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しおりを挟むあれから、ルスダン王国は大きく変化した。
モニカは王宮の執務官になり、父であるティネッタ卿と一緒に王宮を内部から改革しようと奮闘している。元々上級官僚の娘である彼女は頭も良く、今や代替わりして若返った王宮官僚の筆頭役となっている。
アズミは再会した兄を故郷に帰した後、ルスダン王国と他国の架け橋となる外交官として世界中を飛び回っている。だがリンのことが心配なのか、ちゃんと3ヶ月に一度は帰ってきては大量のお土産を置いていく。
そしてセリーヌはルスダン王国から独立したフラシェスカを一から再建している。国内の政権を整備し、自分たちだけで国を動かせるように国民たちと一丸になって頑張っている。たまに……というか頻繁に顔を見せに来るけど楽しそうにやっていた。
3人とも、もうこの国に縛られる必要はなくなった。あの後宮を飛び出して伸び伸びと活動する彼女たちに胸を撫で下ろしている。
そして私はというと、あることに挑戦していた。
それは……
「では、この魔定石について質問はありますか」
「「「はーーーい!」」」
後見人として、3人の子供たちの教師役をしていた。
「ではラン様。まずは貴方から」
「はいっ!えっと、その魔定石は……誰にでも作れるものですか?」
モニカと同じ赤毛の少年はどこか恥ずかしそうに質問をする。ランはこの中で一番早く生まれたが、少し気が弱い男の子だ。
「魔力を持っている者であれば誰でも作れます。自分の魔力を媒介としたこの石は、非魔導師が持つことでその力を枝分けして使用することが出来ます」
「へぇー!すごい!」
「はい!はいはーーい!」
「はいリン様」
「じゃあじゃあ!リンが石に魔力を封じ込めたら、リンは力を使えなくなるのぉ?」
「いいえ、あくまでこれはストックのような役目ですから。それに現在使用できるのは非魔導師と決まっています」
ランもリンも納得したように頷く。
私はギルバートのように魔力を持たざる者が劣等感を抱かないよう魔定石を開発した。これからは魔力を他者に分け与えることも出来るし、上手くストックしていけばアイリス様のように魔力が早々に尽きてしまう恐れはない。
まだまだ改善の余地はあるけれど、この3人が成人する頃には当たり前のように魔定石が定着している世の中になるはずだ。
すると今まで黙っていた金髪の少年が私をじっと見つめる。
「サリファさま」
「どうしました、ルウ様」
セリーヌの息子ルウは不思議そうな顔で首を傾げた。
「魔定石があればいい国になる?」
「……いい質問ですね」
私は持っていた参考書をテーブルの上に置いた。
「ルウ様にとってのいい国とは何ですか?」
「……悪い人がいないこと、かな。物をぬすんだり、誰かを傷つけたり」
「そうですね、ではこの場合はどうでしょう。貧しい夫婦が子供のためにパンを盗んだとしたら。友達と喧嘩した時に爪で頬を傷つけてしまったとしたら?」
「悪い、かな?わかんないよ……」
困ったように俯くルウ。他の二人も同じように答えが分からないのか頭を悩ませている。私はポンとルウの頭を撫でてやった。
「もちろん盗んだり傷付けるのは悪いことです。でも彼らはこう言うでしょう、"しょうがない"と」
「「「………」」」
「貧困の差はありますし、喧嘩をする事も必ずあります。でも"しょうがない"が続けばどんどん悪い方向に進んでいきます。だから、誰かが叱って、その上でいい方向に助けてあげなきゃダメですね」
ふと、数年前に別れた元夫の存在を思い出す。
彼には叱ってくれる人が居たのだろうか。居たとして、彼の性格はいい方向に変わったのだろうか。
私は、ギルバートを叱れる妻だったのに。
ふと前を向けば急に黙り込んだ私を不思議そうに伺う3人の子供たちと目が合った。
この子たちだけはちゃんとした指導者に育てよう。
それが、私の最後の務めなんだから。
「安心して下さい。例えばランが嫌いなピーマンを残したときも」
「うぅ!」
「リンがおねしょをしたのに黙ってても」
「げっ!」
「ルウが居眠りして宿題を忘れたときも」
「……バレてたんだ」
苦い顔をする3人にフッと笑う。
「ちゃんも叱ってあげるので安心して下さいね」
そう言ってとびきりの笑顔を送ってあげたのだ。
*****
これにて完結です。
ご愛読頂き誠にありがとうございました。
2021.08.31
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