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第2章 人間⇔少女化魔物

111 朝の訪問者と、久し振りの

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 サンダーバードの少女化魔物ロリータたるルトアさんと真性少女契約ロリータコントラクトを結んだ翌日。
 昨日かなり身を入れて訓練を行ったため、今日の朝は割とゆっくり過ごしていた。
 イリュファが作ってくれた遅めの和朝食をよく噛んで食べ、一休み。
 それから、さて今日はどうしようかと考える。
 昨日に引き続き、訓練施設に行って複合発露エクスコンプレックスを試すという選択肢もあるが……。
 そんな風に悩みながら、いつものようにテアを教育するサユキ達を眺めていると――。

「来客のようですね」

 職員寮の自室の扉を誰かがコンコンと軽く叩く音が耳に届き、イリュファがそちらを振り返りながら呟く。

「私が出ます」

 丁度、祈念魔法で洗いものをしていた彼女だったが、その手を止めるとエプロンドレスで手を拭う素振りを見せながらパタパタと駆け足気味に玄関へと向かった。
 その姿はメイドさんと言うよりも、主婦という感じだ。
 まあ、維持の設定をしなければ祈念魔法で生み出した水などは消え去るので、エプロンドレスが湿ったり汚れたりすることはないし、手を拭う真似をする必要はないが。
 そう考えると彼女の素振りは不思議だ。
 百年以上生きている間に、どこかで癖がついたのだろうか。

 まあ、それはともかく。
 ここに来客とは珍しいな。
 と言うか、初めてのことだ。一体誰だろうか。
 興味が引かれ、俺もまた彼女の後に続いてその背後に立つ。

「どなたですか?」
「あ、えっと、イリュファさんですか? ルトアです! おはようございます!」

 と、イリュファの問いに答えて、扉の外から聞き慣れた声が聞こえてきた。
 訪問者はルトアさんだったらしい。
 少し驚きながら俺はイリュファと立ち位置を入れ替わり、扉を開けて顔を出した。

「ルトアさん、どうしたんですか? 仕事中なのでは?」

 既に補導員事務局の営業開始時間は過ぎているはずだが……。

「イサク君!! おはようございます!!」
「ああ、ええと、うん。おはようございます」

 問いの答えの代わりに返ってきた挨拶に、一先ず俺も扉を支えながら挨拶を返す。
 まあ、挨拶は大事だからな。

「それで、どうしたんですか? サボりですか?」

 改めて、若干冗談っぽく尋ねる。

「ち、違います! イサク君、酷いです!」

 すると、サボり疑惑を向けられたからか、ルトアさんは慌てたように即座に否定して不満を顕にした。可愛らしく唇を尖らせながら。
 その姿にちょっと苦笑しつつ「すみません」と謝っておく。

「イサク君だから許しますけど――」

 微妙に不満顔を残しながら謝罪を受け入れるルトアさん。
 呼び方はもう、仕事中でもイサク君で通すつもりのようだ。

「ちゃんとしたお仕事ですよ! トリリス様の指示で迎えに来たんです!」
「トリリス様の? ……まあ、とりあえず上がって下さい」
「はい! あ、いえ、そうしたいのは山々なんですが、すぐに補導員事務局まで来て頂きたいんです! イサク君指名で緊急依頼が出ましたので」
「え? 俺を指名で?」

 ルトアさんがトリリス様の指示でここに来たということは、俺指名の緊急依頼とやらも彼女かその上の存在ヒメ様が依頼主なのだろう。
 色々サポートして貰っている手前、断るのは余りにも心苦しいし、何より補導員への依頼ということなら苦しむ少女化魔物が必ずいるはず。
 であれば、断るなどという選択肢は俺には初めから存在しない。だから――。

「分かりました。少しだけ待って下さい」

 ルトアさんにそう断り、一度扉を閉めて外出の準備を始める。
 と言っても、訓練に行くことも視野に入れて軽く身支度はしていた。
 イリュファの洗いものも、祈念魔法のおかげで前世程に時間は取られない。

