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しおりを挟む結婚してから1年が経った。
私とジュライア様はと言うと……。
「………」
「………」
今、無言のまま馬車に揺られている。
向かっているのはハボンド侯爵家主催のパーティー。
そこに夫婦揃って招待された私たちは仕方なく久しぶりに仮面夫婦を演じる事になった。
あれから夫婦仲は良くも悪くも一定の距離を保っている。
お金のないジュライア様は嫌々ながらも仕事を手伝うようになってくれたし、ヘレン嬢の事はまだ愛しているようだったが昔ほど夢中という訳でもないらしい。
カイの調べによると、昔は街に繰り出しあたかも偶然を装うようにヘレン嬢に会っていたみたいだけどそれもここ最近はしていない。
何か心境の変化でもあったのかしら。
「あらプレジット伯爵夫人!よく来てくださいました!」
「ハボンド侯爵夫人、本日は夫婦揃ってお招き頂きありがとうございます」
ハボンド侯爵夫人はパーティーやお茶会が大好きな人だ。何度か参加したお茶会で気に入られたみたいで、今やかなりの確率でお声がかかるようになった。
夫人はジュライア様の存在に気付いたのかチラチラと視線を送る。ジュライア様は相変わらずの猫被りモードに素早く切り替えた。
「ハボンド侯爵夫人、こうしてお会いするのは初めてですね。ジュライア=プレジットです、妻がいつもお世話になっております」
「まぁ!貴方が噂のプレジット伯爵ね……」
そう言って夫人は頭の先から爪先までジロっとジュライア様を観察した。
ちなみにその噂とは「家庭を顧みず外で女遊びを繰り返すダメ夫」という最悪な噂だけど。
「今日は伯爵のお眼鏡にかなう美人はおりませんがどうぞ楽しんで行って下さいな」
「ははは……ご、ご冗談がお上手ですね」
明らかに冷たい態度を取る夫人に対しジュライア様は乾いた笑いで何とか誤魔化す。
会場には国内の貴族達の他に他国から来た招待客もいるようだ。流石ハボンド侯爵家、外交に強いって証明にもなるわね。
辺りを見渡していると何やら人集りがが出来ている場所があった。ゆっくりと近付き、その渦中にいる人物と目が合いギョッとした。
なんでこんな所に!
「奥様」
さっきまで沢山の女性に囲まれていたのは、いつもと雰囲気が違い正装に身を包んだカイの姿だった。
「……何故貴方がここにいるの?」
「あー、まぁ一応潜入捜査?ってやつですよ」
「潜入?いくらなんでも一般市民が侯爵家のパーティーに潜り込める訳ないでしょ!」
「ハハッ、まぁそんなに怒らないで。周りの令嬢やご婦人達が不思議そうにこっちを見ていますから」
カイの言葉を聞きチラッと周りを見れば私達のやり取りを気にするお嬢さん達が少なくとも3人以上はいた。
まずい……カイが何者かは置いといて私達の関係を誤解されたら面倒な事になる。
いい意味でも悪い意味でもカイは目立ちすぎる。
あたふたする私を見てニヤリと笑うカイ。
「では、失礼しますねプレジット伯爵夫人」
「っ……今度会った時にちゃんと説明しなさいよ」
「はいはい」
カイは再びお嬢さん達の群れの中に戻って行った。
「どこに行ってたんだ」
気まずい会場で一人残され居づらかったのかジュライア様は明らかに不機嫌な顔で私に声を掛けた。
「御免なさい、少しお手洗いに」
「ふんっ」
子供じゃないんだから、と嫌味の一言でも言ってやろうかと思ったが今日の所は勘弁してあげよう。
ニコッと微笑みながらそっと寄り添う。
「なっ!なんだ急に?!」
「特に意味は……それにこれ以上仲が悪い所を見せれば益々周りからの視線に耐えきれなくなりますよ?」
顔をほんのり赤くするジュライア様にビシッと言ってやる。いやいや好きでやってる訳じゃないから、これも貴族としての仕事だから。
満更でもなさそうな顔で私をエスコートする。
本当に男って馬鹿よね、ちょっと優しい態度を取ったら調子に乗るんだから。
「あら、あれって……」
ギャーギャーと屋敷の入り口付近がうるさい。
見ればたった今到着した男女が何やら警備隊と揉めているようだった。
そこには若い男、恐らく父親か誰かの代わりに来たであろう品のない青年とそれに寄り添うようにいる金髪の女性。
若く美しいその姿に私もジュライア様も目を丸くしながら彼らを見つめていた。
「ヘレンっ……何故?!」
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