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プロローグ ロリコン村の転生者
017 母、妊娠する
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ご懐妊? 弟が生まれる? 本当に?
そりゃあ両親がやることやってたのは知ってたけども。
兄さんの件で父さんが帰ってきてからは諸々の感情で高ぶったのか一層激しく。
何度爆ぜろと思ったことか。
いや、まあ、それはいい。それはいいとしても。
正直、俄かには信じられない。
だが、さすがにこんなことで冗談を言ったりはしないだろう。
「ほ、本当に?」
それでも尚、突然のことで信じ切ることができず確認するように問いかける。
「うむ。間違いない。先程の症状。少女化魔物特有のものじゃからな」
症状との繋がりは分からないが、異世界の異種族特有と言われると黙るしかない。
五歳児として振る舞っている手前、少女化魔物の妊娠に関する具体的な特異性について母さんを質問攻めにする訳にもいかないし。
一先ずイリュファに色々疑問を持っているという視線を送っておく。
そうしておけば後で教えてくれるだろう。
目線が合ったのでアイコンタクトは通じたはず。
だが、イリュファは母さんに不審に思われないように特に反応を示さず口を開いた。
「ファイム様。体調の方は如何ですか?」
「うむ。イサクの時とそう変わらん。少しだるく、酷く空腹じゃ」
「分かりました。念のため、祈念魔法で応急処置をしておきましょう。命の根源に我は希う。『譲渡』『血気』の概念を伴い、第三の力を示せ。〈煉獄〉之〈譲血〉」
そう言ってイリュファが祈念魔法を使うと、彼女は少し苦しげに眉をひそめ、その代わりに母さんの顔色が少しだけよくなった。
「では、一先ず横になっていて下さい。すぐに食事を用意致しますので」
「すまぬな、イリュファ」
「いえ、こういう時のために私はメイドをしていますので」
「それでもじゃ」
母さんはそう微笑を見せながら言うと、やや重い足取りで自分の部屋に向かった。
命に別条はなさそうだが、やはり辛そうだ。
「リクル。ファイム様の傍に。何かあったら知らせて下さい」
「は、はいです!」
イリュファに言われ、リクルは背筋を伸ばして母さんの後を追った。
台所に二人残る形になる。
「実際のところ、どうなんだ?」
母さんが部屋に入ったのを音で確認してから、料理の準備を始めながら同時に保存用の軽食を口にしていたイリュファに尋ねる。
妊娠なのだとしても、普通の人間と違うのであれば危険度が分からない。
と言うか、普通の妊娠だって重大事だ。
「意識を失ったりしてたけど、大丈夫なのか?」
「少女化魔物の妊娠であれば普通のことです。受精の際に体の一部を持っていかれるので。貧血のような状態ですね」
「それでさっきの祈念魔法か」
「はい。少し私の血肉を分け与えました。なので、少々行儀が悪いですが、栄養補給を致しております。お見逃し下さい」
「いや、それは全然構わないけど」
母さんのためにしたことの補填だ。
行儀が悪いなどと非難するつもりは毛頭ない。しかし――。
「普通そんなすぐ血肉になるもんじゃないだろ。母さんもそうだけど、イリュファも体調は大丈夫なのか?」
「心配して下さってありがとうございます。ですが、問題ありません。これでも私も少女化魔物ですから。人間とは消化の仕組みが若干異なります」
その言葉に、ああ、と納得する。
魔物が食事で直接血肉を生成するようなものか。
ならば、即効性があるのだろう。
「しかし、妊娠で体の一部を持っていかれるってどういうことなんだ?」
いや、通常の人間の妊娠だって胎内で母親から栄養を与えられて育つ訳で、体の一部を分け与えていると言えるだろうが。
「少女化魔物の妊娠においては急激に子供の体が構築されるため、文字通り自身の血と肉が直接消費されるのです」
「急激って、どれぐらい」
「おおよそ着床から一週間で出産に至ります」
「はあっ!? 早過ぎだろう!」
十月十日。十ヶ月程度じゃないのか。
