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18 Satan Side

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「ん……?」

砂煙が充満する空間で、俺は一瞬彼女の姿を見失った。
あぁ、最高だ!こんなにもヒリヒリした命のやり取りをしたのは実に何百年ぶりだろうかァ!
堪らずつい本気を出してしまったではないか!

人間とは実に脆い。
姿を変えることもできず、傷を負えばそう簡単には回復できない。なんて……愚かな生き物なんだろう。
人間なんか滅びてしまえばいい。
目障りで、癪に障る存在など消してやる。

ただ一人、ニーナ=プロティオスを除いてな。

「お嬢さんよォ!まさかもう死んだ訳じゃないだろォ?まだまだ本気を出してないんだぜ?!」

キョロキョロと見渡す。
くそっ、つい夢中になりすぎた。これでは前が上手く見えないじゃないかァ。

すると前方で小石が崩れる音がした。
力いっぱい吹き飛ばしてしまったか。今度はもう少し加減を……

「あ?」

歩み寄る足がピタッと止まる。

そこにはニーナを抱きかかえ、仲睦まじい雰囲気の出来損ない勇者がそこにいた。

「なんで……、」

お前はお嬢さんを嫌っていただろ?
それにお嬢さんだって、その男はお前を毛嫌いしてたじゃないか!捨てられたのだって忘れたわけじゃないだろうに……!

俺は二人に向け電撃を飛ばす。が、彼女の結界が攻撃から二人を守ってしまった。

「あら」
「おいおいおい、何俺のモノに気安く触れてんだクソがぁ……!!」

殺してやる!殺してやる、
クソがふざけやがって!俺を無視して、俺を拒絶しといてそこのカスは受け入れるだと?こんなにも優しくしてやってるのに、何故俺を受け入れないんだっ!!

「……は、ハハッ!どうやら俺はお嬢さんを甘やかし過ぎたようだなァ。ここまでコケにされたのも何百年ぶりだ!」
「………」
「遊ぶのは止めだ、すぐにそこの男は殺す。それから弟子どももだ。そしたらお嬢さん、お前を連れて帰り二度と外を歩けないようにしてやる」
「……そうはさせないさ」

そう言って男はお嬢さんを地面に下ろす。

「ニーナにはもう指一本触れさせない」
「思い上がるなよ雑魚、まだ婚約者気取りか」

つくづく腹が立つ。
魔力を最大限に練り上げ、男めがけてそれを放とうとした時だった。


「解放してやるんだ。お前からも……俺からも」


男の姿が一瞬見えなくなる。
間合いを急に詰められ懐に潜り込んできた男は、下から真っ直ぐに心臓めがけて右腕を突き刺してきた。

体内で男の手が心臓を握っているのが分かる。
まずい、握り潰されれば今度こそ終わる。しょうがない、もう一度姿を分散させて………っ?!

砂のように姿を消そうとしたが、俺の姿は未だに人間のまま。

何故だっ?!何故変形できないっ?!コイツは魔力を持たない人間、ただの物理攻撃ならそんなに威力はないはずなのに……!

「苦しいか?出来損ないの攻撃は」
「あがっ!んぐっ……な、にをした…ぁぁあっ!」
「俺は何もしていない。俺は」

ということは。
すぐにお嬢さんへと視線を移せば彼女は瞳を閉じ何やら集中している。あれは……魔力を練っている?攻撃を仕掛けてくるつもりか?

「っ、まさかっ!」
「ああ。ニーナは、俺自身に魔力を送り込んでるんだっ…」
「ふざけっ……そ、そんなことをすればお前っ!」
「俺は死ぬ」

そうだ、その通りだ。
人間の体は強固ではない。大量の魔力を供給されれば間違いなく命を落とす。コイツら……あの聖剣の代わりをこの男でしようとしているのか?!

ならばその腕を今すぐ引きちぎってやる!

「っ……くそっ、抜けないっ!!抜けないっ!」
「良かった……少しは、この無駄に頑丈な体が役に立ったようだ…」

息も絶え絶えに喋る男は、口の端から血を流している。当たり前だ!こんなの普通の作戦じゃない!思いつく方もそうだが受け入れたコイツもおかしいっ!

「あ……ぁがっ、ぁぁぁあ」

力が入らん。回復もできない。目も霞んで……嘘だ俺が負けるのか?

目を開けば一瞬だけお嬢さんと目が合う。

美しく澄んだ瞳が俺を見ていた。そこには感情もない、ただ俺が消えるのを待っている。

クソ、くそっ!終わりなのか?受け入れられないのか?こんなにも愛していたのに!お前だけをずっとずっとずっとずっと想って……!!!!こんな男と最後に!!


「さようなら」


彼女の声が聞こえた。
耳障りのいい、大好きな声だ。

「っ…………クソ、が」

そして俺の体は、男の体と溶け合うように崩れていったのだ。
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