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第6章 終末を告げる音と最後のピース
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「意外と当時の資料って残ってないんだな」
三十年以上前、フレギウス王国において母さんを巡って起きた事件の詳細を図書館で調べ始めた俺は、閲覧席に広げた資料を前に小さく呟いた。
魔炎竜やら勇者やら二つ名がついて人々に知られていたり、絵本にまでなっていたりするにもかかわらず、詳しいことが今一分からない。
そのことに首を傾げていると――。
「まあ、ホウゲツにとってもフレギウス王国にとっても、この事件は少し曖昧にしておきたいところがありますからね」
俺の疑問に答えるように、イリュファが影の中から言った。
両親とつき合いが長いだけに、その辺りの事情も聞いているのかもしれない。
と言うか、最初から彼女に尋ねればよかった。
少女の姿で忘れそうになるが、彼女も百年以上の年月を重ねてきた少女化魔物。
事件をリアルタイムで見聞きしていた可能性すらある。
いや、勿論、まともな資料が残っていれば客観性はそちらの方が高いはずだが。
いずれにしても、この場では望めないようだし、イリュファに教えて貰おう。
「曖昧にしておきたいって、どういうことだ?」
「……実のところ、かの国には単独で速やかにファイム様を討てるだけの力がありました。形としては、ジャスター様に手柄を横取りされたようなものです」
「暴走状態の母さんを討てるだけの力?」
「はい。フレギウス王国の国宝、第六位階の祈望之器アスカロン。これは竜殺しの思念が蓄積されたもので、ドラゴン系統の魔物に絶大なる威力を発揮します。この一撃をその身に受けていれば、ファイム様も生きてはいなかったでしょう」
「けど、母さんは生きている。つまり、それは使われなかったってことだよな?」
イリュファの言葉を受けて確認の意図を持って問いかけると、彼女は「はい」と一つ頷いて肯定してから再び口を開いた。
「アスカロンは国王が所有し、国王が振るう剣。それだけに、余程のことがない限りは然るべき手順で要請がなされなければ使用されることはありません。もしファイム様が出現したのが王都であれば、話は違っていたでしょうが……」
そこで一旦区切ったイリュファは、一拍置いてから続ける。
「実際に生まれたのは王都からは離れた地。そこを治める領主は闇雲にファイム様に手を出して暴走させた挙句、多大な被害を出しておきながら、援軍を要請せずにいたのです。何とか自らの手で解決し、己の立場を守ろうとしたのでしょう」
そう言えばフレギウス王国は貴族制だったはずだ。
地方のそこそこ有力な貴族が保身に走って初動が遅れた、というところか。
「失態を隠そうとして更に悪い状況に陥る。あるあるだな」
そこは貴族に限った話ではないが。
「まさしく。結局は被害が広がるばかりで、最終的には周りの領地にも飛び火。もはや領主が沈黙しても国王の耳に情報が伝わるという段階にまで至りました。しかし、国王が動くよりも早く、ふらりとそこに現れたジャスター様が暴走するファイム様を鎮めてホウゲツへと連れ去った訳です。ですが……」
そこでイリュファはどことなく言いにくそうに言葉をとめた。
「ええと、ふらりと?」
逡巡した理由は恐らくその辺りにあるだろうと予想し、俺は続きを促すように問い気味の口調で繰り返した。
対して彼女は、どこか申し訳なさそうな気配を湛えながら再び口を開いた。
「はい。その、当時のジャスター様は生まれながらに所有していた複合発露を利用して世界中を旅しておられたのです。……不法に」
「ええ……」
父さんが母親から、即ち俺の祖母である少女化魔物のラインさんから受け継いだ複合発露〈擬光転移〉。その力は光の速度で移動するというものだ。
だから、まあ、確かに。
その気になれば、入国のあれやこれやを丸っと無視して好き勝手世界を巡ることも不可能ではないけれども……。
「父さんも昔は意外とヤンチャだったんだな……」
今は割と落ち着いているイメージがあるのに。
もしかすると、未だに割と好き勝手している感のある母さんを抑える役割を長いことしている内に、自重するようになったのかもしれない。
