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第2章 雄飛の青少年期編
054 3つの同好会
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山形県立向上冠中学高等学校野球部。
対外的には実在しているし、公式に登録されてもいる団体だ。
それは間違いなく事実で、実際に大会にも出場して国から補助金も貰っている。
ただし、地方大会1回戦コールド負けという成績だが。
もっとも、その実態は一般的な野球部とは程遠い。
と言うのも、3つの同好会が寄り集まって人数を確保しているからだ。
まず1つ目の同好会。
瓶底のような分厚い眼鏡をかけた小柄な男子生徒が壇上に現れる。
彼はクイッと眼鏡を上げながら話し出した。
「私達はプロ野球個人成績同好会です。プロ野球選手の個人成績を、細かいところまで収集、分析を行っています」
プロジェクターを使ってスクリーンに映像が映し出される。
あれは……とあるプロ野球選手の投手成績だな。
オリジナルっぽいアプリの画面に様々な数字が表示されている。
今のところスポーツの速報サイトとかで出てくる程度の情報だが……。
「これはコースごとの被打率です。これとカウントごとの被打率、球種ごとの被打率を組み合わせて分析すると、2ボール1ストライクから投げるスライダーは甘く入り易く、ヒットを打たれ易いというデータが出ます」
いきなりディープな情報が提示される。
いや、これ、手動で調べたのか?
どっからか引っ張ってきたにせよ、こうしてまとめるのは結構大変だぞ?
間違いなく、彼はデータ厨と呼ばれる類の人間だな。
仕事としてやっているなら、スコアラーという職業になるけど……。
世の中は広い。それを趣味としてやる人もいるのだ。
野生のプロって奴だな。
次。
「私達はプロ野球珍プレー愛好会です。プロ野球において極稀に発生する珍しいプレー、あり得ないエラーなどの発生状況を研究しています……」
出てきたのは女子生徒。
取り繕ってはいるが、何だか陰の者のオーラが薄っすら感じられるな。
そう思っていると、スクリーンに動画が流れ出す。
「これはライナー性の当たりをレフトが定位置で取ろうとした時の映像です」
ユニフォームと球場を見るに、やや古いプロ野球の試合映像だ。
画面の中ではレフトが余裕を持ってボールを待ち構えている。
しかし、次の瞬間、慌てたようにグローブを動かした。
打球は何故か彼の脇をすり抜けて、フェンスまで転がっていく。
結果、スリーベース。
「うふふ……」
マイクが女子生徒の笑い声を拾う。
見ると、涎でも垂らしそうなぐらいのだらしない笑顔を浮かべた彼女の姿。
響いた声と視線に気づいたのか、女子生徒は慌てて表情を引き締めた。
「俗に言う空中イレギュラーと呼ばれるものです。打球が無回転で飛び、不規則な軌道になった訳ですね。結果、捕球できず記録はエラー……」
傍から見ている分には笑えるが、当の本人にとっては笑えない奴だな。
フライやライナーは捕って当然感があるから尚のことだ。
「だったのですが、後に球団から書面で記録の訂正を求められ、空中イレギュラーが認められてヒットに修正されたようです」
それはよかった。
バッターは安打数が増えるし、レフトはエラーが消える。
Win-Winだ。
尚、ピッチャーは自責点が増えた模様。
「と、このような珍しいプレー、あり得ないエラーなどを収集して何故そうなったのかを考察するのが私達の主な活動です。興味があれば、是非入部を」
去っていく女子生徒は何だかニヤニヤしている。
本当に珍プレーが好きなのだろう。
そして最後。
「私達はアマチュア野球愛好会です。文字通りアマチュア野球を愛する者の集まりで、各地へ取材に行き、新聞を作成したり、インターネットを通じて発信するといった活動を行っています」
うむ。前の2人に比べると至って普通だった。
これは新聞部の亜種みたいなものだろう。
もしかすると、数合わせのために分離させられたのかもしれない。
この3つの同好会。
公式の部活ではない。
あくまでも全員野球部の部員だ。
野球部員がそれぞれ自主的に好き勝手活動している形になる。
公式試合の時だけ適当にやって負けてくる。
で、補助金の一部を3分割してそれぞれの活動費にしているらしい。
そんなようなことを、最後に顧問のおっさん教師がオブラートに包んで告げる。
以上で部活動紹介は終わり。
隣で聞いていた美海ちゃんは唖然として、しばらく口をポカンと開けていた。
対外的には実在しているし、公式に登録されてもいる団体だ。
それは間違いなく事実で、実際に大会にも出場して国から補助金も貰っている。
ただし、地方大会1回戦コールド負けという成績だが。
もっとも、その実態は一般的な野球部とは程遠い。
と言うのも、3つの同好会が寄り集まって人数を確保しているからだ。
まず1つ目の同好会。
瓶底のような分厚い眼鏡をかけた小柄な男子生徒が壇上に現れる。
彼はクイッと眼鏡を上げながら話し出した。
「私達はプロ野球個人成績同好会です。プロ野球選手の個人成績を、細かいところまで収集、分析を行っています」
プロジェクターを使ってスクリーンに映像が映し出される。
あれは……とあるプロ野球選手の投手成績だな。
オリジナルっぽいアプリの画面に様々な数字が表示されている。
今のところスポーツの速報サイトとかで出てくる程度の情報だが……。
「これはコースごとの被打率です。これとカウントごとの被打率、球種ごとの被打率を組み合わせて分析すると、2ボール1ストライクから投げるスライダーは甘く入り易く、ヒットを打たれ易いというデータが出ます」
いきなりディープな情報が提示される。
いや、これ、手動で調べたのか?
