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サリファに離縁を申し立ててから数日後。
あの日から憂鬱だった日常はより窮屈になった。
私が離縁を申し立てた事は王宮中に知れ渡り、家臣どもや使用人たちはちらちらと私を見てきた。そして大きく変わったのが……
「あ、陛下。後宮ではなくこちらに何用です?」
「おや陛下、本日は後宮に行かれないのですか?」
「あんなにお盛んでしたのに……ふふふっ」
奴らの態度だ。
前まではこそこそと陰口を叩く程度だったのに、今では目に見えて私を軽んじるようになった。当然、まだ離縁は成立してない。私はまだ国王の座を退位してないんだぞ?!
離縁が成立すればサリファは国を出て、後見人となった私が引き続き権力を握る。そうすれば私を馬鹿にしている奴らなど全員牢に入れることも処刑することも容易い。今、媚を売っておくべき相手は間違いなく私なはずなのに。
「くそっ!」
気付けば王宮内に私の居場所はなくなっていた。……いや、元よりなかったのだ。それが離縁をきっかけに明るみに現れただけだった。
「……行かなくては」
私だけの花園に。
あの場所だけが私を肯定し癒してくれる。
モニカからする花の香り、アズミが奏でる琴の音、セリーヌが浴びせてくれるありったけの愛の言葉が疲弊している私には必要だ。
だがあいつのことだ。
恐らく3人には後宮取り壊しの話をもうしているだろう。もしかしたら離縁の話も既に聞いているかも知れん。
責任感の強い彼女たちならきっと私が退位してしまうことに心を痛めているだろう、理由は何であれ彼女たちのために選択したのだから。
「可哀想な女たち……よしよし、今からたっぷり可愛がってやらねばな!」
ああ、なんだか元気が出てきたぞ!!
*****
「ん?」
後宮に入り離れへと向かう道中、いつもは分かれ道のところにいるはずの老婆が今日はやけに手前で私を出迎えた。
「これより先にはお通し出来ません」
「は?」
老婆の顔はいつになく真面目で、私の顔をじっと見つめている。
それにしても通れないとは何事だ?
「後見人の選定に不正がないよう、何人たりとも離れにいる側室様には近付けません」
選定の不正という言葉にピクッと反応してしまう。
後見人の指名は本来であれば子自身が行う。だが、3人ともまだ生まれて数ヶ月。当然言葉など喋れるはずがない。その場合はモニカ、アズミ、セリーヌが形式上、子の代弁者となり指名をするのだ。
この婆……私が彼女たちに釘を刺しに来たとでも思っているのか?
「っ、おい婆!誰に向かって口を聞いている?!まさかまたサリファの差し金じゃないだろうな?!」
「いえ、王妃殿下は関係ありません。この国の決まりで御座います」
この国の決まり?ふざけるなっ!
愛する者に会いに行ってはいけないなどという決まりが存在してなるものか!
「どけっ!邪魔だ!」
「なりませぬ!」
強引に通り抜けようとするが、婆は私の袖を握って離さない。年寄りのくせになんだこの力の強さは!
「お戻りくださいっ!どうか……」
「調子に乗りおって!お前まで私を愚弄する気か!」
ドンと突き飛ばせばよろけた老婆はそのまま地面に倒れ込む。
「なりま……せ、ぬ…」
「はぁ、はぁ、うるさいうるさいっ!お前のような低俗な人間が私に指図するなっ!」
大声で叫べば婆はうずくまったまま唸る。
こんな婆に用はない。さっさと彼女たちの元へ……
「「きゃぁぁあ!女官さまぁっ!」」
突然聞こえた女の悲鳴にビクッと肩が跳ねる。
私は咄嗟に物陰へと身を隠せば、倒れ込んだ婆の元に数人の侍女らしき女たちが寄って行った。
いやいや、何で隠れてしまったんだ。
私は王だ。そしてあの婆は私に反逆したのだから罪に問われるのはあいつの方だ!なのに……
「す、すぐに人を!医官を呼んで!」
「はいぃっ!」
「あぁ……頭から血が、!」
頭から血?
顔を覗かせれば婆の後頭部から血が出ている。
「っ!」
私は逃げ出した。
振り返る事なく急いで宮廷へ戻る。軽く振り払っただけなのに……そ、そうだ!あの婆が勝手によろけて頭を打っただけだ!私は全く悪くない!
