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しおりを挟む『良いなギルバート。どんなに腹を立てようと、惨めな思いをしたとしても、決してサリファと離縁してはならんぞ』
死に際、前国王だった父上は枯れた声を絞り出しながら私に言った。
その言葉の真意は分からない。でも、父上がサリファを褒めるたび自分は無能だと言われている気分だった。そんな惨めな思い、私が王になればしなくて済むと思っていたのに……
『妃殿下がいなきゃこの国はおしまいだよなぁ』
『そりゃそうさ、なんせ国王はボンクラなんだし』
『顔だけが取り柄、魔力なしだもんなぁ』
家臣どもは陰で私を無能だと馬鹿にした。
そんなの許せる訳ないだろう?だから私は周りの意見など無視し、国に蔓延る魔導師どもを適当な理由をつけて殺していった。中には他国から外交目的で来たやつなんかも居た。
まぁそれも今では若さ故の過ち。今の私は彼女たちに出会い、過去の行いが間違いだったと反省している。
『良いではありませんか、例え傀儡と呼ばれても。陛下には私たちがおりますもの』
モニカは優しく私を抱きしめそう言った。
『陛下、魔力などなくとも私たちは離れません』
アズミは私の手をそっと握りそう言った。
『愛していますよ、陛下』
セリーヌは懐っこい笑顔で抱きつきそう言った。
そうだ、何を恐れることがある。
傀儡と言われようとも、落ちこぼれと罵られても、魔導師じゃなかったとしても、私がこの国の王であることは変わりない。その他大勢など居てもいなくても一緒なのだ。
*****
そして、約束の日を迎える。
サリファは私を玉座の間に呼びつけた。
中には数名の家臣と官僚たち、そしてその中央には相変わらず仏頂面のサリファが偉そうに座っている。
私は促されるまま対面する椅子に座った。
「では、先に離縁の手続きを致しましょう。必要書類はこちらでご用意致しましたので、あとは陛下のご署名と血判を。それと王家の離縁を行う場合、立会い人が10名、神官が1名いる場で行わなければなりませんので私の一存でご用意致しました。もしご都合が悪ければ今から変更に……」
「構わん。一刻も早く離縁できるならば誰が立ち合おうとどうでもいい」
「そうですか」
今更長々と説明を受けたところで私の気持ちは変わらない。差し出された書類へ名前を殴り書き、乱暴に自分の親指を噛む。血の滲んだ指を離縁書にグッと押し付けれた。
「さぁ!これで文句はないだろう?!」
「ええ、そうですね」
サリファは書類を手に取りざっと目を通した後、私と同じようにサラサラと名前を書く。
「ナイフを下さい」
「は、はいっ」
家臣からナイフを受け取り指先にあてた。
同じように血判を押した後、サリファはふぅと息を吐き私に視線を向ける。
「では、これで離縁の手続きは終わりました」
その言葉に身体の力がスッと抜けていく。
ああ……終わった、何もかも。今までよくぞ耐えてきた、これでこのうるさい女ともおさらばだ。
「では、さっさと後見人を決めようじゃないか!」
私はもう既に投げやりになっていた。
「そうですね。では、姫君たちをここへ」
「「はっ!」」
家臣たちは部屋の扉を開けると、子を抱えたモニカ、アズミ、そしてセリーヌが入ってきた。
その表情はいつものような柔らかさはなく、あのセリーヌですら真面目な表情をしている。いくら答えは決まっていようと彼女たちはこれから重大な選択を迫られるんだからまぁ仕方ないだろう。
「では、先日申し上げたように姫君たちには後見人を選んで頂きます。その者が御子様に代わり政を進めるので、極めて重要な選択ということをご理解下さい」
「ハッ!小賢しい、今更脅しかサリファ」
「いえ、事実をお伝えしたまでです」
「散々彼女たちを蔑ろにしておいて見苦しいぞ!」
もう全てが手遅れなのだ!
お前には国を追い出される運命しか残ってない。
「さぁお前たちよ!新たな王となる子たちの導き手、後見人の名を申してみよ!」
「「「はい、国王陛下。我が子の後見人は……」」」
そうだ、ひと段落したら後宮に住まいを移そう。
なんなら3人で……うんそれが良い。これからは4人一緒に過ごして、子供たちとのんびりと……
「「「サリファ王妃殿下をご指名致します」」」
*****
補足
登場人物の年齢について。
・国王ギルバートとサリファ、モニカはほぼ同い年。
・側室たちは上からモニカ→アズミ→セリーヌ。
セリーヌだけ少し年齢が離れています。
サリファは王に年増扱いをされていますが、それほど上ではないことをご理解下さい。
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