「人間を基準にするとそうですね。ただ少女化魔物は人間の思念の集積体たる魔物が進化したものですので」
「……長い間、子供を胎内で育てるってのは、それだけ負担が大きいってことか」
妊娠期間が短くなればいいと思う人は少なくないのだろう。
前世も男である身としては想像の域を出ないが。
それでも十ヶ月もの間、子供を守り続けることが身体的に過酷なのは間違いない。
母というものは偉大だ。
「短期間の方が事故も少ないということもありますしね。ただ、その代わりに急激な成長の分だけ血肉を持っていかれますので、ひたすら食べ続けなければなりませんが」
それで食事の用意という訳か。
「イサク様が熊を獲ってきて下さっていて、助かりました」
そこそこの大きさとは言え熊一頭だ。
さすがに毎日熊肉ではないので、まだまだ余っている。
一応祈念魔法で瞬間冷凍しているので保存は利くだろうが、早く食べるに越したことはない。結果としてタイミングがよかった。
「そう言えば、弟って言ってたけど確定なのか?」
大きな鍋を用意して大量の熊肉シチューを作ろうとしているらしいイリュファに、ふと疑問に思って尋ねる。
「はい。間違いなく弟です」
彼女は手を止めずに答え、更に続けた。
「女の子の場合は意識を失う程の影響はありませんからね。少女化魔物から直接生まれることもなく、世界のどこかで少女化魔物として発生しますので」
「へ、へえ……」
それはまた特殊な。
異世界の異種族ならではの妊娠、出産。何とも興味深い。
しかし、その辺を色々調べるのは一先ず出産が終わってからがいいだろう。
話を聞く限り、これから一週間、修羅場に突入すること間違いないし。
「とりあえずイサク様は村の皆に知らせに行って下さいますか? この村では村人総出で出産をサポートしますので」
子は宝。
掟の関係で微妙に閉鎖的な村だ。特にその傾向は強いだろう。
更には短期決戦となるだけに、どうやら村を上げての一大イベントになるらしい。
俺も色々手伝うことになるのだろう。
とは言え――。
「お、おう。分かった」
今は俺がこの場にいてもイリュファの邪魔にしかならない。
なので、一先ず彼女に言われた通りにするために俺は家を出たのだった。
そりゃあ両親がやることやってたのは知ってたけども。
兄さんの件で父さんが帰ってきてからは諸々の感情で高ぶったのか一層激しく。
何度爆ぜろと思ったことか。
いや、まあ、それはいい。それはいいとしても。
正直、俄かには信じられない。
だが、さすがにこんなことで冗談を言ったりはしないだろう。
「ほ、本当に?」
それでも尚、突然のことで信じ切ることができず確認するように問いかける。
「うむ。間違いない。先程の症状。少女化魔物特有のものじゃからな」
症状との繋がりは分からないが、異世界の異種族特有と言われると黙るしかない。
五歳児として振る舞っている手前、少女化魔物の妊娠に関する具体的な特異性について母さんを質問攻めにする訳にもいかないし。
一先ずイリュファに色々疑問を持っているという視線を送っておく。
そうしておけば後で教えてくれるだろう。
目線が合ったのでアイコンタクトは通じたはず。
だが、イリュファは母さんに不審に思われないように特に反応を示さず口を開いた。
「ファイム様。体調の方は如何ですか?」
「うむ。イサクの時とそう変わらん。少しだるく、酷く空腹じゃ」
「分かりました。念のため、祈念魔法で応急処置をしておきましょう。命の根源に我は希う。『譲渡』『血気』の概念を伴い、第三の力を示せ。〈煉獄〉之〈譲血〉」
そう言ってイリュファが祈念魔法を使うと、彼女は少し苦しげに眉をひそめ、その代わりに母さんの顔色が少しだけよくなった。
「では、一先ず横になっていて下さい。すぐに食事を用意致しますので」
「すまぬな、イリュファ」
「いえ、こういう時のために私はメイドをしていますので」
「それでもじゃ」
母さんはそう微笑を見せながら言うと、やや重い足取りで自分の部屋に向かった。
命に別条はなさそうだが、やはり辛そうだ。
「リクル。ファイム様の傍に。何かあったら知らせて下さい」
「は、はいです!」
イリュファに言われ、リクルは背筋を伸ばして母さんの後を追った。