何にせよ、その辺り、息子の俺に勝手に伝えるのは如何なものかとイリュファは少し言い渋った訳だ。しかし、説明に必要なので是非もあるまい。
彼女のためにも、父さんの名誉のためにも、胸にしまっておくことにしよう。
「にしても、不法入国か……」
「はい。ホウゲツにとって好ましい事実ではありませんし、フレギウス王国にとってみれば愚かな貴族の保身のために多大な被害を出した事件です。どちらにとっても真実そのままを喧伝できる話ではありません」
「まあ、そうだろうな」
「そこでホウゲツとフレギウス王国の上層部は話し合い……フレギウス王国は最善を尽くしたものの魔炎竜が余りにも強大だったが故に被害が大きくなり、ホウゲツは助力の要請を受けてジャスター様を派遣した、としたのです」
「成程……」
お互いにとってベターな形に真実を捻じ曲げた訳だ。
あるいは、あの絵本の実際とは大きく異なる内容もまた、そうした情報操作の一環なのかもしれない。
「ともあれ、そういった経緯でフレギウス王国では魔炎竜という存在は、ファイム様の実体よりも遥かに大きくなってしまっている訳です」
三十年以上経って尚、フレギウス王国の国民に災厄として記憶される程に、か。
少なくとも被害は間違いなく存在していて、貴族の失態を隠すために一つの国家の力では抑え切れなかった形になってしまっているのだから当然だろう。
「そして、だからこそトリリス様達の言う通り、母さんの娘、俺の妹はフレギウス王国に誕生する可能性が高いって訳だな」
「その通りです」
正直、ここまで聞いた限りでは、妹が生まれた場所はもうフレギウス王国で確定なんじゃないかとも思う。
父さんも母さんも、同じように考えているのではなかろうか。
とは言え、フレギウス王国も広い。
二人は伝手を頼って情報を集めるようなことを言っていたが、妹が派手に暴れでもしなければ特定することは難しいはずだ。
しかし、もし居場所が分かったら、二人は昔以上の無茶をしそうな気がする。
家族に対する愛情の強い母さんが一緒だから尚のこと。
なので、そうならないように可能なら先んじて妹を見つけ出し、二人の手を煩わせずに保護したいところだ。
そんなようなことを考えながら。
俺は暗くなり始めた空を見て、今日のところは職員寮に返ろうと図書館を出た。
そしてホウゲツ学園の敷地の慣れた経路を歩いていく途中。
噂をすれば影が差す、ではないが……。
「主様! 発見致しましてございまする!」
突然、アスカがそう影の中から大きな声を上げた。
「発見したって、もしかして――」
「はい。フレギウス王国の空に、ドラゴンの形をした大きな飛翔物が」
「マジか……」
とんとん拍子の展開に驚く。
まさか聞いたその日の内に見つかるとは。
しかし、よくよく考えれば、そこまで驚くことではないのかもしれない。
手を尽くしても未だに居場所を特定できずにいる、行方不明のアロン兄さんやどこかに潜伏中のテネシス・コンヴェルト達と似たような感覚でいたが……。
今回の対象は、別に意識して隠れようとしている相手ではないのだ。
しかも、空を飛ぶことのできる種族であり、何も考えずに移動しようとすれば普通は第一に飛行を選択することだろう。
であれば、全世界規模の感知から逃れ続けることなどできるはずがない。
時間の問題だったとも言える。
「フレギウス王国で、間違いないんだよな?」
「はい。間違いなく」
俺の確認に、即座に肯定の意を示すアスカ。
やはりトリリス様達の推測通りだったか。
いや、勿論、まだそれが妹と確定した訳ではないが……。
ここまで符合していれば、可能性は極めて高いと判断していいだろう。
そう思考を巡らしていると、アスカが緊迫した口調で続ける。
「どうやら近くにいる小さな……これは人間か少女化魔物と戦闘状態にあるようでありまする。この感じですと、妹御と思われる存在は暴走しておりまするな」
「戦闘? それに暴走だと!?」
「はい。その上で、人間の方が優勢のようでする」
「人数は?」
「ワタシの感知では地上にいる分は分かりませぬが、空に放たれた攻撃の数を考えるとそれなりに。ただ、それらはあくまで牽制で、空にいる妹御へと跳躍を以って肉薄しながら巨大な剣で戦っている一人が最も大きな戦力のようでする」
「巨大な剣……? まさか――」
嫌な予感がして思わず影を見る。
すると、その中のイリュファから予感が正しいことを示す言葉が返ってきた。
「生まれたばかりとは言っても暴走した少女化魔物。それも火竜の系統となれば、第六位階の身体強化でしょう。にもかかわらず、互角どころか押されているとすれば、その剣はアスカロンと見て間違いありません」
「つまり、既にフレギウス王国の国王が動いたってことか」
「王都の近くに生まれていたか、あるいは、過去を教訓として情報共有を徹底していたか。いずれにしても危険な状況です」
竜殺しの概念を持つ第六位階の祈望之器と対峙するドラゴン系統の少女化魔物。
如何に暴走状態とは言え、圧倒的不利な状況だ。
ことは一刻を争う。
焦りが急激に胸の奥に渦巻き出す。
だから俺は、即座に真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉と〈支天神鳥・煌翼〉を使用して空へと浮かび上がった。
「ファイム様にはお伝えしなくてよろしいのですか?」
「やめておこう。万が一があったらいけない」
雷速で空を翔け始めながら、イリュファの問いには即答する。
アスカロンの前に母さんを立たせたくはない。それに――。
「二人を探す時間も惜しい」
すぐに見つけることができれば父さんの方が早いかもしれないが、手間取ってしまったら目も当てられない。
それに、これからやるのはどう言い繕っても不法入国だ。
好ましくはないが、父さんや母さんよりも救世の転生者である俺の方が、色々と理由をつけて横紙破りによって生じる諸々のの影響を少なくできるはずだ。
イリュファの言葉が正しければ、トリリス様達もそのつもりで動いてくれているようだし。後の処理は全て彼女達に任せ、この場は横車を押させて貰おう。
速やかに妹を救い出し、両親が悲しむような事態にならないように。
それは親孝行を今生の目的に掲げた俺がなさねばならないことだ。
「フェリト、頼む」
「ええ。任せて」
だから俺は〈共鳴調律・想歌〉をフェリトと相互使用して循環共鳴状態を作り出し……。
雷光を纏い、今正に危機に陥っている妹の下へと全速力で向かったのだった。
三十年以上前、フレギウス王国において母さんを巡って起きた事件の詳細を図書館で調べ始めた俺は、閲覧席に広げた資料を前に小さく呟いた。
魔炎竜やら勇者やら二つ名がついて人々に知られていたり、絵本にまでなっていたりするにもかかわらず、詳しいことが今一分からない。
そのことに首を傾げていると――。
「まあ、ホウゲツにとってもフレギウス王国にとっても、この事件は少し曖昧にしておきたいところがありますからね」
俺の疑問に答えるように、イリュファが影の中から言った。
両親とつき合いが長いだけに、その辺りの事情も聞いているのかもしれない。
と言うか、最初から彼女に尋ねればよかった。
少女の姿で忘れそうになるが、彼女も百年以上の年月を重ねてきた少女化魔物。
事件をリアルタイムで見聞きしていた可能性すらある。
いや、勿論、まともな資料が残っていれば客観性はそちらの方が高いはずだが。
いずれにしても、この場では望めないようだし、イリュファに教えて貰おう。
「曖昧にしておきたいって、どういうことだ?」
「……実のところ、かの国には単独で速やかにファイム様を討てるだけの力がありました。形としては、ジャスター様に手柄を横取りされたようなものです」
「暴走状態の母さんを討てるだけの力?」
「はい。フレギウス王国の国宝、第六位階の祈望之器アスカロン。これは竜殺しの思念が蓄積されたもので、ドラゴン系統の魔物に絶大なる威力を発揮します。この一撃をその身に受けていれば、ファイム様も生きてはいなかったでしょう」
「けど、母さんは生きている。つまり、それは使われなかったってことだよな?」
イリュファの言葉を受けて確認の意図を持って問いかけると、彼女は「はい」と一つ頷いて肯定してから再び口を開いた。
「アスカロンは国王が所有し、国王が振るう剣。それだけに、余程のことがない限りは然るべき手順で要請がなされなければ使用されることはありません。もしファイム様が出現したのが王都であれば、話は違っていたでしょうが……」
