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「よくぞ無事に帰還してくれた聖十字騎士団よ」

パレードが終わり俺たちは王宮にある王の間へと案内された。玉座に座る国王陛下の足元に跪く。

「面をあげなさい、ホリック=マーベラ」
「はっ!」
「其方の魔王ロキを倒した姿、まさに獅子奮迅の勢いだったと聞く。その勇敢なる姿はこの先一生、国民たちにも伝え受け継がれよう」
「もったいなきお言葉でございます」
「そんなお前たちには何か褒美をやらねばならない。一般隊員たちには充分な褒賞金を、隊長格以上には望みを一つ叶えてやろう」

国王陛下のお言葉に俺は勢いよく顔をあげた。その言葉を待っていたんだずっと。

「ならば一つ、宜しいでしょうか」
「何だ、マーベラ」
「ニーナ=プロティオスとの婚約破棄を」

その言葉に国王陛下がピタッと固まった。

「……何だと、」
「ご無礼を承知でお願いしております。何卒、お許し下さいませ」

それまで穏やかだった陛下は見る見るうちに険しい顔になる。
それもそのはず。俺の婚約は国王陛下直々にお認めになったこと、つまりは陛下の決定にそむくということなのだ。

「……冗談であれば今すぐ撤回を」
「冗談ではございません」

陛下の言葉を途中で制し、俺は真っ直ぐに見つめ返す。場合によっては斬首されるかも知れない。だが、俺は黙ることが出来なかった。

「私はこの国のために全てを捧げてまいりました。その忠誠心は今後変わることはありません。ですがニーナは……あの女は!この戦争中も茶を飲みながらのんびり過ごしていたことでしょう!」

ギリっと奥歯が軋む。


ニーナ=プロティオスは伯爵令嬢だ。
市民から騎士団へと成り上がった俺とは違い、生粋の令嬢である彼女とはかねてからどうも馬が合わなかった。

そして最大の決め手はこの討伐戦争が始まる前。
俺が戦地へ行くと伝えると、彼女はいつもと同じように窓際で茶を飲みながら小さく微笑んだ。

『まぁ……ではホリック様のご武運をここで毎日お祈りしておりますわ』

あの瞬間、この女だけは許さないと誓った。
皆が命をかけて戦っているのに自分は呑気に待っているだと?夫となる俺が戦場に行くのに涙一つ溢さず言ったあの女は、英雄となって戻った俺には相応しくない。

私にはアリスのような側にいて支えてくれる慎ましやかな女性が必要なのだ。


「ここにいる聖女アリスは何度も我々を救ってくれました。自分の身を削り、寄り添い、懸命に支えてくれた彼女こそ私の妻に相応しい!」
「……言いたいことはそれだけか?」
「陛下、婚約者であるニーナとの誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ!」

心の底から訴えれば部屋中に俺の声が反響した。


「良いではありませんか陛下」


ガチャリと部屋の扉が開く。その人物はゆっくりとこちらに近付きながらそう言った。

「……ニーナ」

5年ぶりに再会した婚約者、ニーナ=プロティオスは優雅な振る舞いで俺たちの前に姿を現した。
相変わらず仕立ての良いドレスを身に纏い、美しく手入れされた金色の髪が揺れる。誰もが見惚れる彼女だが、今の俺からしてみればとんだ悪魔のようだ。

「ホリック様、此度の討伐戦争の終結、誠におめでとうございます」
「……」
「こうして大きな怪我一つなくお戻り頂けたこと、婚約者として心から嬉しく思います」
「ふんっ、白々しい」

嫌味な言い方をするニーナに毒を吐く。
この女はいつもそうだ、口では恭しいことを言うがその態度は明らかに俺を小馬鹿にしていた。そんな女、例えどんなに美しかろうと好きになれるはずがない。

「ところでホリック様、そちらに見慣れない女性がおりますが……どなたです?」

ニーナは側に控えていたアリスを見るなりスッと目を細める。その鋭い目つきにアリスはビクッと肩を跳ねさせた。

「国王陛下への謁見に見知らぬ人間を同席させるなど言語道断ですわ。それをご承知です?」
「彼女は聖十字騎士団の一員だ。今回の戦争に最も尽力してくれた大切な人、騎士団長である俺が認めた女だぞ」
「あらまぁ、それはそれは」

ふふっと笑うニーナ。何も知らないくせに!

「ですがお二人の雰囲気は何というか……ただの同僚、という訳ではなさそうですけど?」
「……俺はアリスを愛している」
「まぁまぁ」
「彼女さえ居れば他に何もいらない。世間知らずのお前とは訳が違うんだ」

国王陛下の前だがもう止められない。
今日、ここでニーナとの決着をつけてやる。
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