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第1章 少女が統べる国と嘱託補導員
080 評判の居酒屋
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街中を走る小さめのバスもどきに乗り込み、それに揺られること十数分。
停留所で下車してからルトアさんに先導されるまま更に少し歩いていくと――。
「ここです!」
目抜き通りに面した、立地のいい一つの店の前に辿り着いた。
雰囲気としては正に居酒屋。
ファンタジー的な酒場という感じではない。元の世界的な居酒屋だ。
店先に並ぶ火の灯った提灯には酒の文字(勿論、漢字ではないが)。
看板には店名だろうか、ミズホという音になるように文字が書かれている。
もしかして漢字で書くと瑞穂だろうか?
だとしたら、過去の救世の転生者が開業に関わっている可能性もあるな。
案外、由緒正しい店、老舗なのかもしれない。
「さ、入りましょう!」
と、嬉しそうに、楽しそうに笑顔で俺の腕を引っ張るルトアさん。
何だか本当に普通の女の子な感じの姿に、ちょっとドキッとしてしまった。
彼女らしい快活な声も、補導員事務局にいる時とは少し違う。
より自然な感じがして、こちらもより元気が湧いてくる気がする。
友達と遊びに行く時のテンションと言うべきか、少々気分が高揚している。
勿論、大事な目的である情報収集を忘れてはいないが。
……思えば、普通の友達のような距離感はこの世界では初めてかもしれないな。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「二人です! あ、カウンター席空いてますか?」
髪の毛と瞳の色的に少女化魔物だろう店員さん。
その居酒屋らしいハッキリした声にも負けない元気な声で言うルトアさん。
そんな彼女の希望通り、空いているカウンター席に案内される。
テーブル席を選ばなかったのは、何かしら考えがあるのだろう。
そう判断して何も問わず、そこに二人並んで座る。
「あら? ルトアちゃん? 友達と一緒だなんて珍しいわねえ」
と、店の奥から一人の少女化魔物が近づいてきて、ルトアさんにフレンドリーに話しかけてきた。口調からして親しい年上の知人のようだ。
……近所のおばちゃんのような話し方なのに、少女化魔物なので外見は完全に少女。
声も若い女の子のものなので、ギャップが少々気になる。
まあ、それを言ったら母さんなんかはもっとぶっ飛んでいるが……。
母さんは二次元キャラ的な分かり易さがあるから、余りそんな感覚はなかったな。
ちょっとしたズレの方がかえって気になってしまうものなのかもしれない。
おっと、余計なことを考えてしまった。
「もう! リヴェスさん! それじゃあ、私に友達がいないみたいじゃないですか!」
対するルトアさんはそう不満げに言いながらも怒っている雰囲気は全くなく、表情にはちょっとだけ困ったような苦笑を浮かべていた。ほとんど普通の笑顔に近い。
そこからも親密さが分かる。
「けど、最近いつも一人だったじゃない」
「補導員事務局で働き出してから、友達と会う機会自体が少なくなりましたから!」
「まあ、そうねえ。就職先が近くだったらまた違うんだけど」
物理的に距離ができて疎遠になる。
自分も経験があるのか、うんうんと頷くリヴェスさんと呼ばれた女性。
話が弾むのはいいことだが、そろそろ紹介ぐらいはして欲しいところだ。
「それよりルトアちゃん。男の子を連れてくるなんて、やるじゃないの。そんな兆候全然なかったのに。一体、どこのどなたなの?」
リヴェスさんの方も俺と同意見のようで、近所のおばちゃん的な無遠慮さと共にルトアさんに問いかけた。
その微妙にからかうような声色に、ルトアさんは少し顔を赤くする。
「……まさか、ホウゲツ学園の新入生をかどわかしてきたんじゃないでしょうね」
「ち、違います違います!」
返事がワンテンポ遅れてしまったせいか、ショタコンによる誘拐的な疑惑を持たれてしまい、こればかりはルトアさんも心底慌てたように否定する。
まあ、今の俺は十七歳ではあるが、まだ第二次性徴を迎えてないからな。
入学し立てというのは冗談としても、年端もいかない子供と思われても仕方がない。
自己紹介してフォローしておこう。
「初めまして。イサク・ファイム・ヨスキと言います。十七歳ではありますが、一応この春からホウゲツ学園の嘱託補導員となりました」
「ええ!?」
その内容に、リヴェスさんは心底驚いたように手を口元にやりながら目を開く。
しかし、さすがは客商売に従事している者と言うべきか――。
「っと、ごめんなさいね」
リヴェスさんはすぐ表情を改め、営業スマイルとは思えない自然な笑顔を浮かべた。
接客の熟練者の技術に感心すると同時に、そんな人がそこまで驚くのだからと改めて十七歳で嘱託補導員というのが常識外であることを自覚させられる。
まあ、兄さんという前例もあるから、そこから一足飛びに救世の転生者であることを察せられることはないだろうが、可能な限り抑え気味に行動しよう。
「私はこの居酒屋ミズホの店主をしているリヴェスです。どうぞご贔屓に」
「あ、はい。よろしくお願いします」
しかし、少女化魔物が店主か。
これもまた少女祭祀国家ホウゲツならではのことかもしれないな。
まあ、折角知り合ったのだから、外食の時には選択肢に入れておこう。
勿論、味がよければの話だが。
「ルトアさんとは?」
「この子は、補導されてホウゲツ学園で教育を受けてた時からの常連なのよ」
「友達と一緒に来たり、時々一人で来てリヴェスさんに相談に乗って貰いました!」
成程。懐いている感じがあったのは、そういう理由があったらしい。
「私は直接少女化魔物として生まれたので母親はいませんが、リヴェスさんといるとこんな感じなのかなって思います!」
「もう。やめて頂戴。照れ臭いから」
「でも、友達もそうじゃない少女化魔物達も皆、言ってました!」
学園都市トコハの(少女化魔物の)母というところか。
いや、占い師ではないけれども。
「ところで、何か頼まなくていいの?」
「あ! 忘れてました!」
リヴェスさんに言われ、慌てたようにメニューを手に取るルトアさん。
いくら親しい仲だとしても、客席に座って雑談だけというのは好ましくない。
「ルトアさんのお勧めは?」
「この店は何を置いても御飯ものです! パンや麺類、ピザなんかもいけますけど!」
「………………い、居酒屋?」
完全に主食だ。
何だか普通の食堂のお勧めを聞いている気分だが……。
「ある理由で最高級の米と麦がありますから! 自家製の清酒やビール、米や麦の焼酎なんかはもう本当に凄いですよ! イサク様は未成年なのでお勧めしないだけです!」
自家製!? と驚くが、この世界なら材料さえあれば祈念魔法で作れそうだ。
「私の手作りよ」
俺の思考を肯定するように、リヴェスさんが自信ありげに言う。
その手の祈念魔法に優れているが故の店主ということか。
何にせよ、本当の自慢が酒類なら居酒屋と名乗って間違いではないはずだ。
「ある理由というのは?」
話の中でそこは少し気になって尋ねる。
「オオゲツヒメの少女化魔物である私の複合発露〈五穀豊穣〉の力で、米や麦、粟や小豆、大豆なんかを好きなだけ作り出せるの。その分のカロリーは必要だけどね」
成程、複合発露の力か。リヴェスさんの言葉に納得する。
実際、イメージさえ確かなら、それこそ究極の品質にもなり得る。
用途に応じて調整も可能かもしれないし。
仕事と複合発露が完全に噛み合っている感じだな。
そういうところのマッチングも少女化魔物を教育する機関の仕事なのだろう。
「最近では、蜜を使った色々な料理も評判なんですよ! ハニートーストなんかは絶品です! ……まあ、厳密にはハニーではないですけど」
「蜂蜜じゃないって、何の蜜なんです? 糖蜜とか?」
「いえ。蜜です!」
「えっと、ですから何の?」
「蜜は蜜なんです!」
何故だか頑なに何の蜜なのか口にしないルトアさん。謎だ。
「実はそっちも少女化魔物の複合発露で作ってるのよ。しばらく前に入った子でヘイズルーンの少女化魔物なの。表には出てこないけどね」
