第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第1章 雌伏の幼少期編

006 野球に狂った世界

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 ちなみに、この世界の技術水準は割と前世に近いところがある。
 普通にスマホがあり、もう少しで全自動運転の車ができるかも、という感じ。
 人類は月には到達したが、その先には探査機を送った程度。
 大陸の形は全く同じで、国の名称や配置もおおよそ同じ。
 使われている言語も多分同じ。(少なくとも日本はそう)
 だが、どうしようもなく別の世界なのは間違いない。
 根底に、野球を至上とする価値観が植えつけられているからだ。

 以下、半分寝ている俺の前での両親の会話。

「秀治郎も、将来は国を背負うような野球選手になれるといいな」
「私もアナタも運動音痴なんですから、過度な期待は駄目ですよ」
「も、勿論分かってるさ。秀治郎が望む道が1番だ」
「そうですよ。一流の野球選手になるのは茨の道なんですから」
「ああ……」
「……勿論、私も本音としてはそうなって欲しい気持ちがありますし、そうでなくともスポーツドクターや審判員辺りを目指して欲しいところですが」

 この短い会話にも滲み出ている。
 野球関連の職業が人気であることが。

 ……いや、人気どころの話じゃないな。
 前世では職に貴賤はないと言われたりすることがあったけど、この世界ではあると断言してしまっていい。
 野球に関連していれば貴く、していなければいやしい。
 他でポリコレが騒がれることがあっても、これに関しては完全ノータッチだ。

 当然ながら、子供に目指して欲しい職業ナンバーワンは野球選手。
 次にスポーツ医学に精通した医者。
 その次はトレーニング理論を研究する学者だ。
 以下、野球関連の仕事が続いていく。
 野球の審判員、代理人、野球道具の職人、球場関係者。
 特に審判員は国家公務員のため、安定志向の親に絞ってアンケートを取れば、こちらが1位となる。
 球場関係者は勤める球場の所在地や規模によって国家公務員だったり、地方公務員だったりするようだ。
 これも人気がある。

「……何にしても。俺達のような苦労だけはして欲しくないな」
「そうですね……」

 しみじみと呟く2人。
 そんな狂った世界観の中で、俺の今生の両親は底辺寄りの労働者だった。
 共働きだ。

 まあ、底辺寄りとは言ってもブラック企業勤めという訳ではない。
 家庭では余り話さないので詳しい内容までは分からないが……。
 父さんは倉庫整理で、夜勤になる場合もあるものの残業はほぼなく、負担は比較的少なめとのこと。
 母さんは事務職だが、今は育休を取って俺の世話をしてくれている。
 福利厚生は一応まともらしい。
 単純に給料が低過ぎるだけで。
 基本的に、収入の多寡は野球との距離に反比例すると言っていいようだ。

「どうか、どうか。いい職業について幸せになってくれ。秀治郎」

 だからなのか、その口調には切実さが宿っている。
 実体験に基づいた願いなのだろう。

 いい大学を出て、いい会社に。
 前世で耳にタコができる程に親から言い聞かされた標語に近いものがある。
 どこの世界も似たようなものらしい。
 ちょっと呆れのような感覚がなくもない。

 とは言え、子の幸せを願う親の気持ちであることは確かだ。
 一度底辺のブラック企業を経ている身だけに、素直に受け入れることができる。

 まあ、折角野球狂神から野球に特化した特別な力を得たのだ。
 両親のためにも、その方向で大いに活用するのが吉だろう。
 と言うか、それぐらいの役得はあってもいいはずだ。

 ……結果としてアレの思惑通りになってそうなのは、何だかな、って気もしないでもないけどな。若干。
 そこは、そうだな。
 アメリカ至上主義的な野球狂神が見ている前でアメリカを打倒し、溜飲を下げるとしよう。
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