「ほら、テアちゃん。お出かけだよ」

 サユキに促されてコクリと頷いてから影の中に入ったテアに、残る面々も続く。
 ほとんどそれだけで準備は整う。
 そうして俺達は、特にルトアさんを待たせることなく外に出た。

「では、行きましょう!」

 と、ルトアさんは俺の手を握り、若干引っ張るようにしながら歩き出す。
 すぐにとは言いながら、別に複合発露を使ったり、走ったりする程ではないらしい。
 まあ、補導員事務局まではそう距離もないし、誤差の範疇かもしれないが。
 依頼の内容、実際の緊急性はトリリス様から指示を受けたルトアさんなら知っているだろうし、その彼女がそうしているのだから問題にはならないと思っておく。

「……しかし、俺がいなかったらどうするつもりだったんです?」

 昨日、張り切って訓練したからこそ今日の朝は家で少しのんびりしていたが、場合によっては外出していたかもしれない。
 それこそ早朝から訓練施設に行っていたりしたら、無駄足を踏ませた上に、一応は緊急を冠した依頼の実行が遅れてしまっていただろう。

「トリリス様がイサク君は家にいるとおっしゃっていたので!」
「ああ……成程」

 そう言えば、彼女にはレギオの事件を即座に把握していた程の情報網があったか。
 それを使えば、俺が職員寮を出たかどうかぐらいはすぐに分かるはずだ。
 FAX的な機能を持つムニがいれば、尚タイムラグも少なくなる。
 勿論、確実ではないが、行き違い続けるということはないだろう。
 今のところ俺の行動範囲もそう広くはないしな。
 そう頭の中で考えて納得していると――。

「ふんふんふーん」

 隣からルトアさんの小さな鼻歌が聞こえてきた。
 それに合わせ、繋いだままの手を握る力がちょっと強くなっていることに気づく。
 上機嫌の原因はこれと見て間違いない。
 そう意識すると少し気恥ずかしくなるが、別に嫌ではないし、彼女が自分の気持ちに正直になっているということであれば喜ばしい。
 とは言え、ちょっと顔が熱くなるのは避けられないが……。
 傍から見て分かるぐらいに表面化する前に、補導員事務局に到着したようだった。
 ルトアさんが鼻歌をやめ、残念そうに少し俯き気味になる。微妙に歩みが鈍る。

「……さ、入りましょう!」

 しかし、仕事は仕事と気持ちを切り替えたように顔を上げ、ルトアさんは俺に元気な笑顔を向けながら手を引いて一歩先に中へと入った。
 俺も頷いて彼女に倣う。

「ん?」

 すると、補導員事務局の中には珍しく何人もの人影。それも見覚えある姿があった。
 シニッドさんとウルさん、ルーさん。
 ガイオさんとタイルさんもいる。
 いや、それよりもその奥にいるあの二人は――。

「イサクううううううぅっ!!」

 直後、半分泣いているかのような大声と共に、影が素早い動きで突っ込んでくる。
 ラグビー選手もかくやとばかりの前傾姿勢で。

「おっと」

 それを前に、俺は無意識に横に避けてしまった。
 ……ルトアさんと手を繋いだまま。

「ふえ!?」

 そのせいで。本当に意図せずに。
 俺に引っ張られたルトアさんは、その影の軌道上に来る形になってしまい――。

「ぐえっ」

 諸にタックルを食らってしまった彼女は、短い呻き声を上げながら倒れてしまった。
 余りの衝撃に手が離れてしまったせいで支えがなくなり、影と諸共に床に転がる。

「会いたかったのじゃああああっ!!」
「う、うぎゅぎゅ、く、苦し……」

 興奮の余り、勘違いしたままルトアさんを締め上げる影。
 困惑と呆れ気味に顔を上げると、苦笑しながら近づいてくるもう一人の姿。
 そこにいたのは、愛すべき俺の家族。
 母親たるファイム・ロリータ・ヨスキ。
 そして、父親たるジャスター・ライン・ヨスキだった。
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