上 下
5 / 396
プロローグ ロリコン村の転生者

005 ロリータ、ロリコン、ピグマリオン

しおりを挟む
「それでは何から説明致しましょうか」

 どこか機嫌がよさそうなイリュファが尋ねてくる。
 この世界に転生した日から約二年半。
 ついに父親の謎のロリコン発言の真意を知る時が来たのだ。
 代償としてイリュファに転生者である証拠を掴まれた挙句、自分を道具として使って欲しいなどと言う奇妙な従者を得ることになってしまったが。
 ともかく話を進めよう。

「なら、まずはロリコンについて教えてくれ。会う人皆から言われるけど訳分からん」
「畏まりました。……と言いたいところですが、ロリコンを説明するにはまずロリータを、ロリータを説明するには魔物を説明しなければなりません」
「……魔物、か」

 絵本にも登場していたので知っていたけど、この世界、本当にファンタジー的だな。
 大陸の形は同じなのに。
 疑問は深まるばかりだが、今は一先ず当初の目的を果たそう。

「なら、順を追って頼む」
「はい。イサク様」

 そうしてイリュファは説明を始めた。

「まず魔物とは人間の思念の集積体です。特に抑圧された人間の欲望が性質に色濃く反映されるため、人間を害するものがほとんどとなります」

 動物が魔力やら何やらの不可思議パワーで突然変異した、とかではない訳か。
 どうやら傍迷惑な法則システムがあるみたいだな。この世界。

「その中でも特に強大な魔物が何らかの切っかけで進化し、少女のような外見に変化したものがロリータ。少女化魔物とも呼ばれるものです」
「いやいやいやいや、何で見た目が少女みたいになるんだよ!」

 一足飛び過ぎて思わず突っ込む。
 どこの課金ガチャがありそうなゲームだ。

「元が人間の思念の集積体ですからね。存在が極めて強固になれば、その形は自然と人間に近づいていくでしょう」
「ああ……まあ、そこはいいけど、少女になる理由は」
「あくまで仮説ですが……少女という区分は人間にとって色々な意味で特別だからではないかと考えられています」
「特別?」
「はい。男にとっては本能が強く求め、しかし、理性が禁忌とするある種の憧れの対象として。女にとっては若さと無垢なる美そのものとして。頑なに否定する者があることもまた執着の裏返し」

 人外専門とは言えロリコンである身としては、少女というものに対する崇拝、一種の信仰が存在することは理解できなくない話だ。
 加えて、そうしたあり方を社会的に強固に排斥しようとする考えもまた、逆に少女という区分の特殊性を殊更際立たせてしまうものでもある、と。
 凸でも凹でも結局目立つということだろう。

「どのような形にせよ、その区分には他と比較して様々な思いが集中している。人間の思念の集積体たる魔物が人の形を取る際に影響がないとは思えません」

 それは確かにそうかもしれない。

「また、少女化魔物はその行動パターンから、人間の剥き出しの生と希望、生きるための欲求の影響が色濃いとも推測されています。あるいは、少女というものは人間にとって生と希望の象徴なのかもしれませんね」
「生きるための欲求。生と希望の象徴、か」

 生命力と可能性溢れる若年期。多感な時期。
 それに加え、前述の少女という区分が持つ特別な意味。
 ロリコン的には納得できなくもない話だが……まあ、所詮は仮説や推論。
 実態がどうかは分からない。
 だが、実際そうである以上、そういう世界だと思っておくしかないか。

「説明に戻ります」
「ああ」
「少女化魔物は個体差が大きく、魔物に毛の生えた程度の理性しか持たない者から、人間に近い高い知性や豊富な知識を持つ者まで幅広く存在します。これは元になった魔物の性質、蓄積してきた経験に大きく依存しているようですね」

 イリュファはそこで一旦息を継ぎ、「そして」と前置きしてさらに続ける。

「どのような少女化魔物でも、それぞれ特殊な固有の能力を持ちます。その力は強大で、それ故に少女化魔物の行動は意図するしないに関わらず、人間社会に被害をもたらすものがほとんどです」

