2 / 20
2
しおりを挟む後宮に入れば3つの離れがあり、それぞれに向かう道の前に老婆が立っている。この光景も毎日だと鬱陶しいな。
「国王陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
「定型な挨拶は良い。今、暇な者は?」
「でしたら紅の姫か藍の姫が宜しいかと。黄の姫は今朝体調が優れないと言っておりましたので、今医者に診て貰っているところで御座います」
「そうか……ならば先にモニカの元に出向こう」
「畏まりました」
そう言って老婆は私の前を歩く。
この婆は後宮を管理する女官であり、私が初めてここを訪れた何年も前からずっといる。まるで妖怪みたいだと小さい頃は思ったものだ。
*****
その離れに近付くと何とも芳しい薔薇の香りが強くなる。中からの返事を待たずに扉を開ければ赤毛の女が迎えてくれる。
(あぁ、やっぱりモニカは側室たちの中で最も色香があるな)
「まぁ陛下、本日もお変わりなく」
ニコッと上品に微笑む姿に全身に溜まっていた苛立ちが一気になくなった。
「お前の顔が見たくなってまた来てしまったよ。退屈な会議などなければすぐに会いに来れたんだがなぁ」
「あらあら、それはお疲れでございましょう。そもそも陛下はこの国にとって唯一無二の高貴なお方、独り占めできるなど思っておりませんわ」
慎ましく微笑みながら私をソファーへと促す。
「今お茶を、庭先で育てていたラベンダーで淹れたものをお出ししますね」
「ああ、そんなことは侍女に任せておけ。モニカ」
私は茶を淹れに行こうとするモニカを抱き寄せた。
(モニカは誰よりもスタイルが良いからな、この豊満な胸元のためにやりたくもない政をやっているようなものだ)
胸元が大きく開いた薄手の服は彼女の大胆な身体を象徴している。こんなの、どんな男でも目がいってしまうに違いない。
「もぉ、陛下ったらまだ陽が出ていますわよ」
「良いじゃないか、あの女と会った時は気が滅入ってしまうんだよ。お前の身体で癒やしておくれ」
「あの女とは妃殿下のことですか?」
「ああ。……ちっ!本当に可愛げのない女だよあいつは。顔を合わせるだけで気分が悪い」
「そんなこと仰らないで?妃殿下が頑張って下さっているから私たちはこうして愛を育めるのですよ?」
するりとモニカの手が胸元から忍び込んでくる。その指先にピクッと反応すれば、満足そうに笑いながら身体を密着してくる。
(全く、どちらが発情しているのやら)
だが求められるのは気分が良い、特にモニカのような絶世の美女になら尚更。
彼女はこの国の上位官僚の娘だ。
本来ならば政治の道具として正室の座を狙って来そうだがモニカはそこのところを弁えている。大胆な見た目と違いとても頭が良い女なのだ。
「そう言えばランはどこだ?」
彼女に服を脱がされている最中に思い出す。
モニカは3ヶ月前に男児を産んだ。もちろん私の子だ。
いつもはピーピーと泣き声が聞こえていたのに今日は全く聞こえない。
「乳母に連れられ別室におります。今日はとても機嫌が良くて……後でお会いになりますか?」
「そうだな、父の顔を早く覚えさせねば」
「ふふっ、素敵なお父上でランも喜ぶでしょう」
そう話すモニカの表情はさっきとは違い完全に優しい母の顔になる。
「藍の姫の御子様も先月生まれたばかりですし、黄の姫もそろそろ産気づく頃合いでしょう?ランも母は違えど兄弟が増えて幸せですわ」
「ああ。魔力を持たぬお前との子だ、ランも非魔導師としてこの国に尽力してくれるだろう。そうなればいずれ……いや、今はよそう。跡継ぎのことなど今話したところで何の解決も起こらない」
サリファとの間に子はいない。
よって側室である3人のうち誰かの子を王に据えることになる。ほぼ同時期に3人とも子を孕んだ、もう少し子が成長すれば跡目争いが起きてしまうかもな。
「陛下、私もランも陛下のお側にいられればそれで良いのです。どうぞ次期国王の座には、藍か黄の姫の御子様を据えてくださいませ」
「モニカ……お前というやつは何といじらしいんだ!」
ガバッと彼女に覆い被さる。
「陛下、窓が開いておりますわ」
「そんなものはどうでも良い!今すぐお前を愛してやらねば気が済まんのだ!」
「ふふっ、まぁ嬉しい。お手柔らかに」
彼女の白い腕が首に回り、私は無我夢中でその魅惑の身体に食らいついた。
(あぁ愛おしいモニカ、彼女さえいれば私は何もいらない!)
34
お気に入りに追加
3,409
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?
まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。
☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。
☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。
☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。
☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。
☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

妹とそんなに比べるのでしたら、婚約を交代したらどうですか?
慶光
ファンタジー
ローラはいつも婚約者のホルムズから、妹のレイラと比較されて来た。婚約してからずっとだ。
頭にきたローラは、そんなに妹のことが好きなら、そちらと婚約したらどうかと彼に告げる。
画してローラは自由の身になった。
ただし……ホルムズと妹レイラとの婚約が上手くいくわけはなかったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる