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第2章 人間⇔少女化魔物
129 封印措置
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「まあ、立ち話も何だね。とりあえず、暴走した子達を収容しようじゃないか」
俺の緊張を余所に、特別収容施設ハスノハの施設長たるアコさんは軽い口調でそう言うと、父さんへと視線を向けて再び口を開いた。
「彼女達は以前のようにジャスターの影の中かな?」
「ええ」
アコさんの問いかけに、父さんは少し丁寧に肯定しながら七つの氷塊を影から出す。
それを受けて彼女は一つ頷くと、後ろに控えていた職員の少女化魔物四人を振り返って搬送の指示を出し始めた。
影への収納はこの世界でも割と珍しい現象のはずだが、職員達はその光景に関して特に反応を示すことなく、淡々と準備に入る。
アコさんの言葉を聞く限り、前にも似たような形で父さんが少女化魔物を拘束して連行してきたことが何度かあったのだろう。それで見慣れている訳だ。
その職員の少女達は、大小様々ながら最低でも人間大以上はある氷塊を浮遊の祈念魔法によって軽々と浮かすと、施設の正面玄関とは別の方向へと歩き出した。
「あ、一応、俺も同行します」
幼い女の子の形をした存在が同じ制服を着てテキパキと働く図に一瞬目を奪われかけるが、ハッと我に返ってアコさんに視線を戻しながら告げる。
どのような事情、状態だったにせよ、少女達を凍結という形で有無を言わさず拘束した者の責任として、ちゃんと安全に収容できたというところまでは確認しておきたい。
万一、収容が完了するまでに異変が生じてしまった場合の備えも必要だろうし。
「そうだね。お願いするよ。ついでに軽く施設の案内もして上げよう」
対して、彼女はにこやかに頷くと、促すように職員達が向かう先を手で指し示した。
既に日も落ちて暗くなった中、そちらに顔を向けて目を凝らす。
その先には大型の魔物でも容易く通れそうな巨大な扉があった。
今回のような事態に備えて予備的に作られた搬送用の入口と見て間違いない。
「ああ、そうだそうだ。君達はどうする? 依頼完了の通知はムニを通してホウゲツ学園の補導員事務局に送っておくから、もう帰って貰っても構わないけど」
と、思い出したように父さん達を振り返って尋ねるアコさん。
どうやらFAX的な複合発露を持つムニさんの分身体は、ここにもいるらしい。
まあ、当然か。
そんな風に問いかけの本題とは、別のことを考えていると――。
「イサクが行くのなら、妾達も行くに決まってるのじゃ」
アコさんに対し、当たり前のことを言わせるな、とでも言いたげな棘のある口調と共に、母さんが勝手に父さんの分も含めて答える。
「何やらイサクに色目を使っておったし、おちおち大事な息子を一人残して帰れん!」
どうやらアコさんの意味ありげな目配せを、そういう風に認識していたらしい。
しかし、こういう場合は往々にして声を潜めて理由を呟くものだが、逆に興奮したように思いっ切り大声で相手に言い放っているのは、さすがに失礼が過ぎる。
そう思って慌てるが……。
「あはは。相変わらずだね。ファイムは」
アコさんは楽しそうに笑うのみ。
それだけで器が大きい人物だと分かる。
「まあ、礼儀がなってねえ親馬鹿は置いとくとして」
「あ? 何か言ったか?」
「……今回は数が数だからな。万が一の時の人手はあった方がいいだろうよ。いくら収容施設の職員が基本的に武闘派だっつってもな」
ドスを利かせる母さんを柳に風と受け流してシニッドさんは言い、それにウルさんとルーさんも頷く。ガイオさん達も異論はないようだ。
こういう部分での相手への配慮も含めて優れているからこそ、指名で依頼を受けることのできるような補導員になれるのだろう。……口調は少々荒っぽいが。
その辺りは、相手の寛容さを知っているからこそか。
「助かるよ。私達だけで対処できない訳じゃないけど、高ランクの補導員がいてくれると安心感がまるで違うからね」
実際、アコさんは気にした様子がない。懐が深い。
……それにしたって、さっきの母さんの発言は不適当だろうが。