どっからか引っ張ってきたにせよ、こうしてまとめるのは結構大変だぞ?
間違いなく、彼はデータ厨と呼ばれる類の人間だな。
仕事としてやっているなら、スコアラーという職業になるけど……。
世の中は広い。それを趣味としてやる人もいるのだ。
野生のプロって奴だな。
次。
「私達はプロ野球珍プレー愛好会です。プロ野球において極稀に発生する珍しいプレー、あり得ないエラーなどの発生状況を研究しています……」
出てきたのは女子生徒。
取り繕ってはいるが、何だか陰の者のオーラが薄っすら感じられるな。
そう思っていると、スクリーンに動画が流れ出す。
「これはライナー性の当たりをレフトが定位置で取ろうとした時の映像です」
ユニフォームと球場を見るに、やや古いプロ野球の試合映像だ。
画面の中ではレフトが余裕を持ってボールを待ち構えている。
しかし、次の瞬間、慌てたようにグローブを動かした。
打球は何故か彼の脇をすり抜けて、フェンスまで転がっていく。
結果、スリーベース。
「うふふ……」
マイクが女子生徒の笑い声を拾う。
見ると、涎でも垂らしそうなぐらいのだらしない笑顔を浮かべた彼女の姿。
響いた声と視線に気づいたのか、女子生徒は慌てて表情を引き締めた。
「俗に言う空中イレギュラーと呼ばれるものです。打球が無回転で飛び、不規則な軌道になった訳ですね。結果、捕球できず記録はエラー……」
傍から見ている分には笑えるが、当の本人にとっては笑えない奴だな。
フライやライナーは捕って当然感があるから尚のことだ。
「だったのですが、後に球団から書面で記録の訂正を求められ、空中イレギュラーが認められてヒットに修正されたようです」
それはよかった。
バッターは安打数が増えるし、レフトはエラーが消える。
Win-Winだ。
尚、ピッチャーは自責点が増えた模様。
「と、このような珍しいプレー、あり得ないエラーなどを収集して何故そうなったのかを考察するのが私達の主な活動です。興味があれば、是非入部を」
去っていく女子生徒は何だかニヤニヤしている。
本当に珍プレーが好きなのだろう。
そして最後。
「私達はアマチュア野球愛好会です。文字通りアマチュア野球を愛する者の集まりで、各地へ取材に行き、新聞を作成したり、インターネットを通じて発信するといった活動を行っています」
うむ。前の2人に比べると至って普通だった。
これは新聞部の亜種みたいなものだろう。
もしかすると、数合わせのために分離させられたのかもしれない。
この3つの同好会。
公式の部活ではない。
あくまでも全員野球部の部員だ。
野球部員がそれぞれ自主的に好き勝手活動している形になる。
公式試合の時だけ適当にやって負けてくる。
で、補助金の一部を3分割してそれぞれの活動費にしているらしい。
そんなようなことを、最後に顧問のおっさん教師がオブラートに包んで告げる。
以上で部活動紹介は終わり。
隣で聞いていた美海ちゃんは唖然として、しばらく口をポカンと開けていた。
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