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17 side セリーヌ
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※ ここからは側室セリーヌの視点になります。
『ねぇせんせい?』
『ん?なんだい、セリーヌ』
『どぉして、せかいには魔法を使える人と、使えない人がいるのぉ?みんな使えれば、便利ですてきな世界になるじゃない!』
子供の頃の私は、素直な疑問を尋ねた覚えがある。
先生、と呼んでたのは祖母で、ごっこ遊びをしながら魔導師について毎日勉強していたんだっけ?あの頃は何にも分かってなくてよくおばあちゃんを困らせてた。
『そうだねぇ。魔導師ばかりの世界なら口に出さなくても思ってることが相手に伝わったり、空を飛びながらお茶をしたり出来るんだろうね』
『でしょでしょ!』
『でもね、空ばかり飛んでては土壌が良いか悪いか気付けないし、思っていることが筒抜けになってしまえば喧嘩ばかりにしてしまうだろうさ』
『どじょう?つつぬけ?』
『いいかいセリーヌ。魔導師はいつでも心優しく接しなさい。特に魔力を持たない者……弱い者は守ってあげるんだよ』
おばあちゃんの言っていること、今ならちゃんと分かるよ。だからそれが正しくて、とても素晴らしいってこともちゃんと分かってる。
でもね?なんか私、おばあちゃんみたいに優しくなれないみたい。
だって、どんなに弱くても……悪いやつならやっつけたいって思っちゃうんだもん。
*****
ぽたぽたと水滴が落ちる音と、唯一の灯りとなる松明がパチパチと弾ける音だけが響いている。
ルスダン王国から少し離れたこの場所はフラシェスカ南東にある地下牢。普段は終身刑となる罪人どもを閉じ込めておくはずの場所、その一番奥にいるのは平民とは思えない上等な服を身につけた男だった。
数日前にここへ投獄された男、ギルバートは牢の真ん中に座り込みぼんやりとした目で天井を見つめている。意識はあるけど魂が抜けてるって感じ?まぁどうでもいいけど。
「ご気分はどうかしら」
「……せ、りーぬ」
私の存在に気付いたギルバートは視線をゆっくり私に向ける。その目にうっすら希望の色が見えたのは……まぁ見なかったことにしてあげよう。
「ごめんなさいね、少し準備に手間取ってしまって顔を出すのが遅れてしまいましたわぁ」
「あ……セリーヌ、セリーヌ、っ」
うわ、なんか名前連呼されるのも気持ち悪いなあ。
「セリーヌ、すまない、すまない私が悪いんだっ!だから、だからここから出してっ、出してくれぇ」
「……全く」
「何も、望まん!普通に、暮らしたいっ!お前と!平民になっても構わんっ!い、いや、いっそ共にあの世へ……」
心中?何寝ぼけたこと言ってんのかしら。
ガシャン
ギルバートが縋る鉄格子を思い切り蹴りつける。
「ひぃっ!」
「少し黙ってて貰えますぅ?これから私、貴方にとっておきの魔法をかけてあげなきゃならないのでぇ」
「ま、魔法?」
クスッと笑い持ってきた紙の束をギルバートがいる牢の中へとぶち撒ける。
舞い上がる紙を間抜けな顔で見てるだけ。馬鹿な男、この一枚一枚が貴方を苦しめるものだなんて分かってないのね。
「こ、れは……なんだ?」
「何って、被害者リストです」
「被害者?」
「ええ。例えば……これ」
落ちている一枚を拾い上げる。
「ケイン=ブースト。ルスダン王国出身、王国騎士団所属。幼少期に魔力持ちである母を連れ去られ反逆罪の罪に問われ処刑される。以降、彼は自分が魔力持ちであることをひた隠しにし今日まで生活し続ける」
「お、おい……何を、」
「メアリー=コスト。フラシェスカ王国出身、パン屋の娘。非魔導師の父ブライアンがルスダン王国へ先頭兵として招集されのちに死亡。母も亡くなっているため幼い弟2人を育てている」
「せ、セリーヌ、話を……」
「ケイタ=ハセガワ、ユージ=ニシヤマ、他3名。彼らの恩師リョウコ=ミズキは魔導師狩りにて死亡。それから……」
「なんなんだよさっきからぁ!!」
鉄格子がガシャンと音を立てる。
あらあら、無視されすぎて目が血走ってるみたい。
「貴方は沢山の人生を狂わせた。彼らの分だけ苦しみがあって、その苦しみは決して消えることはないんです」
「………」
「それでも彼らは生きていかなきゃいけないんです。逃げることも投げ出すことも出来ない、一生の傷を背負っていくんです」
「わ……私は反省したっ!あれは若気の至りなんだっ!あの頃は少し、その……荒れてて」
荒れてて?思春期のせいだと言うのか?
私は彼に向けて手のひらを向ける。私のこの力は……反則すぎて、使うのにもサリファ様の許可がいる。
きっと、力を使えば彼は私を忘れるだろう。その前に、とびきりの笑顔を見せてあげようかなぁ!
