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いつからだったかしら。
素直で可愛いルノア様が反抗するようになったのは。

『マリー、私こっちのドレスの方が良いと思うの。落ち着いた色の方が……』
『刺繍よりも狩猟について行った方が楽しかったわ』
『ごめんなさいマリー、今度の土曜日は友達とお買い物に行くから……いつものティータイムは中止でも良い?』

大人になるにつれてルノア様の環境はだんだんと変わっていく。自分の趣味が出てきて、友人が出来て……私の知らない部分が多くなっていて。

私は何もかもが気に入らなかった。

「そんな色まるで娼婦のようです。おやめなさい」
「狩猟?殿方の遊戯です、二度と行かないで下さい」
「友人など不要です。私がいるではありませんか」

厳しい?そんなことない。
私はルノア様のよ?多少厳しくともしっかりと叱らなきゃならないの。




「で?だから彼女の持ち物を盗んだっていうのか」

ひとしきり話を聞いたクロッガー卿はハァとため息をついてみせた。

「……貴方のような野蛮な人には分からないでしょう」
「分からねぇし分かりたくないなァ、そんなもん」
「そ、そんなもんですって!」

ギリギリと歯が軋む。

「団長!その女の部屋から次々とルノア侯爵令嬢のものと思われる物品が見つかりました。その中にブラックダイヤのブローチも……」
「そうか」
「別に売り飛ばそうなんか思ってないわ。ただルノア様に相応しくないと思ったから私が預かっていただけ。それの何が悪いのかしら」

盗品となればすぐに質屋に売り飛ばし金に換えるのが一般的。でも私はそんなことはしない、だってお金が欲しくて盗んだ訳じゃない。

「これは躾よ。愛のむちなの」

周りの奴らに理解されなくて結構。私とルノア様だけが分かり合ってればそれで……


「アンタ、何にも分かってねぇんだなァ」
「……何ですって」
「話聞いてなかったのか。告発したのは紛れもない、お嬢本人なんだぜ?」
「……お嬢様はまだ分かってないだけよ。私の本心を知ればきっと取り下げてくれるはず」
「アンタさ、お嬢の何を見てきてんだ?あいつはもう立派な大人だぞ?」

気持ち悪ぃな。
クロッガーはボソッと言い放った。

「アンタに何が分かるのよ!アンタみたいな庶民がっ!野蛮な男どもがぁ!私たち姉妹の絆に入ってくんじゃないわよぉ!」

何も知らない人間が、分かったように割り込んでこないでっ!

「だってよ、アーサー」

クロッガー卿は隣に座る旦那様へとそう言った。

「だ、旦那様ならお分かりですよね?!私がいかにお嬢様に信頼されていた間柄だったか。奥様がお亡くなりになってから、私はずっとお嬢様のお側に居続けたんですのよ?!」
「………」
「全てはお嬢様のため!全部全部全部っ!だから……」

旦那様なら分かってくれる。ルノア様のお父上である旦那様ならっ!

「……君はルノアの苦手な食べ物を知ってるかい」
「え……な、な、何ですか、急に」
「答えなさい」

お、お嬢様の苦手な食べ物?何よそんな簡単な問題。そんなの決まって……


「………あ、れ?」


さっきまで上昇していた体温が一気に冷めていく。

「おいどーしたァ」
「お、お嬢様の苦手なのは……っ」

頭をフル回転させてみる。が、思い出すのはルノア様の笑顔だけ。

『マリー、このお菓子とっても美味しいわ』
『マリーが作るスープは格別ね』
『私、貴女が淹れてくれたお茶が大好き!』
『この間のパン、美味しかったからまた作ってね?』

そうだ……お嬢様はいつも美味しいと言っていた。
私が作るものは何でも美味しいと……。苦手なもの?お嬢様は私が出すものなら何でも食べてくれた。だからそんなの……っ!

「に、苦手なものなんか……な、ないですよ」
「そうか」
「っ当たり前です!私が知らないことなんか何も!」
「ルノアはナッツアレルギーだ」
「なっ!!」

旦那様の言葉に息を飲み込む。
アレルギー?ナッツの?

「嘘よっ!そんなのうそうそうそうそぉっ!」

あり得ないあり得ないあり得ないっ!
だってそんなの一言も……っ!

「……あの子は小さい時アーモンドを食べて湿疹が出たことがある。それ以来食べないように言い聞かせてあるんだ」
「だって私が作ったお菓子にナッツが入ってても何も言わなかったわ!」
「無理して食べてたんだろ?可哀想になァ」

牙を抜かれたようにソファーへ座り込む。

それじゃあ私は……無意識にルノア様を危険に晒してたってこと?

「あんたはお嬢を都合のいいように操りたかっただけ。お嬢はあんたのお人形さんじゃねぇよ」
「ち、ちがっ……私は、わたしは、姉で」
「哀れだな、それがあんたの価値でもないのに」

わたしは……私は、本当にルノア様を……



あれ?ルノア様って……どんな人だったかしら。
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