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しおりを挟む「旦那様、何を仰っているのかお分かりですか?」
「もちろんだ。3人になるから早急に子供部屋を作ろう、寂しくならないように次の子の予定も決めねば」
「旦那様!」
私の言っている事も義両親の言葉も全く聞いてない。
本気で狂ってしまったのかは分からないけどこれ以上茶番に付き合う暇はないわ。
私は懐に用意しておいた書類を取り出しジュライア様の目の前にバンとかざす。
「お忘れになったの?3年前の約束を」
私の行動に義両親は訳が分からないといった顔をしている。当たり前よ、これは私とジュライア様だけが知っている秘密の契約。
誓約書を見れば段々とジュライア様の焦点が合っていくのが分かった。
「あ……」
「今日がお約束の日です」
それはあの日しっかりと結んだ誓約書。
3年後、つまりは今日私とジュライア様はきっぱり離縁する事がちゃんと書かれていた。
「そんな……いやだ、だめだ……っ!」
「ダメと言われてもこれをお決めになったのは旦那様でしょう?今更です」
「こんなのは無効だ!破棄だ!」
急に我に帰ったのかガタンと音を立てて立ち上がる。
まずい、赤ちゃんが!
ジュライア様の様子がおかしい事に気付いた私は急いでその子を奪い取る。抱き上げればキャッキャと楽しそうな笑い声が聞こえ胸を撫で下ろした。
キッと睨みつければ一瞬申し訳なさそうに視線を逸らすも、すぐさま私達の方を向き直り縋るように近づいて来た。
「クロエ、今まで僕が悪かった!でもこの子がいれば……僕たちは本物の夫婦になれる気がするんだ」
「……」
「なぁ、君まで僕を捨てないでくれ!」
か細い声で言ったこの言葉こそが彼の本音。
あんなに愛していたヘレン嬢には裏切られ、長年一緒にいた両親にはゴミのように扱われ彼は精神的に参っている。
自分の子供だと信じて過酷な労働を続けてきた結果がこれだ、当然気をおかしくしても不思議じゃない。でも……。
「……最初に捨てたのは旦那様でしょう」
「クロエっ!」
「少なくとも私は3年前は本物の夫婦になる気でいました。でも貴方は私を捨て、家族になる事を拒否したのです」
何とも自分勝手な理由で。
続けてそう言えばポロリと涙をこぼす。
「そんな貴方と一緒になる気はないです」
そう言って私は赤ん坊を連れて部屋を出て行こうとする。が、それまで黙っていた義両親が私の前に立ち困惑した顔で声を掛けてきた。
「クロエっどういう事なんだ?!約束の日とは一体」
「私は今日で彼の妻を辞めるのです。それは全て結婚当日、旦那様……いえジュライア様がお決めになり私に誓約させた事です」
持っていた誓約書を見れば二人の顔からどんどん血の気がなくなっていく。この事件が無かったとしても私は今日この屋敷を出るつもりだった、それに気付いた二人は涙を流しながら床に突っ伏す。
「あぁ……すまないクロエ、すまない……」
「ごめんなさい、御免なさいっ!こんな辛い事を!」
「もう良いんです。今日までお世話になりました」
今まで優しく接していた私が急に冷たくなり、二人はただごとではないと無理に引き留めるような事はしなかった。
部屋に残された三人は見るに耐えない状態だったが振り返る事なく部屋を出て自室に戻る。
それまで大事に抱えていた子供をベッドに寝かせてそっと頭を撫でれば、心地いいのか目を細めながら小さく笑った気がした。
「かわい……」
無垢な存在に思わず微笑んでしまう。
私も結婚して、子供ができて、毎日楽しい生活が出来ると思っていたんだけど。
頭を撫でながら私もベッドに座り、今までのことを思い出しながらため息をつく。
「私もだけど、あなたもこれから大変ね」
「ふぇっ」
「でもまぁ……頑張りましょうね」
優しく微笑み返し隣にそっと寝転ぶ。
小さな手に触っていればギュッと握られ思わず笑う。
大丈夫よ、あなたも私も。
だから一緒に頑張りましょうね。
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