台所に二人残る形になる。
「実際のところ、どうなんだ?」
母さんが部屋に入ったのを音で確認してから、料理の準備を始めながら同時に保存用の軽食を口にしていたイリュファに尋ねる。
妊娠なのだとしても、普通の人間と違うのであれば危険度が分からない。
と言うか、普通の妊娠だって重大事だ。
「意識を失ったりしてたけど、大丈夫なのか?」
「少女化魔物の妊娠であれば普通のことです。受精の際に体の一部を持っていかれるので。貧血のような状態ですね」
「それでさっきの祈念魔法か」
「はい。少し私の血肉を分け与えました。なので、少々行儀が悪いですが、栄養補給を致しております。お見逃し下さい」
「いや、それは全然構わないけど」
母さんのためにしたことの補填だ。
行儀が悪いなどと非難するつもりは毛頭ない。しかし――。
「普通そんなすぐ血肉になるもんじゃないだろ。母さんもそうだけど、イリュファも体調は大丈夫なのか?」
「心配して下さってありがとうございます。ですが、問題ありません。これでも私も少女化魔物ですから。人間とは消化の仕組みが若干異なります」
その言葉に、ああ、と納得する。
魔物が食事で直接血肉を生成するようなものか。
ならば、即効性があるのだろう。
「しかし、妊娠で体の一部を持っていかれるってどういうことなんだ?」
いや、通常の人間の妊娠だって胎内で母親から栄養を与えられて育つ訳で、体の一部を分け与えていると言えるだろうが。
「少女化魔物の妊娠においては急激に子供の体が構築されるため、文字通り自身の血と肉が直接消費されるのです」
「急激って、どれぐらい」
「おおよそ着床から一週間で出産に至ります」
「はあっ!? 早過ぎだろう!」
十月十日。十ヶ月程度じゃないのか。
「人間を基準にするとそうですね。ただ少女化魔物は人間の思念の集積体たる魔物が進化したものですので」
「……長い間、子供を胎内で育てるってのは、それだけ負担が大きいってことか」
妊娠期間が短くなればいいと思う人は少なくないのだろう。
前世も男である身としては想像の域を出ないが。
それでも十ヶ月もの間、子供を守り続けることが身体的に過酷なのは間違いない。
母というものは偉大だ。
「短期間の方が事故も少ないということもありますしね。ただ、その代わりに急激な成長の分だけ血肉を持っていかれますので、ひたすら食べ続けなければなりませんが」
それで食事の用意という訳か。
「イサク様が熊を獲ってきて下さっていて、助かりました」
そこそこの大きさとは言え熊一頭だ。
さすがに毎日熊肉ではないので、まだまだ余っている。
一応祈念魔法で瞬間冷凍しているので保存は利くだろうが、早く食べるに越したことはない。結果としてタイミングがよかった。
「そう言えば、弟って言ってたけど確定なのか?」
大きな鍋を用意して大量の熊肉シチューを作ろうとしているらしいイリュファに、ふと疑問に思って尋ねる。
「はい。間違いなく弟です」
彼女は手を止めずに答え、更に続けた。
「女の子の場合は意識を失う程の影響はありませんからね。少女化魔物から直接生まれることもなく、世界のどこかで少女化魔物として発生しますので」
「へ、へえ……」
それはまた特殊な。
異世界の異種族ならではの妊娠、出産。何とも興味深い。
しかし、その辺を色々調べるのは一先ず出産が終わってからがいいだろう。
話を聞く限り、これから一週間、修羅場に突入すること間違いないし。
「とりあえずイサク様は村の皆に知らせに行って下さいますか? この村では村人総出で出産をサポートしますので」
子は宝。
掟の関係で微妙に閉鎖的な村だ。特にその傾向は強いだろう。
更には短期決戦となるだけに、どうやら村を上げての一大イベントになるらしい。
俺も色々手伝うことになるのだろう。
とは言え――。
「お、おう。分かった」
今は俺がこの場にいてもイリュファの邪魔にしかならない。
なので、一先ず彼女に言われた通りにするために俺は家を出たのだった。
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