「さよならクズ野郎。地獄の中、一生彷徨ってろよ」
『ねぇせんせい?』
『ん?なんだい、セリーヌ』
『どぉして、せかいには魔法を使える人と、使えない人がいるのぉ?みんな使えれば、便利ですてきな世界になるじゃない!』
子供の頃の私は、素直な疑問を尋ねた覚えがある。
先生、と呼んでたのは祖母で、ごっこ遊びをしながら魔導師について毎日勉強していたんだっけ?あの頃は何にも分かってなくてよくおばあちゃんを困らせてた。
『そうだねぇ。魔導師ばかりの世界なら口に出さなくても思ってることが相手に伝わったり、空を飛びながらお茶をしたり出来るんだろうね』
『でしょでしょ!』
『でもね、空ばかり飛んでては土壌が良いか悪いか気付けないし、思っていることが筒抜けになってしまえば喧嘩ばかりにしてしまうだろうさ』
『どじょう?つつぬけ?』
『いいかいセリーヌ。魔導師はいつでも心優しく接しなさい。特に魔力を持たない者……弱い者は守ってあげるんだよ』
おばあちゃんの言っていること、今ならちゃんと分かるよ。だからそれが正しくて、とても素晴らしいってこともちゃんと分かってる。
でもね?なんか私、おばあちゃんみたいに優しくなれないみたい。
だって、どんなに弱くても……悪いやつならやっつけたいって思っちゃうんだもん。
*****
ぽたぽたと水滴が落ちる音と、唯一の灯りとなる松明がパチパチと弾ける音だけが響いている。
ルスダン王国から少し離れたこの場所はフラシェスカ南東にある地下牢。普段は終身刑となる罪人どもを閉じ込めておくはずの場所、その一番奥にいるのは平民とは思えない上等な服を身につけた男だった。
数日前にここへ投獄された男、ギルバートは牢の真ん中に座り込みぼんやりとした目で天井を見つめている。意識はあるけど魂が抜けてるって感じ?まぁどうでもいいけど。
「ご気分はどうかしら」
「……せ、りーぬ」
私の存在に気付いたギルバートは視線をゆっくり私に向ける。その目にうっすら希望の色が見えたのは……まぁ見なかったことにしてあげよう。
「ごめんなさいね、少し準備に手間取ってしまって顔を出すのが遅れてしまいましたわぁ」
「あ……セリーヌ、セリーヌ、っ」
うわ、なんか名前連呼されるのも気持ち悪いなあ。
「セリーヌ、すまない、すまない私が悪いんだっ!だから、だからここから出してっ、出してくれぇ」
「……全く」
「何も、望まん!普通に、暮らしたいっ!お前と!平民になっても構わんっ!い、いや、いっそ共にあの世へ……」
心中?何寝ぼけたこと言ってんのかしら。
ガシャン
ギルバートが縋る鉄格子を思い切り蹴りつける。
「ひぃっ!」
「少し黙ってて貰えますぅ?これから私、貴方にとっておきの魔法をかけてあげなきゃならないのでぇ」
「ま、魔法?」
クスッと笑い持ってきた紙の束をギルバートがいる牢の中へとぶち撒ける。
舞い上がる紙を間抜けな顔で見てるだけ。馬鹿な男、この一枚一枚が貴方を苦しめるものだなんて分かってないのね。
「こ、れは……なんだ?」
「何って、被害者リストです」
「被害者?」
「ええ。例えば……これ」
落ちている一枚を拾い上げる。
「ケイン=ブースト。ルスダン王国出身、王国騎士団所属。幼少期に魔力持ちである母を連れ去られ反逆罪の罪に問われ処刑される。以降、彼は自分が魔力持ちであることをひた隠しにし今日まで生活し続ける」
「お、おい……何を、」
「メアリー=コスト。フラシェスカ王国出身、パン屋の娘。非魔導師の父ブライアンがルスダン王国へ先頭兵として招集されのちに死亡。母も亡くなっているため幼い弟2人を育てている」
「せ、セリーヌ、話を……」
「ケイタ=ハセガワ、ユージ=ニシヤマ、他3名。彼らの恩師リョウコ=ミズキは魔導師狩りにて死亡。それから……」
「なんなんだよさっきからぁ!!」
鉄格子がガシャンと音を立てる。
あらあら、無視されすぎて目が血走ってるみたい。
「貴方は沢山の人生を狂わせた。彼らの分だけ苦しみがあって、その苦しみは決して消えることはないんです」
「………」
「それでも彼らは生きていかなきゃいけないんです。逃げることも投げ出すことも出来ない、一生の傷を背負っていくんです」
「わ……私は反省したっ!あれは若気の至りなんだっ!あの頃は少し、その……荒れてて」
荒れてて?思春期のせいだと言うのか?
私は彼に向けて手のひらを向ける。私のこの力は……反則すぎて、使うのにもサリファ様の許可がいる。
きっと、力を使えば彼は私を忘れるだろう。その前に、とびきりの笑顔を見せてあげようかなぁ!
「さよならクズ野郎。地獄の中、一生彷徨ってろよ」
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