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第1章 雌伏の幼少期編

013 【幸運の置物】

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「大丈夫?」
「え、ええ、もう、大丈夫。……だけど、秀治郎君? 一体、何をしたの?」

 ひとしきり涙を流し、少し落ち着いた加奈さんが尋ねてくる。
 俺は子供っぽくコテンと首を傾げながら「……おまじない?」と答えた。

 ……何だか、元高校生の少年探偵が子供の振りをしてるみたいだな。

「お、おまじないって……」
「この前ね。アニメでやってたんだ。こうすると元気になるんだよ」

 無邪気さを装い、重大な秘密を明かすような口調でズレたことを言う。
 勿論、俺の中では根拠あっての行動だ。
 だが、世間一般では治療方法のない原因不明の奇病。
 大事おおごとにならないように、自然に治った数少ない事例の1つと思われた方がいい。
 簡単そうで、そう簡単にできることじゃないからな。
 俺の力だとバレて患者に殺到されても、対応できる程の余裕はない。

 主な理由は効果対象だ。
 茜ちゃんが多少なり動くことができるようになったのは、俺が取得した【通常スキル】【幸運の置物】のおかげだ。
 元々、ベンチにいるだけで何故かチームが好調になる不可思議な選手を指す言葉だが、このスキルの詳細は次の通り。

【幸運の置物】
『チームメイト、またはバフの対象に選べる【関係者】の【Pitching Speed】を除くステータスを+20し、最高球速が少し出易くなる』

 つまり、バフの対象に選べる【関係者】であれば試合外でも効果を発揮できる。
 この力で茜ちゃんの低い【Total Vitality】を補強し、虚弱状態を改善した訳だ。

 ただ、バフの対象に選ぶことができる【関係者】とは好感度の欄に【☆】がついている者、即ち好感度80以上の相手に限られる。
 茜ちゃんは割とすぐ上がったが、それは同い年で毎日のように顔を合わせて一緒に遊んだからだ。
 もしかすると、初恋的な要素も加わっている可能性もある。
 普通なら、もっともっと時間がかかるはずだ。間違いなく。
 患者1人1人にそんな時間を割くことはできないし、下手をするといくら時間をかけても好感度80以上にできないかもしれない。

 人間関係には、相性というものもあるだろうからな。

 今のところは、野球狂神に課せられた使命を果たした後でうまい方法がないか検討する、ぐらいに留めておくしかないだろう。

「どうして、急に……」

 少し冷静になった加奈さんは疑問を深めている様子。
 彼女は【マニュアル操作】を持っていない。
 何が起こったのか分かりようがない。
 すっとぼけ続ければ、誤魔化せるはずだ。

「しゅーくん」
「うん」

 名前を呼ばれ、その手を取って支える。
 1歩、2歩。歩いて、茜ちゃんはその場に座り込む。
 さっきから彼女は休み休みそれを繰り返している。
 ほんの少しだけ体を動かせるようになり、自発的に歩くという行動を取れることが嬉しくて仕方がないらしい。
 いいことだ。

 そのまま彼女は飽きることなく動き続け、自由遊びの時間も終わり差しかかる。
 ……そろそろだろうか。
 茜ちゃんのステータスを確認してみる。

状態/戦績/▽関係者/プレイヤースコープ
・鈴木茜(成長タイプ:マニュアル) 〇能力詳細 〇戦績
 BC:6 SP:5 TAG:9 TAC:8 GT:13
 PS:20 TV:10 PA:6
 残り経験ポイント:1 好感度:100+/100☆

 一部ツッコミどころがあるが、思惑通り【経験ポイント】が1ポイント増えた。
 即座に【Total Vitality】に注ぎ込む。

状態/戦績/▽関係者/プレイヤースコープ
・鈴木茜(成長タイプ:マニュアル) 〇能力詳細 〇戦績
 BC:6 SP:5 TAG:9 TAC:8 GT:13
 PS:20 TV:11 PA:6
 残り経験ポイント:0 好感度:100+/100☆

 よしよし。
 この調子で少しずつでも【経験ポイント】を稼いで貰い、【Total Vitality】に捧げていこう。
 そうすれば、いずれ茜ちゃんも普通の子供以上に元気になれるはずだ。
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