 魔物という名を冠しているだけあって、基本的に有害と思って間違いではないらしい。
 通常の魔物より話が通じる可能性が高そうだけど、どちらにせよ大元は人間の思念だ。
 強大な力を持って考えを歪ませてしまう人間が掃いて捨てる程いるように、少女化魔物がそうなって人間に害をなすのも無理からぬことだろう。
 剥き出しの生と希望。生きるための欲求。赴くままに行動すれば、社会は成り立たない。
 それはそれとして――。

「……イリュファもそうなのか?」

 自分で自分のことをロリータだと口にしていたが。
 年齢が百歳以上という発言も加味して考えると、そのロリータは正に少女化魔物の意味で言っていたと思っていいはずだ。

「はい。私はゴーストの少女化魔物です。一応ジャスター様と少女契約ロリータコントラクトを結んでおりますので、危険はありませんよ」
少女契約ロリータコントラクト?」
「少女化魔物に認めさせることで可能となる主従契約です。少女化魔物は契約者にその力を貸し与える代わりに、より確かな自我と社会的な権利を得ることができます。そして……少女化魔物とこの契約を交わした者のことを少女化魔物征服者ロリータコンカラー略して少女征服者ロリコンと呼ぶのです」
少女化魔物征服者ロリータコンカラー……少女征服者ロリコン……それが」

 それこそが謎の発言の真実。
 前世の、いわゆるロリータコンプレックスとは根本的に違う言葉だったようだ。
 ちょっとホッとする。

「ちなみに、少女契約のより細かい契約内容は互いの取り決め次第です。ジャスター様の場合は共に戦う仲間としての意識が強かったようですね。契約内容もそのような方向性でしたし。ただ一人を除いては」
「イリュファのことか? メイドだし」
「いいえ。私は趣味と実益を兼ねてメイドをしているだけです。ビジネスライクな関係ですし、時期が来たらイサク様と契約するつもりです。特別なのはファイム様のことですよ」
「母さん? 母さんも少女化魔物なのか?」
「はい。ファイム様は火竜レッドドラゴンの少女化魔物ですね」

 俺の問いに首肯しながら告げるイリュファ。
 いや、まあ、今まで話を聞く限り、容易に予想できたことかもしれないが。
 さすがに子供がいてあれだけ幼い姿というのはあり得ないし。
 合法ロリなんて二次元だけの幻想だし、だとすれば残る可能性は人外ロリしかない。
 しかし、ドラゴンとか中二心が疼くな。

「ってか、少女化魔物って子供作れるのか?」
「はい。人間と少女化魔物とが深く愛し合うことで少女契約は真性少女契約となり、強大な力を得ると共に子をなすことができるようになります。そして、少女化魔物と真性少女契約を結んだ少女征服者を真性少女征服者ロリコンと呼びます」

 うわあ。
 真性ロリコンって……。
 悪意しか感じない。

「な、なあ、その辺の名称って誰がつけたんだ?」
「イサク様のご先祖様のショウジ・ヨスキ様です」
「ご先祖様? ってか、その名前の感じ……」
「ショウジ・ヨスキ様は異世界から転移してきた大英雄で、少女化魔物やこの世界の様々なことに関して仮説を立て、後の研究に貢献した偉大な方でもあります」

 ご先祖様……もう少しいい名前はなかったのか……。

 ……まあ、今更言っても詮ないことか。本題に戻そう。

「え、ええっと、つまり皆が立派なロリコンになれ、と言うのは」
「強大な力を持つ少女化魔物と少女契約を結び、優れた少女化魔物征服者になれ。ということですね」

 ざっくり言えば、人間に仇なす魔物を使役する魔物使いになれって感じか。
 いや、細かいところは大分違う気もするが。

「まあ、大体把握した。……けどさ。さっきの説明だと少女化魔物って魔物のバリエーションの一つみたいだよな。生と希望の影響を受けたって辺り」
「そうですね」
「ってことは、逆に死と絶望の影響を受けた奴、なんてのもいるのか?」
「はい。勿論です」
「…………え? 本当にいるの?」

