【完結】契約妻の小さな復讐

文字の大きさ
上 下
9 / 27

09

しおりを挟む

結婚してから1年が経った。
私とジュライア様はと言うと……。

「………」

「………」

今、無言のまま馬車に揺られている。

向かっているのはハボンド侯爵家主催のパーティー。
そこに夫婦揃って招待された私たちは仕方なく久しぶりに仮面夫婦を演じる事になった。

あれから夫婦仲は良くも悪くも一定の距離を保っている。

お金のないジュライア様は嫌々ながらも仕事を手伝うようになってくれたし、ヘレン嬢の事はまだ愛しているようだったが昔ほど夢中という訳でもないらしい。

カイの調べによると、昔は街に繰り出しあたかも偶然を装うようにヘレン嬢に会っていたみたいだけどそれもここ最近はしていない。

何か心境の変化でもあったのかしら。





「あらプレジット伯爵夫人!よく来てくださいました!」

「ハボンド侯爵夫人、本日は夫婦揃ってお招き頂きありがとうございます」

ハボンド侯爵夫人はパーティーやお茶会が大好きな人だ。何度か参加したお茶会で気に入られたみたいで、今やかなりの確率でお声がかかるようになった。

夫人はジュライア様の存在に気付いたのかチラチラと視線を送る。ジュライア様は相変わらずの猫被りモードに素早く切り替えた。

「ハボンド侯爵夫人、こうしてお会いするのは初めてですね。ジュライア=プレジットです、妻がいつもお世話になっております」

「まぁ!貴方が噂のプレジット伯爵ね……」

そう言って夫人は頭の先から爪先までジロっとジュライア様を観察した。
ちなみにその噂とは「家庭を顧みず外で女遊びを繰り返すダメ夫」という最悪な噂だけど。

「今日は伯爵のお眼鏡にかなう美人はおりませんがどうぞ楽しんで行って下さいな」

「ははは……ご、ご冗談がお上手ですね」

明らかに冷たい態度を取る夫人に対しジュライア様は乾いた笑いで何とか誤魔化す。

会場には国内の貴族達の他に他国から来た招待客もいるようだ。流石ハボンド侯爵家、外交に強いって証明にもなるわね。

辺りを見渡していると何やら人集りがが出来ている場所があった。ゆっくりと近付き、その渦中にいる人物と目が合いギョッとした。

なんでこんな所に!

「奥様」

さっきまで沢山の女性に囲まれていたのは、いつもと雰囲気が違い正装に身を包んだカイの姿だった。

「……何故貴方がここにいるの?」

「あー、まぁ一応潜入捜査?ってやつですよ」

「潜入?いくらなんでも一般市民が侯爵家のパーティーに潜り込める訳ないでしょ!」

「ハハッ、まぁそんなに怒らないで。周りの令嬢やご婦人達が不思議そうにこっちを見ていますから」

カイの言葉を聞きチラッと周りを見れば私達のやり取りを気にするお嬢さん達が少なくとも3人以上はいた。

まずい……カイが何者かは置いといて私達の関係を誤解されたら面倒な事になる。
いい意味でも悪い意味でもカイは目立ちすぎる。
あたふたする私を見てニヤリと笑うカイ。

「では、失礼しますねプレジット伯爵夫人」

「っ……今度会った時にちゃんと説明しなさいよ」

「はいはい」

カイは再びお嬢さん達の群れの中に戻って行った。



「どこに行ってたんだ」

気まずい会場で一人残され居づらかったのかジュライア様は明らかに不機嫌な顔で私に声を掛けた。

「御免なさい、少しお手洗いに」

「ふんっ」

子供じゃないんだから、と嫌味の一言でも言ってやろうかと思ったが今日の所は勘弁してあげよう。
ニコッと微笑みながらそっと寄り添う。

「なっ!なんだ急に?!」

「特に意味は……それにこれ以上仲が悪い所を見せれば益々周りからの視線に耐えきれなくなりますよ?」

顔をほんのり赤くするジュライア様にビシッと言ってやる。いやいや好きでやってる訳じゃないから、これも貴族としての仕事だから。

満更でもなさそうな顔で私をエスコートする。
本当に男って馬鹿よね、ちょっと優しい態度を取ったら調子に乗るんだから。

「あら、あれって……」

ギャーギャーと屋敷の入り口付近がうるさい。
見ればたった今到着した男女が何やら警備隊と揉めているようだった。
そこには若い男、恐らく父親か誰かの代わりに来たであろう品のない青年とそれに寄り添うようにいる金髪の女性。

若く美しいその姿に私もジュライア様も目を丸くしながら彼らを見つめていた。

「ヘレンっ……何故?!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

処理中です...