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しおりを挟む「最悪ねこの人」
「クズの思考など理解できません」
「うわぁ、演技とはいえ愛してるとか言っちゃった自分が恥ずかしいよぉ」
モニカの引いた目、アズミの心底不思議な表情、セリーヌの無邪気な言葉が遠慮なく私の心臓をグサグサと刺してくる。
もはや本性を隠そうとしない彼女たちの態度にいちいち反応する元気もなくなってきた。
「そもそも、サリファ様のような優れた魔導師がこの国に嫁いできた理由を考えたことがありますか?」
「っそんなの、知らん!父上が勝手に連れて来たんだ!どこぞの魔導師と結婚しろと無理矢理言われて……」
そうだ、この結婚は政略結婚だった。
突然父上はサリファを連れてきた。そして私の意見は無視されたまま行われる結婚式。しかもその妻は可愛げもなくあれこれと命令してくる……私は被害者なんだ。
「それが先王様の罪滅ぼしだったのでしょう」
サリファは物悲しげに呟いた。
周りの家臣たちも、使用人たちも、そして彼女たちも、何とも言えず視線を私から逸らした。
何だ、この雰囲気は。
「ギルバート様だけが知らない、この国の歴史をお話しましょう」
ストンと椅子に座りサリファは語る。
私の知らない、私の国の物語を。
*****
それまでのルスダン王国は閉鎖的な国だった。
他国との外交を拒み自分たちだけ国を発展させてきた。だがそんな政策も長くは続かない。日照りが続けば食糧難に陥り、飢饉が起こり、産業が衰退していく。大不況が長らく続き、王家はやっと重い腰を上げたのだ。
他国との外交を始める内に彼らは自国がいかに遅れているかを突き付けられる。当時、迫害を受けていた魔導師たちが魔力を持たざる者たちと手を取り合い国を守っている、そんな光景を見て王家は焦りそして驚異した。
「そして、どの国もこのルスダンを狙うようになりました。当たり前です、ベールに包まれた国が実はどうしようもなく脆弱だと知れ渡ったのですから」
「まさか……」
「そんな状況を危惧した国王は自分の息子の結婚相手に他国から有能な魔導師の女を迎え入れました。彼女の名前アイリス」
「え……お、おい、その名前は」
「ええ。貴方のお母様ですわ」
サリファの言葉に動きが止まる。
母上が魔導師?確か母上は昔から身体が弱くて、いつも部屋のベッドの上にいた。
とても美しくて、優しい雰囲気の人だ。
「アイリス様は先王様の妻となり、この国の王妃となった。彼女は魔力を持たない先王様を支えるべく、この国に結界を張り続けた。……その結果、早くに命を落とされましたけど」
「う、嘘をつくなっ!」
からからになった喉を酷使して叫ぶ。
こんな嘘、許してなるものか!何故なら……
「もし母上が魔導師であれば私は魔力を持つはずだ!魔力は母親の魔力の有無に強く反応する!そんなの常識だろ!」
そうだ。近年の研究で子の魔力の有無は母親の性質に左右されると解明された。
サリファのやつ、また適当なことを言って私を言い包めようとしているのか?でないと説明がつかないだろ。
「ええ。ですがアイリス様に魔力があった事はこの場にいる全員が知っております。現に私はアイリス様から結界の引き継ぎを行っておりますから」
「で、では何故私には魔力がないんだっ?!」
「ギルバート様、もうお気付きでしょう?」
サリファはじっと私を見つめる。
まるで心の奥を透かし見るように……。
「うそだ……あり得ない、そんなの……」
「ギルバート様、貴方は」
「やめろっ!それ以上は!」
「アイリス様の子ではありませんよ」
真実が容赦なく突きつけられた。ああ、何となくそうでないかとは思っていた。今まで母と慕っていた人と私は親子ではなかったなんて。
私はペタンと膝から崩れた。
『ふふっギル、またここへ来たの?ちゃんとお勉強をしなきゃダメでしょ?』
そう言って母上はいつも私を部屋に招いてくれた。優しくて美しい母上が私は大好きだったんだ。
「親子揃って節操なしなんてほんとクズね」
「救えません。ぜひ去勢すべきです」
「男ってホントに馬鹿」
「なっ!!だ、黙れお前たち!父上を……ち、父上を、馬鹿にするなんて、不敬、だぞ」
彼女たちに反論するが言葉が上手く出てこない。
母上のように有能で素晴らしい女性が妻となったのに、父上は何故他の女なんかに目移りしたんだ?あり得ないだろ、しかも国のために頑張る妻を放っておいて?そんなの男の風上にも置けない。
そこまで考えてようやく気付く。
でも待てよ。それって……
「ようやく気付きましたか?」
「………」
「先王様がやった愚行を、貴方はしっかりと受け継いでいらっしゃる」
いつもよりも厳しいサリファの視線に目を逸らす。
そうだ。
遊び呆ける私と違い、サリファはいつもこの国のために動いていた。にも関わらず、私は彼女を支えるどころか後宮で他の女との情欲に溺れる毎日。サリファが今生きているという点を除き、私は、父上と同じことをしているのだ。
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