 重ねた問いに、目の奥に強い敵意を含ませながら頷くイリュファ。
 本当の本当にいるのか。そんな危険な匂いしかしない存在が。

「その名はピグマリオン。人形化魔物。戦乱の世などの暗黒時代に多く発生する忌むべき人類の敵です。何故なら、少女化魔物の行動は生の欲求に由来するものですが、人形化魔物ピグマリオンの行動は破滅欲求に由来するものだからです」

 ピグマリオンという単語もまた日本語だった。
 恐らく、これもご先祖様が定義したのだろう。が、今はいい。

「……その違いで何がどう変わるんだ?」
「少女化魔物は人類が滅亡しては自らの存在も保てなくなるため、人類に危害を加えることはあっても滅ぼすような真似は決してしません。ですがっ――」

 感情を昂らせたイリュファは、そんな自分を落ち着けるように少し間を置く。
 彼女は様々な感情を吐き出すように深く息を吐き、それから続けた。

「人形化魔物もまた人間の存在なしには己を保てないにもかかわらず、人類の殲滅を目的として活動します。破滅欲求が根源であるが故に」
「なっ……」

 言葉を失う。
 そんな物騒な存在が当たり前に生まれかねないこの世界アントロゴスの世界観に。

「もっとも現在は政情も安定していますので、人形化魔物はそう発生しませんが……後数年もすれば状況は変わるでしょう」
「ん? 何で分かるんだ」
「イサク様がお生まれになられたからです。救世の転生者の敵、この世界の脅威。それこそが人形化魔物ですから」

 マジか。破壊の権化みたいな奴と戦わないといけなくなるのか。

「ですから、イサク様には強くなって頂かなければなりません。誰よりも、何よりも」

 真面目な顔でイリュファが言うからには、それだけの力が必要なのだろう。
 生きるためにも。

 危ない橋は渡りたくないが、のほほんと過ごす訳にもいかなさそうだ。

「……協力、してくれるか? イリュファ」
「勿論です。戦い方からこの世界の常識、ご両親への隠蔽まで私にお任せ下さい」

 即答するイリュファに頼もしさを感じる。
 好意的な協力者の存在は本当にありがたい。

「ああ。頼む」
「はい!」

 頼られて嬉しいのか眩しい笑顔を見せるイリュファ。
 そんな彼女に、こちらも自然と表情が柔らかくなる。
 しかし、過酷な宿命を背負わされた自分の新たな人生を思うと、心の中では深い溜息をつかざるを得なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

国家魔術師をリストラされた俺。かわいい少女と共同生活をする事になった件。寝るとき、毎日抱きついてくるわけだが 

静内燕
ファンタジー
かわいい少女が、寝るとき毎日抱きついてくる。寝……れない かわいい少女が、寝るとき毎日抱きついてくる。 居場所を追い出された二人の、不器用な恋物語── Aランクの国家魔術師であった男、ガルドは国の財政難を理由に国家魔術師を首になった。 その後も一人で冒険者として暮らしていると、とある雨の日にボロボロの奴隷少女を見つける。 一度家に泊めて、奴隷商人に突っ返そうとするも「こいつの居場所なんてない」と言われ、見捨てるわけにもいかず一緒に生活することとなる羽目に──。 17歳という年齢ながらスタイルだけは一人前に良い彼女は「お礼に私の身体、あげます」と尽くそうとするも、ガルドは理性を総動員し彼女の誘惑を断ち切り、共同生活を行う。 そんな二人が共に尽くしあい、理解し合って恋に落ちていく──。 街自体が衰退の兆しを見せる中での、居場所を失った二人の恋愛物語。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...