ただ、父さんが何も注意しないところを見るに、あるいはアコさんの俺に対する反応に割と本気で違和感と警戒感を抱いて牽制しようとしていたのかもしれない。
「じゃあ、行こうか」
とにもかくにも全員同行することとなり、そう改めて促しながら歩き出したアコさんと共に、凍結状態にある少女化魔物達を搬送していく職員達の後に続く。
合わせて巨大な扉が内側から開き、中から光が漏れ出してきた。
「おお?」
一瞬の明順応の後、目に映った光景に思わず驚きの声を上げてしまう。
扉を抜けた先には、体育館のように天井の高い広い空間。
エントランスと言えばエントランスのようだが、誰かを迎えるには飾り気が全くないし、建築資材置き場の如く鉄骨やら鉄板やら鉄パイプやらが整然と置かれている。
「現地で暴走を鎮静化できないと判断された少女化魔物は、凍結とか石化とか麻痺とか行動不能に陥らせる複合発露を用いて拘束する訳だけど、今回のように魔物化していて馬鹿でかい状態で運ばれてくることもある」
アコさんは入ってすぐの辺りで立ち止まると、一度特別に巨大なウロボロスの少女化魔物とワームの少女化魔物を見てから俺達に視線を戻して口を開いた。
その奥では、職員達が俺達を気にせずに作業に入っている。
「こういう場合は段階を踏んで封印措置を取らないといけないんだ。物理的な制約とか諸々の事情でね。ここはそのための部屋さ」
「封印措置……」
「そう。少女化魔物に限らず、危険人物が複合発露や祈念魔法を使えないようにする訳だ。そんな力がなければ監房に突っ込んで終わりだけど、そうはいかないからね」
実際に声に出すことはないものの、君が元いた世界とは違って、と続けるかのように一瞬だけ俺と目線を合わせて彼女は告げる。
実際、祈念魔法が多少使えるだけでも、前世の世界なら脱獄し放題だろう。
「で、それを可能とする設備……と言うか、祈望之器があれだ」
そう続けながらアコさんが指差す先には、別の職員が紙垂のついた縄を運んでくる姿。
あの形状は――。
「まあ、注連縄だね。正式名称は、封印の注連縄だ」
その効果に関しては、前にイリュファから聞いたことがある。
勿論、祈望之器の位階次第ではあるが……。
その注連縄で区切られた空間の内側では身体能力が弱体化し、複合発露や祈念魔法が使えなくなり、少女契約も無効化されるそうだ。
性能自体は正に破格のものと言えるだろう。
もっとも、輪を作って空間を区切らなければならないという制限があるため、戦闘では精々先んじて設置して罠に使うぐらいしかないが。
「とは言え、第六位階のそれは数が多くなくてね。だから、ここ特別収容施設ハスノハが、殊更危険な犯罪者や暴走したままの少女化魔物を纏めて対処しているという訳さ」
「えっと、同じ第六位階の祈望之器が複数あるんですか?」
国宝レベルの希少さと聞いていたので驚く。
「うん。封印の注連縄は、首都モトハにあるショウジ・ヨスキを祀る神社の御神木に一年張られた注連縄が変化したものだからね。世にも珍しい生産可能な第六位階さ」
どうやらこれも、かの英雄が共通認識を全人類に埋め込んだ結果のようだ。
まあ、いくら増やせるにしても限度があるのなら、戦いでの消耗は合理的ではない。
こうして社会を乱す危険な存在の無力化に使うのが最適だろう。
「さて、まずは封印措置の第一段階だね」
と、アコさんは、説明の間も作業を継続していた職員達を振り返りながら言う。
それを受け、俺もそちらに視線をやる。
すると、彼女達は祈念魔法で資材を瞬時に加工し、七つの氷塊を一つずつ閉じ込めるように、各々の大きさに合わせた立方体状の檻をその場に作り上げていた。
更にその四隅の外側にポールを立て、檻を囲むように封印の注連縄を張り始める。
やがて、それが完了すると――。
「あっ」
端と端が接触した次の瞬間、俺は解除していないにもかかわらず氷が一瞬にして全て消え去り、同時に魔物化していた彼女達は皆、本来の少女の姿に戻った。
……ただ、相変わらず暴走状態にあるらしい。
彼女達はすぐさま、檻を破壊せんと鉄格子に攻撃を仕かけ始めている。
だが、封印の注連縄の効果によって身体能力が大幅に低下しているらしく、傷一つつけることができないようだった。
「で、第二段階」