「ハルちゃんが蜜を作ってるところなんて見せられないですもんね!」
そちらも少女化魔物。ハルという名前らしいが……何だろう。
蛤女房とか、異類婚姻譚のいわゆる見るなのタブー的な気配を感じる。
と言うか、この世界なら蛤女房の少女化魔物も普通にいるのかもしれない。
それは余談にしても――。
「一体、どういう作り方を?」
見せられないと言われると気になるのが人情というもの。
首を傾げながら問う。すると――。
「イサク様、エッチなのはいけません!」
「何でだよっ!」
ルトアさんは右手の人差し指を立てながらダメダメと首を横に振り、そんな彼女に思わず丁寧語も忘れて強めに突っ込む。
内容を教えてくれないのにそれは、不当な罵倒にも程があるぞ。
まあ、後でホウゲツ学園の図書館にでも行って調べてみてもいいかもしれない。
戦闘系ではないのは確定なので、優先度は低いが。
「まあ、いいや。ともかく、料理を頼みましょう」
「ですね! 何がいいですか!?」
「うーん…………常連のルトアさんに任せます」
「そうですか? じゃあ、リヴェスさん! いつものを……あ、何人分にします?」
勢い込んで注文しようとしたのをとめて、俺を振り返るルトアさん。
影の中にいるイリュファ達のことも、ちゃんと覚えていてくれたようだ。
周囲を見回せば、盛況な店内。フェリトは出てこられないし、今はテアもいる。
多分、職員寮に帰るまで影から出てこないだろう。
とは言え、当然腹は減る訳で――。
「ルトアさん入れて七人分で」
「ええ!?」
テアの分もとりあえず含め、人数分。
イリュファ達のことを知らないリヴェスさんは当然驚く。
「ああ、実はですね……」
そんな彼女にフェリトの事情を簡潔に説明すると、二度目だからか今度はうまいこと驚きを隠しながら「成程」と納得してくれた。
それからリヴェスさんは奥の厨房に行き、ルトアさんのいつものの調理を指示する。
「イサク様、期待してて下さいね!」
その背中を目線で追いながらニコニコ顔で言うルトアさん。
どうやら相当な好物のようだ。
目的は情報収集だが、折角のいい笑顔なのだから水を差すのも何だ。
腹が減っては何とやら。
まずは腹ごしらえをしてからだな。
停留所で下車してからルトアさんに先導されるまま更に少し歩いていくと――。
「ここです!」
目抜き通りに面した、立地のいい一つの店の前に辿り着いた。
雰囲気としては正に居酒屋。
ファンタジー的な酒場という感じではない。元の世界的な居酒屋だ。
店先に並ぶ火の灯った提灯には酒の文字(勿論、漢字ではないが)。
看板には店名だろうか、ミズホという音になるように文字が書かれている。
もしかして漢字で書くと瑞穂だろうか?
だとしたら、過去の救世の転生者が開業に関わっている可能性もあるな。
案外、由緒正しい店、老舗なのかもしれない。
「さ、入りましょう!」
と、嬉しそうに、楽しそうに笑顔で俺の腕を引っ張るルトアさん。
何だか本当に普通の女の子な感じの姿に、ちょっとドキッとしてしまった。
彼女らしい快活な声も、補導員事務局にいる時とは少し違う。
より自然な感じがして、こちらもより元気が湧いてくる気がする。
友達と遊びに行く時のテンションと言うべきか、少々気分が高揚している。
勿論、大事な目的である情報収集を忘れてはいないが。
……思えば、普通の友達のような距離感はこの世界では初めてかもしれないな。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「二人です! あ、カウンター席空いてますか?」
髪の毛と瞳の色的に少女化魔物だろう店員さん。
その居酒屋らしいハッキリした声にも負けない元気な声で言うルトアさん。
そんな彼女の希望通り、空いているカウンター席に案内される。
テーブル席を選ばなかったのは、何かしら考えがあるのだろう。
そう判断して何も問わず、そこに二人並んで座る。
「あら? ルトアちゃん? 友達と一緒だなんて珍しいわねえ」
と、店の奥から一人の少女化魔物が近づいてきて、ルトアさんにフレンドリーに話しかけてきた。口調からして親しい年上の知人のようだ。
