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30 オルガン視点

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「さぁ、ではこれから”命”の査定を始めようか。オルガン=ロブス君」

どこか楽しげに聞こえる声は椅子に張り付けられた俺のすぐ耳元でそう囁いた。

ウェルディン国王の後ろに座っているアレキウス国王、アレキウス教会の大司教、そしてミリオンは各々違った表情でこっちを観察していた。
アレキウス国王は怒りで顔を歪め、大司教はニコニコと微笑み、ミリオンは……退屈そうに欠伸を一つ。
こいつらだけなら良いがその後ろには何十人もの衛兵たちが控えている、とてもじゃないが隙をみて逃げ出せそうにはなかった。

(この中でまともに交渉出来そうなのは……この男くらいか)

ただでさえ今回のことはウェルディン国にとって内輪揉めなんだ。
情に訴えるべきか、頑なに事実を認めずにいくか……

「作戦は決まったかい?」
「!!!」
「さっきも言ったように、これは君の命を決める時間だ。何気ない一言が命取りになる、肝に銘じておくんだよ」

ウェルディン国王はやはり他人事のような口調で語りかけた。

「さて、ではまずは事実確認から……」
「そんなものは必要ないっ!!」

ガタンと大きな音と共に立ち上がったアレキウス国王が叫ぶ。

「そいつは死刑だぁっ!今すぐ首をはねる!」
「まぁまぁ落ち着いて下さいよ陛下」
「よくもハンナを……っわ、私の可愛い娘を傷ものにしおってぇ!!!皆殺しだっ!お前も、お前の一族も全部まとめてぇ!」
「黙れって」
「ふぐぅぅ?!」

暴れるアレキウス国王の顔面を片手で鷲掴みするウェルディン国王に、その場がピリッと凍りつく。
動揺しているのは俺とアレキウス王国の衛兵のみ、その他は見慣れた光景なのか微動だにしない。

「何勝手に仕切ってるんだ能無しジジイ、お前が出る幕はとっくに過ぎてんだよ」
「んがっ?!きひゃみゃきさまでゃれにうかってぇ誰に向かって!」
「誰って……アレキウス国王陛下ですよ」
「ふぇっ?!」
「当たり前でしょ?ここまで国を引っ掻き回した責任、まさかご自身にはないと思ってるんですか?」

ギリギリと骨が軋む音がするのを、俺はただ黙って聞いていた。

「娘の管理も出来ないジジイに国の長が務まるはずがない、この場を持ってアレキウス国王陛下にはその座を退いていただきましょう」
「ぅえ、?え、????」
「いやぁ~ルーシャスの話を聞いた時はまさか!と思ったけど、強引に手続き済ませておいて良かったなぁ」

ウェルディン国王はペランと一枚の紙をアレキウス国王に見せつける。
上等な羊皮紙に捺された印……それは紛れもなく、アレキウス家の紋章がくっきりと写っていた。

「お忘れです?アンタが自分の娘をうちウェルディン国に売り込んできたでしょう?誰でもいいから嫁に貰って欲しいとルーシャスを遣いに出して」
「え……あ、あぁ。そうだが……」
「あれね、ちゃんとお受けしてありますよ?」
「!!!」

その言葉にアレキウス国王と俺の2人だけが口をあんぐりと開けっぱなしにする。

(どういう……は?え、?あの馬鹿女がウェルディン国に嫁入りしている?)

そんな話を打診していることは知っていた。でもそんな話通るわけがないと…だってそうだろ?あの女を娶っても良いことなんか何もない!ウェルディン国ともあろう大国が、そんなお荷物を引き受けるはずなんか……!!

「あいにくうちの息子たちは全員妻がいるので、必然的にその息子……まぁ私の孫ということになるんですけどね。その中の一人がぜひハンナ王女との結婚を望んでおりまして」
「そ、そそそそうなのか!い、いやぁ良かった!ウェルディン国の王族となれば箔がつく!そうかそうか、ハンナもこれでようやく幸せな結婚が……………ん?」

突然の申し出に舞い上がっていたアレキウス国王だったが、ひとしきり喜んだ後ぴたりと固まってしまった。

「結婚は……している?」
「はい。
「す、数ヵ月というのは………?」
「んーと、確か貴国で騎士の入団テストがあった日でしょうか」

サァっと血の気が引いていく。

(入団テストの日?いや、いやっ嘘だ!だってそんな話は何も……)

ウェルディン国王の顔をチラリと見れば、口元には笑みがあるものの目はすぅっと細くなる。
ルーシャスがよくやる、あの目と一緒だ。

(くそっ!嵌められたか!)

アレキウス王国側から求婚しているのであれば受諾するのも拒否するのもウェルディン国側の自由。
ただ、問題はその日付け。婚姻が以前に交わされたとされるならば俺がしたことは………

「さて、となるとここにいるオルガン=ロブス君はウェルディン国王の孫嫁を孕ませたことになりますなぁ」
「っ!!!」
「加えてハンナ王女は姦通罪に問われたとしてもおかしくない。無理矢理であったかどうかなんて今となっては調べようもないですし」
「あ………ま、待ってくれ……そ、そんな無茶苦茶な」

そう、この男の言っていることは無茶苦茶。
だがその無茶苦茶な理由こそ……いつの時代も争いが絶えない証だ。

「という訳で、このアレキウス王国……全て丸ごと我がウェルディン国に差し出して頂きましょうか」
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