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第1章 少女が統べる国と嘱託補導員
060 ラクラちゃんと昼食会
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新入生達の流れに乗って校舎から並んで出てくるセト達三人。
何だか少し不機嫌そうな顔をしている。
十中八九、レギオ・フレギウス(ミドルネームの有無は不明)のせいだろう。
「セト、ダン、トバル」
「あ。お兄ちゃん」
「あんちゃん!」
そんなセト達に他の新入生にぶつからないように素早く近づいて呼びかけると、彼らはパッと表情を明るくして顔を上げた。
「お昼は学食?」
「まあ、そこぐらいしか選択肢がないからな」
トバルの問いかけに苦笑しながら頷く。
まだ正式に働き出していないので、お金は両親から持たされた分だけだ。
しばらくの間は学食で我慢するしかない。
昨日学園長の奢りで高級焼き肉店に行っておいて申し訳ないが……。
給料が入ったら、セト達にも外食をさせてあげよう。
「だけど、その前に――」
言いながら、昇降口へと視線を向ける。
三人から遅れること少し。大正時代の女学生風の女の子が一人歩いてきた。
彼女の方は少しどころか滅茶苦茶不機嫌そうだ。
「何なの、アイツ。もう!」
唇を尖らせて、口の中でぶつくさ文句を言っている。
もしかしたら教室を出る前にまた絡まれたのかもしれない。
「ラクラちゃん」
その彼女に声をかけると、ビクッとして警戒するように俺を見た。
「……何?」
「ああ、急にごめん。アシェルさんとアンナさんに一緒に食事をと言われててね」
「パ……お父さんとお母さんが?」
両親の名前を告げられ、ほんの少しだけ警戒を和らげて尋ねてくるラクラちゃん。
関係ない話だが、どうやら普段はパパ、ママと呼んでいるようだ。可愛らしい。
「うん。ウチの子達とクラスメイトみたいだから親睦を深めたいって」
そんな彼女に、チラッとセト達に目をやりながら言う。
ラクラちゃんは俺の視線を辿り、アッというような顔をした。
「えっと確か……」
「セトとダンとトバル。セトは俺の実の弟で、ダンとトバルも弟みたいなものだよ」
軽く紹介するもセト達は今一状況が掴めていないのか、あるいは初めての同年代の女の子を前にして緊張しているのか、三人共微妙に反応が鈍い。
とは言え、彼らもちゃんと彼女の顔に覚えはあるようだ。そんな顔をしている。
レギオにイチャモンをつけられた時に、自分達の代わりに文句を言ってくれたのだから印象は強く残っているに違いない。
「で、俺はイサク。一応、三人の保護者だ。よろしく」
「……よろしくお願いします」
これまでの会話から、同じぐらいの体格でも俺が年上だと気づいたらしい。
ラクラちゃんは敬語に直して丁寧に頭を下げる。
逆に固くなってしまったようだが、それでも警戒心自体はほとんどなくなったようだ。
セト達の存在が俺の言葉をほぼ証明しているからだろう。
「まあ、ここで話し込んでても何だし、アシェルさん達のところに行こうか」
「はい」
俺がそう言って一歩踏み出しながら促すと、彼女もまた頷いて歩き出す。
両親との待ち合わせ場所の方向と一致しているからか、逡巡もない。
「ほら、セト達も行くぞ」
歩きながら振り返り、まだ思考が追いついていない風だったセト達に言う。
「あ、うん」
すると、彼らもまた慌てて俺達の後に続いた。
ちょっと強引だが、ここは我慢して欲しい。
同郷三人で固まって排他的になるのは、多分彼らのためにもならないだろうから。
そんなことは分かってる、余計なお世話だとなるならそれはそれでいいけども。
「あ、イサク君。ラクラもつれてきてくれたのかい?」
「弟達と合流した時に通りかかったので」
校門に着くとアシェルさんが手を上げながら相好を崩し、それに俺もまた笑顔で答えた。