そこで一旦区切ったイリュファは、一拍置いてから続ける。
「実際に生まれたのは王都からは離れた地。そこを治める領主は闇雲にファイム様に手を出して暴走させた挙句、多大な被害を出しておきながら、援軍を要請せずにいたのです。何とか自らの手で解決し、己の立場を守ろうとしたのでしょう」
そう言えばフレギウス王国は貴族制だったはずだ。
地方のそこそこ有力な貴族が保身に走って初動が遅れた、というところか。
「失態を隠そうとして更に悪い状況に陥る。あるあるだな」
そこは貴族に限った話ではないが。
「まさしく。結局は被害が広がるばかりで、最終的には周りの領地にも飛び火。もはや領主が沈黙しても国王の耳に情報が伝わるという段階にまで至りました。しかし、国王が動くよりも早く、ふらりとそこに現れたジャスター様が暴走するファイム様を鎮めてホウゲツへと連れ去った訳です。ですが……」
そこでイリュファはどことなく言いにくそうに言葉をとめた。
「ええと、ふらりと?」
逡巡した理由は恐らくその辺りにあるだろうと予想し、俺は続きを促すように問い気味の口調で繰り返した。
対して彼女は、どこか申し訳なさそうな気配を湛えながら再び口を開いた。
「はい。その、当時のジャスター様は生まれながらに所有していた複合発露を利用して世界中を旅しておられたのです。……不法に」
「ええ……」
父さんが母親から、即ち俺の祖母である少女化魔物のラインさんから受け継いだ複合発露〈擬光転移〉。その力は光の速度で移動するというものだ。
だから、まあ、確かに。
その気になれば、入国のあれやこれやを丸っと無視して好き勝手世界を巡ることも不可能ではないけれども……。
「父さんも昔は意外とヤンチャだったんだな……」
今は割と落ち着いているイメージがあるのに。
もしかすると、未だに割と好き勝手している感のある母さんを抑える役割を長いことしている内に、自重するようになったのかもしれない。
何にせよ、その辺り、息子の俺に勝手に伝えるのは如何なものかとイリュファは少し言い渋った訳だ。しかし、説明に必要なので是非もあるまい。
彼女のためにも、父さんの名誉のためにも、胸にしまっておくことにしよう。
「にしても、不法入国か……」
「はい。ホウゲツにとって好ましい事実ではありませんし、フレギウス王国にとってみれば愚かな貴族の保身のために多大な被害を出した事件です。どちらにとっても真実そのままを喧伝できる話ではありません」
「まあ、そうだろうな」
「そこでホウゲツとフレギウス王国の上層部は話し合い……フレギウス王国は最善を尽くしたものの魔炎竜が余りにも強大だったが故に被害が大きくなり、ホウゲツは助力の要請を受けてジャスター様を派遣した、としたのです」
「成程……」
お互いにとってベターな形に真実を捻じ曲げた訳だ。
あるいは、あの絵本の実際とは大きく異なる内容もまた、そうした情報操作の一環なのかもしれない。
「ともあれ、そういった経緯でフレギウス王国では魔炎竜という存在は、ファイム様の実体よりも遥かに大きくなってしまっている訳です」
三十年以上経って尚、フレギウス王国の国民に災厄として記憶される程に、か。
少なくとも被害は間違いなく存在していて、貴族の失態を隠すために一つの国家の力では抑え切れなかった形になってしまっているのだから当然だろう。
「そして、だからこそトリリス様達の言う通り、母さんの娘、俺の妹はフレギウス王国に誕生する可能性が高いって訳だな」
「その通りです」
正直、ここまで聞いた限りでは、妹が生まれた場所はもうフレギウス王国で確定なんじゃないかとも思う。
父さんも母さんも、同じように考えているのではなかろうか。
とは言え、フレギウス王国も広い。
二人は伝手を頼って情報を集めるようなことを言っていたが、妹が派手に暴れでもしなければ特定することは難しいはずだ。
しかし、もし居場所が分かったら、二人は昔以上の無茶をしそうな気がする。
家族に対する愛情の強い母さんが一緒だから尚のこと。
なので、そうならないように可能なら先んじて妹を見つけ出し、二人の手を煩わせずに保護したいところだ。
そんなようなことを考えながら。
俺は暗くなり始めた空を見て、今日のところは職員寮に返ろうと図書館を出た。
