【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

文字の大きさ
上 下
8 / 20

しおりを挟む

『良いなギルバート。どんなに腹を立てようと、惨めな思いをしたとしても、決してサリファと離縁してはならんぞ』

死に際、前国王だった父上は枯れた声を絞り出しながら私に言った。
その言葉の真意は分からない。でも、父上がサリファを褒めるたび自分は無能だと言われている気分だった。そんな惨めな思い、私が王になればしなくて済むと思っていたのに……

『妃殿下がいなきゃこの国はおしまいだよなぁ』
『そりゃそうさ、なんせ国王はボンクラなんだし』
『顔だけが取り柄、魔力なしだもんなぁ』

家臣どもは陰で私を無能だと馬鹿にした。
そんなの許せる訳ないだろう?だから私は周りの意見など無視し、国に蔓延る魔導師どもを適当な理由をつけて殺していった。中には他国から外交目的で来たやつなんかも居た。
まぁそれも今では若さ故の過ち。今の私は彼女たちに出会い、過去の行いが間違いだったと反省している。

『良いではありませんか、例え傀儡と呼ばれても。陛下には私たちがおりますもの』

モニカは優しく私を抱きしめそう言った。

『陛下、魔力などなくとも私たちは離れません』

アズミは私の手をそっと握りそう言った。

『愛していますよ、陛下』

セリーヌは懐っこい笑顔で抱きつきそう言った。

そうだ、何を恐れることがある。
傀儡と言われようとも、落ちこぼれと罵られても、魔導師じゃなかったとしても、私がこの国の王であることは変わりない。その他大勢など居てもいなくても一緒なのだ。




*****

そして、約束の日を迎える。

サリファは私を玉座の間に呼びつけた。
中には数名の家臣と官僚たち、そしてその中央には相変わらず仏頂面のサリファが偉そうに座っている。
私は促されるまま対面する椅子に座った。

「では、先に離縁の手続きを致しましょう。必要書類はこちらでご用意致しましたので、あとは陛下のご署名と血判を。それと王家の離縁を行う場合、立会い人が10名、神官が1名いる場で行わなければなりませんので私の一存でご用意致しました。もしご都合が悪ければ今から変更に……」
「構わん。一刻も早く離縁できるならば誰が立ち合おうとどうでもいい」
「そうですか」

今更長々と説明を受けたところで私の気持ちは変わらない。差し出された書類へ名前を殴り書き、乱暴に自分の親指を噛む。血の滲んだ指を離縁書にグッと押し付けれた。

「さぁ!これで文句はないだろう?!」
「ええ、そうですね」

サリファは書類を手に取りざっと目を通した後、私と同じようにサラサラと名前を書く。

「ナイフを下さい」
「は、はいっ」

家臣からナイフを受け取り指先にあてた。
同じように血判を押した後、サリファはふぅと息を吐き私に視線を向ける。

「では、これで離縁の手続きは終わりました」

その言葉に身体の力がスッと抜けていく。
ああ……終わった、何もかも。今までよくぞ耐えてきた、これでこのうるさい女ともおさらばだ。

「では、さっさと後見人を決めようじゃないか!」

私はもう既に投げやりになっていた。

「そうですね。では、姫君たちをここへ」
「「はっ!」」

家臣たちは部屋の扉を開けると、子を抱えたモニカ、アズミ、そしてセリーヌが入ってきた。
その表情はいつものような柔らかさはなく、あのセリーヌですら真面目な表情をしている。いくら答えは決まっていようと彼女たちはこれから重大な選択を迫られるんだからまぁ仕方ないだろう。

「では、先日申し上げたように姫君たちには後見人を選んで頂きます。その者が御子様に代わり政を進めるので、極めて重要な選択ということをご理解下さい」
「ハッ!小賢しい、今更脅しかサリファ」
「いえ、事実をお伝えしたまでです」
「散々彼女たちを蔑ろにしておいて見苦しいぞ!」

もう全てが手遅れなのだ!
お前には国を追い出される運命しか残ってない。

「さぁお前たちよ!新たな王となる子たちの導き手、後見人の名を申してみよ!」
「「「はい、国王陛下。我が子の後見人は……」」」

そうだ、ひと段落したら後宮に住まいを移そう。
なんなら3人で……うんそれが良い。これからは4人一緒に過ごして、子供たちとのんびりと……




「「「サリファ王妃殿下をご指名致します」」」



*****
補足

登場人物の年齢について。
・国王ギルバートとサリファ、モニカはほぼ同い年。
・側室たちは上からモニカ→アズミ→セリーヌ。
 セリーヌだけ少し年齢が離れています。
サリファは王に年増扱いをされていますが、それほど上ではないことをご理解下さい。
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?それならこの国を返して頂きます

Ruhuna
ファンタジー
大陸の西側に位置するアルティマ王国 500年の時を経てその国は元の国へと返り咲くために時が動き出すーーー 根暗公爵の娘と、笑われていたマーガレット・ウィンザーは婚約者であるナラード・アルティマから婚約破棄されたことで反撃を開始した

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

何故恋愛結婚だけが幸せだと思うのか理解できませんわ

章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のファラーシャは男爵家庶子のラーケサに婚約者カティーブとの婚約を解消するように迫られる。 理由はカティーブとラーケサは愛し合っており、愛し合っている二人が結ばれるのは当然で、カティーブとラーケサが結婚しラーケサが侯爵夫人となるのが正しいことだからとのこと。 しかし、ファラーシャにはその主張が全く理解できなかった。ついでにカティーブもラーケサの主張が理解できなかった。 結婚とは一種の事業であると考える高位貴族と、結婚は恋愛の終着点と考える平民との認識の相違のお話。 拙作『法律の多い魔導王国』と同じカヌーン魔導王国の話。法律関係何でもアリなカヌーン王国便利で使い勝手がいい(笑)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。 ☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。 ☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。 ☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。 ☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。 ☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 ☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。

婚約破棄していただきます

章槻雅希
ファンタジー
貴族たちの通う王立学院の模擬夜会(授業の一環)で第二王子ザームエルは婚約破棄を宣言する。それを婚約者であるトルデリーゼは嬉々として受け入れた。10年に及ぶ一族の計画が実を結んだのだ。 『小説家になろう』・『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。

kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。

処理中です...