その応答の間に、ラクラちゃんはトトッとアンナさんの傍に行く。
「じゃあ、学食に行きましょうか」
「あ、アンナさん。ちょっと待って下さい」
早速その方向へと歩き出そうとしたアンナさんを制止し、俺は促すように周囲を見た。
校門には同じように待ち合わせをし、保護者と共に校内に戻る新入生達の姿がある。
彼らも昼食に学食を利用するつもりに違いない。それだけに――。
「多分、学生用の学食はかなり混雑してると思いますよ」
勿論、何時間と待つことはないはずだが、騒がしくて落ち着くことはできないだろう。
「そうは言いますけど、食事できる場所は他に知りませんし……」
「大丈夫です。俺についてきて下さい」
困ったように言うアンナさんに、胸を叩いて言う。
学食の混雑は毎年のことのようで、トリリス様がアドバイスをくれたのだ。
そして新入生とその親の流れから外れ、校内を少し移動した先。
「ここです」
俺が住み始めた職員寮が近くにある、一見すると何の変哲もない建物。
先導するように中に入ると――。
「こんなところに学食が?」
「いえ、主に職員が使う食堂です。もっとも、別に生徒や外部の人間は使用禁止という訳ではないとのことですが。ただ、新入生は基本的に知らないので……」
「ガラガラですね」
感心したようにラクラちゃんが呟く。
食堂には教職員らしき大人と、兄弟や先輩から聞いたと思しき新入生とその親が数名。
席は半分以上が空いている。
ちなみに普段は普段で、教室から半端に遠い位置にあるため、生徒の利用者は少ない。
「あ、シモン先生だ」
と、セトが奥の方で一人淡々と昼食を取る大人を見て、ハッとしたように言った。
「ん? もしかして担任の?」
「うん」
「おっと、それは挨拶しておかないと」
俺の問いに頷いたセトを見て、アシェルさんがシモン先生に近づこうとする。
「アナタ」
それを、アンナさんは彼の腕を掴んで制止した。
「お食事を邪魔するのは……」
「しかし、ここで挨拶をしないのも失礼だろう?」
「まあ、最低限で済ませればいいでしょう」
アンナさんの遠慮もアシェルさんの考えも間違いではない。
この場は折衷案でいいだろう。
そうして、皆連れ立ってシモン先生のところに向かう。
恐らく祈念魔法によって眼鏡が曇らないようにしながらラーメンを食べていた彼は、接近する俺達に気づいて顔を上げた。
「セト君、ダン君、トバル君。それにラクラさん。よくこの食堂を知っていましたね」
セト達は前日に顔を合わせていたはずだし、ラクラちゃんはクラス唯一の女の子。
だから、という訳かは分からないか、ちゃんと顔と名前が一致しているようだ。
「そちらは――」
「俺は、いや、私はラクラの父親のアシェルと申します」
「母親のアンナです」
「これはどうも。担任のシモン・メンプターです。ラクラさんの担任となりました」
箸を置き、立ち上がって慇懃に頭を下げるシモン先生。
和服ではなく普通にスーツ姿だが、背が高いとそっちの方が似合っている。
「シモン先生、娘のこと。よろしくお願いします」
「勿論です。彼女が自身の夢を叶えられるように全力を尽くします」
シモン先生はそう真摯に答えると、今度は俺の方を向いた。
「君は、もしかしてイサク君でしょうか」
「あ、はい」
「トリリス様から聞いています。例の件はいつでもどうぞ」
「ありがとうございます。セト達のことも、よろしくお願いします。……では」
礼をして、アシェルさん達に目配せをしてシモン先生から離れる。
一先ず挨拶はこれぐらいでいいだろう。
「学園長と知り合いなんですか?」
と、シモン先生との会話からそう判断したのか、アンナさんが尋ねてきた。
「昨日会ったばかりですけどね。明日から学園の嘱託補導員として働くことになるので」
「え? 嘱託補導員!?」
俺の返答にラクラちゃんが驚きの声を上げた。
