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5 学校教師は壊れる
しおりを挟むあぁ、何て最悪な気分なんだろう。
それは天気が悪いわけでもないし、生徒たちが何か問題を起こした訳でもない。
僕の愛する天使、ルノア=ダリッジ様がいらっしゃらないからだ。
私は一目みた時から彼女に夢中になった。
美しすぎる容姿、心地のいい声、成績も優秀で運動神経もいい。なのにそれをひけらかすことなく、謙虚で真っ直ぐな彼女に心から惹かれてしまった。
だが相手は生徒で王太子の婚約者。
もちろん野蛮なことなんかしない。私だって自分の立場を弁えているさ。でも最近……だんだんと気持ちが抑えきれなくなっていた。
だから彼女が学校を卒業するとき、この気持ちを伝えようと心待ちにしていたのに。それなのに……
彼女は、ある日突然いなくなってしまった。
「ミゲル先生、さようなら!」
「はいさようなら」
すれ違う女子生徒に声を掛ければ通り過ぎた後きゃーと歓声にも近い声が聞こえる。
……全くもって不快だ。
あの年頃の令嬢は少し年上の男性に弱いらしい。特にそれが教師相手となれば、まるで恋愛小説によくある禁断の恋を彷彿とさせてそれがまた良いのだろう。
「……馬鹿馬鹿しい」
小娘の恋愛ごっこに付き合っている暇はない。これから僕はいなくなったルノア様を探しにいかないといけないんだから。
ふと廊下の窓から外を見れば、何やら中庭に人集りが出来ていた。下校の時間はとっくに過ぎているのに、珍しいな……。
その集団の中心で何やらキラッと光る頭が見えた。
「あいつは……っ!」
見間違えるものか、あんなに手入れの行き届いた金髪はこの学校でただ一人。
王太子、レイモンド=アレグロだけだ。
僕はあいつが大嫌いだ。
王太子という肩書きがなければただのクズ。
金に物を言わせてルノア様に媚を売る害虫の一人。そもそもルノア様はお前との婚約など望んでいないんだ、それなのに偉そうに……っと、危ない危ない。つい我を忘れそうになった。
とにかく、急いで中庭へと向かいすぐそばの物陰から様子を伺ってみる。
レイモンドと……5人くらいの男女か?
「あんまり声が聞こえないけど……」
どうやら揉めているらしい。
「おいっ!何とか言ったらどうなんだ馬鹿息子っ!」
「ルノア様をどこに追いやったのよ?!」
「なっ!貴様ら無礼だぞ!この私に気安く……っおい!勝手に触るな!」
「うるせぇな!お前なんかもう王子でも何でもねぇんだよ!平民落ちした出来損ないがっ!」
「不潔!しかもよりにもよってアーシャだなんて」
なるほど、要するにこれは"呼び出し"か。
レイモンドは平民となった。恐らく今日は学校にある荷物をまとめに来たんだろう。そそくさと逃げようとした奴を捕まえて尋問、といったところか。
「ねぇ!アンタがルノア様を連れ去ったんでしょ?!浮気してたのがバレたから!」
「なっ!わ、私ではない!私だってルノアが消えて心を痛めてるんだ!」
「へぇー、アーシャと浮気してたくせに?」
「っ!あ、あんな女、私が本気になる訳がないだろうっ!あいつはただの性欲処理で……」
「うわっ、本当に最低」
どんどん墓穴を掘るレイモンドに苦笑してしまう。
あいつは馬鹿なのか?いや、確かにもともと頭は良くない。いつも隣にいるルノア様がフォローしていたおかげでそれなりにメンツを保っていただけ。
ふっ、いい気味だ。自業自得なんだよ全部、最後に彼らの鬱憤を受けるくらい当然……
「私は!ルノアを心から愛している!」
その場を離れようとした瞬間ピタッと足を止める。
「私ほどルノアを愛していた男はいないっ!る、ルノアだって、私を愛してくれていたっ!」
ルノア様が、愛していただと?
「ハッ!馬鹿馬鹿しい、あのルノア様がお前みたいな男を好きになるはずがない」
「そうよ、国王陛下のご命令だから仕方なく婚約しただけよ。王太子でなくなったアンタなんか……」
「いや違うっ!ルノアと私は結ばれていた!も、もうすぐだったんだ!結婚すれば、ルノアの全ては私のものだった!あの髪も、肌も、笑顔も全部独り占めできたんだっ!」
ギャンギャンと騒ぐレイモンドに周りは呆れたように笑った。
ああよく分かるよ君たちのその気持ち。でもね、僕は君たちと少し違う。いや全然違う。
「ルノアは私のものだぁぁああ!」
僕は、この男を許せない。
ルノア様を軽んじるな。
ルノア様の愛を求めるな。
お前のような下衆な男が、ルノア様を、ルノア様を、ルノア様を、ルノアを、ルノアを………っ
「こら君たち、早く帰りなさい。それからレイモンド=アレグロ君。最後に僕の部屋で少し話をしようじゃないか」
気付けば僕は、彼らにとびきりの笑顔を向けながらそっと近付いていた。
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