【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

文字の大きさ
上 下
11 / 20

11

しおりを挟む

「最悪ねこの人」
「クズの思考など理解できません」
「うわぁ、演技とはいえ愛してるとか言っちゃった自分が恥ずかしいよぉ」

モニカの引いた目、アズミの心底不思議な表情、セリーヌの無邪気な言葉が遠慮なく私の心臓をグサグサと刺してくる。
もはや本性を隠そうとしない彼女たちの態度にいちいち反応する元気もなくなってきた。

「そもそも、サリファ様のような優れた魔導師がこの国に嫁いできた理由を考えたことがありますか?」
「っそんなの、知らん!父上が勝手に連れて来たんだ!どこぞの魔導師と結婚しろと無理矢理言われて……」

そうだ、この結婚は政略結婚だった。
突然父上はサリファを連れてきた。そして私の意見は無視されたまま行われる結婚式。しかもその妻は可愛げもなくあれこれと命令してくる……私は被害者なんだ。

「それが先王様の罪滅ぼしだったのでしょう」

サリファは物悲しげに呟いた。
周りの家臣たちも、使用人たちも、そして彼女たちも、何とも言えず視線を私から逸らした。
何だ、この雰囲気は。

「ギルバート様だけが知らない、この国の歴史をお話しましょう」

ストンと椅子に座りサリファは語る。
私の知らない、私の国の物語を。





*****

それまでのルスダン王国は閉鎖的な国だった。
他国との外交を拒み自分たちだけ国を発展させてきた。だがそんな政策も長くは続かない。日照りが続けば食糧難に陥り、飢饉が起こり、産業が衰退していく。大不況が長らく続き、王家はやっと重い腰を上げたのだ。
他国との外交を始める内に彼らは自国がいかに遅れているかを突き付けられる。当時、迫害を受けていた魔導師たちが魔力を持たざる者たちと手を取り合い国を守っている、そんな光景を見て王家は焦りそして驚異した。

「そして、どの国もこのルスダンを狙うようになりました。当たり前です、ベールに包まれた国が実はどうしようもなく脆弱だと知れ渡ったのですから」
「まさか……」
「そんな状況を危惧した国王は自分の息子の結婚相手に他国から有能な魔導師の女を迎え入れました。彼女の名前アイリス」
「え……お、おい、その名前は」
「ええ。貴方のお母様ですわ」

サリファの言葉に動きが止まる。
母上が魔導師?確か母上は昔から身体が弱くて、いつも部屋のベッドの上にいた。
とても美しくて、優しい雰囲気の人だ。

「アイリス様は先王様の妻となり、この国の王妃となった。彼女は魔力を持たない先王様を支えるべく、この国に結界を張り続けた。……その結果、早くに命を落とされましたけど」
「う、嘘をつくなっ!」

からからになった喉を酷使して叫ぶ。
こんな嘘、許してなるものか!何故なら……

「もし母上が魔導師であれば私は魔力を持つはずだ!魔力は母親の魔力の有無に強く反応する!そんなの常識だろ!」

そうだ。近年の研究で子の魔力の有無は母親の性質に左右されると解明された。
サリファのやつ、また適当なことを言って私を言い包めようとしているのか?でないと説明がつかないだろ。

「ええ。ですがアイリス様に魔力があった事はこの場にいる全員が知っております。現に私はアイリス様から結界の引き継ぎを行っておりますから」
「で、では何故私には魔力がないんだっ?!」
「ギルバート様、もうお気付きでしょう?」

サリファはじっと私を見つめる。
まるで心の奥を透かし見るように……。

「うそだ……あり得ない、そんなの……」
「ギルバート様、貴方は」
「やめろっ!それ以上は!」
「アイリス様の子ではありませんよ」

真実が容赦なく突きつけられた。ああ、何となくそうでないかとは思っていた。今まで母と慕っていた人と私は親子ではなかったなんて。

私はペタンと膝から崩れた。

『ふふっギル、またここへ来たの?ちゃんとお勉強をしなきゃダメでしょ?』

そう言って母上はいつも私を部屋に招いてくれた。優しくて美しい母上が私は大好きだったんだ。

「親子揃って節操なしなんてほんとクズね」
「救えません。ぜひ去勢すべきです」
「男ってホントに馬鹿」
「なっ!!だ、黙れお前たち!父上を……ち、父上を、馬鹿にするなんて、不敬、だぞ」

彼女たちに反論するが言葉が上手く出てこない。
母上のように有能で素晴らしい女性が妻となったのに、父上は何故他の女なんかに目移りしたんだ?あり得ないだろ、しかも国のために頑張る妻を放っておいて?そんなの男の風上にも置けない。

そこまで考えてようやく気付く。

でも待てよ。それって……

「ようやく気付きましたか?」
「………」
「先王様がやった愚行を、貴方はしっかりと受け継いでいらっしゃる」

いつもよりも厳しいサリファの視線に目を逸らす。

そうだ。
遊び呆ける私と違い、サリファはいつもこの国のために動いていた。にも関わらず、私は彼女を支えるどころか後宮で他の女との情欲に溺れる毎日。サリファが今生きているという点を除き、私は、父上と同じことをしているのだ。
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

婚約破棄していただきます

章槻雅希
ファンタジー
貴族たちの通う王立学院の模擬夜会(授業の一環)で第二王子ザームエルは婚約破棄を宣言する。それを婚約者であるトルデリーゼは嬉々として受け入れた。10年に及ぶ一族の計画が実を結んだのだ。 『小説家になろう』・『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

どうして許されると思ったの?

わらびもち
恋愛
二度も妻に逃げられた男との結婚が決まったシスティーナ。 いざ嫁いでみれば……態度が大きい侍女、愛人狙いの幼馴染、と面倒事ばかり。 でも不思議。あの人達はどうして身分が上の者に盾突いて許されると思ったのかしら?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

処理中です...