アシェルさんとアンナさんも似たような表情を浮かべている。
「本当ですか!?」
それから軽く身を乗り出し、キラキラした目で見詰めてくるラクラちゃん。
尊敬の眼差しという感じだ。
「レスティア様がかつてこのホウゲツ学園に所属し、今で言う嘱託補導員のようなことをしていたので憧れているんですよ」
ラクラちゃんの反応の理由をアンナさんが言う。成程。
「しかし、その歳で。凄いね」
「ま、まあ、色々あって。それより昼食にしましょう」
余り感嘆されるとむず痒い。なので話を変えて促す。
それもそうだとアシェルさん達は頷き、俺達はカウンターへ向かった。
ここの食堂はいわゆるカフェテリア方式で一部の例外(麺類など)を除き、あらかじめ調理されて並んでいる料理から自分で好きなものを選んでいく形だ。
そうして選び終わったらレジで精算する。
さて、今日は何を食べようか。……っと、その前に。
「フェリト。どうする?」
「……ごめん」
「分かった。イリュファ、リクル、サユキ。悪いけど――」
「承知しました」「です」「うん。分かってる」
「イ、イサク君?」
影に向かって会話し始めた俺と聞こえてきた声に、アシェルさん達は目を丸くした。
直後、イリュファとリクルとサユキが影の中から出てきて、一層驚いた表情を見せる。
「えっと、イサクさんが契約してる少女化魔物ですか?」
「その通りです。私はイリュファと申します。イサク様の忠実なメイドでもあります」
「リクルです。ご主人様の僕、です」
「サユキはサユキ。イサクのお嫁さんだよ」
楽しげに腕を組んでくるサユキの姿に、特に戸惑い顔になるアシェルさん達。
「えっと、もしかして真性少女契約を?」
「まあ、そういうこと。サユキとだけだけどね」
ラクラちゃんの問いに肯定を返すと、彼女達は納得したようだった。
「もう一人いるんだけど、ちょっと人間にトラウマがあって。まだ、もっと人のいないところじゃないと外に出てこれないんだ」
「影の中からごめんなさい。私はフェリト。イサクとは協力し合う同志みたいなものよ」
申し訳なさそうに言うフェリト。少なくともアシェルさん達に恐怖心はないようだ。
もっと狭くて、彼らだけだったら外に出ていたかもしれない。
「あんちゃん、腹減った」
「おっと、そうだったな」
ダンに服を引っ張られ、立ち話をやめてカウンターに並んだ料理の前に向かう。
イリュファ達も一緒に、フェリトに何が食べたいか聞きながら。
それから清算を済ませると、彼女達は料理を持って影の中に戻っていった。
そしてテーブルに着き、いただきますをして食べ始める。
少しして――。
「イサクさんって何歳なんですか?」
好きに選んだ結果、ハンバーグ定食になっているラクラちゃんが尋ねてきた。
「十七だよ。五歳年上だね」
対して、俺は生姜焼き定食を食べる手を止めて答える。
……何か、俺に興味が出てるみたいだな。
困るぞ。人外ロリならともかく、違法ロリは対象外だ。
いや、それはさすがに自意識過剰にも程があるな。
俺と言うより、単に嘱託補導員に興味があるだけだろう。
「五年かあ。ボクもイサクさんみたいになれるかなあ」
「それは――」
「無理だよ」
と、セトがラクラちゃんの言葉に少し困りながら口を開いた俺を遮り、カレーライス用のスプーンを置いてきっぱりと言った。
ちょっと冷たく聞こえるぐらいに。
「……それはボクが女だから?」
「違うよ。先生が言ってたじゃないか。誰かと比較するのは時間の無駄。自分の望む自分を目指せって。おに……兄さんみたいなんて言ってたら遠ざかるだけだよ」
ムッとした様子のラクラちゃんに対し、きりっとした顔で言うセト。
おお。何か弟が格好いいぞ。
いつの間にか子供は成長するものだ。
……いや、これは何かあれだな。この微妙に緊張した表情。
ラクラちゃんを意識してるっぽいな。
恋愛的な意味合いかどうかは分からないが。