……近所のおばちゃんのような話し方なのに、少女化魔物なので外見は完全に少女。
声も若い女の子のものなので、ギャップが少々気になる。
まあ、それを言ったら母さんなんかはもっとぶっ飛んでいるが……。
母さんは二次元キャラ的な分かり易さがあるから、余りそんな感覚はなかったな。
ちょっとしたズレの方がかえって気になってしまうものなのかもしれない。
おっと、余計なことを考えてしまった。
「もう! リヴェスさん! それじゃあ、私に友達がいないみたいじゃないですか!」
対するルトアさんはそう不満げに言いながらも怒っている雰囲気は全くなく、表情にはちょっとだけ困ったような苦笑を浮かべていた。ほとんど普通の笑顔に近い。
そこからも親密さが分かる。
「けど、最近いつも一人だったじゃない」
「補導員事務局で働き出してから、友達と会う機会自体が少なくなりましたから!」
「まあ、そうねえ。就職先が近くだったらまた違うんだけど」
物理的に距離ができて疎遠になる。
自分も経験があるのか、うんうんと頷くリヴェスさんと呼ばれた女性。
話が弾むのはいいことだが、そろそろ紹介ぐらいはして欲しいところだ。
「それよりルトアちゃん。男の子を連れてくるなんて、やるじゃないの。そんな兆候全然なかったのに。一体、どこのどなたなの?」
リヴェスさんの方も俺と同意見のようで、近所のおばちゃん的な無遠慮さと共にルトアさんに問いかけた。
その微妙にからかうような声色に、ルトアさんは少し顔を赤くする。
「……まさか、ホウゲツ学園の新入生をかどわかしてきたんじゃないでしょうね」
「ち、違います違います!」
返事がワンテンポ遅れてしまったせいか、ショタコンによる誘拐的な疑惑を持たれてしまい、こればかりはルトアさんも心底慌てたように否定する。
まあ、今の俺は十七歳ではあるが、まだ第二次性徴を迎えてないからな。
入学し立てというのは冗談としても、年端もいかない子供と思われても仕方がない。
自己紹介してフォローしておこう。
「初めまして。イサク・ファイム・ヨスキと言います。十七歳ではありますが、一応この春からホウゲツ学園の嘱託補導員となりました」
「ええ!?」
その内容に、リヴェスさんは心底驚いたように手を口元にやりながら目を開く。
しかし、さすがは客商売に従事している者と言うべきか――。
「っと、ごめんなさいね」
リヴェスさんはすぐ表情を改め、営業スマイルとは思えない自然な笑顔を浮かべた。
接客の熟練者の技術に感心すると同時に、そんな人がそこまで驚くのだからと改めて十七歳で嘱託補導員というのが常識外であることを自覚させられる。
まあ、兄さんという前例もあるから、そこから一足飛びに救世の転生者であることを察せられることはないだろうが、可能な限り抑え気味に行動しよう。
「私はこの居酒屋ミズホの店主をしているリヴェスです。どうぞご贔屓に」
「あ、はい。よろしくお願いします」
しかし、少女化魔物が店主か。
これもまた少女祭祀国家ホウゲツならではのことかもしれないな。
まあ、折角知り合ったのだから、外食の時には選択肢に入れておこう。
勿論、味がよければの話だが。
「ルトアさんとは?」
「この子は、補導されてホウゲツ学園で教育を受けてた時からの常連なのよ」
「友達と一緒に来たり、時々一人で来てリヴェスさんに相談に乗って貰いました!」
成程。懐いている感じがあったのは、そういう理由があったらしい。
「私は直接少女化魔物として生まれたので母親はいませんが、リヴェスさんといるとこんな感じなのかなって思います!」
「もう。やめて頂戴。照れ臭いから」
「でも、友達もそうじゃない少女化魔物達も皆、言ってました!」
学園都市トコハの(少女化魔物の)母というところか。
いや、占い師ではないけれども。
「ところで、何か頼まなくていいの?」
「あ! 忘れてました!」
リヴェスさんに言われ、慌てたようにメニューを手に取るルトアさん。
いくら親しい仲だとしても、客席に座って雑談だけというのは好ましくない。
「ルトアさんのお勧めは?」
「この店は何を置いても御飯ものです! パンや麺類、ピザなんかもいけますけど!」