そしてホウゲツ学園の敷地の慣れた経路を歩いていく途中。
噂をすれば影が差す、ではないが……。
「主様! 発見致しましてございまする!」
突然、アスカがそう影の中から大きな声を上げた。
「発見したって、もしかして――」
「はい。フレギウス王国の空に、ドラゴンの形をした大きな飛翔物が」
「マジか……」
とんとん拍子の展開に驚く。
まさか聞いたその日の内に見つかるとは。
しかし、よくよく考えれば、そこまで驚くことではないのかもしれない。
手を尽くしても未だに居場所を特定できずにいる、行方不明のアロン兄さんやどこかに潜伏中のテネシス・コンヴェルト達と似たような感覚でいたが……。
今回の対象は、別に意識して隠れようとしている相手ではないのだ。
しかも、空を飛ぶことのできる種族であり、何も考えずに移動しようとすれば普通は第一に飛行を選択することだろう。
であれば、全世界規模の感知から逃れ続けることなどできるはずがない。
時間の問題だったとも言える。
「フレギウス王国で、間違いないんだよな?」
「はい。間違いなく」
俺の確認に、即座に肯定の意を示すアスカ。
やはりトリリス様達の推測通りだったか。
いや、勿論、まだそれが妹と確定した訳ではないが……。
ここまで符合していれば、可能性は極めて高いと判断していいだろう。
そう思考を巡らしていると、アスカが緊迫した口調で続ける。
「どうやら近くにいる小さな……これは人間か少女化魔物と戦闘状態にあるようでありまする。この感じですと、妹御と思われる存在は暴走しておりまするな」
「戦闘? それに暴走だと!?」
「はい。その上で、人間の方が優勢のようでする」
「人数は?」
「ワタシの感知では地上にいる分は分かりませぬが、空に放たれた攻撃の数を考えるとそれなりに。ただ、それらはあくまで牽制で、空にいる妹御へと跳躍を以って肉薄しながら巨大な剣で戦っている一人が最も大きな戦力のようでする」
「巨大な剣……? まさか――」
嫌な予感がして思わず影を見る。
すると、その中のイリュファから予感が正しいことを示す言葉が返ってきた。
「生まれたばかりとは言っても暴走した少女化魔物。それも火竜の系統となれば、第六位階の身体強化でしょう。にもかかわらず、互角どころか押されているとすれば、その剣はアスカロンと見て間違いありません」
「つまり、既にフレギウス王国の国王が動いたってことか」
「王都の近くに生まれていたか、あるいは、過去を教訓として情報共有を徹底していたか。いずれにしても危険な状況です」
竜殺しの概念を持つ第六位階の祈望之器と対峙するドラゴン系統の少女化魔物。
如何に暴走状態とは言え、圧倒的不利な状況だ。
ことは一刻を争う。
焦りが急激に胸の奥に渦巻き出す。
だから俺は、即座に真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉と〈支天神鳥・煌翼〉を使用して空へと浮かび上がった。
「ファイム様にはお伝えしなくてよろしいのですか?」
「やめておこう。万が一があったらいけない」
雷速で空を翔け始めながら、イリュファの問いには即答する。
アスカロンの前に母さんを立たせたくはない。それに――。
「二人を探す時間も惜しい」
すぐに見つけることができれば父さんの方が早いかもしれないが、手間取ってしまったら目も当てられない。
それに、これからやるのはどう言い繕っても不法入国だ。
好ましくはないが、父さんや母さんよりも救世の転生者である俺の方が、色々と理由をつけて横紙破りによって生じる諸々のの影響を少なくできるはずだ。
イリュファの言葉が正しければ、トリリス様達もそのつもりで動いてくれているようだし。後の処理は全て彼女達に任せ、この場は横車を押させて貰おう。
速やかに妹を救い出し、両親が悲しむような事態にならないように。
それは親孝行を今生の目的に掲げた俺がなさねばならないことだ。
「フェリト、頼む」
「ええ。任せて」
だから俺は〈共鳴調律・想歌〉をフェリトと相互使用して循環共鳴状態を作り出し……。
雷光を纏い、今正に危機に陥っている妹の下へと全速力で向かったのだった。
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