いずれにせよ、初めて会う同年代の女の子だ。無理もないことだろう。
「あんちゃんも前に言ってたっけ。一番大事なのは自分の意思を強く持つことだって」
ダンがオムライスのケチャップで口元を汚しながら言う。
トバルは小さく頷いて同意し、蕎麦を啜る作業に戻る。
一応、皆アドバイスのつもりかもしれないが、微妙に配慮が足りない気がする。
さすがに十二歳にそこまで求めるのは酷な話だが。
「ラクラちゃんはまだ十二歳だ。可能性は無限大にある。俺みたいに、なんて枠を作ってたら勿体ない。もっと凄い人間にだってなれるかもしれないじゃないか」
だから俺は、微妙に仏頂面になっているラクラちゃんに諭すように言った。
すると、彼女はそういう意味かと合点がいったように表情を和らげた。
最低限のフォローにはなってくれたようだ。
何より――。
「三人共。今度あの馬鹿が何か言ってきたら、さっきボクに言ったみたいにハッキリと言い返さないと駄目だよ」
それ以降、軽く怒りを抱いたおかげか遠慮が薄れたらしく、セト達と普通に気安い口調で話をするようになったのは俺とアシェルさん夫妻にとっても収穫だった。
お二人も満足そうだ。
やがて俺達は昼食を終え――。
「じゃあ、三人共。また明日。それとイサクさん、今度ボクにも色々教えて下さいね」
アシェルさん達と一緒に学園都市トコハの観光に行くということで、ラクラちゃんはそう言うと彼らと共に去っていった。
「……セト、ダン、トバル。ラクラちゃんと仲よくするんだぞ」
「う、うん」「うん」「分かった」
その背中を見送りながら三者三様に頷く三人に、俺は彼らの学園生活が豊かなものになることを祈ったのだった。
何だか少し不機嫌そうな顔をしている。
十中八九、レギオ・フレギウス(ミドルネームの有無は不明)のせいだろう。
「セト、ダン、トバル」
「あ。お兄ちゃん」
「あんちゃん!」
そんなセト達に他の新入生にぶつからないように素早く近づいて呼びかけると、彼らはパッと表情を明るくして顔を上げた。
「お昼は学食?」
「まあ、そこぐらいしか選択肢がないからな」
トバルの問いかけに苦笑しながら頷く。
まだ正式に働き出していないので、お金は両親から持たされた分だけだ。
しばらくの間は学食で我慢するしかない。
昨日学園長の奢りで高級焼き肉店に行っておいて申し訳ないが……。
給料が入ったら、セト達にも外食をさせてあげよう。
「だけど、その前に――」
言いながら、昇降口へと視線を向ける。
三人から遅れること少し。大正時代の女学生風の女の子が一人歩いてきた。
彼女の方は少しどころか滅茶苦茶不機嫌そうだ。
「何なの、アイツ。もう!」
唇を尖らせて、口の中でぶつくさ文句を言っている。
もしかしたら教室を出る前にまた絡まれたのかもしれない。
「ラクラちゃん」
その彼女に声をかけると、ビクッとして警戒するように俺を見た。
「……何?」
「ああ、急にごめん。アシェルさんとアンナさんに一緒に食事をと言われててね」
「パ……お父さんとお母さんが?」
両親の名前を告げられ、ほんの少しだけ警戒を和らげて尋ねてくるラクラちゃん。
関係ない話だが、どうやら普段はパパ、ママと呼んでいるようだ。可愛らしい。
「うん。ウチの子達とクラスメイトみたいだから親睦を深めたいって」
そんな彼女に、チラッとセト達に目をやりながら言う。
ラクラちゃんは俺の視線を辿り、アッというような顔をした。
「えっと確か……」
「セトとダンとトバル。セトは俺の実の弟で、ダンとトバルも弟みたいなものだよ」
軽く紹介するもセト達は今一状況が掴めていないのか、あるいは初めての同年代の女の子を前にして緊張しているのか、三人共微妙に反応が鈍い。
とは言え、彼らもちゃんと彼女の顔に覚えはあるようだ。そんな顔をしている。
レギオにイチャモンをつけられた時に、自分達の代わりに文句を言ってくれたのだから印象は強く残っているに違いない。
