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しおりを挟むラヴィエラの故郷であるシャンデラ帝国は自由を掲げる大国だ。
完全なる実力主義であり、有能であれば庶民も平民も関係なく出世できそれ相応の身分を与えられる。
更に他国からの移民を多く受け入れており、その待遇も手厚いことから周りの諸外国とも友好な関係を築いていた。
近年では我が国からも移住を希望する者が増えているが、どれも人間との混血ばかり。
そもそもシャンデラなど眼中にない。
弱者がどれだけ群れようとも、我ら獣人には身体能力も攻撃力も敵わないのだから。
が、しかし………
ラヴィエラがいるとなれば話は別だ。
近々シャンデラ帝国へラヴィエラの捜索に出向くと話を聞き、居てもたってもいられなくなった。
ランセルは「陛下が出向くことのほどでも」と宥めていたが……
■□■□■□■□■□
「なるほど。それでゾーネシア国王直々にこちらへおいでになったと」
高い天井も大理石の床に反響し、その声はひどく冷たく聞こえた。
帝国の中枢部にある皇宮を訪れた私たちはそこで初めて皇帝の姿を見ることとなる。
年はラヴィエラより一つか二つ上だろうか。ただの小僧にしか見えないそいつは怯えることなく我らに堂々と向き合った。
「獣人にとって唯一無二の存在が失踪ですか」
帝国側には真実をねじ曲げて伝えてある。
あくまでも彼女自身が逃げ出した、というシナリオでないと私の沽券に関わるからな。
相手は所詮弱き人間。
国の発展を考えればここらでゾーネシアに恩を売っておきたいはず。
どうせ馬鹿みたいに尻尾を振って協力してくるだろう。
「ああ。貴殿には我々の国内捜索を承認し、可能な限りそのサポートをして貰いたい」
「んー、失踪かぁ」
「……ほんの少しのすれ違いだ、ラヴィエラも私の誠意を知れば馬鹿なマネをしたと気付くであろう。そうなればすぐに国を出て行く」
「運命といえどすれ違うんですねぇ」
ニヤニヤする小僧にプチッと血管が切れそうになる。
それにいち早く気付いたランセルは、あたふたとしながらにこやかに話し出した。
「も、もちろんご協力頂いた御礼は喜んでさせていただきます!金貨でいうと……このくらいは」
指を3本立てて見せると、小僧はぷはっと吹き出すように笑い出した。
「ハハッ!いやいや側近の方、貴国の王にとって大切なお方なのでしょう?御礼など不要です」
「そ、そうなのですか?」
「はい」
ニッコリと笑う小僧にランセルはホッとしたように息をつく。
最初から素直にそう言えばいいものを……
「まぁ、そのラヴィエラ=ロストというお嬢さんが本当に陛下の番でしたらですが」
「………なんだと?」
挑発的な言葉にきつく睨み付けた。
「貴様、私が嘘を言っていると?」
「まぁ普通に考えたら」
頭に血が上り切る前に小僧の胸ぐらを掴んでいた。
側に控える護衛はピクリとも動かず、ただじっと我々を睨んでいた。
「ハッ!随分と無能な護衛だな」
「彼らには何があっても手を出すなと言いつけてありますので」
「……ほぉ?ではこの場でお前を噛み殺したとしても、奴らはただのんびり眺めているだけなのか?」
「証明してみます?」
相変わらずニヤニヤと気持ち悪い笑顔の小僧に、脅しではなく本当に噛み殺してやりたくなった。
……いや、いっそ本当に殺してしまうか。
回りくどいことなどせず、この国を乗っ取ってしまえば良いんじゃないか?
「陛下っ!お止めくださいっ!」
ランセルの言葉を無視しあんぐりと口を開けた、その時だった。
「相変わらず短絡的ですね、バレイン陛下」
ため息混じりの声にピタッと動きが止まった。
そう言ったのは目の前にいる男ではない。
どこかで聞いたことがある、その生意気な……
「しゃ、るる……」
「お久しぶりですね父上。そんな顔をして……まるで幽霊でも出たみたいじゃないですか」
フッと小さく微笑んだシャルルはそのまま部屋に入り、ゆっくりと私と小僧の側までやって来た。
「シャルル……お前、何故ここに」
「詳しいご説明をしますので手を離して頂けますか。このまま続けるのであればこちらにも考えがありますので」
「はっ……考え?下等な人間ごときが我ら獣人に立ち向かえる策など……」
「本来の目的はもう宜しいのですか」
瞬間、バクンと心臓が脈打った。
そうだ……ラヴィエラ、愛しい愛しいラヴィエラはどこだ?
こいつは出国する際ラヴィエラの護衛騎士として同じくシャンデラに渡った。
今、ここにシャルルがいるならばラヴィエラはこの近くにいるのか?
「おいっ!ラヴィエラはどこだっ?!」
「けほっ……あー、やっぱ獣人は野蛮だね」
「大丈夫ですか、陛下」
「問題ないよ。それよりもあちらを相手してやりなさいシャルル。何だか大変そうだよ?」
詰め寄る私を無視しながら呑気に話し出す小僧とシャルル。
そんな舐めた態度はこの際どうでもいい。
「おいっ!さっさと吐けこの裏切り者が!ラヴィエラはどこにいるんだ?!」
早く、早く居場所を言え!
焦る私にようやく向き直るシャルルは、レイチェルと同じ薄い唇をニッと吊り上げた。
「バレイン陛下、何か思い違いをなさってるようですね。ラヴィエラ=ロストという人間は、もうこの世に存在しておりませんよ」
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