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しおりを挟む「平和ねぇ」
のんびり自室で本を読む。
ここ最近のプレジット家は領主の仕事も慣れてきて安定している。たまに街へ出ては色んな人と話をし、お土産の野菜やお菓子を山盛りで持ち帰る生活を繰り返していた。
「そう言えば今日で結婚2年目か……」
早いもので今日は2度目の結婚記念日。
だからと言って特別なイベントがある訳でもなく、昨日に引き続きのんびりとした時間が過ぎる。
変わった事と言えば久しぶりに義両親から手紙が届いていた事くらいかしら。
ジュライア様が仕事を手伝う様になった事は知っていたらしくお礼の言葉や私に向けた賛辞の嵐だった。それともう一つ……『孫の顔が見られる日を楽しみにしています』なんて言葉も添えられて。
「流石にそれだけは無理ね」
一人ボソリと呟く。
良くしてくれた義両親には申し訳ないがその役目は後任のヘレン嬢に期待するしかない。彼女はまだ若いしきっと可愛い子供がいっぱい出来るはずだ。
やはり子供は愛し合う二人の元に訪れてくれるだろうし。
「奥様、失礼致します」
控えめなノックと共にアンナが部屋へと入ってくる。さの表情はどこか困惑していて私はすぐにその異変に気付いた。
「どうしたの?」
「あの、えっと……旦那様が」
「?」
「その……奥様と一緒にお茶を、と」
アンナの言葉に思わず目を見開く。
あのジュライア様が私にお茶のお誘い?!
ほぼ1年間口もきかず家にも寄り付かなかったあの人が?
何を企んでいるのよ……まさかここに来て嫌味たっぷりのお説教じゃないでしょうね。
「あ、ですが無理にとは仰ってなくて!」
「……いいわ、準備が出来たら行くようにお伝えして」
もし私が行かなければきっとアンナが気まずいだろうし、というかお茶くらいだったら自分で誘いに来なさいよ!
言ってやりたい文句をぶつぶつ呟きながら私は少し乱れた髪を整えジュライア様の元へと向かった。
「旦那様からのお誘いだなんて、どういう風の吹き回しかと思いましたわ」
席に着くなり私の口から出たのは嫌味の一言だった。
ジュライア様は何か言いたげな雰囲気だったがグッと堪えカップに口をつける。
「妻と一緒の時間を過ごして何が悪い」
「あら、私をまだ妻と思って下さってたんですね」
「……まだ1年あるだろう」
使用人もいない二人だけの空間で旦那様はポツリと呟く。
その後もしばらく沈黙が続き気まずい空気が流れる。せっかくだからヘレン嬢の事でも聞いてみようかしら。
「そう言えば、最近は……」
「お前、あのカイという男とはどういう関係だ」
「へ?」
私の言葉にかぶせるように質問してくる。
え、何で急にカイの事?
というかそれ前も聞かれて答えたような気がする。
「えっと、私の友人だと前にもお伝えしましたが?」
「屋敷に頻繁に出入りする程のか?」
「何が仰りたいのです?」
「……侍女たちがお前とその男の仲を噂している」
あー、そういう事か。
女は噂好き、その噂が本当かどうかなんて関係なく楽しんでいる。
行商のバイトだったカイが私と仲良く庭でお茶をしていればそれを囃し立てる人間がいてもおかしくないわね。
「実際はどうなんだ。噂通りの仲なのか」
「ご想像にお任せします」
「っ、貴様!」
「もしそうだとしてもヘレン嬢を愛していらっしゃる旦那様には関係のない事ですわ」
カチャンとカップを置けばビクンとジュライア様の肩が揺れる。
呆れた……この人、自分の事は棚に上げて私に説教するなんてどういうつもりよ。
「お前は……本当に嫌な女だ」
「ありがとうございます」
「もういい!」
癇癪を起こした子供のように旦那様は部屋を出て行った。
もちろんそれを追いかけるような事はしない。
ふと窓の外を見ると客人らしき人が門の前に立っていた。
「あれは……」
見覚えのある綺麗な金髪が風に靡いている。
そう、そういう事。
そこには笑顔で屋敷を見上げるヘレン嬢がいた、きっと彼女を呼んで何かするつもりだったんだ。
「本当に嫌な男」
ここ最近は契約夫婦でも円満に出来ていると思っていたが、彼にとって私はやっぱり繋ぎの妻だったという訳ね。
私の中で何かが急激に冷めていく。
あと1年、そこで全ての肩をつける。
私はそう決意しながら自室へと戻っていった。
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