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7 レイチェル視点
しおりを挟む「終わりね、レイチェル様の寵愛時代も」
たまたま通りすがった庭先で、掃除中の使用人たちが話しているのを聞いてしまった。
彼女たちは私の存在に気付いていないのか、楽しそうに笑いながら続ける。
「長かったけど呆気ないものねぇ」
「まぁあんなにお美しくてもさすがに老いには勝てないわよ」
「いくらスコット卿の後ろ楯があっても、お役目を果たさなければ……ねぇ?」
「噂じゃ陛下に番がいたとか。でもレイチェル様が追い出したんですって!」
「ええっ?!ホント?最悪」
「陛下もレイチェル様に気を遣わず、その番さまを召し上げれば良かったのに」
番という言葉を聞き、それまで我慢していた理性がプツンと切れた。
「あなたたちっ!!」
「ひっ!ひ、妃殿下……さま、」
「よくもこんな所で私と陛下の悪口を!!」
ずかずかと歩み寄り、噂話していた3人を端から扇子で殴り飛ばす。
パシンと乾いた音が響くと、駆け付けた侍女や衛兵たちが私を羽交い締めにした。
「離しなさいっ!これは命令よ!!」
「妃殿下っ!何卒ご容赦を……!」
「アンタたちだって本当は馬鹿にしてるんでしょ?!ザマァみろって思ってるくせに!!」
バレイン陛下に拒絶されたあの日から、もう一週間が経ってしまった。
婚儀が終わってから一度も抱かれず、自室に籠りきりのバレイン様は私と会話すらしてくれなくなった。
しかも番の存在が明らかになったことで王宮内の勢力も変わり、お父様の立場が弱くなったせいでますます私は日陰者に。
元々バレイン様の婚約者候補たちを蹴落とし、寵愛を一人占めしてきたせいで周りからの評判は良くない。
唯一、私を支持してくれているのは顔と身体目当てのスケベ貴族ばかりだ。
それでも、私は王妃なのよ?
この国で一番偉い女なの。それなのに……
「レイチェル」
暴れる私の背後から名前を呼ばれる。
振り替えると、そこには不機嫌そうに眉を潜めたお父様が立っていた。
「お父様……」
「……話がある」
その一言だけ残し早足でその場を離れる。
そんなやり取りに使用人たちがまたコソコソと話し出した。
居心地の悪さから逃げるように、私は1人お父様の後を追った。
■□■□■□■□■□
お父様は部屋に着くなり、ドカッとソファーに沈み込んだ。
「全く、あの世間知らずには困ったものだ」
「お父様……」
「あの日以来、毎日狂ったように小娘の名前を呼んでいる。まともに話など出来る状況じゃないな」
相当疲れが溜まっているのか、目頭を指でつまみながらため息を繰り返す。
「これじゃあの娘が本物の番だったと認めざるを得ない」
「でもっ!」
「案ずるな。認めただけであって、呼び寄せるなんてことは許さない」
そう言ってデスクの上から一枚の紙切れを取りそれをこちらへ渡す。
「近々、シャンデラ帝国へ出向く」
「っ!それってあの女の故郷の……」
「ああ。表向きは番の捜索だ、しかし先に見つけ出し秘密裏に殺すんだ」
「!!!」
冷酷なお父様の目にゾクッと身震いした。
「番保守派が活発になっている今、奴らの意見を無視できなくなった。嘘でも小娘を探しているように見せなければ」
「で、でも……」
もし、あの女が見つかったのをバレイン様が知ったら?あの様子だと私もお父様も、ただじゃおかないはず。
「やるしかないんだよ……あの小娘を消さないと、私の立場が……ここまで来るのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
お父様の目は虚ろでぶつぶつそんな事を言い続けていた。
一貴族だったスコット家をこの地位まで引き上げたのは、お父様がありとあらゆる手段を使ってきたから。利用できるものは何でも使う、それがお父様の座右の銘なんだから。
「噂通りなら、番を失えば陛下の精神は崩壊する。そうなれば後は孕むまで押し倒せばいい」
「……そんなに上手くいくのかしら」
「それしかお前に価値はないだろっ!」
口答えをするな!と怒鳴り付けるお父様に小さくため息をついた。
お父様はいつだってそう。
私たち家族のことなんか使える駒くらいにしか思っていない。それが嫌で……弟のシャルルはあの女について国を出ていったんだ。
「じゃあお父様。またいつものアレ、用意してちょうだい」
「……もう飲み干したのか?」
「ええ。これからはもっと美しくいなきゃならないんだもの」
自分の価値が年々下がっているのは自覚している。だからこそ私は努力を惜しまない。
お父様が用意してくれるアンチエイジングのジュースは、加齢を遅らせてくれる不思議な効果があった。
もう一度バレイン様に好きになって貰わないと。じゃないと、私は………
「………ラヴィエラ=ロスト」
若くて美しいアンタは沢山のものを持ってるじゃない。ここにきてバレイン様まで奪っていかないでよ!
私は、あの人の心だけあれば良いのに………
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