「で、俺はイサク。一応、三人の保護者だ。よろしく」
「……よろしくお願いします」
これまでの会話から、同じぐらいの体格でも俺が年上だと気づいたらしい。
ラクラちゃんは敬語に直して丁寧に頭を下げる。
逆に固くなってしまったようだが、それでも警戒心自体はほとんどなくなったようだ。
セト達の存在が俺の言葉をほぼ証明しているからだろう。
「まあ、ここで話し込んでても何だし、アシェルさん達のところに行こうか」
「はい」
俺がそう言って一歩踏み出しながら促すと、彼女もまた頷いて歩き出す。
両親との待ち合わせ場所の方向と一致しているからか、逡巡もない。
「ほら、セト達も行くぞ」
歩きながら振り返り、まだ思考が追いついていない風だったセト達に言う。
「あ、うん」
すると、彼らもまた慌てて俺達の後に続いた。
ちょっと強引だが、ここは我慢して欲しい。
同郷三人で固まって排他的になるのは、多分彼らのためにもならないだろうから。
そんなことは分かってる、余計なお世話だとなるならそれはそれでいいけども。
「あ、イサク君。ラクラもつれてきてくれたのかい?」
「弟達と合流した時に通りかかったので」
校門に着くとアシェルさんが手を上げながら相好を崩し、それに俺もまた笑顔で答えた。
その応答の間に、ラクラちゃんはトトッとアンナさんの傍に行く。
「じゃあ、学食に行きましょうか」
「あ、アンナさん。ちょっと待って下さい」
早速その方向へと歩き出そうとしたアンナさんを制止し、俺は促すように周囲を見た。
校門には同じように待ち合わせをし、保護者と共に校内に戻る新入生達の姿がある。
彼らも昼食に学食を利用するつもりに違いない。それだけに――。
「多分、学生用の学食はかなり混雑してると思いますよ」
勿論、何時間と待つことはないはずだが、騒がしくて落ち着くことはできないだろう。
「そうは言いますけど、食事できる場所は他に知りませんし……」
「大丈夫です。俺についてきて下さい」
困ったように言うアンナさんに、胸を叩いて言う。
学食の混雑は毎年のことのようで、トリリス様がアドバイスをくれたのだ。
そして新入生とその親の流れから外れ、校内を少し移動した先。
「ここです」
俺が住み始めた職員寮が近くにある、一見すると何の変哲もない建物。
先導するように中に入ると――。
「こんなところに学食が?」
「いえ、主に職員が使う食堂です。もっとも、別に生徒や外部の人間は使用禁止という訳ではないとのことですが。ただ、新入生は基本的に知らないので……」
「ガラガラですね」
感心したようにラクラちゃんが呟く。
食堂には教職員らしき大人と、兄弟や先輩から聞いたと思しき新入生とその親が数名。
席は半分以上が空いている。
ちなみに普段は普段で、教室から半端に遠い位置にあるため、生徒の利用者は少ない。
「あ、シモン先生だ」
と、セトが奥の方で一人淡々と昼食を取る大人を見て、ハッとしたように言った。
「ん? もしかして担任の?」
「うん」
「おっと、それは挨拶しておかないと」
俺の問いに頷いたセトを見て、アシェルさんがシモン先生に近づこうとする。
「アナタ」
それを、アンナさんは彼の腕を掴んで制止した。
「お食事を邪魔するのは……」
「しかし、ここで挨拶をしないのも失礼だろう?」
「まあ、最低限で済ませればいいでしょう」
アンナさんの遠慮もアシェルさんの考えも間違いではない。
この場は折衷案でいいだろう。
そうして、皆連れ立ってシモン先生のところに向かう。
恐らく祈念魔法によって眼鏡が曇らないようにしながらラーメンを食べていた彼は、接近する俺達に気づいて顔を上げた。
「セト君、ダン君、トバル君。それにラクラさん。よくこの食堂を知っていましたね」
セト達は前日に顔を合わせていたはずだし、ラクラちゃんはクラス唯一の女の子。
だから、という訳かは分からないか、ちゃんと顔と名前が一致しているようだ。
「そちらは――」
「俺は、いや、私はラクラの父親のアシェルと申します」
「母親のアンナです」
「これはどうも。担任のシモン・メンプターです。ラクラさんの担任となりました」
箸を置き、立ち上がって慇懃に頭を下げるシモン先生。
和服ではなく普通にスーツ姿だが、背が高いとそっちの方が似合っている。
「シモン先生、娘のこと。よろしくお願いします」
「勿論です。彼女が自身の夢を叶えられるように全力を尽くします」
シモン先生はそう真摯に答えると、今度は俺の方を向いた。
「君は、もしかしてイサク君でしょうか」
「あ、はい」
「トリリス様から聞いています。例の件はいつでもどうぞ」
「ありがとうございます。セト達のことも、よろしくお願いします。……では」
礼をして、アシェルさん達に目配せをしてシモン先生から離れる。
一先ず挨拶はこれぐらいでいいだろう。
「学園長と知り合いなんですか?」
と、シモン先生との会話からそう判断したのか、アンナさんが尋ねてきた。
「昨日会ったばかりですけどね。明日から学園の嘱託補導員として働くことになるので」
「え? 嘱託補導員!?」
俺の返答にラクラちゃんが驚きの声を上げた。
アシェルさんとアンナさんも似たような表情を浮かべている。
「本当ですか!?」
それから軽く身を乗り出し、キラキラした目で見詰めてくるラクラちゃん。
尊敬の眼差しという感じだ。
「レスティア様がかつてこのホウゲツ学園に所属し、今で言う嘱託補導員のようなことをしていたので憧れているんですよ」
ラクラちゃんの反応の理由をアンナさんが言う。成程。
「しかし、その歳で。凄いね」
「ま、まあ、色々あって。それより昼食にしましょう」
余り感嘆されるとむず痒い。なので話を変えて促す。
それもそうだとアシェルさん達は頷き、俺達はカウンターへ向かった。
ここの食堂はいわゆるカフェテリア方式で一部の例外(麺類など)を除き、あらかじめ調理されて並んでいる料理から自分で好きなものを選んでいく形だ。
そうして選び終わったらレジで精算する。
さて、今日は何を食べようか。……っと、その前に。
「フェリト。どうする?」
「……ごめん」
「分かった。イリュファ、リクル、サユキ。悪いけど――」
「承知しました」「です」「うん。分かってる」
「イ、イサク君?」
影に向かって会話し始めた俺と聞こえてきた声に、アシェルさん達は目を丸くした。
直後、イリュファとリクルとサユキが影の中から出てきて、一層驚いた表情を見せる。
「えっと、イサクさんが契約してる少女化魔物ですか?」
「その通りです。私はイリュファと申します。イサク様の忠実なメイドでもあります」
「リクルです。ご主人様の僕、です」
「サユキはサユキ。イサクのお嫁さんだよ」
楽しげに腕を組んでくるサユキの姿に、特に戸惑い顔になるアシェルさん達。
「えっと、もしかして真性少女契約を?」
「まあ、そういうこと。サユキとだけだけどね」
ラクラちゃんの問いに肯定を返すと、彼女達は納得したようだった。
「もう一人いるんだけど、ちょっと人間にトラウマがあって。まだ、もっと人のいないところじゃないと外に出てこれないんだ」
「影の中からごめんなさい。私はフェリト。イサクとは協力し合う同志みたいなものよ」
申し訳なさそうに言うフェリト。少なくともアシェルさん達に恐怖心はないようだ。
もっと狭くて、彼らだけだったら外に出ていたかもしれない。
「あんちゃん、腹減った」
「おっと、そうだったな」
ダンに服を引っ張られ、立ち話をやめてカウンターに並んだ料理の前に向かう。
イリュファ達も一緒に、フェリトに何が食べたいか聞きながら。
それから清算を済ませると、彼女達は料理を持って影の中に戻っていった。
そしてテーブルに着き、いただきますをして食べ始める。
少しして――。
「イサクさんって何歳なんですか?」
好きに選んだ結果、ハンバーグ定食になっているラクラちゃんが尋ねてきた。
「十七だよ。五歳年上だね」
対して、俺は生姜焼き定食を食べる手を止めて答える。
……何か、俺に興味が出てるみたいだな。
困るぞ。人外ロリならともかく、違法ロリは対象外だ。
いや、それはさすがに自意識過剰にも程があるな。
俺と言うより、単に嘱託補導員に興味があるだけだろう。
「五年かあ。ボクもイサクさんみたいになれるかなあ」
「それは――」
「無理だよ」
と、セトがラクラちゃんの言葉に少し困りながら口を開いた俺を遮り、カレーライス用のスプーンを置いてきっぱりと言った。
ちょっと冷たく聞こえるぐらいに。
「……それはボクが女だから?」
「違うよ。先生が言ってたじゃないか。誰かと比較するのは時間の無駄。自分の望む自分を目指せって。おに……兄さんみたいなんて言ってたら遠ざかるだけだよ」
ムッとした様子のラクラちゃんに対し、きりっとした顔で言うセト。
おお。何か弟が格好いいぞ。
いつの間にか子供は成長するものだ。
……いや、これは何かあれだな。この微妙に緊張した表情。
ラクラちゃんを意識してるっぽいな。
恋愛的な意味合いかどうかは分からないが。
いずれにせよ、初めて会う同年代の女の子だ。無理もないことだろう。
「あんちゃんも前に言ってたっけ。一番大事なのは自分の意思を強く持つことだって」
ダンがオムライスのケチャップで口元を汚しながら言う。
トバルは小さく頷いて同意し、蕎麦を啜る作業に戻る。
一応、皆アドバイスのつもりかもしれないが、微妙に配慮が足りない気がする。
さすがに十二歳にそこまで求めるのは酷な話だが。
「ラクラちゃんはまだ十二歳だ。可能性は無限大にある。俺みたいに、なんて枠を作ってたら勿体ない。もっと凄い人間にだってなれるかもしれないじゃないか」
だから俺は、微妙に仏頂面になっているラクラちゃんに諭すように言った。
すると、彼女はそういう意味かと合点がいったように表情を和らげた。
最低限のフォローにはなってくれたようだ。
何より――。
「三人共。今度あの馬鹿が何か言ってきたら、さっきボクに言ったみたいにハッキリと言い返さないと駄目だよ」
それ以降、軽く怒りを抱いたおかげか遠慮が薄れたらしく、セト達と普通に気安い口調で話をするようになったのは俺とアシェルさん夫妻にとっても収穫だった。
お二人も満足そうだ。
やがて俺達は昼食を終え――。
「じゃあ、三人共。また明日。それとイサクさん、今度ボクにも色々教えて下さいね」
アシェルさん達と一緒に学園都市トコハの観光に行くということで、ラクラちゃんはそう言うと彼らと共に去っていった。
「……セト、ダン、トバル。ラクラちゃんと仲よくするんだぞ」
「う、うん」「うん」「分かった」
その背中を見送りながら三者三様に頷く三人に、俺は彼らの学園生活が豊かなものになることを祈ったのだった。
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その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
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僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
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――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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