第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第1章 雌伏の幼少期編

041 名門(?)リトル粉砕①

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 初戦、2回戦と別の小学校のクラブ活動チームを退け、トーナメント3回戦。
 ここから県内の学外野球チームがシードで入ってくる。

「次の相手は楯岡フラッシュスターズです。頑張りましょう」

 すなお先生の言葉に思わず俺は思わずニヤリとした。

「遂に見返すチャンスが来たな」
「……ああ」

 楯岡フラッシュスターズは清原孝則達が所属するチーム。
 だから、正樹も逸る気持ちを抑えているような顔だ。

「やってやる。やってやるさ」

 抽選でこの組み合わせとなったため、まだ正樹には登板させていない。
 と言うか、初戦、2回戦はそもそも瀬川兄弟を出場させなかった。
 守備位置も変更して俺がピッチャー、あーちゃんがキャッチャーでサクッと突破し、正樹の実力は完全に隠している。

 当初は大会が始まるまでのつもりで、体育の授業でもそうしてきた。
 バッティングなんかはわざと三振させている。
 正樹達も今日という日の演出のために積極的ノリノリだった。

 さすがに放課後の練習はガチだったが、偵察は来なかったので特に問題なし。
 体育の授業だけで見るべきものは十分だと思っていたのだろう。
 おかげで、彼らは正樹の今を全く知らない。
 妙に背が伸びただけの木偶の坊。
 未だに侮ったままだ。

「よお。ウドの大木、まだチームに残ってたのか」

 そうして地元の野球場で対峙する。
 6年生のみの大会だからか、3人共スタメンのようだ。

 そう言えば、ユニフォーム姿の彼らと相対するのは初めてだな。
 色使いが割と派手めで、品質がよさそうだ。
 名門、か。
 対するこちらは学校支給の中古だからボロいし、地味な配色だ。

「正樹がピッチャーだなんて、勝負を捨てたのか?」
「自分が恥をかきたくないからって雑魚を出すなんて、酷い奴だな」

 試合直前だからか、アップを前に久々に煽ってくる清原孝則達。

「……っ」

 まだだ。まだ笑うな。
 ……何てな。

 申し訳ないが、笑いをこらえるのに必死になってしまった。
 オチが分かっている身としては正直、彼らが道化にしか見えない。
 滑稽極まりない。

「ビビってるのか?」

 笑かしにかかるのはやめてくれ。

 ……とは言え、だ。
 彼らにもう少し優しさや謙虚さがあれば、むしろ俺達が悪役に近かっただろう。
 俺達も本気でトレーニングを積んできたにせよ、本来この世になかった【マニュアル操作】が介在している。
 普通の【成長タイプ】の子が割を食うのは、少し可哀想でもある。

 しかし、彼らのチームに所属していた頃の瀬川兄弟への対応。
 過去常態化していたそれは、変な演出を考えさせる余地を生んでしまった。
 因果応報なんて大層な話ではないけれど、普段の言動は返ってくるものだ。
 反面教師にして、俺も気をつけなければ。

「「よろしくお願いします!」」

 じゃんけんの結果、こちらが後攻。
 早速、度肝を抜いてやろう。
 学校で軽く投げさせておいたので、投球練習は控え目に。

「プレイボール!」

 人間の審判の号令で試合開始。
 アプリじゃないのは初めてだ。

 1番バッターは左のバッターボックスに入った三木聡。
【成長タイプ︰スピード】で、ステータスも次の通り【Total Agility】が高い。

・三木聡(成長タイプ:スピード) 〇能力詳細 〇戦績
 BC:722 SP:613 TAG:841 TAC:744 GT:777
 PS:140 TV:801 PA:513
 好感度:11/100

 しっかりと練習してきたようで、【Bat Control】と【Swing Power】の数値もいい感じになっている。
 何より出塁を求められるリードオフマン1番打者として申し分ない。
 しかし……。

「まずはここだ」

 サインを出して、ど真ん中に構える。
 正樹は不敵な笑みを浮かべながら頷く。
 要求したのは直球。
 ど真ん中のストレートだ。
 大きく振りかぶった正樹の手からボールが放たれる。

 ――パァンッ!!

 古いキャッチャーミットがいい音を響かせた。
 球場が、一瞬静まり返る。

「は?」

 誰かの間の抜けた声が静寂の中で大きく響く。
 次いで、ざわめきが球場の相手チームのベンチ側に起こる。

「審判」
「ス、ストライクワンッ!」

 コールを忘れた審判が、俺の呼びかけを受けて遅れて告げる。
 俺は当たり前の顔で粛々とボールを返した。
 それを受け取った正樹に次のサイン。
 同じくど真ん中のストレート。
 正樹は振りかぶる。

「ま――」

 待ってくれ、とでも言おうとしたのかもしれない。
 しかし、本当にそうして欲しいのならタイムをかける必要がある。
 それが野球のルールだ。
 混乱の極みにあって、そこまで頭が回らなかったのだろう。
 その間にボールがリリースされる。
 再び小気味いい音と共にミットに収まる。
 見逃し。

「ストライクツーッ!」
「聡! 落ち着け!」
「振らないと当たんないぞ!」

 慌ただしいベンチからの声を受け、三木聡は過剰に目を凝らすように構える。
 速さに目が追いついていないのだろう。
 しかし、この構えでは穴が大きくなってしまう。
 打てるものも打てなくなる。

 完全に自分を見失ってるな。

 俺は返球した後、高めギリギリいっぱいにミットを動かした。
 見逃しても三振。
 この構えから振ったところで――。

「くうぅ……」

 ボールにかすることもなく、バットは空を切る。
 審判の手が上がる。
 空振り。3球三振。1アウト。
 赤子の手を捻るかのようだ。

 小学生レベルの試合で150km/hの球が来たら、たまったものじゃない。
 それもピッチングマシンではない生きた球だ。
 更に、コントロールも申し分ない。
 その上、球場がリトル仕様でマウンドからの距離が若干短い。
 ストレートの体感速度は160km/hを軽く超えているだろう。
 下手をするとプロでも対応できないかもしれない。
 仮に対応できたとしても、隠し持った変化球が牙をむく。

 清原孝則達の前には、そんなプロ級のピッチャーが立ちはだかっている。
 彼らの悪夢のような現実は、まだ始まったばかりだ。
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