18 / 27
18
しおりを挟む結婚記念日を過ぎてからというものジュライア様はまた屋敷にいない事が多くなった。朝早くに屋敷を出て夜遅くに帰ってくる、そんな生活がもう3ヶ月は過ぎたかしら……。
今日も今朝早くに荷物を持って家を出て行く。
「旦那様」
私が声を掛ければピタッと足が止まる、だがこちらを振り向く事はなく黙っていた。
「今日、お義父様とお義母様がこちらにいらっしゃるみたいなんです。お夕食までにはお戻りになりますよね?」
「……」
ジュライア様は何も言わずに出て行った。
今まで敵意剥き出しの態度は何度となく取られていたが、ここまで徹底的に無視すれたのは初めてだわ。
何か……嫌な雰囲気ね。
お義父様達は約束の時間ぴったしに屋敷にやって来た。
出迎えるとキョロキョロと辺りを見回しジュライア様の姿を探しているようだった。
「旦那様は……少し出ておりまして」
「そうか。いや、いいんだ。昔と違いしっかりと当主として仕事をしているのであれば」
お義父様はにこやかにそう言った。
ここ最近のジュライア様については何も聞いていないみたい……良かった。
食事の時間まで二人を客間に案内し世間話をする。
「それにしてとクロエがこの家に来てくれて本当に良かった。ジュライアも徐々にではあるが当主としての自覚が芽生えてきたんだろう」
「そうね、本当にクロエのおかげ。社交界でもね、貴女の評判が凄く良くて私も鼻が高いわ」
上機嫌で話をする二人に私のいい嫁モードも炸裂する。
「クロエ、どんどん食べなさい」
「ええ。どのお料理も美味しくて沢山頂いてますわ」
パクパクと食べ進めていればそれまでにこやかだったお義父様がコホンと軽く咳払いをする。
「クロエ、こんな時に言うのもなんだが」
「はい?」
「孫はまだかね」
突然の言葉に思わず喉に詰まらせてしまう。
急に何て事を!しかもこのタイミングで?!
焦る私にお義母様は急いで背中をさすってくれる。当のお義父様も流石にまずいと思ったのかあたふたし始めた。
「ちょっとあなた!」
「す、すまない!だが今日こうして顔を合わせたのだからつい気になってしまってな!」
「こほっ!えっと……申し訳ありません、ちょっとまだそのようなご報告は」
油断してたわ、そうよ元々この人はジュライア様の血の繋がった親なんだから突拍子もないのは想定出来たじゃない。
慌てる私を見て二人は顔を見合わせる。
「良いんだ、こればかりは神からの授かりものだ。焦らすような事を言って悪かったねクロエ」
「そうよ。私たちも離れて暮らしてるからかつい口うるさくなってしまったの。許して頂戴」
「いえ、そんな……」
何だか申し訳なくなる。
むしろ謝りたいのはこちらだ、だって私たちはこの二人を騙しているんだから。
「さぁ、食事を続けようか!」
「大変です!」
食事を再開しようとした時、一人のメイドが食堂に飛び込んできた。私もお義父様たちも突然の事すぎて言葉が出てこない。
席を立ち焦った様子の彼女にそっと寄り添う。
「落ち着いて?どうしたの?」
「だんっ、旦那様がお帰りになられて……」
「おお、帰ってきたか」
「それが!お連れ様もご一緒に!」
お連れ様?
彼女の言葉に冷や汗が流れる。
まさか……わざわざこのタイミングを狙って連れてきたんじゃないでしょうね。
未だに理解しきれていない義両親をそのままに彼女の体を支えながら詳しく尋ねる。
「それで?二人は今どこに……」
「ご機嫌麗しゅう、奥さまぁ!」
戸惑う雰囲気を打ち消すような明るく甲高い女の声。
バタンと大きな音を立てて扉が開き、その人物は何の躊躇いもなく部屋へと入ってきた。
「まぁ……お久しぶりね、ヘレン嬢」
突然の再開に心を乱さぬよう笑顔を貼り付ける。
久しぶりに出会った彼女はあの時より少し痩せ、髪が少しがさついている。元No.1娼婦だった煌きは今はもう感じられない、ただの娼婦に成り下がっていた。
ヘレン嬢の後からジュライア様が続いて現れる。
顔面は蒼白、冷や汗もかき目は左右に泳いでいた。
「ジュライア……貴様、まだこの女と!」
怒りに震えるお義父様から視線を逸らす。
「それで?突然こんな所に何の御用が?」
「ああ、そうなの。実は皆様に報告があってねぇ」
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながらヘレン嬢は私にゆっくりと近付く。
「私、ジュライア様との子供を身篭りました」
150
お気に入りに追加
5,953
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

エデルガルトの幸せ
よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。
学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。
彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。
全5話。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

痛みは教えてくれない
河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。
マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。
別サイトにも掲載しております。

見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです
天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。
魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。
薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。
それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。


彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる