【完結】契約妻の小さな復讐

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カイは月に一度、配達終わりに私の元を訪れジュライア様とヘレン嬢についての情報を伝えてくれる。


「しかし、このヘレン嬢も大した女性ね」

「ハハッ!何せキラサギ館のNo.1ですから」

カイから渡された資料にはびっしりヘレン嬢の情報が書かれていた。

どうやらヘレン嬢にはジュライア様の他に数人のパトロンが付いているらしい。その中でも若い方で顔が比較的整っているジュライア様がお気に入りではあるが、あくまで金づるの一人である事には違いない。
ただでさえ高い娼館の指名料に加え、彼女の気を引くためのプレゼントや食事の料金を見せてもらったが……なかなか酷いもんだ、こうも盲目的になれるなんてある種の才能を感じる。

「旦那様はお家の資金にも手を出してますね、それもかなりの猛スピードで減っている」

「そうみたいね」

「大丈夫なんですか、そんな好き勝手に金渡してて」

「ええ。元々この家にあった資産をお渡ししてるだけだから。結婚後、私が領主代行として稼いだお金は入ってないわ」

当然よね、仕事をしているのは私であって彼じゃないもの。お義父様やお義母様には申し訳ないけど、自分の息子の責任はちゃんと親が取らなくちゃ。

「まぁその資金もあと半年で尽きるでしょうね」

なんせパトロンの中で誰よりも通っている旦那様、相当なお金を搾り取られているはずだから。

「しかし、写真を見る限り夢中になってしまうのも分かる気がするわ。凄く美しい人だものね」

金色の髪にバッチリと施された化粧、身体つきなんて艶かしくてそりゃ味を知ったら虜になってしまうだろう。
するとカイは私の手から写真を取り上げ、さほど興味なさそうにそれを見つめる。

「そうですか?俺はあんまり」

「あら、美人は嫌い?」

「嫌いと言うか興味ないんですよ、そもそも女に」

「……今の発言、貴方目当ての子が聞いたらショックで寝込むかも知れないわね」

うちの侍女たちの中にはカイ目当ての子がかなりいる。
じっと見つめれば私の視線に気付いたのか、カイは訳も分からずニコッと微笑んだ。

「そんなに見つめられたら照れますよ」

「……ホント、貴方って罪な男」

そんな爽やかな笑顔、普通のお嬢さんなら絶対勘違いしてしまいそうだけど。

「それで?奥様の方は順調なんですか?」

「え?」

「領主の件ですよ」

カイはニヤッと悪戯な笑みを浮かべる。
なるほど、全部お見通しって訳ね。

「……最終的にはお義父様がお決めになることよ」

「領民たちの間じゃ奥様の話で持ち切りですよ。前領主である大旦那様を超えるほどの手腕だとか」

そんなのただ必死に勉強しただけよ。
ジュライア様は勝手に居なくなるから自分で必死になって勉強した。毎日街に出ては領民たちから話を聞き、困った事があればすぐに対応していただけ。

最初の頃なんかまともに寝られやしなかったんだから。

「でもそろそろお義父様達が動く頃かしら」

実はここに嫁いで来た日以来義両親には会っていない。
というのも引退したお義父様達は郊外に屋敷を建てひっそりと暮らし、家督をジュライア様に譲ったあとは自分達で好きにやりなさいと笑顔で仰っていた。

まさかそのいい意味での放任主義がこんな事を招くとは思っても見ないだろうけど……。

「流石に半年以上もジュライア様の名前が出てこないとなると怪しむでしょうね」

「確かに。で、どうなさるんですか。まさか貴方達の息子は女の尻追っ掛けて屋敷に全く帰ってませんだなんて言うつもりですか?」

それも面白そうね。
そう答えればカイはつられる様に笑った。

「でもヘレン嬢との事はお二人とも知っているみたいだし、余計な事をしないでくれれば良いけど」

暴走して計画が台無しになったら最悪だわ。
慎重に行動しないと……。


コンコン


控えめに扉がノックされ入ってきたのはアンナだった。

「失礼致します。奥様、先程大旦那様よりご連絡があり明日の午後お屋敷にいらっしゃるそうです」

「ナイスタイミングね」

「大奥様もご一緒だそうで……その、旦那様はいかが致しましょうか」

「ああ、そうね……」

ちなみにジュライア様は娼館のすぐ近くにある宿屋に住んでいるらしい。よっぽど屋敷に戻りたくないのね。

「一応お伝えして?もしかしたら帰ってくるかも」

ジュライア様は義両親、特にお義父様には頭が上がらないみたいだし。それに宿屋での暮らしもそろそろ飽きてきたんじゃないかしら。

「じゃあ俺は明日は来ないんで」

「ええ、引き続き宜しくね」

書類を片付けながらカイを見送る。
よし、これで大体の準備は終わったわ。

あー、明日が楽しみだわ。
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