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しおりを挟む「あの匿名の写真、貴方なんでしょ?」
ベンチに座り私は目の前に立つカイを見上げた。
「何の事ですか?」
「とぼけないで、あのツーショット写真よ」
核心に触れる名前を出せばカイはしばらくしてから小さく笑った。
「あーあれ、よく撮れてたでしょう?あの親父、人気が落ちた娼婦相手に悪さするのが好きみたいなんでマークしてたんですよ」
「お陰で彼女を追い詰める証拠になったわ」
「あのくらいお安い御用です」
そう言いながらカイは隣に座る。
距離がグッと近付き私は思わず体を硬直させてしまう。
そんな私の反応を知ってか知らずか、肩同士がちょこっとだけ触れ思わず距離を取ってしまった。
過剰に意識しすぎた!
「ふはっ!意識しすぎ」
「なっ!しょうがないでしょ、こういうのは慣れてないんだから!」
吹き出すように笑うカイを見てカァッと頭に血が上がり、それと同時に顔面が真っ赤になってると思う。
「ホントに可愛すぎますね」
「っ~!からかわないで」
「で、俺と一緒になる決心はつきましたか?」
「……行くなんて一言も言ってないわよ」
私がそう答えれば少しだけ驚いた顔をする。
だってそうでしょ。
相手は隣国の公爵で、私よりも若くて、おまけに顔がいい。わざわざ私みたいな女を選ばなくたって……
「はぁーーー!ほんっと貴女は」
「?」
「頭硬すぎです」
そう言ってパチンと額を弾かれる。
痛い……手加減してくれたのだろうけど。
額を摩りながら顔を見ればいつもよりも優しい顔で私を見つめてくる。
「貴女はもう何も心配しないで俺に全部預けて下さい。色々言ってくる人間がいれば俺が黙らせるから」
「カイ……」
「好きですクロエ。俺を信じてついて来て下さい」
そっと手を取られ指先に軽くキスを落とされる。
唇が一瞬触れただけなのにまるで熱を持ったように熱い。
手を引っ込めようとするもすぐに握り返された。
「いいの?私の方が年が上よ」
「関係ないくらい貴女は綺麗です」
「バツイチだし、色々面倒な経歴抱えてるわ」
「知ってます。でもそれももう関係ないでしょ」
「……意外に嫉妬深いのよ?」
「ハハッ!良いですね、貴女に束縛されるのも悪くない」
楽しそうに笑うカイにつられて私も笑う。
今までした事ない、なんて事ない会話が全部心地良くて私は握られた手をギュッと握り返した。
「……宜しくお願いします」
ボソリと呟けばカイは一瞬目を丸くした後、嬉しそうに笑いながらガバッと抱きついて来た。
「ちょっと!ここ、外!」
「あー……やっと俺のモノになってくれた!」
へへっと無邪気に笑う彼に心臓がトクリと鳴る。
こんな可愛い顔もするのね。
ぎゅうぎゅうと抱き締める背中に恐る恐る腕を回して私も抱きついてみる。
カイの体温が気持ち良くて思わず胸に顔を押し付けた。
なんだろう……愛されるのって、気持ち良いのね。
「クロエ、キスして良いですか?」
「ぇえっ?!ちょっと待っ……」
「待てません」
そう言ってカイは私の返事を待たずして顎を持ち上げ唇を重ねる。本当に触れるだけ、一瞬のキスだったけど私の顔は恐らくゆでダコのように真っ赤になってるだろう。
ゆっくりと体を引き剥がせばカイはまたいつものようにニヤリと意地悪な笑みを浮かべていた。
「っ……ばか!」
「愛してますよ」
全ては契約から始まった結婚。
でもあれがなければこんなに幸せを感じる事もなかった。
私はそっと微笑み、もう一度愛する人の腕の中に飛び込んでいく。
*****
完結いたしました!
ここまでご愛読頂き誠にありがとうございました。
また次回作でお会いしましょう!
2020.09.29
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