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第1章 雌伏の幼少期編
018 休日の過ごし方と初グローブ
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今日は休日。
保育園もお休み。
「しゅーくん。ぎゅー」
「はいはい」
それでも俺の隣には、腕に抱き着いてご満悦なあーちゃんの姿があった。
何故かと言えば、彼女の家に遊びに来ているからだ。
保育園と同じように朝預けられ、夕方迎えが来るまであーちゃんと遊ぶ。
家族の用事がない限り、これが最近の俺の休日の過ごし方だった。
ちなみに昼食は毎度ご馳走になっている。
両親には申し訳ないけれども、とてもいいものを食べさせて貰っている。
鈴木家がウチよりも裕福なのもそうだし、あーちゃんの祖父が食品加工会社を経営しているから、というのもあるかもしれない。
借り、と言うか、恩が増えていくばかりだ。
「茜は、本当に秀治郎君が好きなんだなあ」
「ん、好き」
「そうかあ……」
若干複雑そうな男性の声。
それはあーちゃんの父親、鈴木明彦氏のものだ。
もう何度も休日に遊びに来ているので顔見知り。
結構俺も可愛がって貰ってるけれども、それはそれとして複雑な男親心というものがあるらしい。
前世の俺は勿論のこと、娘を持たない父親も経験できない感覚だ。
「すりすり」
「むう……」
俺の腕に頬を擦りつけるあーちゃんに、小さく呻く明彦氏。
あーちゃんからの行動だけに、何とも言いにくいようだ。
それから少し考えるように腕を組む明彦氏。
彼は何か思いついたような顔をすると、俺を見た。
「そうだ。秀治郎君、キャッチボールでもしようか」
「キャッチボール? 僕、グローブ持ってないよ?」
「ああ、それなら貸してあげるから」
そう言うと、明彦氏は奥の部屋から3~5歳児用の青々とした小さめのグローブを持ってきた。
使用済みではなさそうだけど、完全な新品でもなさそうな感じだ。
それを不思議に思っていると。
「子供とキャッチボールするのが夢でね。子供ができたと分かった時に、先走って買ってきた奴なんだ」
少し恥ずかしそうに明彦氏は言う。
「それって、あーちゃんのじゃないの?」
「茜のはまた別に買ったんだ。茜の好きな色の奴をね」
また奥の部屋に行って、夕焼け空のような色のグローブを持ってくる明彦氏。
マダーレッド。茜色か。
見た感じ、特注品っぽいな。
多分、あーちゃんが元気になってから買ってきたのだろう。
「ほら」
明彦氏に青色のグローブを差し出され、頷いて受け取る。
誰も使わないグローブと言うのなら、ありがたく借りよう。
今生で初めてのグローブだ。
「さ、庭に行こう」
明彦氏に促され、あーちゃんと手を繋いでウッドデッキから庭に出る。
鈴木家は庭つきの一軒家。
ちなみにウチは安アパートの1階にある1DK。
圧倒的格差に溜息が出そうだ。
食は全ての源。勿論、スポーツ……野球にとっても。
であるが故に、食品加工業はこの世界の職業カーストでも割と高いレベルにある。
そのおかげか、鈴木家は中流上位から上流下位ぐらいの立ち位置だ。
ただ、この世界だと3部リーグの中堅選手と同等ぐらいになる。
どれだけ野球が優遇されているか分かるだろう。
「茜、離れないとキャッチボールできないぞ」
庭に出てもくっついたままのあーちゃんに困ったように言う明彦氏。
「や」
だが、あーちゃんはよりくっついてくる。
まだ満足してないアピールだ。
「離れないと秀治郎君の格好いいとこ見れないぞ?」
「…………ん」
今度は素直に離れるあーちゃん。
いや、明彦氏。
何だか随分とプレッシャーをかけてくれるな。
……もしかして、わざとか?
保育園もお休み。
「しゅーくん。ぎゅー」
「はいはい」
それでも俺の隣には、腕に抱き着いてご満悦なあーちゃんの姿があった。
何故かと言えば、彼女の家に遊びに来ているからだ。
保育園と同じように朝預けられ、夕方迎えが来るまであーちゃんと遊ぶ。
家族の用事がない限り、これが最近の俺の休日の過ごし方だった。
ちなみに昼食は毎度ご馳走になっている。
両親には申し訳ないけれども、とてもいいものを食べさせて貰っている。
鈴木家がウチよりも裕福なのもそうだし、あーちゃんの祖父が食品加工会社を経営しているから、というのもあるかもしれない。
借り、と言うか、恩が増えていくばかりだ。
「茜は、本当に秀治郎君が好きなんだなあ」
「ん、好き」
「そうかあ……」
若干複雑そうな男性の声。
それはあーちゃんの父親、鈴木明彦氏のものだ。
もう何度も休日に遊びに来ているので顔見知り。
結構俺も可愛がって貰ってるけれども、それはそれとして複雑な男親心というものがあるらしい。
前世の俺は勿論のこと、娘を持たない父親も経験できない感覚だ。
「すりすり」
「むう……」
俺の腕に頬を擦りつけるあーちゃんに、小さく呻く明彦氏。
あーちゃんからの行動だけに、何とも言いにくいようだ。
それから少し考えるように腕を組む明彦氏。
彼は何か思いついたような顔をすると、俺を見た。
「そうだ。秀治郎君、キャッチボールでもしようか」
「キャッチボール? 僕、グローブ持ってないよ?」
「ああ、それなら貸してあげるから」
そう言うと、明彦氏は奥の部屋から3~5歳児用の青々とした小さめのグローブを持ってきた。
使用済みではなさそうだけど、完全な新品でもなさそうな感じだ。
それを不思議に思っていると。
「子供とキャッチボールするのが夢でね。子供ができたと分かった時に、先走って買ってきた奴なんだ」
少し恥ずかしそうに明彦氏は言う。
「それって、あーちゃんのじゃないの?」
「茜のはまた別に買ったんだ。茜の好きな色の奴をね」
また奥の部屋に行って、夕焼け空のような色のグローブを持ってくる明彦氏。
マダーレッド。茜色か。
見た感じ、特注品っぽいな。
多分、あーちゃんが元気になってから買ってきたのだろう。
「ほら」
明彦氏に青色のグローブを差し出され、頷いて受け取る。
誰も使わないグローブと言うのなら、ありがたく借りよう。
今生で初めてのグローブだ。
「さ、庭に行こう」
明彦氏に促され、あーちゃんと手を繋いでウッドデッキから庭に出る。
鈴木家は庭つきの一軒家。
ちなみにウチは安アパートの1階にある1DK。
圧倒的格差に溜息が出そうだ。
食は全ての源。勿論、スポーツ……野球にとっても。
であるが故に、食品加工業はこの世界の職業カーストでも割と高いレベルにある。
そのおかげか、鈴木家は中流上位から上流下位ぐらいの立ち位置だ。
ただ、この世界だと3部リーグの中堅選手と同等ぐらいになる。
どれだけ野球が優遇されているか分かるだろう。
「茜、離れないとキャッチボールできないぞ」
庭に出てもくっついたままのあーちゃんに困ったように言う明彦氏。
「や」
だが、あーちゃんはよりくっついてくる。
まだ満足してないアピールだ。
「離れないと秀治郎君の格好いいとこ見れないぞ?」
「…………ん」
今度は素直に離れるあーちゃん。
いや、明彦氏。
何だか随分とプレッシャーをかけてくれるな。
……もしかして、わざとか?
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