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第2章 人間⇔少女化魔物
133 協力要請
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「つまり、正攻法以外なら方法があると?」
「……うん。まあ、ね」
俺の問いかけに対し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら答えるアコさん。
どうやら、彼女にとっては余程好ましくない手法のようだ。
しかし、彼らをこのままにしておく訳にもいかない。
このような狭苦しく何もない独居房に閉じ込めておくなど、余りに哀れでならない。
アコさんの説明を聞く限り、上位少女化魔物などと言っても、あくまで観測者としての格が上位なだけで基本的な性質は普通の少女化魔物と同じと見て間違いない。
つまり彼らもまた不老なのだろうから、下手をすると永遠に収容されたままという可能性すらある。この施設としても、それは望むところではないだろう。
「アコさん。教えて下さい。どうすれば、この人達を救えるのかを」
やや強めに問うた俺に、少し逡巡したように間を空けてからアコさんが口を開く。
「話は簡単さ。彼らは、拷問紛いの人体実験によって心と体をズタズタにされて暴走してしまった。だったら、それをなかったことにしてしまえばいい」
「なかったことに? ……まさか、時間操作とか?」
前世のファンタジー知識から真っ先に頭に浮かんだものを、ついそのまま口にしてしまう。すると、彼女は虚を突かれたように目を丸くした。
「ははっ。さすがにそんな複合発露は存在しないよ」
少し飛躍し過ぎてしまった俺の発想に対し、アコさんは思わずと言う感じに苦笑を漏らしながらも困ったように言う。
「少なくとも、この五百年。私は見たことがない」
まあ、そりゃそうか。
そうした能力を夢見ることはあっても、実現すると信じ切るには他の能力に比べてハードルが高過ぎる。前世とは異なる力が存在するこの世界にあって尚。
もし時間への干渉が可能だったとしても、時間停止とか時間遅延ぐらいのものだろう。
「だとすると…………もしかして、記憶を?」
アコさんの言葉を前提に改めて考え、最も可能性が高そうなものを問い気味に呟く。
すると、どうやら正解だったらしく、彼女は「その通り」と頷いてから続けた。
「暴走の原因となる記憶を封じさえすれば、一先ず暴走は落ち着く。勿論、それは解決を棚上げにしているだけだけど、日常を過ごす中で徐々に和らいでいくはず」
アコさんは軽めの口調で言いながら、しかし、不本意そうに表情を歪める。
どんな名目を掲げていようとも、相手の心を好き勝手操作することに変わりはない。
良識ある者なら、強い忌避感を抱くのも当然だ。
俺としても深く共感できる。
しかし、正直なところ、この状況では次善の策なのは間違いない。
理想的な補導など彼らの境遇が境遇だけに、不可能としか言いようがないのだから。
催眠療法や暗示などのように考えておくべきだろう。
ただし。
それを実行するには問題点がいくつかある。
勿論、その辺に関しては既に解決できる目処が立っているからこそ、アコさんは俺の言葉を肯定した上で目算を語っているのだろうが……。
念のため、疑問は解消しておくとしよう。
「確か、封印の注連縄の内部には複合発露で干渉できないはずですよね?」
「そうだね」
アコさんは、俺の問いに対して当然と言わんばかりに深く頷く。
それは昨日彼女達が封印措置を行っていた時に、実際に目の当たりにしたことだ。
彼らを氷の中に封じ込めていた真・複合発露〈万有凍結・封緘〉による凍結すら、一瞬の内に解除されてしまった。
しかも、俺個人ではなく、サユキと共に放った最大出力だったにもかかわらず。
それはつまり、封印の注連縄で区切られた領域に対象が閉じ込められたままでは、たとえ第六位階の精神干渉でも届くことはない、ということだ。