アコさんがそう告げる間に、職員の少女達は遮二無二暴れ続ける少女化魔物に怯むことなく、封印の注連縄を潜って檻に近づくと扉を開けて素早く中に入っていく。
当然、少女化魔物は彼女達に襲いかかるが、顎への一撃で即座に眠らせてしまった。
再生力がなくなれば、確かに意識を失わせることも不可能ではないはずだが……。
それにしても腰の入ったいいパンチだった。
確かにこれは武闘派だ。
「第三段階」
そして対象が気絶している間に、職員の少女達は祈念魔法によって檻を更に加工して人間の大きさに見合ったものとする。
その小さめの檻に今度は短めの封印の注連縄を直接巻き、それから彼女達は暴走した少女化魔物達を檻ごと奥へと運んでいった。
「ま、こんなところだね。凍結がしっかりしてたから、万事恙なく済んだよ」
そんな部下達を見送ってから、そう言って笑うアコさん。
とりあえず一段落ついたようで安心する。が、一つ疑問がある。
「でも、封印の注連縄を使っても暴走は鎮静化できないんですね」
「暴走は複合発露や祈念魔法とはまた別のカテゴリーだからね。第六位階に相当する強度を持ち、複合発露を強化する効果があるだけで。同じように少女契約も効果が無効になるだけで、契約自体が破棄される訳じゃない」
成程。あくまでも封印の注連縄の効果は前述の通りという訳か。
「だから、暴走は暴走で改めて解決しないといけない訳だ。あの子達のためにもね。そのために必要な情報を探るのは私の仕事だから、任せて欲しい」
少女化魔物の出自。暴走の原因。
暴走の鎮静化に最低限必要なのはその辺りか。
しかし、それ以外にも。
どうしてウラバに集中して現れたのか。
ウラバでの事件と何か関わりがあるのか。
何故、七人が七人、同じ複合発露だったのか。
俺の凍結を一度は破る程の力を有していたのか。
疑問は尽きない。
とは言え、今この場で俺達にできることはもうない。
これ以上ここにいてもアコさんの仕事の妨げになるだけだろう。
何より、さすがに今日はもう疲れた。
気になる部分は後でトリリス様に聞くとしよう。
「では、また」
そうして、何となく俺にだけは社交辞令ではなく言っているような雰囲気のアコさんに見送られ、俺達は特別収容施設ハスノハを後にしたのだった。
俺の緊張を余所に、特別収容施設ハスノハの施設長たるアコさんは軽い口調でそう言うと、父さんへと視線を向けて再び口を開いた。
「彼女達は以前のようにジャスターの影の中かな?」
「ええ」
アコさんの問いかけに、父さんは少し丁寧に肯定しながら七つの氷塊を影から出す。
それを受けて彼女は一つ頷くと、後ろに控えていた職員の少女化魔物四人を振り返って搬送の指示を出し始めた。
影への収納はこの世界でも割と珍しい現象のはずだが、職員達はその光景に関して特に反応を示すことなく、淡々と準備に入る。
アコさんの言葉を聞く限り、前にも似たような形で父さんが少女化魔物を拘束して連行してきたことが何度かあったのだろう。それで見慣れている訳だ。
その職員の少女達は、大小様々ながら最低でも人間大以上はある氷塊を浮遊の祈念魔法によって軽々と浮かすと、施設の正面玄関とは別の方向へと歩き出した。
「あ、一応、俺も同行します」
幼い女の子の形をした存在が同じ制服を着てテキパキと働く図に一瞬目を奪われかけるが、ハッと我に返ってアコさんに視線を戻しながら告げる。
どのような事情、状態だったにせよ、少女達を凍結という形で有無を言わさず拘束した者の責任として、ちゃんと安全に収容できたというところまでは確認しておきたい。
万一、収容が完了するまでに異変が生じてしまった場合の備えも必要だろうし。
「そうだね。お願いするよ。ついでに軽く施設の案内もして上げよう」
対して、彼女はにこやかに頷くと、促すように職員達が向かう先を手で指し示した。
既に日も落ちて暗くなった中、そちらに顔を向けて目を凝らす。
その先には大型の魔物でも容易く通れそうな巨大な扉があった。
今回のような事態に備えて予備的に作られた搬送用の入口と見て間違いない。
「ああ、そうだそうだ。君達はどうする? 依頼完了の通知はムニを通してホウゲツ学園の補導員事務局に送っておくから、もう帰って貰っても構わないけど」