「はぁっ、ちくしょうっ!」
飛び込むように自室へと戻りベッドにダイブする。
「くそっ……くそぉ、」
あの状況じゃ、恐らく婆を突き飛ばした犯人探しで後宮には近付けないだろう。ますます彼女たちに会う機会を失ってしまった。
ああ、神は何故私にばかり試練を与えるのだろうか。
「早く、早く時が過ぎれば良いのに」
そしたら今まで通り、私は誰よりも偉くて、美しい花に囲まれて幸せに暮らせるのに……。
あの日から憂鬱だった日常はより窮屈になった。
私が離縁を申し立てた事は王宮中に知れ渡り、家臣どもや使用人たちはちらちらと私を見てきた。そして大きく変わったのが……
「あ、陛下。後宮ではなくこちらに何用です?」
「おや陛下、本日は後宮に行かれないのですか?」
「あんなにお盛んでしたのに……ふふふっ」
奴らの態度だ。
前まではこそこそと陰口を叩く程度だったのに、今では目に見えて私を軽んじるようになった。当然、まだ離縁は成立してない。私はまだ国王の座を退位してないんだぞ?!
離縁が成立すればサリファは国を出て、後見人となった私が引き続き権力を握る。そうすれば私を馬鹿にしている奴らなど全員牢に入れることも処刑することも容易い。今、媚を売っておくべき相手は間違いなく私なはずなのに。
「くそっ!」
気付けば王宮内に私の居場所はなくなっていた。……いや、元よりなかったのだ。それが離縁をきっかけに明るみに現れただけだった。
「……行かなくては」
私だけの花園に。
あの場所だけが私を肯定し癒してくれる。
モニカからする花の香り、アズミが奏でる琴の音、セリーヌが浴びせてくれるありったけの愛の言葉が疲弊している私には必要だ。
だがあいつのことだ。
恐らく3人には後宮取り壊しの話をもうしているだろう。もしかしたら離縁の話も既に聞いているかも知れん。
責任感の強い彼女たちならきっと私が退位してしまうことに心を痛めているだろう、理由は何であれ彼女たちのために選択したのだから。
「可哀想な女たち……よしよし、今からたっぷり可愛がってやらねばな!」
ああ、なんだか元気が出てきたぞ!!
*****
「ん?」
後宮に入り離れへと向かう道中、いつもは分かれ道のところにいるはずの老婆が今日はやけに手前で私を出迎えた。
「これより先にはお通し出来ません」
「は?」
老婆の顔はいつになく真面目で、私の顔をじっと見つめている。
それにしても通れないとは何事だ?
「後見人の選定に不正がないよう、何人たりとも離れにいる側室様には近付けません」
選定の不正という言葉にピクッと反応してしまう。
後見人の指名は本来であれば子自身が行う。だが、3人ともまだ生まれて数ヶ月。当然言葉など喋れるはずがない。その場合はモニカ、アズミ、セリーヌが形式上、子の代弁者となり指名をするのだ。
この婆……私が彼女たちに釘を刺しに来たとでも思っているのか?
「っ、おい婆!誰に向かって口を聞いている?!まさかまたサリファの差し金じゃないだろうな?!」
「いえ、王妃殿下は関係ありません。この国の決まりで御座います」
この国の決まり?ふざけるなっ!
愛する者に会いに行ってはいけないなどという決まりが存在してなるものか!
「どけっ!邪魔だ!」
「なりませぬ!」
強引に通り抜けようとするが、婆は私の袖を握って離さない。年寄りのくせになんだこの力の強さは!
「お戻りくださいっ!どうか……」
「調子に乗りおって!お前まで私を愚弄する気か!」
ドンと突き飛ばせばよろけた老婆はそのまま地面に倒れ込む。
「なりま……せ、ぬ…」
「はぁ、はぁ、うるさいうるさいっ!お前のような低俗な人間が私に指図するなっ!」
大声で叫べば婆はうずくまったまま唸る。
こんな婆に用はない。さっさと彼女たちの元へ……
「「きゃぁぁあ!女官さまぁっ!」」
突然聞こえた女の悲鳴にビクッと肩が跳ねる。
私は咄嗟に物陰へと身を隠せば、倒れ込んだ婆の元に数人の侍女らしき女たちが寄って行った。
いやいや、何で隠れてしまったんだ。
私は王だ。そしてあの婆は私に反逆したのだから罪に問われるのはあいつの方だ!なのに……
「す、すぐに人を!医官を呼んで!」
「はいぃっ!」
「あぁ……頭から血が、!」
頭から血?
顔を覗かせれば婆の後頭部から血が出ている。
「っ!」
私は逃げ出した。
振り返る事なく急いで宮廷へ戻る。軽く振り払っただけなのに……そ、そうだ!あの婆が勝手によろけて頭を打っただけだ!私は全く悪くない!
「はぁっ、ちくしょうっ!」
飛び込むように自室へと戻りベッドにダイブする。
「くそっ……くそぉ、」
あの状況じゃ、恐らく婆を突き飛ばした犯人探しで後宮には近付けないだろう。ますます彼女たちに会う機会を失ってしまった。
ああ、神は何故私にばかり試練を与えるのだろうか。
「早く、早く時が過ぎれば良いのに」
そしたら今まで通り、私は誰よりも偉くて、美しい花に囲まれて幸せに暮らせるのに……。
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