第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第1章 雌伏の幼少期編

048 小学校卒業、それぞれの道へ

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 正樹との真剣勝負から数ヶ月後。
 小学校の体育館には卒業式の定番ソング『仰げば尊し』が響いていた。
 明治時代に作られた曲だけに、途中まで同じ歴史のこの世界にも存在している。
 一言一句、メロディに至るまで変わらない。

 今日は小学校の卒業式本番。
 2度目の俺は澄ました顔で歌い、あーちゃんは1度目なのに感慨もなく棒読み。
 彼女はリハーサルの時点からそうだった。
 既に飽きが来ているのが表情からも分かる。

 とは言え、俺達に限らず感極まっているクラスメイトは少ない。
 この小学校の生徒は基本的に同じ学区の中学校に通うからだ。
 例外は中学受験をした俺達4人。
 それと、最終的に東京プレスギガンテスのジュニアユースチームを選んで都内の全寮制中学校に入学することになった正樹。
 この5人だけが全く別の道を行く。
 そのため、割と友達の多かった美海ちゃんが最も泣きそうになっていた。

「改めて、全員受かってよかったな」

 卒業式の後、中学受験組4人集まったところで面々を見回しながら言う。
 俺達が来月から通うことになるのは、山形県立向上冠こうじょうかん中学高等学校。
 結構、偏差値が高い中高一貫の公立校だ。
 初めて前世の記憶を持つ実益を直接受け、俺は楽勝。
 他の3人も【成長タイプ:マニュアル】の反動なのかは分からないが、特に学業に苦しむ様子はなし。
 すんなりと中学受験を突破することができた。

「日本一の野球選手。目指すのよね?」

 受験の意義を確認するように尋ねてくる美海ちゃん。
 先に他の友達に挨拶してきたようで、少し目が赤い。

「勿論。そのために受験したんだ」
「けど、あそこって野球部全然強くないらしいよ?」

 昇二が若干心配そうに言う。
 それでも受験勉強はしっかりこなして合格してくれた。
 正樹との真剣勝負を通じて信頼を回復できたのだろう。
 それでも強豪校ではない進学校だけに、不安は拭い切れない様子だ。
 明彦氏に聞いた限り、野球部は開店休業状態らしいからな。
 気持ちは分からなくもない。

「大丈夫なの?」
「強くないからこそいいんだ。ま、俺に任せろ」

 スポーツ系の学校は当然この世界でも順当に強い。
 トレーニング設備もしっかりしているし、監督やコーチも能力が高い。
 普通に自分だけを鍛えるなら真っ当なチームに行った方がいい。
 それは間違いない。
 しかし――。

「……アメリカを倒すためには、そういうとこからも逸材を発掘しないと」

 最終目標はあくまでもそこ。
 そのために、スポーツとは縁遠い場所で才能を探すのだ。

 欲しいのはやはり【成長タイプ:マニュアル】。
 あるいは【生得スキル】【晩成】や【超晩成】を持つ子。
 彼らはほぼ間違いなく、野球エリート街道は歩めない。
 小学校の段階でふるいにかけられ、運動が苦手な人々の中に埋もれてしまう。

 いい環境で普通に成長していく子は、俺がわざわざ干渉する必要なんてない。
 勝手に育っていってくれるはずだ。
 反面、そうした子には俺の手が不可欠。
 そして何よりも。
【生得スキル】【マニュアル操作】がなければ見つからない才能を開花させていった方が、より打倒アメリカに近づくことができる。
 俺はそう考えていた。

「秀治郎」
「ん? ああ、正樹」

 振り返るとやや疲れた様子の彼の姿。
 答辞やら特別な来賓への対応やらがあり、今教室に戻ってきたようだ。

「俺はこれからすぐに出発するよ」
「そうか。もう行くのか」

 正樹は春休みの内からジュニアユースチームに合流するそうだ。
 スカウトの人が同行してくれるようで、来賓として卒業式に参加していた。
 完全なる特別扱いだな。

「折角だ。最後に1つ、アドバイスを聞いてけ」
「アドバイス?」
「ああ。お前はもうある程度体もできてるし、他の未完成な子に比べるとあんまり成長の実感が持てなくなるかもしれないからな」

 正樹は俺の言葉に真剣に耳を傾け始める。
 あの勝負で完全に鼻を折られ、元の実直さが戻っている。

「何をするにしても考えて動け。勉強しろ。打つために、抑えるために何が必要なのか、常に模索し続けるんだ」

 野球は頭のスポーツだとよく言われる。
 それは駆け引きを行うが打者ごとに、1球ごとに発生するからだろう。
 勿論、圧倒的なフィジカルでぶっちぎられることもなくはない。
 俺達が大会でしたように。
 それでも、頭を使って実力差を覆せる幅はスポーツの中でも大きい方だと思う。
 まあ、いずれにしても――。

「肉体が行き詰まったら、後は頭を鍛えるしかないんだ」
「……よく分からないけど、分かった」

 今はそれでいい。
 これから先、正樹は100%壁にぶち当たる。
【成長タイプ:マニュアル】なのもそうだが、そもそも既にカンスト近いのだ。

 基本的に【早熟】や【超早熟】の選手は現役を長く続けられない。
 早い段階で野球界を去ってしまう。
 子供の頃に見たWBWでピックアップされていた永原和之選手もそうだった。
 あの後、案の定衰えが始まり、再びWBWの舞台に上がることは叶わなかった。
 正樹の場合は【衰え知らず】があるのでそれはないが、能力の上限が若干低い。
 実力が伸びないもどかしさに苦しんだ時、俺の言葉を思い出してくれればいい。

「しゅー君、そろそろ行こ?」
「ああ、行こうか。父さんと母さんも待ってるし」

 あーちゃんに頷き、改めて正樹と向き直る。

「じゃあ……そうだな。甲子園には出場するつもりだから、そこでまた会おう」
「あの学校で……?」
「この学校で全国制覇しただろ?」
「…………だったな。なら、甲子園でまた勝負しよう」
「ああ」

 頷き、それから美海ちゃんと昇二に。

「2人は、まあ、春休みに会うだろうからな」
「そうね」
「うん」
「……じゃあ、またな」

 そうして両親達と合流して校舎の外に出る。

「茜、立派でしたよ。秀治郎君も」

 やはりと言うべきか、加奈さんは卒業式で泣き腫らしていたようだ。
 明彦氏の目元も赤い。
 なので、あーちゃんはずっと虚無顔でしたけどね、とは言わないでおく。
 折角の門出だからな。

「校門で記念撮影をしましょう」

 そう言う母さんは既にカメラを起動させ、父さんに渡している。
 入学式の時を思い出すな。
 これもまた風物詩だ。

「しゅー君」
「うん」

 中学校の制服に身を包んだあーちゃんと手を繋いで並ぶ。
 今はあーちゃんの方がほんの少しだけ背が高いか。
 お互い成長したものだ。
 そうしみじみ思いながら記念撮影を終え、耕穣小学校の校舎に別れを告げる。

 さあ、次のステージに進むとしよう。
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