「………………い、居酒屋?」
完全に主食だ。
何だか普通の食堂のお勧めを聞いている気分だが……。
「ある理由で最高級の米と麦がありますから! 自家製の清酒やビール、米や麦の焼酎なんかはもう本当に凄いですよ! イサク様は未成年なのでお勧めしないだけです!」
自家製!? と驚くが、この世界なら材料さえあれば祈念魔法で作れそうだ。
「私の手作りよ」
俺の思考を肯定するように、リヴェスさんが自信ありげに言う。
その手の祈念魔法に優れているが故の店主ということか。
何にせよ、本当の自慢が酒類なら居酒屋と名乗って間違いではないはずだ。
「ある理由というのは?」
話の中でそこは少し気になって尋ねる。
「オオゲツヒメの少女化魔物である私の複合発露〈五穀豊穣〉の力で、米や麦、粟や小豆、大豆なんかを好きなだけ作り出せるの。その分のカロリーは必要だけどね」
成程、複合発露の力か。リヴェスさんの言葉に納得する。
実際、イメージさえ確かなら、それこそ究極の品質にもなり得る。
用途に応じて調整も可能かもしれないし。
仕事と複合発露が完全に噛み合っている感じだな。
そういうところのマッチングも少女化魔物を教育する機関の仕事なのだろう。
「最近では、蜜を使った色々な料理も評判なんですよ! ハニートーストなんかは絶品です! ……まあ、厳密にはハニーではないですけど」
「蜂蜜じゃないって、何の蜜なんです? 糖蜜とか?」
「いえ。蜜です!」
「えっと、ですから何の?」
「蜜は蜜なんです!」
何故だか頑なに何の蜜なのか口にしないルトアさん。謎だ。
「実はそっちも少女化魔物の複合発露で作ってるのよ。しばらく前に入った子でヘイズルーンの少女化魔物なの。表には出てこないけどね」
「ハルちゃんが蜜を作ってるところなんて見せられないですもんね!」
そちらも少女化魔物。ハルという名前らしいが……何だろう。
蛤女房とか、異類婚姻譚のいわゆる見るなのタブー的な気配を感じる。
と言うか、この世界なら蛤女房の少女化魔物も普通にいるのかもしれない。
それは余談にしても――。
「一体、どういう作り方を?」
見せられないと言われると気になるのが人情というもの。
首を傾げながら問う。すると――。
「イサク様、エッチなのはいけません!」
「何でだよっ!」
ルトアさんは右手の人差し指を立てながらダメダメと首を横に振り、そんな彼女に思わず丁寧語も忘れて強めに突っ込む。
内容を教えてくれないのにそれは、不当な罵倒にも程があるぞ。
まあ、後でホウゲツ学園の図書館にでも行って調べてみてもいいかもしれない。
戦闘系ではないのは確定なので、優先度は低いが。
「まあ、いいや。ともかく、料理を頼みましょう」
「ですね! 何がいいですか!?」
「うーん…………常連のルトアさんに任せます」
「そうですか? じゃあ、リヴェスさん! いつものを……あ、何人分にします?」
勢い込んで注文しようとしたのをとめて、俺を振り返るルトアさん。
影の中にいるイリュファ達のことも、ちゃんと覚えていてくれたようだ。
周囲を見回せば、盛況な店内。フェリトは出てこられないし、今はテアもいる。
多分、職員寮に帰るまで影から出てこないだろう。
とは言え、当然腹は減る訳で――。
「ルトアさん入れて七人分で」
「ええ!?」
テアの分もとりあえず含め、人数分。
イリュファ達のことを知らないリヴェスさんは当然驚く。
「ああ、実はですね……」
そんな彼女にフェリトの事情を簡潔に説明すると、二度目だからか今度はうまいこと驚きを隠しながら「成程」と納得してくれた。
それからリヴェスさんは奥の厨房に行き、ルトアさんのいつものの調理を指示する。
「イサク様、期待してて下さいね!」
その背中を目線で追いながらニコニコ顔で言うルトアさん。
どうやら相当な好物のようだ。
目的は情報収集だが、折角のいい笑顔なのだから水を差すのも何だ。
腹が減っては何とやら。
まずは腹ごしらえをしてからだな。
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