに行かない訳がない」
当たり前だろうと言うように父親にジト目を向けるあーちゃん。
明彦氏は苦笑することしかできない。
まあ、ともかく。
すんなりと許可を出してくれてよかった。
……さて、そろそろいい時間だ。
家に帰るとしよう。
「じゃあ、また明日」
庭に置いておいた古いママチャリに跨り、ヘルメットを被る。
そうして俺はトレーニングを兼ね、全速力で家路についたのだった。
文武両道ではなく、完全に勉学の方に重きを置いているからだ。
部活動の時間は平均すると大体1時間半前後。
幽霊部員以外の生徒でも5時頃には各々帰宅の途につく。
ちなみに、俺達の帰りの足は車だ。
「今日は学校、どうだった?」
「…………普通?」
迎えに来た加奈さんの質問に、どこか疑問気味に返すあーちゃん。
昨日も一昨日も同じ答えだったので、加奈さんは苦笑気味だ。
まあ、変化がないのは問題がない証拠とも言える。
あーちゃんが何か変わったことを言い出したら、俺も加奈さんも泡を食って彼女に一体どうしたのかと問い詰めることだろう。
「しゅー君、変なこと考えてる」
【以心伝心】で伝わってしまったのか、ジト目を向けてくるあーちゃん。
尚、普段の表情とほぼ変わらない模様。
「い、いやいや、そんなことないって。それより加奈さん、いつもありがとうございます。送り迎えして貰って」
若干誤魔化し気味に、運転席の加奈さんに日頃の感謝を告げる。
「誤魔化した」
それもあーちゃんにはバレバレな訳だが、感謝の気持ちは本当だ。
向上冠中学高等学校は家から大分遠い。
なので、加奈さんに毎日送迎して貰っている。
行きは一旦家から自転車で鈴木家に向かい、そこから乗っけていって貰う。
帰りは鈴木家の庭に置かせて貰っていた自転車に乗って帰宅する。
平日は日々そんな感じだ。
「いいのよ。将来の息子のためだもの」
気を遣わせないようにするためか、どこか悪戯っぽく言う加奈さん。
改めてそんなことを言われると、さすがに照れ臭い。
「それより、しゅー君分が足りない……」
「はいはい」
車の後部座席で隣からしなだれかかってくるあーちゃんを受けとめる。
バックミラー越しにそれを見て、加奈さんは軽く溜息をついた。
行きと帰りの車の中だけは黙認されている。
学校で過度なスキンシップを取らないように、ここで満足して貰う。
そんな名目だ。
……まあ、教室でも好奇の目で見られる程度には距離は近いけれども。
俺が加奈さんに告げ口しなければセーフ、とでも考えているのだろう。
「すりすり」
そのまま謎の成分を補充しようと頬擦りするあーちゃん。
リアルでそんな台詞を言われることがあるとは、前世では夢にも思わなかった。
しかし、よくフィクションに出てくるその謎の成分。
依存性のある何かだとすれば、むしろ補充すると症状が悪化しそうだけども。
まあ、あーちゃんは保育園からだから、もう死ぬまで治らないかもしれない。
ずっと一緒にいればいい話だけどな。
「ん。すりすり」
同意するように頬擦りしたまま頷くあーちゃん。
以心伝心だ。
「あ、そう言えば、おじさんは今日早いですか」
「え? ええ。多分、定時には上がって帰ってると思うわ」
「よかった。ちょっと話があったので」
「……話?」
加奈さんが少し首を傾げる。
前々から頼もうと思っていたことだ。
部活動はまだ目標の13人に届いてはいないものの、順調過ぎる程に順調だ。
入学してからまだ1ヶ月も経っていないからな。
今のところ、こちらは一先ず問題ないと判断していいだろう。
となると、もう少し先の計画のために色々仕込みをしておきたい。
「おじさんとこのクラブチームの練習を見に行きたくて」
「ああ。そういうことなら、多分問題ないと思うわ」
納得したように言って微笑む加奈さん。
「必要なら、私からもお願いしてあげる」
「ありがとうございます」
将来のため。
と同時に、明彦氏が悩み気味だったので、その解決もできればいい。
「むぅ。もう終わり」
車だと結構早く鈴木家に到着する。
駐車場に明彦氏の車があるので、加奈さんの言う通り帰ってきているようだ。
そう思いながら、車から降りて鈴木家の玄関をくぐる。
車の音で気づいていたのか、明彦氏と暁がエントランスにいた。
「ただいま帰りました」
「……ただいま」
その家の子よりも俺の方が大きな声で挨拶するのもいつもの風景だ。
「おかえり。2人共」
「おにーちゃん、おかえりなさい!」
「暁、わたしは?」
「おねーちゃんも、おかえりなさい!」
「ん」
一旦中に入り、小休憩。
晩御飯はさすがに家で食べるので、後少ししたらお暇する。
その前に、明彦氏にクラブチーム見学の相談をする。
「ああ。問題ないよ。次の日曜日でいいかな?」
「はい。大丈夫です」
「茜はどうする?」
「勿論、わたしも行く。しゅー君が行くのに行かない訳がない」
当たり前だろうと言うように父親にジト目を向けるあーちゃん。
明彦氏は苦笑することしかできない。
まあ、ともかく。
すんなりと許可を出してくれてよかった。
……さて、そろそろいい時間だ。
家に帰るとしよう。
「じゃあ、また明日」
庭に置いておいた古いママチャリに跨り、ヘルメットを被る。
そうして俺はトレーニングを兼ね、全速力で家路についたのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる