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しおりを挟むそして数日後。
後宮の侍女から私の元へある報告が届く。
セリーヌが男児を出産した。
母子ともに健康だと伝えられ私は一目散に後宮へと向かおうとした。まずはセリーヌを力いっぱい抱きしめてやろう、そして生まれてきた我が息子をすぐに抱いてやらねば!
……だが、またしても邪魔が入ってしまう。
「陛下、どちらへお出掛けですか?」
後宮に向かう途中、仏頂面のサリファに出会う。
(またぞろぞろと官僚どもを引き連れて……まるで自分が国王みたいに振る舞っているな)
そんな彼女の態度がいちいち鼻につく。
「どけっ!お前に用はない」
「陛下には無くともこちらにはあります。今日は国内予算を決める大事な会議なので必ず出席するようお伝えしましたよね?」
「そんなもの関係ないだろ!セリーヌが、私の子が生まれたのだぞ!」
そう叫べば周りにいた官僚たちが騒めく。
「陛下っ!何をお考えですか?!」
「この会議は今後のルスダン王国を左右する、とても大事な会議なのですよ?!」
「陛下の裁決を頂けないと明日からの商人や農民たちの動きが変わってしまいます!それをご理解頂いた上で仰っているのですか」
ふんっ!サリファの金魚のフンたちめ!がやがやとうるさい奴らだ。
「お前たちこそ分かっているのか?未来の国王となるやも知れん男児が生まれたのだぞ!それこそ不敬であろう!」
叫べばさっきまでの勢いが止まり、官僚たちはグッと唇を噛み黙り込んだ。
(ほらみろ、この弱虫どもめ!)
何事もなく横を通り過ぎようとした。その時、クスリとサリファが笑う。
「それはそれはおめでとうございます。ですが陛下が顔を出しても子はすぐには育ちません」
「何だと……お前、誰に向かって」
立ちはだかるサリファとすれ違い様にぶつかる。
その衝撃でサリファは床に座り込んでしまったがそんなのは関係ない。愛する側室と忌まわしい妻、優先順位など付けなくとも分かり切っている。
「……では、国王代理として私が承認権を持ちます。それで宜しいですね?」
「くどい!勝手にしろ!」
そう叫びながらすぐに後宮へと向かった。
*****
「おぎゃぁああ!」
勢いよく部屋へと飛び込めば力なくベッドに寝ているセリーヌとそのすぐ側で元気よく泣いている赤子がいた。
「セリーヌっ!」
「あぁ、陛下……来てくださったのですね」
「よく頑張った!こんなに愛らしい子が、こんなに元気の良い子が生まれてきてくれたのだなっ!」
「えぇ、どうぞ抱えて下さいませ」
息絶え絶えで笑うセリーヌの額をそっと撫でた後、産婆に支えてもらいながら子供を抱く。
「あぁ……なんと小さい、だが元気は人一倍だ。それにこの優しい目元はセリーヌそっくりではないか」
「ふふっ、鼻は陛下にそっくりですわぁ」
何て幸せな時間なんだろう。
愛するセリーヌと、生まれたばかりの小さな命。身を寄せ合いながら笑い合うこの光景こそ、まさに私が望んでいた"夫婦"の形なのだ。
(もし私とサリファの間に子がいれば、この子はただの妾の子供……どう頑張っても王族にはなれない運命だっただろうに)
セリーヌに限ったことじゃない。モニカも、アズミも、所詮は側室。殺されはしないがその立場の弱さは変わらなかっただろう。
だからこそ、サリファさえいなければ……。
「そう言えば」
セリーヌは思い付いたように顔を上げる。
「先程、紅の姫様と藍の姫様がお見舞いに来てくださいました」
「ん?モニカとアズミがか?」
「はいっ!お二人ともこの子の出産をとても喜んで下さって、何かあれば頼るようにと仰って下さったのですよぉ」
ふふっと楽しそうにセリーヌは笑う。
(3人は仲が良いとは……意外だな)
「陛下がお見えにならない日などは3人でよくお茶をしたりするのですよ?」
「そうなのか?私はその……仲が悪いのかと」
「何故です?共に愛したお人が同じなのに。これからは3人で陛下をお支えしようと、いつも話しているのですよぉ?」
ヘラっと笑うセリーヌに涙が溢れそうになった。
そこまでして私のことを思ってくれるなんて!モニカもアズミも、後で離れを訪れてやろう。沢山の褒美と愛の言葉を……こんなに恵まれた男は世界中探しても私くらいだろう。
私は抱いていた子をセリーヌに渡す。
「陛下?」
「そろそろ戻る。何か欲しいものがあれば遠慮なく侍女に申し付けるんだぞ」
「えぇ、ありがとうございます陛下」
私はそう言って部屋を出た。
「お待ちしておりました陛下」
離れを出れば老婆が深々と頭を下げる。その雰囲気はいつものめんどくさそうな雰囲気とは違い、少し顔が強張っているようにも見える。
「何だ急に」
「先程、妃殿下のお付きの者がこれを渡しに」
「何?サリファの?」
そう言って差し出された書簡を手に取りそれに目を通していく。
それは先程までの会議を記録したもので、可決された法案がびっちりと記載されていた。
「………何だこれは」
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