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第1章 雌伏の幼少期編

028 美海ちゃんの野望

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 出席番号順で2人組。
 学外野球チーム所属組の5人が全員男なので必然的に女子と組む確率が上がる。
 見ると、あーちゃんも女の子と組んでいた。

 ……あーちゃん、ちゃんと手加減できるだろうか。
 スキルによる加算分も含めれば、今のあーちゃんはあの3人よりも大分ステータスが高いからな。
 少しだけ心配だ。

「しゅーじろうくん! まじめにやって!」
「っと、ごめんごめん」

 あーちゃんの意識を向けていると、浜中美海ちゃんに怒られてしまった。
 ボールはこっちにあるからな。俺が悪い。
 下手投げでふんわりと投げ返してやる。

「んっ!!」

 過剰に体を強張らせながらグローブを構える美海ちゃん。
 怖がってる感じじゃない。
 何と言うか、入れ込み過ぎて力が入っている感じだ。

「あ……」

 結果、グローブでボールを弾いて落としてしまう。
 さっきからこの調子だ。

「う~~」

 悔しそうに呻く美海ちゃん。
 別に小学校の体育なんだから、もう少し気軽にやってもいいと思うが……。

「えーっと、美海ちゃん? もっと肩の力を抜いた方がいいよ」
「だめ! ちゃんとやってじょーたつしないと! しょーらいのために!」
「お、おう……」

 凄い勢いで捲くし立てられ、軽く引く。

「えっと、キャッチボールが将来のためになるの?」
「やきゅーがうまくなることが!」

 うーん。
 何か噛み合ってないな。

「プロやきゅーせんしゅのおくさんになるには、やきゅーがすごくうまくないといけないの!」
「え、そうなの?」
「そうなの!」

 ホントかよ。
 一瞬疑うが、この世界のことを思えばあり得る話かもしれない。
 全く同じスペックの異性がいた場合、野球が上手な方が印象がいい。
 それは間違いなくて、その上でかなりのウエイトを占めていそうだ。

「だから、わたしはやきゅーがうまくなりたいの!」

 なら、まず学外の野球チームに入るべきでは?
 とも思うが、俺も別に入ってないしな。
 理由は色々あるが、最たるものは金がかかるから。
 それぞれ家庭には事情があるだろうし、どうしようもないこともある。

 何より【成長タイプ:マニュアル】の子は野球チームに入っても意味がない。
【生得スキル】【マニュアル操作】を持っていない限りは。
 まあ、その事実を認識できるのは俺だけだが。

「だから、まじめにやって!」
「…………分かった」

 必死な様子の美海ちゃんに表情を引き締めて頷く。
 そこまで頑張ろうとしている子供を無視できる程、大人げなくはないつもりだ。
 最初のキャッチボールでペアになったのも何かの縁。
 真面目に考えよう。
 彼女が本気なら、ステータスを操作することも含めて。

「えい!」

 上手投げで無理して投げたせいで、明後日の方向に飛んでいくボール。
 さすがに取ることはできないが、全速力で走っていって戻ってくる。
 で、ふんわりと投げ返す。
 けれど、捕れない。
 美海ちゃんはわたわたしながら足下に転がるボールを拾い上げる。
 そこから彼女が慌ただしく投げてきたボールは俺の頭上を越えていく。
 走って取ってくる。
 その繰り返し。
 他のペアを見ても俺だけ明らかに運動量が多過ぎる。
 ……何だか犬になった気分だ。
 まあ、トレーニングになるからいいけどさ。

「もー、なんで!?」

 何度やってもうまく行かず、美海ちゃんは地団太を踏む。
 ステータス上は最低限のキャッチボールぐらいできるはずなので、完全に気合が空回りしている感じだ。
 こんな精神状態じゃステータスの補正も利く訳がない。
 まずこれをどうにかしないと、ステータスを上げても逆効果だ。
 出力が上がる分、変な動きをして怪我をする危険性が高まりすらする。

 ……これは、体育の授業中だけで改善するのは難しいな。
 まずは自然体で練習に臨めるようにならないと。
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