第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第1章 雌伏の幼少期編

036 からかいはそのまま受け入れ、彼は脳を破壊される

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 とまあ、小学3年生からの体育野球でも大人げなく封じ込めてあげた結果。
 俺は学外野球チーム所属組からものの見事に嫌われてしまったようだ。
 最たるものは清原孝則。
 幾度かの試合を経て、彼はことあるごとにつっかかってくるようになった。

「野球が少し上手くたって、外のチームに入れなきゃ意味ないのにな」
「シニアやユースのいいチームはもっとずっとお金がかかるんだぜ?」
「特待生なんて、6年生の試合でボロ負けしたらゼッタイ無理だし」
「9人ちゃんと上手い奴がいないと、外のチームに勝てる訳ないからな」

 俺はその度に「うんうん」「そうだね」と受け流し続けた。
 それがまた気に入らない様子で、悪循環になってしまったようだ。

 とは言え、正面衝突する訳にもいかないしなあ。
 彼の意見は割と一般的で多数派のものでもあるし。
 説得力を伴って否定するのは難しい。
 俺自身は実績のない子供だからな。
 一般常識を覆すには、実際にやってみせるしかない。
 まあ、彼に関しては残りの3年間。適当にあしらい続けるしかない、かな。

 そう思っていたのだが――。

「……あいつ、大嫌い」
「え……」

 とある日。
 あーちゃんが俺の隣で本気で憎々しげに吐いた言葉に、清原孝則は大層衝撃を受けたようだった。
 それからしばらく、話しかけてくることもなくなったぐらいだ。
 体育の野球でも、あからさまに調子が悪くなっていた。

 どうやらあーちゃんに仄かな想いを抱いていたらしい。
 そんな雰囲気は微塵も感じなかったけど……。
 いや、もしかすると、それもまた俺につっかかってくるようになった理由の1つだったのかもしれないな。

 今のあーちゃんは保育園で初めて会った時の不健康な感じは全くない。
 健康的に、順当に育った。
 当時のことを言っても、誰も信じないだろうと思うぐらいだ。

 相変わらず表情は乏しい。
 だが、むしろそれが仄かにクールな雰囲気を醸し出している。
 更には、将来加奈さんに似て美人になること間違いなしの端正な顔立ち。
 少し長くなった艶のある黒髪は、野球の時はまとめてポニーテールにしていたりするが、どちらも似合っていて可愛らしい。
 初恋を奪われても仕方がないスペックの小3女子に成長している。
 昔を知っていると、よくぞここまで、と思ってしまうな。

 それから更に数日後。
 野球の調子は戻った様子の清原孝則だったが、今度は黙って睨みつけてくる。
 日々不満を募らせていっている風だった。
 そして――。

「しゅー君、これ、何で?」
「ああ、これね」

 午前中。中休みの時間。
 授業で疑問を覚えたところを聞きに来るあーちゃん。
 知識欲が旺盛……とハッキリ言うことはできない。
 何故なら俺にしか聞いてこないから。
 単に会話の種として利用しているだけのようだ。
 それでも、そのおかげか彼女の成績はいい。
 何にせよ、勉強ができるに越したことはない。いいことだ。

 当たり前の顔でピトッとくっついてきているあーちゃんに少し苦笑しつつ、質問に答えようと口を開く。
 その瞬間。

「いつもいつも女とばっか一緒にいて、男のくせに恥ずかしくねーのか!?」

 清原孝則が久し振りにつっかかってきた。
 今回はいつもと違う方向から来たな。

 子供の交友関係は割とここがターニングポイントの1つ。
 ここで本当に恥ずかしがって女の子から距離を取ると、そのまま関係が希薄になっていってしまう。
 結果、この頃しか異性と遊んだ記憶がない前世の俺のような奴が出てくる訳だ。

 勿論、今生の俺は同じ轍を踏むつもりはない。

「そんなにくっついて、もしかしてつき合ってんじゃねーの?」

 続く台詞に、つい心の中でニヤついてしまう。
 実に子供らしいテンプレなからかいだ。

 ……おっと、いつの間にか教室全体の注目を浴びてしまっているな。
 あーちゃんもこっちを見ている。
 俺の反応を待っている感じだ。
【生得スキル】【以心伝心】が期待を伝えてきているな。

「んー、まあ、あーちゃんとは将来結婚するつもりだけど」

 ならばと、当然のこととして清原孝則に返す。
 彼女の人生に対する責任感と、純粋な好意。
 その合わせ技による確定事項と言っていい。

 そんな1つ以上段階をすっ飛ばした答えに、クラスメイトのほとんどが慄いた。
 教室が一瞬静まり返る。
 あーちゃん1人、とてもとても満足そうだ。

「だ、だったら、キスしてみろよ!」

 お、おう。
 そうきたか。
 引くに引けないって感じだ。
 ……こうなってくると、さすがに痛々しくなってくるな。

「キースッ! キースッ!!」

 若干半泣きで囃し立てる清原孝則。

 そんなになってまで……。
 もうやめとけよ……。
 何だか自傷している子を見ている気分になってきた。

「キースッ! キースッ!!」

 しかし、クラスメイトの一部も同調してしまっている。
 こうなると収拾する手段は1つか。
 まあ、いい機会でもある。
 あーちゃんを見ると、頬を赤らめつつ目を閉じながら若干上を向いて準備万端。
 だから――。

「あーちゃん、好きだよ」

 いつも一緒にいるだけで改めて口にしてはこなかったので、そう囁いてから軽く唇にキスをした。
 一部女子から黄色い声が上がる。
 当のあーちゃんは普段の表情の乏しさが嘘のように満面の笑顔。幸せそうだ。
 後ろの席の美海ちゃんは呆れ顔。
 一方、清原孝則は……。

「あ、あ……」

 呆然としたように呻きながらも何だか顔が妙に赤い。
 ちょっと反応がおかしいな。
 大丈夫か?

「うっ」

 彼はビクリと奇妙に体を震わせると、そのままフラフラと自分の席に戻っていってしまった。

 あ、あれ?
 もしかして、何かヤバい扉を開けてしまったか?

 一瞬、心配する。
 しかし、中休みが終わってすなお先生が来たので、一先ず忘れることにした。
 そのまましばらく忘れ去った。




 これ以後、清原孝則がつっかかってくることは完全になくなった。
 代わりに、俺とあーちゃんがくっついていると何故かチラチラと隠れて見てくるようになった。
 しかも微妙に興奮した様子で。
 それを見てあの妙な反応を思い出し、確信してしまう。
 彼は新たな地平へと到達してしまったのだ、と。

 こうして、俺とあーちゃんは正式にクラス公認(まあ、いつも一緒にいるので元々そんな感じだったが)となり……。
 同時に、1人の性癖を狂わされた少年が誕生してしまったのだった。
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