と、思い出したように父さん達を振り返って尋ねるアコさん。
どうやらFAX的な複合発露を持つムニさんの分身体は、ここにもいるらしい。
まあ、当然か。
そんな風に問いかけの本題とは、別のことを考えていると――。
「イサクが行くのなら、妾達も行くに決まってるのじゃ」
アコさんに対し、当たり前のことを言わせるな、とでも言いたげな棘のある口調と共に、母さんが勝手に父さんの分も含めて答える。
「何やらイサクに色目を使っておったし、おちおち大事な息子を一人残して帰れん!」
どうやらアコさんの意味ありげな目配せを、そういう風に認識していたらしい。
しかし、こういう場合は往々にして声を潜めて理由を呟くものだが、逆に興奮したように思いっ切り大声で相手に言い放っているのは、さすがに失礼が過ぎる。
そう思って慌てるが……。
「あはは。相変わらずだね。ファイムは」
アコさんは楽しそうに笑うのみ。
それだけで器が大きい人物だと分かる。
「まあ、礼儀がなってねえ親馬鹿は置いとくとして」
「あ? 何か言ったか?」
「……今回は数が数だからな。万が一の時の人手はあった方がいいだろうよ。いくら収容施設の職員が基本的に武闘派だっつってもな」
ドスを利かせる母さんを柳に風と受け流してシニッドさんは言い、それにウルさんとルーさんも頷く。ガイオさん達も異論はないようだ。
こういう部分での相手への配慮も含めて優れているからこそ、指名で依頼を受けることのできるような補導員になれるのだろう。……口調は少々荒っぽいが。
その辺りは、相手の寛容さを知っているからこそか。
「助かるよ。私達だけで対処できない訳じゃないけど、高ランクの補導員がいてくれると安心感がまるで違うからね」
実際、アコさんは気にした様子がない。懐が深い。
……それにしたって、さっきの母さんの発言は不適当だろうが。
ただ、父さんが何も注意しないところを見るに、あるいはアコさんの俺に対する反応に割と本気で違和感と警戒感を抱いて牽制しようとしていたのかもしれない。
「じゃあ、行こうか」
とにもかくにも全員同行することとなり、そう改めて促しながら歩き出したアコさんと共に、凍結状態にある少女化魔物達を搬送していく職員達の後に続く。
合わせて巨大な扉が内側から開き、中から光が漏れ出してきた。
「おお?」
一瞬の明順応の後、目に映った光景に思わず驚きの声を上げてしまう。
扉を抜けた先には、体育館のように天井の高い広い空間。
エントランスと言えばエントランスのようだが、誰かを迎えるには飾り気が全くないし、建築資材置き場の如く鉄骨やら鉄板やら鉄パイプやらが整然と置かれている。
「現地で暴走を鎮静化できないと判断された少女化魔物は、凍結とか石化とか麻痺とか行動不能に陥らせる複合発露を用いて拘束する訳だけど、今回のように魔物化していて馬鹿でかい状態で運ばれてくることもある」
アコさんは入ってすぐの辺りで立ち止まると、一度特別に巨大なウロボロスの少女化魔物とワームの少女化魔物を見てから俺達に視線を戻して口を開いた。
その奥では、職員達が俺達を気にせずに作業に入っている。
「こういう場合は段階を踏んで封印措置を取らないといけないんだ。物理的な制約とか諸々の事情でね。ここはそのための部屋さ」
「封印措置……」
「そう。少女化魔物に限らず、危険人物が複合発露や祈念魔法を使えないようにする訳だ。そんな力がなければ監房に突っ込んで終わりだけど、そうはいかないからね」
実際に声に出すことはないものの、君が元いた世界とは違って、と続けるかのように一瞬だけ俺と目線を合わせて彼女は告げる。
実際、祈念魔法が多少使えるだけでも、前世の世界なら脱獄し放題だろう。
「で、それを可能とする設備……と言うか、祈望之器があれだ」
そう続けながらアコさんが指差す先には、別の職員が紙垂のついた縄を運んでくる姿。
あの形状は――。
「まあ、注連縄だね。正式名称は、封印の注連縄だ」
その効果に関しては、前にイリュファから聞いたことがある。
勿論、祈望之器の位階次第ではあるが……。
その注連縄で区切られた空間の内側では身体能力が弱体化し、複合発露や祈念魔法が使えなくなり、少女契約も無効化されるそうだ。
性能自体は正に破格のものと言えるだろう。
