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第2章 雄飛の青少年期編

067 プチバズりの影響?

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「え、ええと、確か諏訪北すわきたさん」
「諏訪北ー、美瓶みかめだよー」

 最初に話しかけてきた、やや小柄な女の子が自己紹介をする。
 彼女は昇二の前の席の子だ。
 あーちゃんの2つ後ろの席でもある。
 のんびりとした話し方が特徴的。
 垂れ目で、顔つきからもおっとりしていそうな印象を受ける。
 ただ、4人の会話を聞いていると、意外とズケズケ言う感じがあった。

泉南せんなんさん」
「はーい、泉南琴羅ことらでーす」

 適当に手を挙げて返事をしつつ、自分の名を告げる泉南さん。
 彼女は昇二の後ろの席の子。
 見るといつも明るく笑っていて、お調子者という印象がある。

佳藤かとうさん」
「佳藤琉子りゅうこ。よろしく!」

 ビシッと敬礼をして言う佳藤さん。
 昇二の右隣りの席の子だ。
 4人の中で一際声が大きく、いかにもな元気っ子という感じ。

仁科にしなさん」
「仁科すずめです。よろしくお願いいたします」

 最後は昇二の左隣りの席の子。
 常に丁寧語。
 そこから受ける印象の通り、礼儀正しく頭を下げてくる。

「それで、アレって言うのは?」
「勿論、あの拡散されてた動画でノックしてた人のこと!」

 言いながら、泉南さんがビシッと俺を指差してくる。

「人を指差すのはー、失礼だよー。無礼千万ー」
「おっとっとー、ごめんごめん」

 諏訪北さんに注意され、調子よく謝りながら手を引っ込める泉南さん。
 やっぱり何かノリが軽いな。

「プロ野球珍プレー愛好会の動画のことなら、そうだけど」
「そうそれ! 無回転の打球を意図的に打てるなんて凄いねー!」
「え、えっと、ありがとう」

 今一意図が分からないが、褒めてくれたのだから感謝しておく。

「あれってホントに編集なしなの? 成功するまで取り直してたんじゃなく?」
「ストップ。琴羅に話をさせると話が進みません」
「休み時間がー、終わっちゃうよー」
「ならアタシが! 野村君、アタシ達もプロ野球珍プレー愛好会に入ろうと思うんだけど、どうすればいいかな!?」
「え」

 代表して尋ねてきた佳藤さんの言葉に一瞬虚をつかれる。
 正直なところ、あの動画の公開を許容した理由の1つとして、プロ野球珍プレー愛好会の学内での知名度を上げることも頭の中にあった。
 勧誘の成功率を高めるために。
 しかし、こうも急に効果が出ると驚かざるを得ない。
 SNSの影響力は想像以上に大きいな。

「あー、虻川先生に野球部の入部届を出して、プロ野球珍プレー愛好会に入るって言えばいいよ。後は部室に来るだけ」
「そっか! ありがと!」

 佳藤さんが笑顔で礼を言うと、4人はまとめて自分の席に戻っていく。
 一気に静けさが戻る。
 まるで嵐が過ぎ去った後の気分だ。

「……凄い圧だったわね」
「ああ、ホントに」

 さすがに異性4人に囲まれてはビビらずにいられない。
 あーちゃん、美海ちゃんと今生では女の子と割と深い関わりがあっても。
 明らかな陽の者っぽい気配にはどうにも気後れしてしまう。
 こればかりは仕方のないことだ。

「あら、茜。先を越されたわね」
「むぅ。ガードされた……」

 そこへあーちゃんがやってきて、不満を訴えるような声を出した。
 いつもは休み時間になるとすぐ傍に来る彼女。
 だが、今回は4人に妨げられて近づいてこられなかったようだ。

 ……あの子達、授業が終わった途端に来たからな。
 物凄い勢いで。
 さすがのあーちゃんも距離の差は覆せなかったようだ。

「しゅー君」

 彼女は何かを求めるように頭を差し出してくる。
【以心伝心】で伝わってきたので、俺は苦笑気味に彼女の頭を軽く撫でた。
 既に休み時間も終わりかけなので、何かを急速チャージしているつもりらしい。

「もう、時間……」

 やがてチャイムが鳴り、彼女は肩を落として自分の席に戻っていった。

「茜は全くもう。困った子だわ」

 やれやれと嘆息する美海ちゃん。
 それから彼女は考え込むようにしながら続ける。

「にしても、男女比が尚更おかしなことになるわね」
「いや、まあ、俺としては数が揃えばどっちでもいいけど」
「それはそうかもだけど……続くのかしらね。あの子達」

 さっきの会話からミーハーな感じを受けたのだろう。
 美海ちゃんは何とも訝しげだ。

「うーん……」

 ちょっと返答に困る。
 俺も確かに野次馬根性的な気配は感じていたから。

 とは言え、きっかけと実際のモチベーションはまた微妙に違うものだ。
 志望動機を聞くまでは、安易に決めつけない方がいいだろう。

 そんなことを考えていると、先生が定刻から少し遅れて教室にやってきた。
 どちらからともなく会話をやめ、前を向く。

 人を増やすのは計画の内。
 とは言え、人が増えれば色々と問題が出てくるものだ。
 急な増員ともなれば尚のこと。
 ちょっと人間関係に注意を向けておいた方がいいかもな。
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