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しおりを挟む『魔法石を与えることは普通ですよ。この守護の魔法石が少しでもあれば魔力増幅にもなりますし、何より僕だけのモノではないですからね』
新聞記者からの質問にトーマがそう答えていた。
さすがに笑っちゃった、だって清々しいくらいクズなんだもの。人から奪ったものをばらまいて善人を気取ってる、なかなか出来ることじゃない。
もともとあおられて調子に乗っちゃうような性格なのか、あの女の作戦なのか知らないけど……
あの魔法石、70年ももたないって気付いてるかな?
■□■□■□■□■□
「まずいな……」
森の奥深くまで進んだとき、異変に気付き思わず足を止めてしまった。
(魔物の気配が全くしない、空腹だっていうのに冷静なドラコンね)
強い魔物は動きもそれだけ大きくなる。そうなれば木々や地面が揺れたり、周りの動物たちが騒ぐけど今はびっくりするほど森の中は静かだ。
餌を諦めてどこかに飛んでいったか、それとも……
ガサガサっ───
近くの茂みがわずかに揺れる。すぐにそこを手でかき分けると、そこには小さな体を隠すように丸まる子ども2人を見つけた。
(この子たちだ……良かった、無事だった)
「あ……」
「だ、だれっ?!」
「驚かせてごめん。でも大丈夫、お姉さんはあなたたちを助けにきたんだよ」
ビクビクと怯える2人をぎゅっと抱き寄せる。
(すごく心細かっただろうに……)
緊張の糸が切れたのか、2人は私を見るとぽろぽろと静かに泣き始めた。
「ひっく!も、もう近くにアイツはいない?お姉さんだけ?」
「うん。ドラゴンならここには……」
「ちがうよぉっ!!あいつだよぉっ!」
「え……?」
子どもたちはブンブンと首を横に振る。
「あのっしろい服きたおとこのひとだよぉっ!」
「ぼ、僕たちっ!あの人に……ば、バリアの外に弾き出されたんだぁああっ!」
悲痛な叫び声にサァっと血の気が引いていく。
(何それ、どういうことなの……?!)
「村に帰ってるときドラゴンが来てっ!し、白い服の人がバリアしたんだけど、全員は中に入れなくて!」
「このままじゃやられちゃうから、お前らはおとりになれって……っ、ぼくたち親がいないからちょうどいいって、みんなたすけてくれなくてぇっそのまま、おいてかれたんだぁ!!」
信じられない。こんな小さな子どもを見殺しにしたというの?
泣きじゃくる2人をぎゅうっと抱きしめながら爆発しそうなほどの怒りを必死に押さえ込む。周りの村人たちもみんな知ってるはずだ、なのに誰もこの子たちを助けないなんて……
「ぼ、ぼくたち殺されちゃうの……?」
「……そんなことさせないよ」
「でもっ、」
「親がいないとか関係ない。私が絶対に君たちを守ってあげる」
その時、遠くから赤黒い閃光が走った。
「っ、危ないっ!!!」
2人を抱きながら伏せた瞬間、ものすごい爆風が周辺の木々を吹き飛ばす。そのとき、何か大きな物体が近くの大木にガンッとぶつかった。
風が止み確認すると、それは人間で……真っ黒な服を着たその人は打ち付けられた衝撃で体をよじっている。
「た 、大丈夫ですかっ?!」
慌てて駆け寄り、倒れた体を何とか仰向けにさせた。
(この人……第二騎士団の人)
話に聞いていた捜索隊の一人だろう、着ている真っ黒な騎士服はボロボロだが見覚えがあった。
彼は額がぱっくりと切れているせいで顔半分が血に染まっていたけど、だがもっと酷いのは右腕。吹き飛ばされた衝撃のせいで確実に折れていた。
「何が……っ?!」
バサリと大きな羽音と共に、また強い風が私たちの元までやって来る。
「ドラゴン……」
「……逃げろ」
「っ、あの」
負傷するその人に声をかけると、彼は負傷する体にぐっと力を込めて立ち上がろうとしていた、
「無茶ですよ……そんな体で、」
「……子どもを見つけたのは君か?なら早く村に戻れ」
「話聞いてますかっ?!第一騎士団の人を呼んですぐに回復魔法を」
「そんな暇はない」
大剣をザクッと地面に突き、そのまま立ち上がる。そんな彼の背中を見てフッと昔の記憶が呼び戻った。
(この人……第二騎士団長の、)
アイゼル=ストラーダ。その名はトーマ=ニュートロンに負けず劣らず有名だ。
“守護の力”とは正反対の“破壊の力”を持つ、この世で最も多くの魔物を倒してきた男。そんなドラゴンよりも恐ろしい人が今、血だらけになりながらもまだ戦おうとしていた。
ふと足元にいる子たちを見れば真っ青になりながら震えている。
(無理もない……あれを見たら誰だって足がすくむわ)
人間の何十倍もある巨体が空に舞う。
ドラゴン側も負傷しているのか、荒い呼吸を繰り返しながらも攻撃のタイミングを測っていた。
「奴は俺が食い止める。隙を見て走り出せ」
「……団長はどうなさるつもりですか」
そう言ったとき、自分でも少しだけ驚いた。
ここは子どもたちを連れて逃げることが最善策だ、なのに……何故この人の心配を?
「一撃くらいならやれる」
「腕、折れてますけど」
「………」
「ドラゴンからの攻撃を避けて、それから攻撃を出せる状態じゃないですよね?……失敗すれば死にますよ」
深傷を負った状況で、果たしてそれが出来るのか。
(………ダメ、まだタイミングじゃない)
ぎゅっと握った拳をもう片方の手で包み隠す。
あの秘密をさらけ出せばもう今までの生活には戻れない。この力を求めて彼らが必ず動き出す。そうなった時、この人は……私の味方になってくれるの?
(もう人を信じないって決めたでしょ。だから……)
「死んでもいい」
「!!!」
「こんな命で君たちを救えるなら本望だ」
その赤褐色の瞳は、一切揺らぐことなく真っ直ぐと見つめていた。
(……どうしよう)
ぐちゃぐちゃ考えていた頭の中が澄んでいく。と、同時に恥ずかしくなった。
さっきまで第一騎士団や村の大人たちを嫌悪していたくせに、同じように保身に走った自分自身がすごく情けない。
(助けられる命と、助けられる力があるなら……)
出し惜しみなんかするな。
「……ストラーダ団長、あなたはその一撃にだけ集中してください。援護は私がやります」
「……何言って、」
「救いますよ全員」
あなたが欠けても意味ありませんから。
そう言うと、何か言いたげだった団長の口が静かに閉じる。
(あー……久しぶりの感覚だ)
今までずっとこの力を溜め込んできた。
次に使うときは復讐するときだと決めていたのに……思わぬところで計画が狂ってしまった。でも、もちろん後悔はない。
ギィイイイイイイイッッ───
不快な雄叫び、そしてドラゴンが一直線にこちらに突っ込んできた。
手のひらをドラゴンに向け、体を奥底からゆっくりと吐き出す。
「どんな魔物も傷つけられないよ、この結界は」
涌き出た光は私たち4人を包み込む。鋭いドラゴンの爪が触れた時、バチンという音と焼ける臭いが辺りに広がった。
異変を察知したドラゴンがもう一度上空に羽ばたこうとしたとき、
「終わりだ」
振り下ろされた大剣が、容赦なくその身体を真っ二つに切り裂いた。
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