さすがにアコさんのような抜け道は、精神干渉系の複合発露にはない。
「かと言って、そこから外に出すと暴走・複合発露発動状態に戻る訳だから――」
「うん。第六位階の身体強化によって、この子達は再び魔物化してしまう。当然、その状態の相手に精神干渉を行うことは、たとえ第六位階でも難しいだろうね」
それも、並の身体強化ではなく、上位少女化魔物の暴走・複合発露だ。
たとえ第六位階の複合発露を用いて干渉したとしても、俺の凍結と同じように数十秒で破られてしまうか、一つも効果がないかのどちらかだろう。
いずれにしても彼らの記憶に手を加える以前の問題だ。
ここまで聞いた限りでは、ハッキリ言って現実的ではないように感じる。
「なら、どうしようって言うんですか? まさか俺に、精神干渉系の複合発露を持つ少女化魔物を探して真性少女契約してこいってことじゃないですよね?」
今のところ、俺を呼び出した理由が明かされていない。
しかし、いくら何でも、ただ単にアコさんが改めて自己紹介をするため、そして上位少女化魔物という存在を見学させるためではないはず。
訪問前に予想していた通り、何か俺にして欲しいことがあるからと考えるのが妥当だ。
なので、今までの話の流れからすると、そういう要求を想像してしまうのだが……。
「さすがにそれはないよ。少なくとも現時点で精神干渉系の複合発露を持つ少女化魔物の補導依頼はないし、そんな希少な存在が都合よく出てくるとは思えないからね」
それはそうだろう。
だが、そうなると尚のことアコさんがどういうつもりなのか分からない。
「手元のカードで何とかしないとね」
俺の困惑を余所に、彼女はそうつけ加えると視線で入口の扉を示しながら歩き出す。
「手元のカード? ……何だ。ちゃんと第六位階の精神干渉の使い手がいるんですね」
そんな彼女の後を追いながら一瞬そう考えてそのまま口にする。
が、それならやはり俺をここに呼び出した意味がない。
恐らく、そういう訳ではないのだろう。
「残念だけど、施設専属の子は少し前にパートナーの方の寿命で一緒に死んでしまってね。今はいないんだ。今回のような事例があるから確保しておきたいんだけどね」
案の定と言うべきか、アコさんは俺の言葉を否定する。
しかし、ちょっとよく分からなくなってきたな。
「じゃあ、手元のカードって……?」
「忘れたかい? ああ、いや、もしかすると罪を犯した者をそういうことに駆り出すって発想がなかったのかもしれないね」
そこまでヒントを出して貰い、ハッとして立ち止まる。
それに合わせて扉に手をかけた彼女も動きを止め、俺を振り返った。
「どうやら理解したようだね。この特別収容施設には一人、精神干渉系の複合発露を持つ少女化魔物が収容されている」
「それって――」
「そう。君の同郷、ライム・クラフィス・ヨスキの真性少女契約相手にして、彼と共に勘違いの下に暴走し、結果として多くの少女化魔物と前途ある若者達を惑わす罪を犯してしまった者。ルシネ・ロリータ・ヨスキさ」
確かに悪魔(シャックス)の少女化魔物と聞く彼女の複合発露は、認識は勿論、記憶をも操作可能な強力な精神干渉だった。しかし……。
「今のルシネさんの力で上位少女化魔物に干渉できるんですか?」
あの時、ライムさんは第六位階の身体強化状態にあったシニッドさんやガイオさんにも容易く干渉して見せたが、あくまであれは真・暴走・複合発露。
一応、真性少女契約は封印の注連縄を以ってしても破棄できないはずだから、今も真・複合発露は使えるはずだが、それでどうにかなるなら俺も凍結に苦労していない。
「そこはそれ。ちゃんと手立てはあるから心配しないで欲しい」
そうした部分も含めた俺の問いに対し、アコさんは胸を張ってそう答えた。
が、すぐに大分困ったような顔へと表情を変化させながら続ける。
「それよりも問題が一つ」
「問題?」
「うん。彼女、私達の協力要請には全然耳を貸してくれなくてね。正直なところ、困り果てているんだよ。だから、イサク。君に彼女の説得をして貰いたいんだ」