もっとも、輪を作って空間を区切らなければならないという制限があるため、戦闘では精々先んじて設置して罠に使うぐらいしかないが。
「とは言え、第六位階のそれは数が多くなくてね。だから、ここ特別収容施設ハスノハが、殊更危険な犯罪者や暴走したままの少女化魔物を纏めて対処しているという訳さ」
「えっと、同じ第六位階の祈望之器が複数あるんですか?」
国宝レベルの希少さと聞いていたので驚く。
「うん。封印の注連縄は、首都モトハにあるショウジ・ヨスキを祀る神社の御神木に一年張られた注連縄が変化したものだからね。世にも珍しい生産可能な第六位階さ」
どうやらこれも、かの英雄が共通認識を全人類に埋め込んだ結果のようだ。
まあ、いくら増やせるにしても限度があるのなら、戦いでの消耗は合理的ではない。
こうして社会を乱す危険な存在の無力化に使うのが最適だろう。
「さて、まずは封印措置の第一段階だね」
と、アコさんは、説明の間も作業を継続していた職員達を振り返りながら言う。
それを受け、俺もそちらに視線をやる。
すると、彼女達は祈念魔法で資材を瞬時に加工し、七つの氷塊を一つずつ閉じ込めるように、各々の大きさに合わせた立方体状の檻をその場に作り上げていた。
更にその四隅の外側にポールを立て、檻を囲むように封印の注連縄を張り始める。
やがて、それが完了すると――。
「あっ」
端と端が接触した次の瞬間、俺は解除していないにもかかわらず氷が一瞬にして全て消え去り、同時に魔物化していた彼女達は皆、本来の少女の姿に戻った。
……ただ、相変わらず暴走状態にあるらしい。
彼女達はすぐさま、檻を破壊せんと鉄格子に攻撃を仕かけ始めている。
だが、封印の注連縄の効果によって身体能力が大幅に低下しているらしく、傷一つつけることができないようだった。
「で、第二段階」
アコさんがそう告げる間に、職員の少女達は遮二無二暴れ続ける少女化魔物に怯むことなく、封印の注連縄を潜って檻に近づくと扉を開けて素早く中に入っていく。
当然、少女化魔物は彼女達に襲いかかるが、顎への一撃で即座に眠らせてしまった。
再生力がなくなれば、確かに意識を失わせることも不可能ではないはずだが……。
それにしても腰の入ったいいパンチだった。
確かにこれは武闘派だ。
「第三段階」
そして対象が気絶している間に、職員の少女達は祈念魔法によって檻を更に加工して人間の大きさに見合ったものとする。
その小さめの檻に今度は短めの封印の注連縄を直接巻き、それから彼女達は暴走した少女化魔物達を檻ごと奥へと運んでいった。
「ま、こんなところだね。凍結がしっかりしてたから、万事恙なく済んだよ」
そんな部下達を見送ってから、そう言って笑うアコさん。
とりあえず一段落ついたようで安心する。が、一つ疑問がある。
「でも、封印の注連縄を使っても暴走は鎮静化できないんですね」
「暴走は複合発露や祈念魔法とはまた別のカテゴリーだからね。第六位階に相当する強度を持ち、複合発露を強化する効果があるだけで。同じように少女契約も効果が無効になるだけで、契約自体が破棄される訳じゃない」
成程。あくまでも封印の注連縄の効果は前述の通りという訳か。
「だから、暴走は暴走で改めて解決しないといけない訳だ。あの子達のためにもね。そのために必要な情報を探るのは私の仕事だから、任せて欲しい」
少女化魔物の出自。暴走の原因。
暴走の鎮静化に最低限必要なのはその辺りか。
しかし、それ以外にも。
どうしてウラバに集中して現れたのか。
ウラバでの事件と何か関わりがあるのか。
何故、七人が七人、同じ複合発露だったのか。
俺の凍結を一度は破る程の力を有していたのか。
疑問は尽きない。
とは言え、今この場で俺達にできることはもうない。
これ以上ここにいてもアコさんの仕事の妨げになるだけだろう。
何より、さすがに今日はもう疲れた。
気になる部分は後でトリリス様に聞くとしよう。
「では、また」
そうして、何となく俺にだけは社交辞令ではなく言っているような雰囲気のアコさんに見送られ、俺達は特別収容施設ハスノハを後にしたのだった。
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