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第1章 雌伏の幼少期編

027 木偶の坊

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「まず学外の野球チームに入っている子は、左側に集まって下さい。そうじゃない子は右側です」

 どうやら、すなお先生は2人組を作れと言うだけで済ませるタイプの先生じゃなかったらしい。
 いつまでも、そのまま頑張って欲しいものだ。

「しゅーくん」
「ああ、うん」

 しみじみと思っていると、あーちゃんに促されて移動を始める。
 クラスメイトの大部分が右側のようだ。
 多分、左側に行くのはあのステータスが高い3人だけだろう。
 そう思って軽く振り返る。

「おっと?」

 左側には5人集まっていて、少し驚く。
 面子を見て、更にビックリ。
 自己紹介の時に笑われていた双子がそちら側だった。

「せんせー、まさきとしょうじは、こっちじゃないほうがいいとおもいまーす」

 半分にやけたような顔で、清原孝則が言う。
 一番打撃系のステータスが高い子だ。

「どうしてですか?」
「だって、へたくそだからでーす」

 即答か。
 躊躇いが全くない。
 どうも双子をよく知っていて、何か鬱憤が溜まっている風だ。

「チームでも、でくのぼー、ってよばれてるし」
「おにもつだから、うえのクラスにあがれないだろうって、おとながいってたし」

 能力のバランスがいい佐々木蔵人、走力が高い三木聡も似たような感じ。
 瀬川正樹・昇二兄弟は、恐らく彼らと同じ学外チームに入っているのだろう。

 …………いや、あの能力値でか。
 3人の言葉には看過できないレベルのマイナスの感情が乗っているが、ある程度は事実を口にしてはいるのかもしれない。
 双子は【成長タイプ:マニュアル】だから、いつまでも経っても下手なまま成長することができない。
 能力不足から練習で足を引っ張ってしまっていて、チームメイト全てから疎まれている可能性すらある。
 全く上達できなければ早々に見切りをつけてやめるのが大半のところ、それでもしがみついているのだとすれば尚更だ。

 しかし、正直なところ俺の中の2人に対する評価は大幅に上がっていた。
 周りからそうした言葉を吐かれながら、それでもプロ野球選手になりたいと声に出して言うことができる胆力。
 野球に対する執着心。
 それは貴重なストロングポイントだと断言していい。
 俺からすると実に都合のいい人材だ。
 勿論、今後も気持ちが切れない保証はどこにもないけれども。

「……とりあえず、正樹君と昇二君は2人で組んで下さい」

 すなお先生は、2人の実態を見るまでは対応を決めきれないという様子。
 瀬川兄弟は俯き加減で「はい」と応じ、3人から少し離れた。

 実際、中々に難しい問題だ。
 特に野球優先の風潮のある今生の世界では。

 1年生から可能性を狭めてしまうことはないとも思うが……。
 彼らの場合は【成長タイプ:マニュアル】だしな。
 無謀な夢を見続けて破滅した者も多くいるだろう。
【成長タイプ:マニュアル】の存在を経験則的に分かっているとすれば、世間的には諦めさせることが教育的に正しいとなる可能性もある。

 まあ、2人がプロ野球選手になると本気で思い続けることができるなら、すなお先生の悩みは全て杞憂になるけどな。
 俺が干渉するから。

「では、キャッチボールのお手本を見せますので、佐々木君、先生とキャッチボールしてくれますか?」
「はい!」

 直前の話など忘れたように元気よく返事をして、前に出る佐々木蔵人。
 瀬川兄弟が絡まなければ、爽やかなタイプという印象だ。

「キャッチボールは相手が取り易いように、正確に、胸元に投げ込みましょう。さあ、佐々木君」
「はい!」

 佐々木蔵人は、しっかり上手投げで投げる。
 ボールは1年生にしてはいい感じの軌道を描き、すなお先生の胸元に構えられたグローブに届いた。

「初めての人は無理をせず、下からでも正確に投げましょう」

 すなお先生の返球は下手投げから。
 ボールは緩やかに、佐々木蔵人の胸元のグローブに収まる。

 それから何往復か繰り返す。
 すなお先生は上手投げと下手投げを織り交ぜながら投げていた。
 キャッチングも含め、動きに危なげがない。
 こんな世界だ。
 もしかすると、教員免許を取得するに当たって野球関連の実習や試験もあるのかもしれないな。

「では、出席番号順で2人組を作ってキャッチボールを始めましょう」

 ん。出席番号順か。
 それだと、あーちゃんとはできないな。
 俺の相手は……ああ。浜中美海ちゃんか。
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