そして彼女はそう、俺に本気で助けを求めるような目を向けて乞うたのだった。
「……うん。まあ、ね」
俺の問いかけに対し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら答えるアコさん。
どうやら、彼女にとっては余程好ましくない手法のようだ。
しかし、彼らをこのままにしておく訳にもいかない。
このような狭苦しく何もない独居房に閉じ込めておくなど、余りに哀れでならない。
アコさんの説明を聞く限り、上位少女化魔物などと言っても、あくまで観測者としての格が上位なだけで基本的な性質は普通の少女化魔物と同じと見て間違いない。
つまり彼らもまた不老なのだろうから、下手をすると永遠に収容されたままという可能性すらある。この施設としても、それは望むところではないだろう。
「アコさん。教えて下さい。どうすれば、この人達を救えるのかを」
やや強めに問うた俺に、少し逡巡したように間を空けてからアコさんが口を開く。
「話は簡単さ。彼らは、拷問紛いの人体実験によって心と体をズタズタにされて暴走してしまった。だったら、それをなかったことにしてしまえばいい」
「なかったことに? ……まさか、時間操作とか?」
前世のファンタジー知識から真っ先に頭に浮かんだものを、ついそのまま口にしてしまう。すると、彼女は虚を突かれたように目を丸くした。
「ははっ。さすがにそんな複合発露は存在しないよ」
少し飛躍し過ぎてしまった俺の発想に対し、アコさんは思わずと言う感じに苦笑を漏らしながらも困ったように言う。
「少なくとも、この五百年。私は見たことがない」
まあ、そりゃそうか。
そうした能力を夢見ることはあっても、実現すると信じ切るには他の能力に比べてハードルが高過ぎる。前世とは異なる力が存在するこの世界にあって尚。
もし時間への干渉が可能だったとしても、時間停止とか時間遅延ぐらいのものだろう。
「だとすると…………もしかして、記憶を?」
アコさんの言葉を前提に改めて考え、最も可能性が高そうなものを問い気味に呟く。
すると、どうやら正解だったらしく、彼女は「その通り」と頷いてから続けた。
「暴走の原因となる記憶を封じさえすれば、一先ず暴走は落ち着く。勿論、それは解決を棚上げにしているだけだけど、日常を過ごす中で徐々に和らいでいくはず」
アコさんは軽めの口調で言いながら、しかし、不本意そうに表情を歪める。
どんな名目を掲げていようとも、相手の心を好き勝手操作することに変わりはない。
良識ある者なら、強い忌避感を抱くのも当然だ。
俺としても深く共感できる。
しかし、正直なところ、この状況では次善の策なのは間違いない。
理想的な補導など彼らの境遇が境遇だけに、不可能としか言いようがないのだから。
催眠療法や暗示などのように考えておくべきだろう。
ただし。
それを実行するには問題点がいくつかある。
勿論、その辺に関しては既に解決できる目処が立っているからこそ、アコさんは俺の言葉を肯定した上で目算を語っているのだろうが……。
念のため、疑問は解消しておくとしよう。
「確か、封印の注連縄の内部には複合発露で干渉できないはずですよね?」
「そうだね」
アコさんは、俺の問いに対して当然と言わんばかりに深く頷く。
それは昨日彼女達が封印措置を行っていた時に、実際に目の当たりにしたことだ。
彼らを氷の中に封じ込めていた真・複合発露〈万有凍結・封緘〉による凍結すら、一瞬の内に解除されてしまった。
しかも、俺個人ではなく、サユキと共に放った最大出力だったにもかかわらず。
それはつまり、封印の注連縄で区切られた領域に対象が閉じ込められたままでは、たとえ第六位階の精神干渉でも届くことはない、ということだ。
さすがにアコさんのような抜け道は、精神干渉系の複合発露にはない。
「かと言って、そこから外に出すと暴走・複合発露発動状態に戻る訳だから――」
「うん。第六位階の身体強化によって、この子達は再び魔物化してしまう。当然、その状態の相手に精神干渉を行うことは、たとえ第六位階でも難しいだろうね」
それも、並の身体強化ではなく、上位少女化魔物の暴走・複合発露だ。
たとえ第六位階の複合発露を用いて干渉したとしても、俺の凍結と同じように数十秒で破られてしまうか、一つも効果がないかのどちらかだろう。
いずれにしても彼らの記憶に手を加える以前の問題だ。
ここまで聞いた限りでは、ハッキリ言って現実的ではないように感じる。
「なら、どうしようって言うんですか? まさか俺に、精神干渉系の複合発露を持つ少女化魔物を探して真性少女契約してこいってことじゃないですよね?」
今のところ、俺を呼び出した理由が明かされていない。
しかし、いくら何でも、ただ単にアコさんが改めて自己紹介をするため、そして上位少女化魔物という存在を見学させるためではないはず。
訪問前に予想していた通り、何か俺にして欲しいことがあるからと考えるのが妥当だ。
なので、今までの話の流れからすると、そういう要求を想像してしまうのだが……。
「さすがにそれはないよ。少なくとも現時点で精神干渉系の複合発露を持つ少女化魔物の補導依頼はないし、そんな希少な存在が都合よく出てくるとは思えないからね」
それはそうだろう。
だが、そうなると尚のことアコさんがどういうつもりなのか分からない。
「手元のカードで何とかしないとね」
俺の困惑を余所に、彼女はそうつけ加えると視線で入口の扉を示しながら歩き出す。
「手元のカード? ……何だ。ちゃんと第六位階の精神干渉の使い手がいるんですね」
そんな彼女の後を追いながら一瞬そう考えてそのまま口にする。
が、それならやはり俺をここに呼び出した意味がない。
恐らく、そういう訳ではないのだろう。
「残念だけど、施設専属の子は少し前にパートナーの方の寿命で一緒に死んでしまってね。今はいないんだ。今回のような事例があるから確保しておきたいんだけどね」
案の定と言うべきか、アコさんは俺の言葉を否定する。
しかし、ちょっとよく分からなくなってきたな。
「じゃあ、手元のカードって……?」
「忘れたかい? ああ、いや、もしかすると罪を犯した者をそういうことに駆り出すって発想がなかったのかもしれないね」
そこまでヒントを出して貰い、ハッとして立ち止まる。
それに合わせて扉に手をかけた彼女も動きを止め、俺を振り返った。
「どうやら理解したようだね。この特別収容施設には一人、精神干渉系の複合発露を持つ少女化魔物が収容されている」
「それって――」
「そう。君の同郷、ライム・クラフィス・ヨスキの真性少女契約相手にして、彼と共に勘違いの下に暴走し、結果として多くの少女化魔物と前途ある若者達を惑わす罪を犯してしまった者。ルシネ・ロリータ・ヨスキさ」
確かに悪魔(シャックス)の少女化魔物と聞く彼女の複合発露は、認識は勿論、記憶をも操作可能な強力な精神干渉だった。しかし……。
「今のルシネさんの力で上位少女化魔物に干渉できるんですか?」
あの時、ライムさんは第六位階の身体強化状態にあったシニッドさんやガイオさんにも容易く干渉して見せたが、あくまであれは真・暴走・複合発露。
一応、真性少女契約は封印の注連縄を以ってしても破棄できないはずだから、今も真・複合発露は使えるはずだが、それでどうにかなるなら俺も凍結に苦労していない。
「そこはそれ。ちゃんと手立てはあるから心配しないで欲しい」
そうした部分も含めた俺の問いに対し、アコさんは胸を張ってそう答えた。
が、すぐに大分困ったような顔へと表情を変化させながら続ける。
「それよりも問題が一つ」
「問題?」
「うん。彼女、私達の協力要請には全然耳を貸してくれなくてね。正直なところ、困り果てているんだよ。だから、イサク。君に彼女の説得をして貰いたいんだ」
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