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13 トーマ視点
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ぷはぁっの紫煙を空に吐き出す。とはいえ路地裏から見える空は窮屈で、まさに今の自分を表現しているようだった。
「団長っ!守護力の気配、感じませんでした」
「あー……そっかそっか」
「王都でも感じないってことは、やっぱり国外に売り飛ばされちゃったんですかねぇ」
部下2人が戻ってきたタイミングで煙草の火を消す。
(くそっ!何で俺がこんなことを)
それもこれも、うちの部下が守護力の魔法石をなくしたことが原因だ。奴は地下労働をこなせばいいが、こっちは魔法石を見つけるまで探さなければいけない。余計な仕事を増やしやがって!
(だが元である魔法石ですら気配を察知できないなんて、本当に国外に持ち出されたのか?)
だとしたら相当まずい、そんな事態をあの腑抜けジジイが許すはずもない。
国王は何かと僕を頼りにしてくる。だからだろうか、問題があれば最終的には怒りの矛先が僕に向けられるんだ……あり得ないだろ?
「……お前たちはそのまま気配を探れ。 行商の荷馬車を見かけたら問答無用で確認するように」
「「はいっ!」」
元気のいい返事の後、部下たちは大通りへと消えていった。
(………さてと、)
もう一度煙草に火をつけて時計を確認する。下らない仕事はあいつらに任せて、僕は久しぶりに羽を伸ばさせてもらうか。
お忍び用の服に着替え、大通りから外れた路地へと入った。
(明るい内から酒を飲むのもいいし、カジノで遊んで……いやいや、やっぱりここは女でも買いに行くか!)
久しぶりの一人時間にニヤニヤが止まらない。
第一騎士団長なんて大層な立場になっても毎日仕事はしなきゃなんないし、隙を見せないようにいい人を演じなければならない。正直、貧乏だった頃が懐かしいくらいだ。
それになんと言っても結婚相手が最悪だった。
シャルロッテ=ニュートロン。この国一番の貴族の一人娘で、その美しさは天下一品だった。結婚する前は美しい彼女と結婚できて且つ金持ちにもなれることを喜んだが……あの女はダメだ、どんなに金を積まれても手を出しちゃいけなかった。
誰よりもプライドが高く、自分以外の人間を下に見てやがる。夫婦になっても僕のことはただの駒で対等に話なんて一度もさせてもらえない。正直言って女としての魅力は皆無、今はただの偉そうな年増さ。
(とはいえこの立場があって堂々と浮気もできない。くそっ!自分は若い男に熱を上げているくせにっ!)
シャルロッテに意中の相手がいるということを最近知った。しかもその男が僕のライバルでもある第二騎士団の団長アイゼル=ストラーダと知り、ますます笑いが止まらない。
“破壊の力”を持つ若き天才魔法騎士。彼とシャルロッテは昔からの知り合いらしいが年は10も違う。そんなガキにほだされるなんて痛々しいにも程がある。
(そういえば昔、同じくらい年の離れた孤児を口説いたことがあるな。確か名前は……えっと)
───ドンッ
角を曲がったところで何かとぶつかった。
あっけなく転んだ相手は女で、目の前で尻もちを付いている。
(チッ!鈍くせぇ。だが見て見ぬふりも出来ないし)
「おや、すまない。怪我はないかい」
「ええ」
手を差し出したとき、相手の顔が一瞬だけ見えた。
(これは……なかなかの美人だな)
凛とした顔立ちとスラッとしたプロポーション、何よりこの時代の女性では珍しいショートヘアから見え隠れするうなじがこれまた色っぽい。
随分とご無沙汰な僕には、まさに絶好の機会だ。
何とかして気を引こうと、守護力の魔法石を取り出して擦り傷を治してやる。
(大抵の女は僕がトーマ=ニュートロンだと気付くと尻尾を振ってくるんだが……なるほど、一筋縄ではいかないみたいだ)
むしろ早くこの場を去ろうとしている。
(ククッ、可愛らしいお嬢さんだ。本物の英雄を前にして緊張しているのかな?)
無理もない、一般人からしてみれば雲の上の存在なんだから。
だがこちらも簡単に引くわけにはいかない。何とか名前だけでも聞き出して……
「何をしている」
彼女の後ろから男の声が聞こえる。顔を上げると、そこにはいるはずのない人物がこっちを睨んでいた。
「す、ストラーダ……第二騎士団長、殿。どうして」
「それはこちらの台詞です、ニュートロン第一騎士団長。一体何をしてるんですか」
(クソッ!なんてタイミングの悪い……!)
シャルロッテの件を抜きにして、僕はこいつが嫌いだ。同じ騎士団長という立場だが今にも殺してきそうな禍々しいオーラに後退りしてしまう。
ここは適当にあしらってさっさと退散した方が楽だ。
「あ、ははは……彼女とぶつかってしまって、それで怪我を治していたところですよ!」
「怪我……?」
そう言ってストラーダは僕から彼女を引き剥がす。
「見せてみろ」
「え、いやっ……大丈夫です、もう治ってますから」
(え……?何だその距離感は)
「ニュートロン団長、ありがとうございました」
「へ……?いや、何故あなたがお礼を」
「うちの妻が世話になったようで」
あまりにも自然な物言いにポカンと呆けてしまう。
(妻?ストラーダの?え、こいつって結婚……)
そうだ、思い出した。確かシャルロッテが近々平民の女と結婚すると言っていた。ということは彼女がその相手……?
「お礼をしたいところではありますが、この後用事がありますので我々は失礼致します」
「あ、あぁ」
そう言ってストラーダは彼女の肩を支えながら路地から居なくなった。
「そうか。あれが噂の……」
思わず笑いがこぼれてしまう。
どうりであの堅物が結婚に踏み切ったはずだ、ああも美しいと他所の男に奪われるんじゃないかと心配だろうからな。
(ククッ、俄然やる気が出てきた)
ストラーダに一泡ふかせることよりも、あの美人を堂々と手に出来るのだ。高慢な妻よりも若くて美しい彼女を。
「富も名声も手に入れた。あと欲しいものは従順な愛人ってところだな」
そうと決まれば話は早い。
きたる決戦の日までに、何としても彼女のこころを掴む最高のプレゼントを用意しないとな。
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