4 / 27
04
しおりを挟むカイは月に一度、配達終わりに私の元を訪れジュライア様とヘレン嬢についての情報を伝えてくれる。
「しかし、このヘレン嬢も大した女性ね」
「ハハッ!何せキラサギ館のNo.1ですから」
カイから渡された資料にはびっしりヘレン嬢の情報が書かれていた。
どうやらヘレン嬢にはジュライア様の他に数人のパトロンが付いているらしい。その中でも若い方で顔が比較的整っているジュライア様がお気に入りではあるが、あくまで金づるの一人である事には違いない。
ただでさえ高い娼館の指名料に加え、彼女の気を引くためのプレゼントや食事の料金を見せてもらったが……なかなか酷いもんだ、こうも盲目的になれるなんてある種の才能を感じる。
「旦那様はお家の資金にも手を出してますね、それもかなりの猛スピードで減っている」
「そうみたいね」
「大丈夫なんですか、そんな好き勝手に金渡してて」
「ええ。元々この家にあった資産をお渡ししてるだけだから。結婚後、私が領主代行として稼いだお金は入ってないわ」
当然よね、仕事をしているのは私であって彼じゃないもの。お義父様やお義母様には申し訳ないけど、自分の息子の責任はちゃんと親が取らなくちゃ。
「まぁその資金もあと半年で尽きるでしょうね」
なんせパトロンの中で誰よりも通っている旦那様、相当なお金を搾り取られているはずだから。
「しかし、写真を見る限り夢中になってしまうのも分かる気がするわ。凄く美しい人だものね」
金色の髪にバッチリと施された化粧、身体つきなんて艶かしくてそりゃ味を知ったら虜になってしまうだろう。
するとカイは私の手から写真を取り上げ、さほど興味なさそうにそれを見つめる。
「そうですか?俺はあんまり」
「あら、美人は嫌い?」
「嫌いと言うか興味ないんですよ、そもそも女に」
「……今の発言、貴方目当ての子が聞いたらショックで寝込むかも知れないわね」
うちの侍女たちの中にはカイ目当ての子がかなりいる。
じっと見つめれば私の視線に気付いたのか、カイは訳も分からずニコッと微笑んだ。
「そんなに見つめられたら照れますよ」
「……ホント、貴方って罪な男」
そんな爽やかな笑顔、普通のお嬢さんなら絶対勘違いしてしまいそうだけど。
「それで?奥様の方は順調なんですか?」
「え?」
「領主の件ですよ」
カイはニヤッと悪戯な笑みを浮かべる。
なるほど、全部お見通しって訳ね。
「……最終的にはお義父様がお決めになることよ」
「領民たちの間じゃ奥様の話で持ち切りですよ。前領主である大旦那様を超えるほどの手腕だとか」
そんなのただ必死に勉強しただけよ。
ジュライア様は勝手に居なくなるから自分で必死になって勉強した。毎日街に出ては領民たちから話を聞き、困った事があればすぐに対応していただけ。
最初の頃なんかまともに寝られやしなかったんだから。
「でもそろそろお義父様達が動く頃かしら」
実はここに嫁いで来た日以来義両親には会っていない。
というのも引退したお義父様達は郊外に屋敷を建てひっそりと暮らし、家督をジュライア様に譲ったあとは自分達で好きにやりなさいと笑顔で仰っていた。
まさかそのいい意味での放任主義がこんな事を招くとは思っても見ないだろうけど……。
「流石に半年以上もジュライア様の名前が出てこないとなると怪しむでしょうね」
「確かに。で、どうなさるんですか。まさか貴方達の息子は女の尻追っ掛けて屋敷に全く帰ってませんだなんて言うつもりですか?」
それも面白そうね。
そう答えればカイはつられる様に笑った。
「でもヘレン嬢との事はお二人とも知っているみたいだし、余計な事をしないでくれれば良いけど」
暴走して計画が台無しになったら最悪だわ。
慎重に行動しないと……。
コンコン
控えめに扉がノックされ入ってきたのはアンナだった。
「失礼致します。奥様、先程大旦那様よりご連絡があり明日の午後お屋敷にいらっしゃるそうです」
「ナイスタイミングね」
「大奥様もご一緒だそうで……その、旦那様はいかが致しましょうか」
「ああ、そうね……」
ちなみにジュライア様は娼館のすぐ近くにある宿屋に住んでいるらしい。よっぽど屋敷に戻りたくないのね。
「一応お伝えして?もしかしたら帰ってくるかも」
ジュライア様は義両親、特にお義父様には頭が上がらないみたいだし。それに宿屋での暮らしもそろそろ飽きてきたんじゃないかしら。
「じゃあ俺は明日は来ないんで」
「ええ、引き続き宜しくね」
書類を片付けながらカイを見送る。
よし、これで大体の準備は終わったわ。
あー、明日が楽しみだわ。
129
お気に入りに追加
5,944
あなたにおすすめの小説
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる