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4 ヨハン視点
しおりを挟む”クズ”なんてのは褒め言葉だ。
どんなに無礼を働いても、結局人が集まってくればクズだろうが魅力があるという証拠になる。
でも今、親父のこんな姿を見せつけられて……初めてその言葉が自分を嘲笑するものだと知った。
「で、でもねヨハンのパパ!今王都はそういう男が人気なの!それは本当なんだよ?ギャンブルやって、お酒ガバガバ飲んで、女だってとっかえひっかえしてる方がカッコいいの!」
「それのどこがカッコいいんだ?」
「ふぇ?」
「ギャンブルで消えた金は誰の金だ?排泄されるだけの酒はどうやって買う?」
項垂れていた親父はゆっくりとリサに近付き、思い切り髪を掴んだままベッドの上から引きずりおろす。
リサの自慢の金髪が抜け落ちても、親父はそのまま扉の方へ引きずっていく。
「い、痛い痛いいたいいたいっ!」
「お前たちが”かっこいい”という理由だけで無駄にしているその金は、誰かが必死に稼いだものだろ?」
「お、おい親父っ!リサは女なんだから」
「お前がそれを言うな!」
こんなにキレた親父は初めてだ。
いつもネチネチと説教してくるだけで、怒鳴ったり手をあげるなんてしてこなかったのに……。
「ヨハン、そもそもこの女は誰だ」
「えっ……あ、いや、誰だって言われても」
言えるわけねぇだろ、どう考えたって。
「リサは………その、友だちだ」
「嘘をつくな」
「!!!」
反論しようとした時、目の前に一枚の紙切れを見せつけられた。細かな字でびっちり難しいことが書いてあって……よく分かんねぇ。
「なんだよ、これ」
「スコールマン家からの調査書だ。お前とこの女が何回会ったか、どこに行ったか、交わしたキスの回数からホテルに入った時間まで全部書かれている」
「っ……」
「これが婚約破棄の決定的な原因だ」
婚約破棄の原因が……は?リサとの浮気?
俺はてっきり、殴ったからだと……ははっ、なんだそういうことかよ。
浮気を繰り返す令息は俺だけじゃない。むしろそっちの方が多いくらいだ!それでも浮気された令嬢は困りながらも最後には何だかんだで許している。
「アイシャに抗議してくるっ!」
「やめろ、恥を上塗りするな……」
「だっておかしいだろ?!何で俺だけ婚約破棄されなきゃなんねぇんだよ!アイシャの器が小せぇだけで、何でうちが金払わねぇとなんないんだ!」
俺は親父に近付き、奪い取るようにリサを救い出す。
「大体、アイシャも親父も古臭いんだよっ!たかが他の女と遊んだくらいでいちいち鬱陶しい!」
「……そうか。それがお前の答えだな」
「はぁっ?!」
「いいか、最後のチャンスをやる。このまま黙って私と領地に帰るんだ。じゃなければもうお前のことなど知らん」
親父にまっすぐ睨まれて言葉に詰まった。
「お、俺は」
「………」
「っ、戻らねぇ」
「……そうか。わかった」
たった一言を残して、親父は静かに部屋から出ていった。
なんなんだよ……どうして俺が言ってること、分かってくれねぇんだ。
「ねぇ、ヨハン。とりあえずあたし帰るね」
「リサ……お前、」
「よく分かんないけど、婚約破棄?がなくなればヨハンパパも許してくれるんでしょ?ムカつくけどあのブス女に謝っといた方が良いんじゃない?」
……確かに。リサの言っていることにも一理ある。ようはアイシャが婚約破棄を撤回すればいい話だ。
あの女、俺がモテるから嫉妬してるだけなんだしフリだけでも愛してるって言ってやりゃ気が済むだろ。
「今から馬車を走らせりゃ夕方には着くか……しゃあない、わざわざ出向いてやろう」
「ねぇねぇ、その前に」
「あ?」
振り替えるとリサがむぎゅっと腕に抱き付いた。柔らかい胸の感触に、またムラッとしてしまう。
「もう一回♪」
この女、欲求不満すぎんだろ。んでもって……
「ほんと最高だな、お前は」
「ふふっ」
まぁ謝りにいきゃ良いだけなんだし、そんな急がなくったって問題ないだろう。今日中に行こうが明日行こうが何も変わりゃしねぇ。
半裸のリサを抱き上げベッドになだれ込む。そして目の前の肉欲に溺れた頃には、もうすっかり親父の言葉も忘れ切っていた。
この選択が、後に自分を追い詰めることになるなんて……この時の俺は思いも知らなかったんだ。
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