上 下
7 / 16

7 レイチェル視点

しおりを挟む


「終わりね、レイチェル様の寵愛時代も」

たまたま通りすがった庭先で、掃除中の使用人たちが話しているのを聞いてしまった。
彼女たちは私の存在に気付いていないのか、楽しそうに笑いながら続ける。

「長かったけど呆気ないものねぇ」
「まぁあんなにお美しくてもさすがに老いには勝てないわよ」
「いくらスコット卿の後ろ楯があっても、お役目を果たさなければ……ねぇ?」
「噂じゃ陛下に番がいたとか。でもレイチェル様が追い出したんですって!」
「ええっ?!ホント?最悪」
「陛下もレイチェル様に気を遣わず、その番さまを召し上げれば良かったのに」

番という言葉を聞き、それまで我慢していた理性がプツンと切れた。

「あなたたちっ!!」
「ひっ!ひ、妃殿下……さま、」
「よくもこんな所で私と陛下の悪口を!!」

ずかずかと歩み寄り、噂話していた3人を端から扇子で殴り飛ばす。
パシンと乾いた音が響くと、駆け付けた侍女や衛兵たちが私を羽交い締めにした。

「離しなさいっ!これは命令よ!!」
「妃殿下っ!何卒ご容赦を……!」
「アンタたちだって本当は馬鹿にしてるんでしょ?!ザマァみろって思ってるくせに!!」


バレイン陛下に拒絶されたあの日から、もう一週間が経ってしまった。
婚儀が終わってから一度も抱かれず、自室に籠りきりのバレイン様は私と会話すらしてくれなくなった。

しかも番の存在が明らかになったことで王宮内の勢力も変わり、お父様の立場が弱くなったせいでますます私は日陰者に。
元々バレイン様の婚約者候補たちを蹴落とし、寵愛を一人占めしてきたせいで周りからの評判は良くない。
唯一、私を支持してくれているのは顔と身体目当てのスケベ貴族ばかりだ。

それでも、私は王妃なのよ?
この国で一番偉い女なの。それなのに……

「レイチェル」

暴れる私の背後から名前を呼ばれる。
振り替えると、そこには不機嫌そうに眉を潜めたお父様が立っていた。

「お父様……」
「……話がある」

その一言だけ残し早足でその場を離れる。
そんなやり取りに使用人たちがまたコソコソと話し出した。

居心地の悪さから逃げるように、私は1人お父様の後を追った。



■□■□■□■□■□

お父様は部屋に着くなり、ドカッとソファーに沈み込んだ。

「全く、あの世間知らずには困ったものだ」
「お父様……」
「あの日以来、毎日狂ったように小娘の名前を呼んでいる。まともに話など出来る状況じゃないな」

相当疲れが溜まっているのか、目頭を指でつまみながらため息を繰り返す。

「これじゃあの娘が本物の番だったと認めざるを得ない」
「でもっ!」
「案ずるな。認めただけであって、呼び寄せるなんてことは許さない」

そう言ってデスクの上から一枚の紙切れを取りそれをこちらへ渡す。

「近々、シャンデラ帝国へ出向く」
「っ!それってあの女の故郷の……」
「ああ。表向きは番の捜索だ、しかし先に見つけ出し秘密裏に殺すんだ」
「!!!」

冷酷なお父様の目にゾクッと身震いした。

「番保守派が活発になっている今、奴らの意見を無視できなくなった。嘘でも小娘を探しているように見せなければ」
「で、でも……」

もし、あの女が見つかったのをバレイン様が知ったら?あの様子だと私もお父様も、ただじゃおかないはず。

「やるしかないんだよ……あの小娘を消さないと、私の立場が……ここまで来るのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!」

お父様の目は虚ろでぶつぶつそんな事を言い続けていた。

一貴族だったスコット家をこの地位まで引き上げたのは、お父様がありとあらゆる手段を使ってきたから。利用できるものは何でも使う、それがお父様の座右の銘なんだから。

「噂通りなら、番を失えば陛下の精神は崩壊する。そうなれば後は孕むまで押し倒せばいい」
「……そんなに上手くいくのかしら」
「それしかお前に価値はないだろっ!」

口答えをするな!と怒鳴り付けるお父様に小さくため息をついた。

お父様はいつだってそう。
私たち家族のことなんか使える駒くらいにしか思っていない。それが嫌で……弟のシャルルはあの女について国を出ていったんだ。

「じゃあお父様。またいつもの、用意してちょうだい」
「……もう飲み干したのか?」
「ええ。これからはもっと美しくいなきゃならないんだもの」

自分の価値が年々下がっているのは自覚している。だからこそ私は努力を惜しまない。
お父様が用意してくれるアンチエイジングのジュースは、加齢を遅らせてくれる不思議な効果があった。


もう一度バレイン様に好きになって貰わないと。じゃないと、私は………

「………ラヴィエラ=ロスト」

若くて美しいアンタは沢山のものを持ってるじゃない。ここにきてバレイン様まで奪っていかないでよ!

私は、あの人の心だけあれば良いのに………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命で泣く泣く番と決められ、婚姻後すぐに捨てられました。

ゆうぎり
恋愛
獣人の女の子は夢に見るのです。 自分を見つけ探し出してくれる番が現れるのを。 獣人王国の27歳の王太子が番探しを諦めました。 15歳の私は、まだ番に見つけてもらえる段階ではありませんでした。 しかし、王命で輿入れが決まりました。 泣く泣く運命の番を諦めたのです。 それなのに、それなのに……あんまりです。 ※ゆるゆる設定です。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

転生したら竜王様の番になりました

nao
恋愛
私は転生者です。現在5才。あの日父様に連れられて、王宮をおとずれた私は、竜王様の【番】に認定されました。

処理中です...