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しおりを挟む一体、何が起きたんだ?
「もぉー!だからさっさと殺しちゃえば良いって言ったのにぃ!」
「同感です。殺さずとも腕の一本でも……」
「こら、サリファ様の前で物騒なこと言わないの」
この和気あいあいと喋っているのは、誰だ?
いや分かってる。分かってるさ。私の自慢の花たち、愛しい愛しい側室たちだ。美しくて慈愛に満ちた彼女たちが……ああ、何故私を無視しているんだ?私の今の状況が見て分からないのか?床に這いつくばっているんだぞ?恐らく頭から血も出ているはず、なのに何故誰も私を心配しない?
「ねぇモニカ、随分と腕が落ちたんじゃないのぉ?まだ喋れそうよ?」
「わざとよ。もし全力で力を使ったら動けないどころか内臓まで潰しちゃうもの。それよりアズミの方が鈍ってるんじゃない?あんなそよ風じゃ額を切るくらいしか出来ないんだし」
「わ、私は……サリファ様の御前なので仕方なく!本気を出せば首くらい落とせますから!」
ギャンギャンと騒ぐ彼女たちを見て言葉が出ない。
「あれが彼女たちの本当の姿ですよ」
頭上から聞こえるサリファの声。くそっ!顔を確認することが出来ない!
「ギルバート様、ここで問題です。この世界で魔力を持たない者は全人口の何%にあたると思います?子供でも知っている簡単な問題です」
「っぁ……ぅ、」
「答えは10%以下。この世界は圧倒的に魔力を持つ者の方が多い……すなわち、持たざる者の立場は圧倒的に弱いのです。モニカ、そろそろ力を解きなさい」
「仰せのままに」
パチンと指を鳴らす音が聞こえた瞬間、それまで私の身体に掛かっていた重圧が一気になくなる。
押しつぶされて苦しかった呼吸も簡単に出来た。
「げほっ!ごほっ……き、貴様らぁ…!!」
「そんな状況なのにこの国には非魔導師の戦闘部隊しかありません。つまりは完全なる負け戦、いえ、それどころか戦をする前に虐殺されて終わりなんですよ」
そう言ってサリファは私の髪をグッと鷲掴みにする。
「っ!」
「誰かさんの下らないプライドのせいで、罪なき持たざる者たちが殺されているのです。分かりますか?負けると分かっているのに家族を、仲間を戦場に送り出さないとならない気持ちが」
「ぐぁっ!痛い痛いいたいっ!」
「痛いですか?良かったですね痛みが分かる状態で」
間近で見るサリファの顔はまるで悪魔だ。
それまで何の感情も出さなかった澄ました顔が、今は怒りや憎しみに満ち溢れている。
「ちなみにこの子たちも被害者です」
「は……?ひ、被害者?」
「ええ。見覚えはないでしょうが、彼女たちはしっかり貴方を覚えていますよ」
そう言うと後ろに控えていた3人はゆっくり私に近づいて来る。その目はサリファがいつも私に向ける、冷たくて蔑んだ視線だ。
「くそ、魔導師がぁ……っ!」
まだだ。まだ私の心は折れていない。
私は間違ってなどいない。絶対に。
するとそれまで静かだったセリーヌがゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「陛下ってほーんとに何も分かってないよねぇ」
「なに、……っ?!」
「そもそもこの国がこれまで無事でいられたのは、何を隠そうここにいるサリファ様のおかげなのに」
サリファのおかげ?私に変わって政を行うだけの女にそんな価値はないはずだ。
「ねぇ、さっき体験して思わなかったの?魔導師相手に指一本も動かせられなかったのよ?どうして今まで何の対策もして来なかったこの国が無傷でいられたと思う?」
「な、に言ってるんだ?!そ、そんなの!軍事費に多額の金をかけてるだろ?!」
「お金じゃ空から投下される爆弾を防げないでしょ?こうして会話している今だって、この国には大量の槍や爆弾、ありとあらゆる力が降り注いでるのよ。それからみんなを守っているのはサリファ様の結界のおかげなんだから」
フンと鼻を鳴らすセリーヌ。
「結界、とは……」
「高レベルの魔導師しか構築できない防護壁のことです。自分の周りだけでも囲うのがやっとなのですが、サリファ様はそれをこの国全体を覆うように発動しています」
アズミは窓の外を眺めながら呟いた。
「しかも24時間、それも何年間も発動しっぱなしに出来るなんて……やはりサリファ様はすごい」
「そ、そんなの、私には何も」
「魔力を持たざる者には見えないのでしょう。あの素晴らしい力が分からないなんて、本当に魔力なしは可哀想ですね」
何なんだこいつらは。
みんなしてサリファを持ち上げて……。確かに魔導師はすごい、私なんかに勝ち目はないさ。でもそんなの……
「お、王妃ならば、国を守って当然……」
「「「はぁ?」」」
「ひぃっ!」
一斉にこちらを向く彼女たちはまるで般若のような顔で睨みつけてきた。
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